坐骨結節(ischial tuberosity)とは

  • 坐骨結節(ischial tuberosity)は坐骨の後下部に位置し、座位で体重を支える骨性隆起。
  • 体表からも比較的触知しやすく、臀部深部痛や圧痛の局在診断において重要な基準点となる。
  • 坐骨結節の背側に大殿筋関連滑液包、背内側寄りにハムストリング起始部、前外側寄りに大腿方形筋が位置する。

ハムストリング起始部との関係

  • 坐骨結節の最も重要な臨床解剖は、近位ハムストリングの起始部である点にある。
  • 半腱様筋(semitendinosus)大腿二頭筋長頭(long head of biceps femoris)は共同腱として坐骨結節に付着し、半膜様筋(semimembranosus)はこれとは別の起始を持つ。
  • 半膜様筋の付着部は共同腱より前方に位置し、比較的広い付着面を持つことが知られている。
  • この付着様式を理解しておくことは、MRIで近位ハムストリング損傷を読む際に極めて重要。どの腱が断裂しているか、部分断裂か完全裂離か、付着部直上に骨髄浮腫があるか、腱の退縮距離がどの程度かを評価する。

CT、MRIにおける坐骨結節の画像診断のポイント

  • CTでは坐骨結節の皮質骨の連続性、骨片形成、骨硬化、石灰化、骨びらん、骨破壊の評価がしやすい。
  • 特に外傷例では、裂離骨折の有無、転位の程度、仮骨形成、偽関節化、陳旧化した骨片の石灰化を把握しやすい。
  • 一方で、腱実質や滑液包、骨髄浮腫の評価には限界があり、坐骨結節周囲の疼痛の原因検索ではMRIが追加されることが多い。
  • MRIでは、坐骨結節自体の骨髄信号、ハムストリング起始部の腱信号、腱周囲浮腫、滑液包液貯留、坐骨神経周囲の炎症波及を一体として評価できる。横断像は坐骨結節と腱付着、坐骨神経、深部筋群の位置関係を把握しやすく、冠状断像は近位ハムストリングの頭尾方向の広がりや断裂の範囲を把握しやすい。

症例 

坐骨結節の正常解剖です。

坐骨の後下部に位置しています。

ハムストリングの低信号な腱が付着している様子がわかります。

症例

両側の坐骨結節のハムストリング起始部に小骨化/石灰化を認め、左右対称性であり、付着部変化(enthesopathic change)を疑います。

坐骨結節における臨床的意義

近位ハムストリング腱障害

坐骨結節周囲痛で最も重要な病態の1つが近位ハムストリング腱障害である。スポーツ外傷では強い遠心性収縮により、腱付着部損傷、部分断裂、完全裂離が生じうる。画像上は坐骨結節直下の腱異常が主所見であり、疼痛の主座も下臀部から大腿後面近位に一致することが多い。

読影では、半膜様筋単独か、共同腱中心か、複数腱の広範裂離かを区別することが重要である。複数腱の裂離や明らかな退縮を伴う例では手術が検討されることがあり、MRIでの病変範囲記載がそのまま治療方針に影響する。

坐骨結節裂離骨折

思春期スポーツ選手では、坐骨結節の裂離骨折(avulsion fracture)が重要である。骨端線が未熟な時期には腱よりも骨端部が弱く、ハムストリングの強い牽引力によって坐骨結節骨片が引き剥がされる。短距離走、ジャンプ、キック、ダンス動作などで発症しやすい。

CTは小骨片や転位の描出に優れ、単純X線で不明瞭な症例でも診断に有用である。MRIでは骨髄浮腫、腱付着部損傷、周囲血腫を描出できる。陳旧例では腫瘤様石灰化や仮骨形成としてみえることがあり、骨腫瘍や石灰化性病変との鑑別が問題になることもある。

