慢性腎不全に伴う関節周囲の転移性石灰化
腎不全に伴う石灰化を転移性石灰化(metastatic calcification)と呼ぶ。
ここでいう「転移性」とは、悪性腫瘍の転移という意味ではない。血清カルシウムやリンの代謝異常を背景として、もともと壊死や損傷のない組織にカルシウム塩が沈着する病態を指す。
- 血清カルシウム濃度(mg/dL)と血清リン濃度(mg/dL)の積が高い場合に発生しやすい。
- 文献によって基準は多少異なるが、Ca×P積が70〜75 mg2/dL2以上でリスクが高くなるとされる。
- 透析患者の0.5〜1.2%程度にみられるとされる。
- 石灰沈着は主に、眼球、動脈壁、軟骨、関節近傍、肺、胃、腎臓、腹部臓器などに生じる。
- 関節周囲の石灰沈着は大関節、特に肩関節、股関節、膝関節、肘関節などに好発する。
- 多発性・対称性にみられることがあり、大きなものでは不均一な雲状濃度を有する腫瘤状石灰化となる。
- 骨破壊や関節内への進展を伴うこともある。
転移性石灰化で沈着するものは何か?
転移性石灰化で沈着するものは、広くはカルシウム塩である。
特に慢性腎不全・透析患者における関節周囲の腫瘤状石灰化では、リン酸カルシウム沈着、あるいはその結晶形であるハイドロキシアパタイト(hydroxyapatite)結晶の沈着として説明されることが多い。
したがって、「転移性石灰化では炭酸カルシウムが沈着する」というよりは、少なくとも慢性腎不全や透析に伴う関節周囲病変では、リン酸カルシウム/ハイドロキシアパタイト沈着を反映した石灰化と理解するのが自然である。
一方で、石灰化の部位や病態によって、沈着する結晶成分や組織学的表現は一様ではない。たとえば肺の転移性石灰化では、肺胞上皮基底膜などへのカルシウム塩沈着として説明され、関節周囲の腫瘤状石灰化とは病態・画像所見がやや異なる。
関節軟骨の石灰化との違い
慢性腎不全では関節周囲の腫瘤状石灰化だけでなく、関節軟骨の石灰化を認めることがある。
関節軟骨の石灰化、すなわちchondrocalcinosisは、腎不全に伴うピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶沈着を反映していることが多い。
この場合は、膝関節や手関節などに認めることが多く、関節周囲に大きな腫瘤状石灰化を形成する病態とは分けて考える必要がある。
- 関節周囲の腫瘤状石灰化:リン酸カルシウム/ハイドロキシアパタイト沈着を反映することが多い。
- 関節軟骨の石灰化:CPPD結晶沈着を反映することが多い。
症例:60歳代男性、透析中

左股関節周囲に雲状の石灰化を認める。
慢性腎不全・透析中という背景を考慮すると、慢性腎不全に伴う関節周囲の転移性石灰化を疑う所見である。
CTでは、関節周囲軟部組織内に不均一な高吸収域として描出される。大きな病変では、雲状、塊状、腫瘤状の石灰化としてみられ、いわゆる腫瘤様の外観を呈することがある。
転移性石灰化の画像診断のポイント
- 慢性腎不全、透析中、二次性副甲状腺機能亢進症、高リン血症などの背景を確認する。
- 関節周囲、特に肩・股・膝・肘など大関節周囲に多い。
- 多発性・対称性に出現することがある。
- CTでは雲状、塊状、腫瘤状の高吸収域として描出される。
- 骨破壊や関節内進展を伴うことがある。
- 軟部腫瘍、骨化性筋炎、石灰沈着性腱炎、痛風、CPPD結晶沈着症などとの鑑別が必要となる。
関連:腫瘍状石灰化症(tumoral calcinosis)
腫瘍状石灰化症(tumoral calcinosis)は、関節周囲の皮下や軟部組織に結節状・腫瘤状の石灰沈着を来す疾患である。
- カルシウム・リン代謝異常を伴わずに生じる原発性のものがある。
- 黒人で罹患率が高いとされ、家族内発生が知られており、遺伝性疾患と考えられている。
- 四肢関節、特に股関節、肘関節、肩関節、足関節、手関節などの周囲に結節状の石灰化を来す。
一方で、慢性腎不全や透析を背景として同様の腫瘤状石灰化を来す病態を、二次性腫瘤状石灰化症、あるいは尿毒症性腫瘤状石灰化症(uremic tumoral calcinosis)と記載している文献もある。
ただし、本来の腫瘍状石灰化症という疾患名は、家族性・原発性の病態に限定して用いるべきという考え方もある。
そのため、腎不全や透析患者でみられる関節周囲の腫瘤状石灰化については、画像所見として「腫瘤状石灰化を呈している」と表現することは可能だが、診断名としては慢性腎不全に伴う転移性石灰化、あるいは尿毒症性/二次性腫瘤状石灰化と表現するのが妥当である。
鑑別診断
関節周囲の石灰化を見た場合、以下のような疾患との鑑別が問題となる。
- 石灰沈着性腱炎:腱付着部や腱内に限局した石灰化を来す。肩関節周囲に多い。
- CPPD結晶沈着症:関節軟骨や線維軟骨の石灰化として認めることが多い。
- 痛風結節:高尿酸血症の背景、骨びらん、dual-energy CTなどが参考になる。
- 骨化性筋炎:外傷歴を伴うことがあり、成熟すると辺縁優位の骨化を示す。
- 軟部腫瘍:石灰化を伴う軟部腫瘍との鑑別が必要となる場合がある。
- 原発性腫瘍状石灰化症:若年者、家族歴、リン代謝異常などを考慮する。
まとめ
- 腎不全・透析患者では、Ca・P代謝異常を背景に転移性石灰化を来すことがある。
- 関節周囲の転移性石灰化は、肩・股・膝・肘などの大関節周囲に好発する。
- CTでは雲状、不均一、腫瘤状の石灰化として描出される。
- 慢性腎不全に伴う関節周囲の石灰沈着では、リン酸カルシウムやハイドロキシアパタイト沈着を反映していることが多い。
- 関節軟骨の石灰化はCPPD結晶沈着を反映していることが多く、関節周囲の腫瘤状石灰化とは分けて考える。
- 腫瘍状石灰化症と類似した画像所見を示すことがあるが、腎不全によるものは「慢性腎不全に伴う転移性石灰化」と表現するのが妥当である。
関連:
出典:
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- He L, Li M, Lin C, Yan K, Yang C, Tang J. Multiple uremic tumoral calcinosis in periarticular soft tissues with chronic renal failure: a case report. Frontiers in Endocrinology. 2023;14:1249680. doi:10.3389/fendo.2023.1249680
- Le C, Bedocs PM. Calcinosis Cutis. StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; updated 2023.
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- Hwang ZA, Suh KJ, Chen D, et al. Imaging features of soft-tissue calcifications and related diseases: a systematic approach. Korean Journal of Radiology. 2018;19(6):1147-1160.
- 臨床画像 Vol.36 No.10 2020, p1095.
- 画像診断 Vol.36 No.11 増刊号 2016, p99.
- 画像診断 Vol.32 No.12 2012, p1203.
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転移性石灰化で沈着するのはリン酸カルシウムやハイドロキシアパタイトではないでしょうか?
コメントありがとうございます。おっしゃるとおりですので修正・追記しました。