
先に結論:Bühler弓は腹腔動脈とSMAを直接つなぐ、2%前後の変異。腹腔動脈起始部の狭窄があると血流が増えて動脈瘤ができやすく、瘤があれば起始部の狭窄とアーケードの発達も一緒に評価する
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| どんな血管か | 腹腔動脈とSMAを直接つなぐ吻合(Kowalczyk 2023)。膵十二指腸アーケード・胃十二指腸動脈とは別の経路 |
| 頻度 | メタ解析で1.7%(Kowalczyk 2023)、1.9%(Yan 2024) |
| 腹腔動脈起始部狭窄との関係 | 狭窄のある233人で、Bühler弓は破裂瘤の79.2%、未破裂瘤の75.2%、瘤なしの13.5%にあった(Oka 2025) |
| CT血管造影で見ること | 弓の起点と終点、瘤の形と大きさ、腹腔動脈起始部の狭窄、膵十二指腸アーケードの発達、出血の有無 |
Bühler弓とは
Bühler弓(arc of Bühler、AOB)は、腹腔動脈と上腸間膜動脈(SMA)を直接つなぐ吻合血管です(Kowalczyk 2023)。腹腔動脈とSMAのあいだには、ふだんから膵十二指腸アーケード(胃十二指腸動脈→上・下膵十二指腸動脈)や背側膵動脈を通る吻合がありますが、Bühler弓はそれらとは別に、腹腔動脈系とSMAを1本でつなぐ点が違います。
発生のうえでは、胎児期に腹側の分節動脈どうしをつなぐ縦の吻合(第10〜13分節動脈のあいだ)が退縮せずに残ったものと考えられています(Ong 2020)。腹腔動脈そのものではなく、総肝動脈とSMAをつないでいた報告もあります(Ong 2020)。
膵臓のまわりの動脈の正常解剖は「膵臓の血管(動脈)の解剖まとめ|胃十二指腸動脈(GDA)・膵十二指腸アーケード・背側膵動脈・脾動脈」にまとめています。
どのくらいの人にあるか
| 報告 | 対象 | 頻度 |
|---|---|---|
| Kowalczyk 2023(メタ解析) | 11研究・3,685人 | 全体1.7%。CTの研究で1.4%、血管造影の研究で1.9% |
| Yan 2024(メタ解析) | 11論文・3,837人 | 全体1.9%。CT血管造影2.0%、DSA 1.8% |
| Saad 2005 | 生体肝移植ドナー候補の血管造影120人 | 4人(3.3%)。全例2.5mm未満で、2人では一方の造影でもう一方の枝まで造影された |
症状のない人の血管造影を見直した Saad らの報告では、Bühler弓のあった4人は全員が胃十二指腸動脈が開存し、腹腔動脈・SMAに有意な狭窄はありませんでした。それでも半数は、一方への造影でもう一方の枝まで造影される「血行動態的に意味のある」弓でした。著者らは、腹腔動脈やSMAの閉塞があるときに胃十二指腸動脈の結紮や塞栓を考える場面では、弓の有無が問題になると述べています(Saad 2005)。
症例報告をまとめた系統的レビューでは、報告はそれまでに53例と少なく、検出と評価の中心はCTと血管造影で、膵頭十二指腸切除や塞栓術などの手技に影響しうるとされています(Michalinos 2019)。
腹腔動脈起始部の狭窄と動脈瘤
腹腔動脈の起始部が正中弓状靱帯の圧迫や動脈硬化で狭くなると、肝臓・脾臓・胃への血流はSMAから側副路を通って逆向きに補われます。このとき膵十二指腸アーケードやBühler弓に流れる血流が増え、動脈瘤ができることがあります。Bühler弓の瘤も膵十二指腸アーケードの瘤と同じような成り立ちと考えられています(Michalinos 2019)。
腹腔動脈起始部の狭窄・閉塞がある233人を造影CTで調べた日本の研究では、破裂した瘤のある人24人、未破裂の瘤のある人105人、瘤のない人104人を比べました。Bühler弓は破裂瘤の79.2%、未破裂瘤の75.2%にあったのに対し、瘤のない人では13.5%でした。多変量解析で、瘤の存在と最も強く関連したのはBühler弓(調整オッズ比18.40)で、次が膵十二指腸アーケードの発達の程度(同2.19)でした。また、破裂した瘤と破裂していない瘤で大きさに差はありませんでした(Oka 2025)。
| 群(腹腔動脈起始部の狭窄・閉塞あり) | Bühler弓がある割合(Oka 2025) |
|---|---|
| 破裂した動脈瘤あり(24人) | 79.2% |
| 未破裂の動脈瘤あり(105人) | 75.2% |
| 動脈瘤なし(104人) | 13.5% |
正中弓状靱帯による腹腔動脈の圧迫については「正中弓状靱帯圧迫症候群(MALS)とは?症状・膵頭部アーケード動脈瘤とCT画像所見」で詳しく書いています。
