先に結論:鎖骨下動脈盗血症候群とは(盗血現象)

  • 鎖骨下動脈(腕へ行く動脈)が、椎骨動脈(脳へ行く枝)が出るより手前で狭くなる・詰まると、腕へ血液を送るために反対側の椎骨動脈→脳の底→同じ側の椎骨動脈を逆流して血液が腕へ流れます。脳へ行くはずの血液が腕に「盗まれる」ので盗血現象と呼びます
  • 左側に多く、原因は動脈硬化が最多、若い女性では高安動脈炎も考えます。多くは無症状ですが、腕を使ったときのめまい・ふらつき・失神や腕のだるさ・冷たさが出ることがあり、左右の腕の血圧差が手がかりになります
  • 診断は頸動脈エコー(椎骨動脈の逆流)が簡便で、MRA・CTAで狭窄の場所を確認します。症状が強い場合はカテーテルでのステント治療などを行います

鎖骨下動脈盗血症候群(Subclavian Steal Syndrome, SSS)

  • 鎖骨下動脈の狭窄または閉塞により、椎骨動脈を通じて血液が逆流し、脳や上肢への血流が不足する病態で、1961年にReivichらが椎骨動脈の血流逆転として報告した。
  • 鎖骨下動脈が椎骨動脈分枝部よりも近位で狭窄もしくは閉塞→健側の椎骨動脈経由で逆流し、患側の鎖骨下動脈を栄養するようになる。逆流により脳虚血症状が出現する。
  • 通常、左側の鎖骨下動脈で発生しやすいとされている(Labropoulos 2010)。
  • 原因は、動脈硬化が最多。他、大動脈炎(Takayasu’s arteritis)、血栓症、外傷など。
  • 症状は、上肢の疲労感や虚弱感、上肢の運動時に悪化する疼痛、頭痛、めまい、失神、視覚異常やバランスの喪失など多岐にわたる。上肢を使用した際に特に顕著になることが多い。
盗血とは?
盗血とは、血管の狭窄や閉塞により、ある部位への血流が不足するため、他の血管から血液が逆流して補おうとする現象。

鎖骨下動脈狭窄症と盗血症候群の関係・頻度

  • 鎖骨下動脈狭窄症は鎖骨下動脈が狭くなった状態そのものを指し、その結果として椎骨動脈の逆流(盗血現象)が起こり、症状が出たものが鎖骨下動脈盗血症候群です。
  • 左右の腕の血圧差15mmHg以上を鎖骨下動脈狭窄とした4,223人の検討では、一般住民の1.9%、病院の受診者の7.1%にみられ、喫煙や末梢動脈疾患と関連していました(Shadman 2004)。
  • 頸動脈エコーを受けた7,881人では、腕の血圧差20mmHg超が514人(6.5%)で、82%が左腕でした。症状があったのは38人で、治療を受けたのは7人でした。血圧差が40〜50mmHgを超えると症状が出やすくなります(Labropoulos 2010)。

ほかの「盗血現象」

冠動脈バイパス手術で内胸動脈を使った人では、鎖骨下動脈の狭窄によりバイパスの血液が腕へ逆流し、腕を動かしたときに胸痛が出ることがあり、冠動脈-鎖骨下動脈盗血症候群(coronary-subclavian steal)と呼ばれます(Potter 2014)。このように、狭窄の先へ別の血管から血液が回り込む現象を一般に盗血現象と呼びます。

鎖骨下動脈盗血症候群(Subclavian Steal Syndrome, SSS)の画像所見

診断は臨床症状の確認とともに、以下の検査によって行われる。

  • ドップラー超音波検査:血流の方向や速度を測定
  • 血管造影:血管の形態を詳細に評価
  • 磁気共鳴血管造影(MRA):非侵襲的に血管の状態を確認
  • CTA:造影剤を用いて血管の状態を確認

特に、血流の逆流が確認されることが診断の決め手となる。ただし完全な逆流に至る前の段階では、順行性の椎骨動脈波形に収縮中期の切れ込み(ノッチ)が現れ、その深さにより4型に分類される。患側上腕をカフで駆血して反応性充血を起こすと波形がより異常に変化し、潜在的な盗血の検出に役立つ。

症例 60歳代 めまい

引用:Radiopaedia

ドップラー超音波検査において、左椎骨動脈に順行性および逆行性の血流が確認されている。

MRAでは左鎖骨下動脈近位(左椎骨動脈起始部付近)の狭窄を認め、右椎骨動脈→(脳底動脈)→左椎骨動脈経由で逆流して、左鎖骨下動脈領域を栄養していることがわかる。鎖骨下動脈盗血症候群(Subclavian Steal Syndrome, SSS)を疑う所見です。

(MRAは上方向の血流を画像化しているため、逆流を認める左椎骨動脈の描出が右と比べて不良となっている。)

関連:MRIで血管内(動脈内,静脈内)の高信号や低信号を決定する因子とは?

鎖骨下動脈盗血症候群でよくある疑問(Q&A)

Q. 治療が必要になるのはどんなときですか?

A. 多くは無症状で、治療が必要になることはまれです(Labropoulos 2010)。症状がある場合には、カテーテルによる血管形成・ステント留置か、バイパス手術が、血管の形や全身状態に応じて選ばれます。症状の有無にかかわらず、鎖骨下動脈狭窄は全身の動脈硬化の目印であり、心臓や脳の血管の病気のリスクが高いと考えられています(Potter 2014)。

※腕を使ったときのめまいやだるさ、左右の腕の血圧差が気になるときは、医療機関で相談してください。

参考文献:

  1. Reivich M, Holling HE, Roberts B, et al. Reversal of blood flow through the vertebral artery and its effect on cerebral circulation. N Engl J Med. 1961;265:878-885. PubMed
  2. Potter BJ, Pinto DS. Subclavian steal syndrome. Circulation. 2014;129(22):2320-2323. PubMed
  3. Kliewer MA, Hertzberg BS, Kim DH, et al. Vertebral artery Doppler waveform changes indicating subclavian steal physiology. AJR Am J Roentgenol. 2000;174(3):815-819. PubMed
  4. Shadman R, Criqui MH, Bundens WP, et al. Subclavian artery stenosis: prevalence, risk factors, and association with cardiovascular diseases. J Am Coll Cardiol. 2004;44(3):618-23. PubMed
  5. Labropoulos N, Nandivada P, Bekelis K. Prevalence and impact of the subclavian steal syndrome. Ann Surg. 2010;252(1):166-70. PubMed

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