先に結論:正常圧水頭症(iNPH)とDESH
- 正常圧水頭症は、脳室が大きくなっているのに脳脊髄液の圧は正常範囲で、歩きにくさ(小刻み・すり足)・物忘れ・尿失禁の3つが特徴の病気です。高齢者に多く、シャント手術で改善が期待できる「治る認知症」の一つです
- MRI・CTでは、脳室の拡大(Evans index>0.3)に加え、頭のてっぺん(高位円蓋部)の脳溝が狭く詰まっているのに、シルビウス裂や脳底槽は広いというアンバランスなくも膜下腔(DESH)が特徴です。冠状断での脳梁角の鋭角化(90°未満)も手がかりになります
- アルツハイマー型認知症の萎縮とは、高位円蓋部の脳溝が広がらない点で区別できます。診断には髄液を抜いて症状が改善するか(タップテスト)を確かめ、治療は脳室・腰椎から腹腔へのシャント術を行います
※歩きにくさ・物忘れ・尿もれが少しずつ進むときは、脳神経外科・脳神経内科で相談してください。
正常圧水頭症とは?
- 正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephalus:NPH)は、歩行障害、認知障害、尿失禁の3徴を呈し、脳室拡大はあるが、髄液圧は正常で、髄液シャント術によって症状が改善する病態。
- 臨床的には、NPHは、くも膜下出血、髄膜炎、外傷などの先行疾患に引き続いて起こる二次性NPH(secondary NPH:sNPH) と、先行疾患が明らかでない特発性NPH(idiopathic NPH:iNPH)とに分けられる。
- 両者はさまざまな点で異なり、別の病態と考えたほうがよい。
- iNPHはsNPHと比較して、症状発現までの期間が長く、頭部MRIでシルビウス裂の拡大が目立ち、シャント術に対する反応性が悪い。
- またsNPHは先行疾患に引き続いて発現するため、通常診療の過程で発見されることが多く見逃されることは少ない一方、iNPHはしばしば他疾患と間違えられ発見が遅れることが多い。
- また iNPHは最近、わが国で行われた疫学研究の結果から、一般高齢者の0.5~2.9%の頻度で存在する可能性が指摘され(Iseki 2009; Hiraoka 2008)、適切に診断することの重要性が増している。
▶︎iNPHを疑う所見(possible iNPH)
- 歩行障害、認知障害、排尿障害の1つ以上。
- 60歳以上。
- 他の神経疾患、非神経疾患で症候の全てを説明できない。
- Evans index > 0.3 の脳室拡大。
- 水頭症をもたらす明らかな先行疾患がない。
→これらを満たす場合、神経内科・脳外科に紹介する。
正常圧水頭症の種類

特発性正常圧水頭症(iNPH)
- DESH :DESHを示すiNPHを対象とした前向き研究(SINPHONI)では、VPシャント後1年でmRS 1段階以上の改善が69%、経過中いずれかの時点でiNPHGSの改善が89%にみられた。
- non-DESH
DESHとはくも膜下腔のアンバランスさのことで、
Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalusの略。
続発性正常圧水頭症(sNPH)
- 先天性、発達性の異常
- 後天性(SAH後、外傷後、髄膜炎後など)
特発性正常圧水頭症の診断
▶必須項目
- 60歳代以降
- 歩行障害、認知障害、尿失禁が1つ以上
- 脳室拡大(Evans index>0.3)
- 他の疾患を除外。
その上で、おおまかに、
- 画像上、iNPHを疑う所見→possible iNPH with MRI support (高位円蓋部および正中部の脳溝、くも膜下腔の狭小化)
- CSFタップテスト(Taptest)で改善→probable iNPH
- Shuntで治癒 : definite iNPH
CSFタップテストとは?
- 脳脊髄液を少量排除することで、歩行障害の改善を見るテスト。
- 歩行障害の改善は一週間以内にみられる。歩行障害などの改善がみられる=タップテスト陽性ということ。
※歩行障害の改善が見られなくても他の症状(認知障害、自発性、排尿障害など)の改善がみられる場合がある。
- タップテスト陰性(=歩行障害などが改善しない)の場合、タップテストを繰り返す、ドレナージテストを行う、経過観察・他の鑑別疾患を再度考えるといったステップに進む。
- 腰椎穿刺により脳脊髄液を採取する。針の太さや排除量は施設の方針に従う。
タップテストの評価方法とは?
