MRIで血管内の信号を決定する因子

CTでは血管内の濃度=血液の濃度であるが、MRIの場合は単純ではない。

MRIの血管内の信号を決定する因子には

  • 元々の血管内腔物質自体の性質
  • 血管内腔物質の信号の飽和効果(saturation effect)
  • 流れに関連した増強(Flow related enhancement)
  • High velocity signal loss
  • 乱流、渦流などによる位相分散
  • 心拍同期
  • 流速補正法の子葉による信号変化

などがある。多数の要素によって血管内の信号が決定され、そのためCTよりも解釈は難しい。

元々の血管内腔物質自体の性質

  • 血管内の物質、特に血液の組成が信号強度に大きく影響する。血液は主に水、赤血球、白血球、血小板から構成され、これらの要素はMRIの信号に異なる影響を与える。酸素飽和度が低い静脈血は、より多くの脱酸素ヘモグロビンを含むため、T2*減少(磁場の不均一による信号減少)を引き起こしやすい。

血管内腔物質の信号の飽和効果(saturation effect)

  • 血流が遅い場合や繰り返しパルスが適用されるシークエンスでは、流入する血液のスピンが飽和し、信号が減少する。
  • 特に3D撮影や多数の切り口を持つシークエンスで顕著。

流れに関連した増強(Flow related enhancement)

  • MRIで観察される現象の一つで、特に血流やCSFなどの流れを評価する際に重要。
  • 流入効果とも呼ばれる。
  • ほとんどのシークエンスで起こる。Spin echo系、Gradient echo系いずれでも起こる。普通のT1WI,T2WIで起こる。
  • この現象は、流れる血液やCSFなどが撮影される際に、信号が増強される。具体的には、移動するスピン(主に水分子)が、撮影プレーンに新鮮なスピンが持ち込まれることによって起こり、これにより、血管内の信号が明瞭になり、背景組織とのコントラストが向上する。
  • 特に、Time-of-Flight(TOF)MRIアンギオグラフィでは、この原理を利用して血管の画像を得ることが一般的で最も有名なのがTOFーMRA
  • Spin echoシークエンスでは、血流が早すぎると逆に抜ける(下のhigh velocity signal loss)。

TOFーMRAでは上方向に流れる血液を高信号として描出することで血管像を構成することができる。

流れに関連した増強(Flow related enhancement)
流れている方向に高信号となる。

 

そのため、上方向と逆流する血流がある鎖骨下動脈盗血症候群などでは本来の血管系よりも細く描出される。

High velocity signal loss

  • 高速で移動する血液や体液が原因で生じる信号の喪失現象でいわゆるflow void
  • 特に血液が急速に流れる領域で観察され、血液の流速が速いほど、MRIの画像上で信号が見えなくなる。
  • 高速で流れる血液内のプロトンスピンが、画像取得中に十分な緩和時間を得られず、MR信号が減衰してしまうため。
  • 血管のみでなく脳脊髄液などでも見られる。
  • Spin echo系シークエンスのみで起こる。Gradient echo系では起こらない。
  • 血管の狭窄や閉塞、高流動性の血流異常を評価する際に特に重要。

上矢状静脈洞や両側の中大脳動脈、脳底動脈など流れの速い血管がflow voidとして低信号として認められる。

High velocity signal loss
流れている方向に低信号となる。

 

関連記事:脳脊髄液の流れ(CSF fIow)によるアーチファクトの画像診断

乱流、渦流などによる位相分散

  • 解剖学的な構造により血流パターンが複雑になる場所で見られる。
  • 例えば、血管の分岐部や狭窄部、心臓の弁近くなどがこれに該当する。
  • 乱流や渦流が存在すると、血流中の個々のスピンの移動方向や速度がランダムになるため、スピン間で位相のずれが生じる。この位相のずれは、スピンの再結合を妨げ、結果として信号の減少(位相分散)を引き起こす。
  • TOFーMRAの際、血管内信号が低下するため、内腔病変との鑑別が問題となる。

両側の内頸動脈に低信号を認め、一見解離のflapのように見えてしまうが、乱流、渦流などによる位相分散によるアーチファクトである。

乱流、渦流などによる位相分散
流れている方向で一部が低信号となる。

心拍同期

  • 特に心臓や大血管の撮影において、心拍に同期して画像を取得することで、心拍動による動きの影響を抑え、クリアな画像を得ることができる。

流速補正法の使用による信号変化

  • MRIでは流速補正シーケンス(例えば位相コントラストMRI)を用いることで、血流の速度と方向を定量的に評価し、それに基づいて信号を補正する。

その他

  • 磁場の不均一性: 機器自体の磁場の不均一性や、被写体の体内(特に金属インプラントがある場合)による局所的な磁場の歪みが信号に影響を与える。
  • 造影剤の使用: Gd(ガドリニウム)などの造影剤は、T1緩和時間を短縮し、血管内信号を増強することができる。
  • パルスシーケンスの選択: 使用するパルスシーケンスによっても、得られる信号の性質が異なる。例えば、T1WIでは造影剤の効果が強調されるが、T2WIでは血液の信号が抑制される傾向にある。

関連記事:MRIのSpin Echo系とGradient Echo系の違いとそれぞれの代表的なシークエンスとは?

参考文献:決定版 MRI完全解説第2版 P565

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