症例 40歳代男性 腹腔動脈起始部の高度狭窄に伴うBühler弓の動脈瘤

引用:Quaretti P, et al. Covered stent assisted coil embolization of large Buhler aneurysm in setting of chronic celiac trunk occlusion. CVIR Endovasc 2024;7(1):9 (Fig. 1). CC BY 4.0。PMC10781915
造影CTの矢状断(A)で、SMAから出る2.8cmの嚢状動脈瘤(矢頭)があり、壁在血栓はありません。腹腔動脈の起始部は正中弓状靱帯によって閉塞寸前まで狭くなっています(矢印)。B・CはSMAの選択的血管造影、Dは3D再構成像です。バイク事故後のリハビリ中に見つかった症例です(Quaretti 2024)。
CT血管造影の読み方
Bühler弓は細いことも多く、横断像だけでは膵十二指腸アーケードと区別しにくいことがあります。薄いスライスの動脈相から、MIP・3D(VR)・矢状断・冠状断を作って、血管がどこから出てどこに入るかをたどります。
| 見る点 | ポイント |
|---|---|
| 弓の起点と終点 | 腹腔動脈(または総肝動脈・脾動脈など)とSMAを、胃十二指腸動脈・膵十二指腸動脈を介さずに直接つないでいるか |
| 腹腔動脈の起始部 | 矢状断で狭窄・閉塞がないか。正中弓状靱帯による圧迫か、動脈硬化か |
| 側副路の発達 | 膵十二指腸アーケード・背側膵動脈の拡張。どの経路で肝・脾へ血流が回っているか |
| 動脈瘤 | 場所(弓のどこか)、嚢状か紡錘状か、大きさ、頸部の幅、SMAとの位置関係 |
| 出血 | 後腹膜・十二指腸周囲の血腫、造影剤の血管外漏出 |
アーケードの瘤と見誤りやすい
74歳男性が腹痛と低血圧で受診し、CTで十二指腸周囲の後腹膜に大きな血腫がみられた報告では、MIP像で十二指腸のC字ループの腸間膜側を走る血管から活動性出血がありました。この血管は当初、膵十二指腸アーケードと考えられましたが、血管造影でBühler弓と分かりました。この人では、CTでも血管造影でも腹腔動脈起始部の狭窄や正中弓状靱帯の圧迫ははっきりせず、Bühler弓の中を肝臓から離れる向きの血流がありました。治療はBühler弓をコイルで塞いで行われています(Ong 2020)。
腹腔動脈起始部の狭窄がない人にもBühler弓の瘤はできうること、そしてアーケードとの区別には起点・終点をたどることが大切だと分かる症例です。
症例 70歳代男性 Bühler弓の動脈瘤の破裂(CTのMIP像)

引用:Ong DY, Pua U. Coil Embolization of Arc of Buhler Aneurysm Rupture. Case Rep Radiol 2020;2020:8855946 (Figure 2). CC BY 4.0。PMC7748894
MIP像で、十二指腸のC字ループの腸間膜側を走る血管のアーケードから活動性出血(矢印)がみられます。当初は膵十二指腸アーケードと考えられましたが、血管造影でBühler弓と分かりました。出血部には紡錘状の拡張があります(Ong 2020)。
破裂したときの画像と治療
破裂すると、膵頭部の背側から右腎周囲の後腹膜に広がる血腫として見えることがあります。正中弓状靱帯による腹腔動脈起始部の高度狭窄があり、Bühler弓に7mmの嚢状動脈瘤があった報告では、造影CTで膵頭部の背側から右腎周囲の後腹膜に広がる血腫と肝表面の腹水がみられました。この人は手術をせずに症状と貧血が改善しています(Abe 2019)。
治療は血管内治療(コイル塞栓など)が中心で、弓が膵臓の裏の深い所を走るため、開腹手術は難しいとされています(Quaretti 2024)。腹腔動脈起始部がほぼ閉塞した人の2.8cmの瘤では、頸部が広くSMAとの間にあるため通常のコイル塞栓が難しく、SMAにステントグラフトを置いて瘤への直接の流入を断ってからコイルで詰め、9年後も良好だった報告があります(Quaretti 2024)。治療方法を決めるのは主治医とIVRの担当医です。
膵十二指腸アーケード動脈瘤の画像と治療は「膵十二指腸アーケード動脈瘤・PD後の仮性動脈瘤とは?原因と造影CT画像、塞栓術(IVR)」、腹部の内臓動脈瘤全体は「腹部内臓動脈瘤とは?分類・頻度と治療適応」にまとめています。
手術・IVRの前に伝えておきたいこと