- 歩行障害の検査法(3m往復に要する時間など)が、髄液排除の前より改善しているか。
- 認知障害の検査法(MMSEなど)の点数が改善しているか。
- 三徴(歩行障害、認知障害、排尿障害)の重症度分類(iNPHGS)で重症度が改善しているか。
ことにより評価をする。
正常圧水頭症の画像所見、DESHとは?
- Evans index(側脳室前角幅/頭蓋内腔幅比)=A/C>0.3
- 冠状断、矢状断像で高位円蓋部くも膜下腔、脳溝の狭小化。横断像でも評価は可能。(高い感度と特異度でアルツハイマー型認知症(AD)における萎縮と鑑別できる。)
- 脳底槽、Sylvius裂の拡大。
- 冠状断像で脳梁角<90°。(脳梁角はiNPH群で平均66°と、アルツハイマー型認知症(104°)や健常者(112°)より小さく、90°を閾値にするとiNPHとアルツハイマー型認知症の鑑別で感度97%・特異度88%と報告されています。)
- 矢状断像で第3脳室の前陥凹。
- 側脳室壁のscallopingは矢状断、横断像で評価しやすい。
- PVL、PVHの有無は問わない。
- 脳血流検査は他の認知症疾患との鑑別に役立つ。
Evans indexの測り方
- CTまたはMRIの横断像で、側脳室前角の幅が最も広くなる断面を選びます。
- その断面で、左右の側脳室前角の最大幅(A)を測ります。
- 同じ断面で、頭蓋骨の内側どうしの最大幅(C)を測ります。
- A÷Cを計算し、0.3を超えれば脳室拡大と判断します。
Evans indexは脳萎縮でも大きくなるため、これだけで正常圧水頭症とは言えません。高位円蓋部の脳溝の狭小化(DESH)や脳梁角と組み合わせて評価します。
脳梁角(callosal angle)の測り方
- 前交連と後交連を結ぶ線(AC-PC線)に垂直な冠状断を作り、後交連の高さの断面で測ります(Ishii 2008)。
- 左右の側脳室上壁(脳梁の下面)がなす角度を測ります。正常圧水頭症では脳室が上に押し広げられ、角度が鋭くなります。
- この方法で測ると、iNPH群は平均66°、アルツハイマー型認知症は平均104°、健常者は平均112°でした(Ishii 2008)。
水頭症の画像所見:タイプ別の違い
| 特発性正常圧水頭症(iNPH) | 閉塞性(非交通性)水頭症 | 脳萎縮(アルツハイマー型認知症など) | |
|---|---|---|---|
| 側脳室 | 拡大 | 閉塞部より上流の脳室が拡大 | 拡大(萎縮に見合う程度) |
| 高位円蓋部の脳溝 | 狭い | 狭いことが多い | 広い |
| シルビウス裂 | 広い | 目立たないことが多い | 広い |
| 脳梁角 | 鋭角 | 鋭角になりうる | 鈍角のことが多い |
| その他 | DESH、脳溝の局所的な開大 | 閉塞の原因(腫瘍・中脳水道狭窄など)、脳室周囲の浮腫 | 海馬など萎縮の目立つ部位 |
閉塞性水頭症では、脳室がどこまで拡大しているかで閉塞部位の見当をつけます。たとえば側脳室と第3脳室が拡大して第4脳室が小さければ、中脳水道付近の閉塞を疑います。
「左右は空いているのに、上の方にギュッと大脳が凝集している」
=アンバランスなくも膜下腔=DESHという状態です。

DESHが見られても症状がない場合は?
このDESH所見を示すものの、症状がない無症候性の症例をAVIM(asymptomatic ventriculomegaly with features of iNPH on MRI)と呼び、60歳以上の約1%で見られると報告されています。
さらにその後の4-8年の追跡で、この25%に認知症や歩行障害が生じたと報告されており、AVIMはiNPHの前段階の可能性が示唆されています。
ですので、無症状であってもこのDESH所見は積極的に取るべきだということです。(JNeurol Sci 277:54-57.2009)
症例 70歳代男性 歩行障害
しかし、両側シルビウス裂の開大を認めています(萎縮ではなく、髄液の分布の偏りによるもの)。
高位円蓋部の狭小化とシルビウス裂の開大というアンバランスなくも膜下腔であり、DESHを疑う所見です。
▶動画でチェックする正常圧水頭症
正常圧水頭症の治療は?
