悪性胸膜中皮腫(Malignant Pleural Mesothelioma)は、石綿(アスベスト)曝露と高い関連性を持つ胸膜の悪性腫瘍であり、発症までの潜伏期間が20〜40年と長いことが特徴です。
主に壁側胸膜から発生し、進行すると肺実質や縦隔、心嚢、胸壁、横隔膜などに直接浸潤することがあります。
胸膜中皮腫の疫学と分類
- 石綿曝露との関連性が高く、低濃度曝露でも発症することがあります。
- 発症までの潜伏期間は20〜40年。
- 発生部位は胸膜が約80%と最多で、心膜、腹膜、精巣鞘膜などにも発生します。
- 組織型は上皮型(60%)、混合型(25%)、肉腫型(15%)に分類され、肉腫型の亜型として線維形成を特徴とするdesmoplastic型があります。
- 胸水の合併が約90%と高頻度で認められます。
- 遠隔転移はまれですが、局所浸潤が進行することがあります。
- 予後は不良で、上皮型の平均生存期間は約12ヶ月、肉腫型では約6ヶ月とされています。
画像診断のポイント
胸部レントゲン、CT、MRI、FDG-PETなどが診断に用いられます。特にCTは、胸膜中皮腫の診断において重要な役割を果たします。
胸部X線およびCT所見
- 原因不明の片側性の胸水。
- 不整かつ結節状のびまん性胸膜肥厚。
- 環状(ring-like)胸膜肥厚。
- 1cm以上の胸膜肥厚。
- 縦隔側胸膜肥厚(早期から認められることがあり注意が必要)。
- 患側胸郭容量の低下。
- 胸膜プラークを伴う例が多いが、伴わないこともあります。
- 初期は胸膜プラークと鑑別が難しいことがありますが、胸膜中皮腫は不整で造影効果を認める点で区別されます(胸膜プラークは造影されません)。
- 遠隔転移は稀ですが、肺実質や縦隔、心嚢、胸壁、横隔膜などに直接浸潤することがあります。
症例 60歳代男性 悪性胸膜中皮腫
CT画像では、左側胸膜に不整なびまん性肥厚を認め、縦隔側胸膜にも肥厚が及んでいます。
胸水の貯留も確認され、患側胸郭容量の低下が見られます。
動画でチェックする
鑑別診断(びまん性胸膜肥厚)
- 胸膜炎(結核などの感染やリウマチなど)。
- 陳旧性血胸。
- 転移性の胸膜播種(特に肺癌)。
- アスベスト以外の原因による線維性胸膜炎。
- 限局性ならば、厚い胸膜プラークや、孤立性線維性腫瘍(SFT)。
※RAや胸膜プラークは両側性が多い。
※陳旧性結核性胸膜炎や陳旧性血胸は板状の石灰化を伴うことが多い。
※陳旧性血胸では陳旧性の肋骨骨折があることが多い。
アスベスト関連肺・胸膜病変
肺病変
- 石綿肺。
- 円形無気肺。
- 肺癌。
胸膜病変
- 胸膜プラーク。
- びまん性胸膜肥厚。
- 良性石綿胸水。
- 悪性胸膜中皮腫。
まとめ
- 悪性胸膜中皮腫は、石綿曝露との関連性が高く、長い潜伏期間を経て発症します。
- CT画像では、片側性の胸水、不整なびまん性胸膜肥厚、縦隔側胸膜肥厚などが特徴的です。
- 鑑別診断としては、胸膜炎、陳旧性血胸、転移性胸膜播種などが挙げられます。
- アスベスト関連疾患として、肺病変や胸膜病変が多岐にわたるため、総合的な評価が必要です。
ご案内
腹部画像診断を学べる無料コンテンツ
4日に1日朝6時に症例が配信され、画像を実際にスクロールして読影していただく講座です。現状無料公開しています。90症例以上あり、無料なのに1年以上続く講座です。10,000名以上の医師、医学生、放射線技師、看護師などが参加中。胸部レントゲンの正常解剖を学べる無料コンテンツ
1日3分全31日でこそっと胸部レントゲンの正常解剖の基礎を学んでいただく参加型無料講座です。全日程で簡単な動画解説付きです。
画像診断LINE公式アカウント
画像診断cafeのLINE公式アカウントで新しい企画やモニター募集などの告知を行っています。 登録していただくと特典として、脳の血管支配域のミニ講座の無料でご参加いただけます。