くも膜嚢胞(arachnoid cyst)は、頭部CTや頭部MRI、脳ドックなどで偶然発見されることが多く、日常診療でもしばしば遭遇する所見の一つです。
今回は、くも膜嚢胞の症状、原因、好発部位、CT・MRI画像所見、鑑別診断、治療適応について整理します。
先に結論:くも膜嚢胞(くも膜のう胞)とは
- 脳のまわりのくも膜にできた、髄液がたまった袋です。腫瘍ではなく、多くは生まれつき(先天性)で、MRIでは成人の約1.4%、子どもの約2.6%に見つかるほどよくある所見です
- ほとんどは無症状で、脳ドックや頭を打ったときのCTなどで偶然見つかります。症状がなければ治療は不要で、経過観察になります
- 大きくて脳や脳室を圧迫している場合に限り、頭痛・けいれん・水頭症・発達の遅れなどの原因になることがあり、その場合は手術(開窓術・シャント術など)を検討します。頭痛やめまいがあっても、嚢胞が原因とは限りません
- 多くは大きさが変わらず、成人では平均3.8年の経過で大きくなったのは2.3%でした(Al-Holou 2013)
※見つかって心配なときや、頭痛・けいれんなどの症状があるときは、脳神経外科・小児科で相談してください。
くも膜嚢胞(arachnoid cyst)とは?
- くも膜嚢胞(arachnoid cyst)は、くも膜内あるいはくも膜下腔に生じる髄液様成分を含む嚢胞性病変。
- 病理学的には、嚢胞壁はくも膜様の薄い膜構造からなり、内部は通常、脳脊髄液に近い性状を示す。
- 先天性に生じるものが多いとされるが、外傷、感染、出血、手術後変化などに続発して生じる二次性くも膜嚢胞もある。
- 臨床的には、無症状のまま偶然発見される例が大部分である。
- 画像検査で一定頻度に見つかる偶発所見である。成人を対象とした大規模MRI研究では約1.4%に認められたと報告されている。小児を対象としたMRI研究では、頻度は約2.6%と報告されている。
- すなわち、脳ドックや頭部外傷後のCT、頭痛精査のMRIなどで偶然見つかることは決して珍しくない。一方で、発見されたからといって直ちに病的意義があるとは限らず、画像所見と症状との対応を慎重に判断する必要がある。
くも膜嚢胞の症状
くも膜嚢胞の多くは無症状である。
特に中頭蓋窩や後頭蓋窩に小さく存在する嚢胞では、症状と無関係な偶発所見として扱われることが多い。
ただし、嚢胞が大きい場合や、脳室系・脳神経・脳幹・小脳などを圧排する場合には、以下のような症状を来すことがある。
- 頭痛
- 悪心・嘔吐
- 痙攣発作
- 発達遅滞、発達の偏り
- 視力障害、眼球運動障害
- 片麻痺、対麻痺
- 感覚障害
- めまい、ふらつき
- 水頭症に伴う頭蓋内圧亢進症状
症状がある場合でも、頭痛やめまいなどは非特異的であり、くも膜嚢胞が原因とは限らない。
したがって、「嚢胞があること」と「症状の原因であること」は分けて考える必要がある。
くも膜嚢胞の原因
くも膜嚢胞の原因は、大きく先天性と二次性に分けられる。
先天性くも膜嚢胞
多くのくも膜嚢胞は先天性と考えられている。
胎生期にくも膜が形成される過程で、くも膜の一部が分離し、その内部に髄液様成分が貯留することで形成されると考えられている。
先天性くも膜嚢胞は小児期に発見されることもあれば、成人後に脳ドックなどで偶然発見されることもある。
二次性くも膜嚢胞
二次性くも膜嚢胞は、外傷、感染、出血、手術後変化などにより、くも膜の癒着や髄液腔の局所的な変化が生じて形成されるものと考えられる。
先天性嚢胞に比べると頻度は低い。
常染色体優性多発性嚢胞腎との関連
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)では、腎嚢胞や肝嚢胞に加えて、頭蓋内動脈瘤などの頭蓋内病変が合併することが知られている。
くも膜嚢胞についても、ADPKD患者で頻度が高いとする報告がある。
ただし、ADPKD患者にくも膜嚢胞が見つかった場合でも、多くは無症状であり、嚢胞そのものに対して治療を要しないことが多い。
くも膜嚢胞の好発部位
くも膜嚢胞は頭蓋内のさまざまな部位に生じるが、好発部位がある。
特に中頭蓋窩、なかでも側頭葉前方・側頭極近傍に多い。
成人661例のMRI研究では、中頭蓋窩34%、後小脳部(後頭蓋窩)33%、大脳円蓋部14%の順に多く、中頭蓋窩の嚢胞の70%は左側であった。鞍上部・鞍部の嚢胞は症状と関係しやすく、中頭蓋窩の嚢胞は症状と関係しにくい傾向があった(Al-Holou 2013)。
- 中頭蓋窩、側頭葉前方、側頭極近傍
- 後頭蓋窩、後小脳槽
- 小脳橋角部
- 鞍上槽
- 四丘体槽
- 大脳円蓋部
- 半球間裂
- 脳室内
- 脊柱管内
中頭蓋窩のくも膜嚢胞では、側頭葉の圧排や中頭蓋窩の拡大、隣接する頭蓋骨内板の菲薄化を伴うことがある。