- 脳室・腹腔短絡術(ventriculo-peritoneal shunt :VP shunt)が行われることが多いが、最近では、腰部くも膜下腔・腹腔短絡術(lumbo-peritoneal shunt:LP shunt)が行われることも多い。LPシャントについては、日本の無作為化比較試験(SINPHONI-2)で、3か月後にmRSが1段階以上改善した割合が即時手術群65%、手術延期群5%と有意差が示されています。手術により、歩行障害が最も改善しやすい。
LOVA(長期存続型著明脳室拡大)(long-standing overt ventriculomegaly in adults)とは?
- 慢性期の成人水頭症。
- 中脳水道の先天的・後天的な狭窄・閉塞が長期にわたり、水頭症として存続したものが成人期に発症するもの。
関連記事:髄液の流れと非交通性水頭症、交通性水頭症をイラストを用いて動画解説
AVIM(asymptomatic ventriculomegaly with feature of idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRI)
- 症状はないが、画像上iNPHが疑われる患者を4-8年追跡すると25%に認知症や歩行障害などの症状が出現したという報告あり。
脳萎縮と水頭症の見分け方:どこを見るか
脳室が大きいという所見だけでは、水頭症(脳室を押し広げる力が働いている)なのか、脳萎縮(脳が痩せて隙間ができた)なのかは決められません。脳室の大きさではなく、脳溝・くも膜下腔がどこで広く、どこで狭いかという「髄液の分布」を見ます。
| 見る場所 | 水頭症(iNPH) | 脳萎縮(アルツハイマー型認知症など) |
|---|---|---|
| 高位円蓋部の脳溝(冠状断) | 狭く詰まる | 脳全体で脳溝が開く |
| シルビウス裂・脳底槽 | 開大(脳溝の局所的な開大を伴うことも) | 脳溝の開大の一部として広がる |
| 側脳室下角 | 脳室全体の拡大に伴って広がる | 海馬の萎縮に伴って広がる |
| 脳梁角(冠状断) | 鋭角(<90°) | 鈍角のことが多い |
| 脳室の形 | 上下方向にも伸び、脳室のすぐ上の脳が押される | 萎縮に見合って全体にふくらむ |
見る順番の目安
- 冠状断で高位円蓋部を見る:脳溝が詰まっていればDESHを疑います。脳溝が開いていれば萎縮優位と考えます。
- シルビウス裂・脳底槽が相対的に広いか:高位円蓋部が狭いのにここが広ければ、髄液の分布の偏り(DESH)です。
- 脳梁角を測る:高位円蓋部の所見を数値で裏づけます。
- 側脳室下角と海馬を見る:下角は水頭症でも海馬の萎縮でも広がるため、これだけで決めず、海馬の萎縮が目立つかどうかをあわせて確認します。
間違えやすいポイント
- CSF分布を定量した研究では、iNPHの特徴は円蓋部のくも膜下腔が小さく、脳底槽とシルビウス裂が大きいことで、脳室とくも膜下腔の比がアルツハイマー病との鑑別に有用でした(Yamada 2016)。
- iNPHとアルツハイマー病の鑑別に使える12の画像指標を比べた研究では、Evans indexの曲線下面積が0.93で最も大きく、DESHスケール6点以上は特異度が93%と最も高い値でした(Deng 2024)。Evans indexは感度を、DESHは特異度を補う指標と考えるとわかりやすくなります。
- iNPHとアルツハイマー病が合併すると、くも膜下腔の分布が最も乱れ、脳室の大きさはその中間になりました(Yamada 2016)。典型的なDESHにならない例もあるため、画像だけで「水頭症ではない」と言い切らず、症状とタップテストの結果を合わせて判断します。
- DESHを成り立たせる所見(Evans index、脳梁角、高位円蓋部の狭小化、シルビウス裂の開大、脳溝の局所開大)を点数にして合計する方法があり、点数が高いほどシャント術後に改善しやすい傾向がありました(Jóhannsdóttir 2024)。DESHの認知はまだ十分に広がっていないとも指摘されています(Petersen 2024)。
正常圧水頭症の画像でよくある疑問(Q&A)
