膿胸(empyema)とは、胸膜腔内に膿が貯留する状態であり、肺炎などの感染症に続発することが多い重大な合併症です。

胸部CTを中心とした画像診断は、膿胸の診断・鑑別・治療方針決定において重要な役割を果たします。

本記事では、膿胸における典型的な画像所見を中心に、鑑別すべき疾患や注意点を解説します。

膿胸の画像所見:CTで確認すべきポイント

  • split pleura sign
    造影CTで内臓胸膜と壁側胸膜がそれぞれ造影され、膿性胸水によって分離される像。膿胸の診断において最も信頼性の高い所見のひとつ。
  • 胸水のレンズ状(lenticular)形状
    胸膜腔内に沿って外側に広がる形状。肺実質内病変(肺膿瘍など)と区別する重要なヒント。
  • 胸膜の肥厚・造影効果
    感染による炎症反応で胸膜が肥厚し、造影効果を伴う。
  • loculation(被包化)
    内部に隔壁を伴い、単純な自由液体とは異なる構造をとる。
  • air-fluid level(空気液面)
    ドレナージ前の膿胸において空気と液体が共存する像。感染性を強く示唆。

症例 70歳代 男性 発熱、呼吸困難、左側の胸痛、喀痰を伴う咳嗽。

引用:radiopedia

左側にレンズ状の胸水があり、それを挟むように肥厚し造影効果を示す胸膜が認められ、典型的なsplit pleura signを示しています。

膿胸(empyema)を疑う所見です。

鑑別診断:膿胸とよく似た疾患

疾患 膿胸との違い 画像的な特徴
肺膿瘍 肺実質内病変 球状、壁の肥厚不整、中心に空気液面
悪性胸膜中皮腫 腫瘍性胸膜肥厚 びまん性、胸膜肥厚に石灰化あり、loculationなし
術後・放射線性胸水 無菌性炎症性貯留 軽度の胸膜肥厚、被包化なし、造影効果弱い

関連記事:肺化膿症/肺膿瘍とは?CT画像診断のポイントは?

診断の流れと治療への影響

  • 画像で胸水+胸膜肥厚+split pleura signを認めた場合、膿胸の可能性が高く、迅速な対応が必要。
  • 胸水穿刺によるグラム染色・培養検査が診断の補完として重要。
  • loculated empyemaでは抗菌薬単独では不十分であり、ドレナージが必要となる。

膿胸を疑ったときのCTチェックリスト

  • 胸水の分布:自由 or 被包化?
  • 胸膜の状態:肥厚・造影あり?
  • Split Pleura Signの有無
  • air-fluid levelの有無
  • 肺実質内病変との連続性の有無(肺膿瘍との鑑別)

まとめ:膿胸のCT診断の要点

  • Split Pleura Signは膿胸の診断において非常に有用
  • 画像的には胸膜肥厚・造影、被包化、空気液面などを総合的に判断
  • 鑑別には肺膿瘍・中皮腫・術後変化を想定して読影
  • 画像診断の精度が、ドレナージの適応判断に直結する

参考文献:

  • Stark DD, Federle MP, et al. Differentiating lung abscess and empyema: radiography and CT findings. AJR. 1983;141(1):163–167.
  • Tsujimoto N, et al. Evaluation of empyema with the split pleura sign. PLoS One. 2015;10(6):e0130411.
  • Porcel JM, et al. Diagnosis and treatment of pleural effusions. Lancet Respir Med. 2018;6(9):665–673.

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