腹部CTやMRIの読影時に、肝臓の形状に「通常とは異なる構造」が見られることがあります。

これらは肝の正常変異形態異常と呼ばれ、しばしば腫瘤や病変と誤認されることもあるため、診断精度を高める上で重要な知識です。

この記事では、代表的な形態異常であるRiedel葉や副肝(accessory liver)を中心に、画像診断における注意点をわかりやすく解説します。

肝の正常変異と形態異常の違い

肝臓の構造には個人差があり、その中には病的意義を持たないもの(正常変異)と、臨床的注意が必要なもの(形態異常)があります。

  • 正常変異:解剖学的なバリエーション。無症候性で、治療対象にならないことが多い。
  • 形態異常:先天性・後天性の異常であり、捻転・腫瘍形成などのリスクを伴う場合もある。

代表的な正常変異:Riedel葉とは

Riedel葉(Riedel’s lobe)は、肝右葉の下縁が舌状に下方へ突出している形態で、成人女性に多いとされています。Riedel葉自体は病的意義を持たないことが多いですが、腹部下部に腫瘤のように見えるため、腫瘍やリンパ節と誤認されることがあります

CT画像では、肝実質と連続する実質が下方へ突出しており、辺縁は滑らかで明瞭。造影効果や血管走行が肝本体と同様であることから、腫瘍との鑑別が可能です。

詳しくはこちら→Riedel葉とは?肝臓の正常変異をCT画像で見極めるポイント

副肝(accessory liver)と異所性肝(ectopic liver)

副肝(accessory liver)とは、本体の肝臓と繋がって存在する過剰な肝実質のことです。一方で、肝臓本体と完全に離れて存在する場合は異所性肝(ectopic liver)と呼ばれます。

副肝(accessory liver)は、胎生期の肝形成過程における発育異常や分裂の残存によって発生し、胆嚢周囲、大網、胃小彎、横隔膜付近などに見られることがあります。多くは無症候性で偶然見つかるものですが、以下のような問題を引き起こす場合があります:

  • 捻転による急性腹症
  • 副肝内の腫瘍(例:肝細胞癌)

副肝の画像上の特徴は、本体の肝臓と同様のCT濃度・信号強度を示し、造影効果も一致します。動脈相・門脈相での造影パターンや、栄養血管の走行が肝臓由来であることを確認することが重要です。

症例 40歳代男性 スクリーニング

肝尾状葉より尾側へ突出あり。周囲肝実質と等吸収であり、副肝(accessory liver)が疑われます。

ということは、Riedel葉は副肝の一部では?と思ってしまいがちですが、そうではありません。

「副肝(accessory liver lobe)」とは:

  • 胎生期の肝の発達異常により、肝本体とつながって形成される過剰な肝組織

  • 本体と連続している場合もあれば、完全に独立している「異所性肝(ectopic liver)」も含むとされることもある。

  • 捻転や腫瘍のリスクがあり、「解剖学的異常」として扱われやすい。

◆「Riedel葉(Riedel’s lobe)」とは:

  • 肝右葉下縁が舌状に下方へ伸びた構造で、比較的よく見られる解剖学的バリエーション。

  • 女性に多く、通常は症候性ではなく、治療対象にもならない

  • 多くの文献では「正常変異のひとつ」とされ、「副肝」とは区別されるケースが多いです。

まとめ|肝の正常変異は見慣れることが重要

Riedel葉や副肝といった肝の形態異常・正常変異は、日常の画像診断でも比較的頻度高く見られる構造です。病的意義を持たない場合が多い一方で、誤認や誤診につながるリスクも含んでいます。

解剖学的バリエーションを理解し、画像所見の積み重ねを通して「これは正常変異である」と判断できる力を養うことが、診療現場での正確な意思決定につながります。

参考文献

  • Kakitsubata Y, et al. Torsion of accessory liver lobe: diagnosis with CT. J Comput Assist Tomogr. 1994;18(1):136-138.
  • 金井理葵 ほか. 保存的に経過観察しえた肝副葉捻転と思われる1例. 臨床放射線. 2021;66(7):943-947.
  • Riedel M. Ueber den zungenförmigen Fortsatz des rechten Leberlappens und seine pathologische Bedeutung. Verh Dtsch Ges Chir. 1888;17:93–7.

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