Q. 正常圧水頭症はCTでもわかりますか?
A. CTでもEvans indexやシルビウス裂の開大、高位円蓋部の脳溝の狭さはある程度評価できます。ただし、高位円蓋部や脳梁角は冠状断のほうが判断しやすいため、MRI(または冠状断の再構成画像)で確認するのが一般的です。
Q. Evans indexが0.3を超えていたら正常圧水頭症ですか?
A. いいえ。Evans indexは脳萎縮でも上がります。日本の地域住民を対象にした研究では、MRIでiNPHに似た所見(Evans index>0.3と高位円蓋部の狭小化)があっても症状のない人が1.01%いて、4〜8年の追跡で8人中2人に認知症や歩行障害が出ました(Iseki 2009)。症状と画像所見をあわせて判断します。
Q. 画像でDESHがあれば、シャント手術は効きますか?
A. 効果が期待しやすい所見とされます。MRIで脳室拡大と高位円蓋部・正中部くも膜下腔の狭小化を示した患者100人の前向き研究では、VPシャント後1年でiNPHの重症度スケールが改善した割合は77.0%でした(Hashimoto 2010)。最終的な手術の判断は、タップテストなども含めて主治医と相談します。
参考文献
- Nakajima M, Yamada S, Miyajima M, et al. Guidelines for Management of Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus (Third Edition): Endorsed by the Japanese Society of Normal Pressure Hydrocephalus. Neurol Med Chir (Tokyo). 2021;61(2):63-97. PubMed
- Hashimoto M, Ishikawa M, Mori E, et al. Diagnosis of idiopathic normal pressure hydrocephalus is supported by MRI-based scheme: a prospective cohort study. Cerebrospinal Fluid Res. 2010;7:18. PubMed
- Iseki C, Kawanami T, Nagasawa H, et al. Asymptomatic ventriculomegaly with features of idiopathic normal pressure hydrocephalus on MRI (AVIM) in the elderly: a prospective study in a Japanese population. J Neurol Sci. 2009;277(1-2):54-57. PubMed
- Hiraoka K, Meguro K, Mori E. Prevalence of idiopathic normal-pressure hydrocephalus in the elderly population of a Japanese rural community. Neurol Med Chir (Tokyo). 2008;48(5):197-199. PubMed
- Kazui H, Miyajima M, Mori E, et al. Lumboperitoneal shunt surgery for idiopathic normal pressure hydrocephalus (SINPHONI-2): an open-label randomised trial. Lancet Neurol. 2015;14(6):585-594. PubMed
- Ishii K, Kanda T, Harada A, et al. Clinical impact of the callosal angle in the diagnosis of idiopathic normal pressure hydrocephalus. Eur Radiol. 2008;18(11):2678-83. PubMed
- Kitagaki H, Mori E, Ishii K, et al. CSF spaces in idiopathic normal pressure hydrocephalus: morphology and volumetry. AJNR Am J Neuroradiol. 1998;19(7):1277-84. PubMed
- Yamada S, Ishikawa M, Yamamoto K Comparison of CSF Distribution between Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus and Alzheimer Disease. AJNR Am J Neuroradiol. 2016;37(7):1249-55. PubMed
- Deng Z, Wang H, Yang X, et al. Evaluation of imaging indicators in differentiating idiopathic normal pressure hydrocephalus from Alzheimer’s disease. Clin Neurol Neurosurg. 2024;242:108362. PubMed
- Jóhannsdóttir AM, Pedersen CB, Munthe S, et al. Idiopathic normal pressure hydrocephalus: Validation of the DESH score as a prognostic tool for shunt surgery response. Clin Neurol Neurosurg. 2024;241:108295. PubMed
- Petersen G, Ortega-Matute E, Perez-Nieto D, et al. Diagnostic importance of disproportionately enlarged subarachnoid space hydrocephalus and Callosal Angle measurements in the context of normal pressure hydrocephalus: A useful tool for clinicians. J Neurol Sci. 2024;466:123250. PubMed
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とても参考になりました。
外来で、時々 遭遇する疾患であり、疑いがあれば、脳神経外科の専門医に紹介いたしております。
少し前に、読んだスウェーデンの文献では、iNPHの47%は、ADが合併しているとのことでしたが、実際 臨床場面でも 納得できる研究でした。
柴山先生
コメントありがとうございます。
脳外科の先生からも疑わしい場合は積極的に所見を拾って紹介して欲しいと言われております。