症例 10歳代男性 サッカー中に受傷

引用:radiopedia

左坐骨結節骨端核の裂離損傷を認めている。裂離骨折を疑う所見です。

 

骨盤周囲の裂離骨折とは?部位と付着する筋、画像診断まとめ

坐骨滑液包炎(ischiogluteal bursitis)

坐骨滑液包は坐骨結節と大殿筋の間に位置し、長時間の座位や反復する圧迫、摩擦により炎症を生じうる。いわゆるweaver’s bottom、tailor’s bottomとして知られ、硬い椅子での長時間座位や反復動作で症状が悪化する。臨床的には坐骨結節部の局所圧痛、座位での疼痛増悪、臀部から大腿後面近位の不快感を呈する。

MRIでは坐骨結節後方に薄い壁を持つ液体貯留として描出され、T1強調像で低〜中間信号、T2強調像で高信号を示すことが多い。慢性例では隔壁形成や周囲の腱障害を伴うことがあり、ハムストリング腱障害とオーバーラップしやすい。したがって、単に液体貯留を指摘するだけでなく、隣接するハムストリング起始部異常の有無も必ず確認すべきである。

股関節周囲の滑液包とCT、MRIにおける画像所見

坐骨神経との近接

坐骨神経は坐骨結節近傍を走行しており、近位ハムストリング障害や滑液包炎、瘢痕化した外傷後変化によって刺激・圧迫されることがある。そのため、下臀部痛のみならず、大腿後面への放散痛や坐骨神経痛様症状の原因となりうる。腰椎由来の坐骨神経症状と誤認されることもあり、この部位の画像評価は重要である。

MRIでは坐骨結節周囲の炎症、浮腫、血腫、腫瘤、滑液包拡張が神経近傍に及んでいないかを確認する。深臀部痛の鑑別では、坐骨神経の走行異常のみならず、神経周囲に何が起こっているかを読む視点が必要である。

ischiofemoral spaceの内側境界

坐骨結節はischiofemoral spaceの内側境界を形成する。外側の小転子との距離が狭小化すると、間に存在する大腿方形筋(quadratus femoris muscle)に浮腫や変性が生じ、ischiofemoral impingementの一因となる。したがって、坐骨結節は単独でみる骨ではなく、周囲空間の評価における基準点でもある。

MRIでは大腿方形筋のT2高信号、萎縮、脂肪変性の有無や、ischiofemoral spaceの狭小化をあわせてみる。坐骨結節周囲痛を主訴とする症例では、ハムストリング起始部や滑液包だけでなく、この空間病変も鑑別に入れる必要がある。

褥瘡と骨髄炎

長期臥床や脊髄損傷患者では、坐骨結節は褥瘡の好発部位であり、進行すると骨髄炎を合併しうる。特に深い圧迫潰瘍が坐骨結節に達すると、軟部組織感染が連続性に骨へ波及し、慢性骨髄炎の温床となる。臨床的には難治性創、排膿、発熱、炎症反応上昇などを伴うことがある。

MRIは骨髄浮腫、皮質破壊、瘻孔、膿瘍、周囲筋炎の評価に有用である一方、褥瘡周囲では反応性変化と真の骨髄炎の区別が難しいこともある。そのため、画像所見は創部所見や培養、必要に応じて病理と統合して判断することが重要である。

鑑別診断

坐骨結節周囲痛あるいは画像異常の鑑別としては、近位ハムストリング腱障害、坐骨滑液包炎、裂離骨折、ischiofemoral impingement、深臀部症候群、仙腸関節由来疼痛、腰椎由来坐骨神経症、感染、腫瘍性病変などが挙げられる。特に慢性症例では、複数病態が重複していることも少なくない。

画像診断では、「病変の主座は骨か、腱か、滑液包か、筋か、神経周囲か」という順で整理すると実践的である。坐骨結節自体の骨異常に目を奪われず、周囲の軟部組織との位置関係を立体的に読むことが診断精度向上につながる。

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