慢性的にゆっくり圧が加わるため、骨のリモデリングを来すことがある点が特徴である。
後頭蓋窩のくも膜嚢胞
後頭蓋窩では、小脳の後ろ(後小脳部)や小脳橋角部に見られる。後小脳部の嚢胞は、正常の大きな大槽(mega cisterna magna)やDandy-Walker奇形との区別が問題になる。小脳虫部の形成が保たれているか、第4脳室や小脳を圧排しているか、水頭症があるかを、矢状断のMRIで確認する。
くも膜嚢胞のCT画像所見
CTでは、くも膜嚢胞は脳脊髄液とほぼ同等の低吸収域として描出される。
内部に充実成分を認めず、通常は造影効果を示さない。
石灰化を伴うことも一般的ではない。
典型的なCT所見は以下である。
- 髄液と同等の低吸収を示す嚢胞性病変
- 境界明瞭
- 内部に充実成分を認めない
- 通常、造影効果を示さない
- 周囲脳実質を圧排することがある
- 慢性的な圧排により、隣接する頭蓋骨内板の菲薄化・膨隆を伴うことがある
- 出血を合併すると、嚢胞内や周囲に高吸収域を認めることがある
CTだけでも典型例では診断可能であるが、鑑別診断や周囲構造との関係を詳しく評価するにはMRIが有用である。
くも膜嚢胞のMRI画像所見
MRIでは、くも膜嚢胞は基本的に脳脊髄液と同じ信号パターンを示す。
これは診断上きわめて重要なポイントである。
| 撮像法 | くも膜嚢胞の典型所見 |
|---|---|
| T1強調像 | 低信号。髄液と同程度の信号を示す。 |
| T2強調像 | 高信号。髄液と同程度の信号を示す。 |
| FLAIR | 髄液と同様に抑制され、低信号となる。 |
| DWI | 通常、拡散制限を示さない。 |
| ADC map | 髄液と同様に高ADCを示す。 |
| 造影MRI | 通常、嚢胞壁や内部に明らかな造影効果を認めない。 |
T2強調像では、周囲の髄液腔と比較してわずかに高信号に見えることがある。
これは嚢胞内では髄液流によるflow voidが乏しいことなどが関与すると考えられる。
MRIで特に重要なのは、FLAIRとDWIである。
FLAIRで髄液と同様に抑制され、DWIで拡散制限を示さなければ、類表皮嚢胞などとの鑑別に有用である。
まずは典型的な側頭葉先端部(側頭極)近傍の中頭蓋窩のくも膜嚢胞2症例です。
症例 10歳代 男性 CT

右中頭蓋窩(側頭葉先端部)にくも膜嚢胞を疑う髄液と等吸収な低吸収域を認めています。
症例 70歳代女性

左中頭蓋窩(側頭葉先端部)にくも膜嚢胞あり。
続いて側頭葉先端部以外に生じたくも膜嚢胞の画像です。
症例 40歳代女性

左前頭部にくも膜嚢胞あり。
前頭骨の内板の菲薄化を認めています。
症例 70歳代男性

左前頭側頭部に髄液と同じ信号強度を示す嚢胞性病変あり。くも膜嚢胞が疑われる。
前頭骨の内板の菲薄化を認めています。
くも膜嚢胞の鑑別診断
くも膜嚢胞と鑑別すべき病変には、以下のようなものがある。
類表皮嚢胞
類表皮嚢胞は、くも膜嚢胞と同様に髄液様の信号を示すことがあるが、DWIで高信号、ADC低下を示すことが多い。
小脳橋角部や傍鞍部では特に重要な鑑別である。
FLAIRで完全には抑制されず、内部が不均一に見えることもある。
拡大したくも膜下腔
単なるくも膜下腔の拡大や脳萎縮に伴う髄液腔の拡大は、くも膜嚢胞と紛らわしいことがある。
くも膜嚢胞では局所的な嚢胞性拡大として見え、隣接脳実質への圧排や骨変化を伴うことがある。
porencephalic cyst
porencephalic cystは、脳実質内の欠損腔であり、脳室やくも膜下腔と交通することがある。
周囲に脳実質欠損やグリオーシスを伴う点が、くも膜嚢胞との鑑別点である。
神経上皮嚢胞・神経膠嚢胞
神経上皮嚢胞や神経膠嚢胞も髄液様信号を示す嚢胞性病変として描出されることがある。
病変の局在、周囲構造との関係、脳実質内か髄液腔側かを評価することが重要である。
慢性硬膜下血腫・硬膜下水腫
硬膜下水腫や慢性硬膜下血腫は、円蓋部の髄液様貯留としてくも膜嚢胞と紛らわしいことがある。
硬膜下腔に沿った三日月状の形態、脳表との関係、被膜、血腫成分の有無を確認する。
くも膜嚢胞の合併症
くも膜嚢胞の大部分は安定して経過するが、まれに以下の合併症を来すことがある。
- 嚢胞内出血
- 硬膜下血腫
- 硬膜下水腫
- 嚢胞破裂
- 水頭症
- 頭蓋内圧亢進
中頭蓋窩のくも膜嚢胞では、軽微な外傷後に硬膜下血腫を合併することがある。くも膜嚢胞で紹介された241例の検討では、慢性硬膜下血腫・嚢胞内血腫は4.6%にみられ、全例が側頭部(中頭蓋窩)の嚢胞であった(側頭部嚢胞に限ると6.5%)。血腫の頻度は嚢胞の大きさによらなかったと報告されている。
急な頭痛、嘔吐、意識障害、神経脱落症状が出現した場合には、出血や水頭症の合併を考慮して画像評価を行う必要がある。
くも膜嚢胞の自然経過(大きくなる?治る?)
