免疫再構築症候群(Immune reconstitution inflammatory syndorome:IRIS)とは?
- 抗HIV治療(antiretroviral therapy:ART)が用いられるようになり、HIV感染者の生命予後は劇的に改善したが、ART開始後にAIDS患者の免疫状態が回復する過程において、日和見疾患をはじめとする様々な疾患が報告されるようになった。
- この反応は免疫再構築症候群(Immune reconstitution inflammatory syndorome:IRIS(読み方はアイリス))と呼ばれ、それによって引き起こされる臓器障害は時にAIDS治療の妨げとなった。
なぜIRISが生じるのか?
- 免疫不全が進行した状態でARTを開始すると、急速にHIV-RNA量が減少し、単球、マクロファージ、NK細胞などの機能回復や、CD4陽性Tリンパ球の増加をきたして患者の免疫能が改善する。
- しかし、制御性T細胞活性の低下は持続しているため、体内に存在する病原性微生物などに対する免疫応答が過剰に誘導され、IRISが生じると考えられている。
- IRISは日和見感染症に限定されたものではなく、悪性腫瘍や自己免疫性疾患など様々な疾患がIRISに関連づけて報告されている。
- AIDS以外の治療でも免疫状態の変化によって医原性に生じることがわかっている。
- 現時点において確立した診断基準は存在しない。
- 我が国の発生頻度は8%前後。
IRIS発症の危険因子
- ART開始時のCD4陽性T細胞数低値(<50μl)
- 高HIVーRNA量(≧10万コピー/ml)
- ART開始前の日和見感染症の存在
- 日和見感染症治療直後短期間でのART開始
- ART後の急速なHIV-RNA量低下
などが挙げられる。
IRISを起こす疾患
我が国では
- 帯状疱疹
- サイトメガロウイルス感染症
- ニューモシスチス肺炎
- 結核
- 非結核性抗酸菌症
- B型肝炎
- カポジ肉腫
などが多い。
肺障害を来すIRISの代表的疾患
- 結核
- 非結核性抗酸菌症
- ニューモシスチス肺炎
- クリプトコッカス症
- カポジ肉腫
- サイトメガロウイルス感染症
- サルコイドーシス
症例 40歳代男性 運動失調、構音障害(HIV陽性、ART療法前、CD4+ 70)
引用:radiopedia
両側小脳に斑状のT2WI高信号、T1WI低信号を認めます。造影効果は認めません。
進行性多巣性白質脳症(PML:progressive multifocal leukoencephalopathy)を疑う所見です。
ART療法が開始され2週間後、症状が増悪しました。(CD4+ 200)
両側小脳半球内の異常なT2WI 高信号の領域が増加しており、左中小脳脚にも及んでいます。
また異常高信号の辺縁に造影効果が出現しています。
MRI で見られる進行性の広がりと新たな造影効果は、特に治療開始後に症状が悪化する臨床所見を考えると、IRIS と一致しています。
ステロイド治療により改善を認めました。
IRIS は、臨床的および/または放射線学的炎症性疾患の逆説的な悪化の現象であり、抗レトロウイルス療法 (ART) を開始した AIDS 患者に見られることがあります。
これは、以前に抑制された炎症性免疫応答が回復したために発生すると考えられており、結核、クリプトコッカス、CMV、カポジ肉腫、PML など、さまざまな AIDS 関連疾患の患者で報告されています。
参考文献:臨床放射線 Vol.64 No.6 2019 P803-809