I123-loflupane(イオフルパン)(ダットスキャン®)とは?
ドーパミントランスポーターとは?
ドーパミントランスポーターとは、神経終末の細胞膜に存在する細胞膜型のトランスポーターであり、ドーパミンが多く伝わりすぎないように戻す(再取り込みをする)役割がある。
そしてこのドーパミントランスポーターは、主黒質線条体ドパミン神経終末部が存在する
- 尾状核
- 被殻
に発現している。
(尾状核と被殻を合わせて、線条体という。)
I123-loflupane(イオフルパン)(ダットスキャン®)は、このドーパミントランスポーターに高い結合親和性があるため、脳内のドーパミントランスポーターの分布を描出することができる。
効能又は効果
イオフルパン(ioflupane,123I-FP-CIT)とは以下の疾患の診断におけるドパミントランスポーターシンチグラフィの事。
- パーキンソン症候群
- レビー小体型認知症
※これらの疾患の疑いでもいい。
※パーキンソン症候群:パーキンソン病を含まないとする概念もあるが、本診断剤では「含む」概念として用いられる。
保険適応としては、詳しくは
- シナプス前ドパミン障害があるパーキンソン症候群の早期診断
- シナプス前ドパミン障害がないパーキンソン症候群との鑑別
- レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の鑑別
が認められている。
シナプス前ドパミン障害があるパーキンソン症候群とは?
- パーキンソン病(PD)
- 進行性核上性麻痺(PSP)
- パーキンソニズムのある多系統萎縮症(MSA)
- 大脳皮質基底核変性症(DBD)
など
つまりこれらの疾患において、ドーパミントランスポーターシンチで集積低下を来しうる。
シナプス前ドパミン障害がないパーキンソン症候群とは?
用法及び用量
通常、成人には本剤1バイアル (111~185MBq)を静脈内投与し、投与後3~6時間に頭部のシンチグラムを得る。
注射時の注意点
- PH4.5-5.8なので静注時、疼痛あり。ぴりぴり感。なのでゆっくり(15秒以上かけて)注射する。
I123-イオフルパンのターゲット
- 123I-イオフルパンのターゲットは黒質線条体のドパミン神経のターミナルに発現しているドパミントランスポーター(DAT)である。
- DATへの結合能を評価する事で、黒質線条体ドパミン神経の変性・脱落を評価することが出来る。
副作用・相互作用
- 副作用国内ではない。(40例)
- 海外では8%あった。頭痛、悪心。
- 慎重投与:肝機能障害、陣機能障害、飲酒に対して強い反応を示す患者。
- 相互作用:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(フルボキサミンマレイン酸塩、パロキセチン塩酸塩水和物、塩酸セルトラリン)は集積が上昇する可能性あり。メチルフェニデート塩酸塩、アモキサピン、マジンドール、コカイン塩酸塩、メタンフェタミン塩酸塩は集積が低下する可能性あり。
で、何がわかるのか??
- 本態性振戦(essential tremor:ET)とパーキンソン症候群を鑑別する。
- パーキンソン症候群・DLBか、それ以外かが分かる。
→特にDLBは認知症でアルツハイマー病の次に多く、かつアルツハイマー病より予後が悪い。これまで典型的なDLBでないと診断が難しかったが、今後ダットスキャンの出現により、DLBの診断が増えると考えられる。
読影の際の注意点
- 尾状核、被殻(前部、後部)にわけてチェックする。
- 横断像のみでなく、冠状断像や矢状断像もチェックして左右差も比較する。
- あくまでSBRは参考であり、視覚評価を重視する。
- PDで見られることが多いドット状の形態(被殻後部の集積低下)の場合、SBRの低下を認めないこともある。
- 加齢によりSBRは低下する。加齢による集積低下は被殻後部より始まる。
画像所見
- 正常ではコンマ(comma:「,」)のよう、異常例はドット(dot:「・」)のように集積したり、全体の集積が落ちたりする。コンマ→ドット状に落ちていくということは線条体の中でも後方で集積が低下しているということ。
- dotを見た時に、特発性のパーキンソン病なのか、PSP,MSA,DLB,CBD,FTDなどなのかは鑑別は基本的に難しいが、疾患により特徴的な落ち方がある。
- パーキンソン病(PD)の場合、ドット状に左右差を持って低下していく(被殻後部優位の集積低下)ことが多い。これはPDに症状に左右差を認めることが多く、患側に一致した低下が認められるため。
- レビー小体型認知症(DLB)の場合は、線条体が全体的に低下することが多い。またこの疾患の場合、ドパミン系だけでなく、セロトニン系にも障害を認め、この薬剤はセロトニントランスポーターにも集積する。セロトニン系の起始核である中脳(の逢線核)にも集積低下を認める(Mov Disord25:1853-1859,2010)。
- 進行性核上性麻痺(PSP)の場合は、線条体の前方部に集積低下が目立つとされる。
- 集積が落ちているからパーキンソン病ではなく、パーキンソン病の近縁疾患の可能性もあり、それは鑑別できない。
- ところが、脳幹の上部にもドパミンの集積はある。パーキンソン病は保たれやすいが、MSAやPSPでは脳幹上部の集積が落ちるのでそれは使えるかも。基底核だけの集積ではなくて、脳幹上部も組み合わせると診断可能かもしれない。
- SBR(specific binding ratio)にてカットオフすることができる。原文では4.5でカットオフ。カットオフ値は施設により異なる。
SPECT画像の視覚的評価の分類
SPECT画像の分類 | 分類基準 | 画像 |
---|---|---|
正常 | 左右両側の被殻及び尾状核への放射能集積を特徴とする。 画像は、左右両側にほぼ同等の集積があり、ほぼ左右対称である。 放射能は2つの三日月形またはカンマ形の集積領域を形成し、画像の中心付近に分布する。 | |
異常:パターン1 | 非対称の集積であり、片側脳半球の被殻では正常又はほぼ正常の放射能集積を示し、 対側の脳半球では顕著な変化を示す。 | |
異常:パターン2 | 左右両側の被殻における集積量が著しく低下している。 放射能は尾状核に限局して集積し、2つのほぼ対称的な円形を形成する。 | |
異常:パターン3 | 左右両側の被殻及び尾状核共に放射能集積を実質的に欠き、 結果としてコントラストが著しく低下し、 画像全体にわたってバックグラウンド放射能が可視化される。 |
症例 60歳代男性 パーキンソン病疑い
両側線条体はドット状のパターンの集積低下を認めています。
特に右側優位に左右差を持った低下あり。PDに特徴的な所見です。
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