| 成人(Al-Holou 2013) | 小児(Al-Holou 2010) | |
|---|---|---|
| 経過観察した嚢胞 | 213個(平均3.8年) | 111例(平均3.5年) |
| 大きくなった | 5個(2.3%) | 11例 |
| 小さくなった | 2個(0.9%) | 13例 |
| 変化なし | 大部分 | 87例 |
成人では、経過中に症状が新たに出たり悪化したりしたのは2例のみであった(Al-Holou 2013)。小児では、診断時の年齢が低いほど大きくなりやすく、4歳を過ぎてから見つかった子どもでは、大きくなった例・新たな症状が出た例・手術を受けた例はなかった(Al-Holou 2010)。
治療が必要になるのはどのような場合か
無症状のくも膜嚢胞は、多くの場合、治療を必要としない。
画像上典型的で、周囲への強い圧排や水頭症を伴わない場合には、経過観察または追加対応なしでよいことも多い。
一方で、以下のような場合には脳神経外科的治療が検討される。
- 嚢胞による明らかな圧排症状がある場合
- 水頭症を来している場合
- 頭蓋内圧亢進症状がある場合
- 嚢胞が原因と考えられる痙攣発作がある場合
- 視力障害や眼球運動障害など、局在に一致した症状がある場合
- 嚢胞内出血や硬膜下血腫を合併した場合
- 小児で嚢胞の増大や発達への影響が疑われる場合
治療法としては、嚢胞開窓術、内視鏡的開窓術、嚢胞腹腔シャント術などがある。
どの治療を選択するかは、嚢胞の部位、大きさ、症状、年齢、合併症の有無によって異なる。
手術の成績として、症状のあるくも膜嚢胞で手術を受けた39例では61.5%で症状が改善し、内視鏡的開窓術の改善率が81.8%と最も高かったと報告されている(Jaradat 2024)。小児の前向き研究では、平均8.6年の長期経過で77%が少なくとも1つの症状で改善した一方、自覚症状が残る人も59%おり、嚢胞が小さくなることと症状の改善は関係しなかった(Rabiei 2016)。このため、症状と嚢胞の関係がはっきりしない場合の手術には慎重な考え方が一般的である。
くも膜嚢胞でよくある疑問(Q&A)
Q1. くも膜嚢胞は自然に治りますか?
多くは大きさが変わらないまま経過します。小さくなることもありますが、成人ではまれです(Al-Holou 2013)。症状がなければ、治らなくても治療は不要なことがほとんどです。
Q2. 左の中頭蓋窩にくも膜嚢胞があると言われました。
中頭蓋窩はくも膜嚢胞が最も多い場所で、その多くは左側です(Al-Holou 2013)。症状と関係しにくい場所とされ、無症状なら経過観察が一般的です。
Q3. くも膜嚢胞で命にかかわることはありますか?
ほとんどは無症状で経過しますが、まれに嚢胞内出血・硬膜下血腫・水頭症を合併します。頭を打ったあとの頭痛の悪化、嘔吐、意識がぼんやりするなどの症状があれば、すぐに医療機関を受診してください。
まとめ
- くも膜嚢胞は、髄液様成分を含むくも膜由来の嚢胞性病変である。
- 脳ドックや頭部CT・MRIで偶然発見されることが多い。
- 多くは無症状であり、治療を必要としない。
- 好発部位は中頭蓋窩、特に側頭葉前方・側頭極近傍である。
- CTでは髄液と同等の低吸収、MRIではT1低信号、T2高信号、FLAIRで抑制、DWIで拡散制限なしを示す。
- 類表皮嚢胞との鑑別にはDWIが重要である。
- 大きい嚢胞では周囲圧排、骨内板の菲薄化、水頭症を評価する。
- 症状、増大、水頭症、出血合併がある場合には脳神経外科的治療が検討される。
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