先に結論:胸腺嚢胞の画像

  • 胸腺嚢胞は、首の下〜前縦隔にできる胸腺の水の袋で、生まれつきの単房性のものと、リンパ腫の治療後や炎症などに続く多房性のものがあります。多くは無症状で偶然見つかります
  • CTでは水の濃さで造影されない袋ですが、出血や蛋白の多い液で濃く見え、充実性腫瘍と紛らわしいことがあります。その場合はMRI(T2強調像で白い・造影されない)で確認します
  • 壁が厚い・壁に結節がある・造影される部分がある場合は、嚢胞変性した胸腺腫や奇形腫などを考えます

胸腺嚢胞(thymic cyst)

  • 胸腺嚢胞とは、胸腺やその遺残組織にできる、液体のたまった袋状の良性病変です。前縦隔腫瘤の約3%を占めるとされます(Odev 2012)。
  • 胸腺は発生過程で尾側方向へ移動し、最終的に前縦隔に位置する。
  • 胸腺嚢胞は、この過程で遺残した組織から発生し、下頸部から縦隔上部のいずれの部位にも生じる。
  • このような先天性のものが多いが、後天性のものもある。
  • 後天性(多房性)のものは炎症によって生じる反応性の病変と考えられている(Suster 1991)。縦隔ホジキンリンパ腫の治療後の遺残嚢胞(el-Sharkawi 1995)、Sjögren症候群(Kondo 2001)、HIV感染症(Shi 2012)に伴う報告がある。胸腺腫や胸腺癌に伴うこともある(Odev 2012)。
  • 単房性あるいは多房性とさまざま。先天性は単房性、後天性は多房性であることが多い。
  • 多房性は炎症変化に続発すると言われる。通常は無症状。
  • 内部は一般に漿液性。壁は薄いものが多いが、厚いものもある。
  • 鑑別は、心膜嚢胞、嚢胞変性の強い胸腺腫、成熟嚢胞性奇形腫など。

胸腺嚢胞の画像所見

  • CTでは低吸収。時に出血や感染を合併し、比較的高吸収を呈することもある。
  • 稀に嚢胞壁に沿って石灰化を認めることあり。
  • MRIでは、T1WI低信号、T2WI高信号。出血や感染を合併した場合はともに高信号を示すこともある。この場合、充実性病変と鑑別が困難な場合あり。CTの普及で偶然見つかる胸腺の結節・腫瘤が増えていますが、胸部MRIは診断の特異度を高め、不要な胸腺摘出を減らすことにつながるとされています。
  • 造影効果なし。
症例 60歳代女性

前縦隔に15mm大の嚢胞性病変を認めています。

造影CTにて造影効果は明らかではありません。

手術が施行され、胸腺嚢胞と診断されました。

症例 50歳代男性

前縦隔におむすび型の嚢胞性病変を認めています。

手術が施行され、胸腺嚢胞と診断されました。

胸腺嚢胞と嚢胞性胸腺腫の見分け方

胸腺嚢胞(先天性) 多房性胸腺嚢胞(後天性) 嚢胞性胸腺腫など腫瘍の嚢胞変性
房 単房性 多房性が多い さまざま
壁・内部 壁は薄く、内容は澄んだ液 軟部濃度の成分を伴うことが多い 壁の結節・充実部がある

(Odev 2012、Choi 2001)。多房性胸腺嚢胞の軟部濃度の成分が腫瘍かどうかはCTでは区別できず(Choi 2001)、造影される充実部の評価にはMRIが役立ちます。

胸腺嚢胞でよくある疑問(Q&A)

Q. 胸腺嚢胞の原因は?
A. 先天性は胸腺が下りてくる途中で残った組織から、後天性は炎症に伴って生じると考えられています(Suster 1991)。

Q. 経過観察でよいですか?治療は?
A. MRIで胸腺嚢胞と判断された111例の検討では、のちに胸腺上皮性腫瘍とされたのは2%で、追跡画像のあった86例のうち19%で大きくなっていました(Lim 2026)。典型的な嚢胞でも経過をみて、壁の結節や造影される部分が出てくる・大きくなる・症状がある場合は、手術での切除が検討されます。

胸の痛みや息苦しさなど気になる症状があれば、呼吸器内科や呼吸器外科で相談してください。

関連記事:

参考文献

  1. Suster S, Rosai J. Multilocular thymic cyst: an acquired reactive process. Study of 18 cases. Am J Surg Pathol. 1991;15(4):388-98. PubMed
  2. Odev K, Arıbaş BK, Nayman A, et al. Imaging of Cystic and Cyst-like Lesions of the Mediastinum with Pathologic Correlation. J Clin Imaging Sci. 2012;2:33. PubMed
  3. Jeung MY, Gasser B, Gangi A, et al. Imaging of cystic masses of the mediastinum. Radiographics. 2002;22 Spec No:S79-93. PubMed
  4. Lorca MCN, Lanuti M, Ackman JB. Why Magnetic Resonance Imaging Is Invaluable for the Evaluation of Thymic Masses. Semin Thorac Cardiovasc Surg. 2026. PubMed
  5. Choi YW, McAdams HP, Jeon SC, et al. Idiopathic multilocular thymic cyst: CT features with clinical and histopathologic correlation. AJR Am J Roentgenol. 2001;177(4):881-5. PubMed
  6. el-Sharkawi AM, Patel B. Management of residual thymic cysts in patients treated for mediastinal Hodgkin’s disease. Thorax. 1995;50(10):1118-9. PubMed
  7. Kondo K, Miyoshi T, Sakiyama S, et al. Multilocular thymic cyst associated with Sjögren’s syndrome. Ann Thorac Surg. 2001;72(4):1367-9. PubMed
  8. Shi X, Nasseri F, Berger DM, et al. Large Multilocular Thymic Cyst: A Rare Finding in an HIV Positive Adult Female. J Clin Imaging Sci. 2012;2:55. PubMed
  9. Lim WH, Kim J, Kim MS, et al. Clinical Outcomes of Lesions Interpreted as Thymic Cysts on MRI: Analysis Using Institutional and National Claims Data. AJR Am J Roentgenol. 2026;227(3):e2634883. PubMed

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