Bühler弓は瘤がなくても、膵頭十二指腸切除や塞栓術の計画に関わります(Michalinos 2019)。腹腔動脈の起始部が狭い人で胃十二指腸動脈を切ったり塞いだりするとき、Bühler弓があるかどうかで肝臓への血流の残り方が変わります(Saad 2005)。CTのレポートでは、変異の有無と、腹腔動脈起始部の狭窄の有無を併記しておくと役立ちます。
よくある疑問(Q&A)
Q. Bühler弓と膵十二指腸アーケードはどう見分けますか?
A. アーケードは胃十二指腸動脈から上・下膵十二指腸動脈を経てSMAにつながる、膵頭部に沿った経路です。Bühler弓はこれらを介さずに腹腔動脈系とSMAを直接つなぎます。CTで当初アーケードと考えた血管が、血管造影でBühler弓と分かった報告もあります(Ong 2020)。
Q. Bühler弓があれば瘤ができますか?
A. 多くは症状のない変異です。ただ、腹腔動脈起始部の狭窄がある人では、Bühler弓があることが瘤の存在と強く関連していました(調整オッズ比18.40、Oka 2025)。
Q. 小さい瘤なら破裂しにくいですか?
A. 腹腔動脈起始部狭窄に伴う瘤の研究では、破裂した瘤と破裂していない瘤で大きさに差がありませんでした。著者らは、大きさにかかわらず治療を勧める現在の指針を支持する結果としています(Oka 2025)。7mmの瘤の破裂例もあります(Abe 2019)。
Q. 腹腔動脈の狭窄がなくても瘤はできますか?
A. できます。腹腔動脈起始部の狭窄が確認できなかったBühler弓の瘤の破裂例が報告されています(Ong 2020)。
突然の強い上腹部痛や背部痛、ふらつきがあるときは、すぐに救急医療機関を受診してください。
参考文献
- Kowalczyk KA, Pękala J, Kawzowicz M, et al. The meta-analysis and systematic review of prevalence and clinical anatomy of the arc of Buhler. Sci Rep. 2023;13(1):9183. PubMed
- Yan G, Li Y, He S, et al. Prevalence and clinical implications of the rare arc of Bühler using computed tomography angiography and digital subtraction angiography: a systematic review and meta-analysis. Front Med (Lausanne). 2024;11:1522292. PubMed
- Saad WE, Davies MG, Sahler L, et al. Arc of buhler: incidence and diameter in asymptomatic individuals. Vasc Endovascular Surg. 2005;39(4):347-9. PubMed
- Michalinos A, Schizas D, Ntourakis D, et al. Arc of Bühler: the surgical significance of a rare anatomical variation. Surg Radiol Anat. 2019;41(5):575-581. PubMed
- Oka S, Kohno S, Matsuoka Y, et al. Relationship between peripancreatic collateral circulation development and aneurysm presence in celiac trunk stenosis. J Vasc Surg. 2025;82(2):472-480. PubMed
- Quaretti P, Corti R, D’Agostino AM, et al. Covered stent assisted coil embolization of large Buhler aneurysm in setting of chronic celiac trunk occlusion. CVIR Endovasc. 2024;7(1):9. PubMed
- Ong DY, Pua U. Coil Embolization of Arc of Buhler Aneurysm Rupture. Case Rep Radiol. 2020;2020:8855946. PubMed
- Abe K, Iijima M, Tominaga K, et al. Retroperitoneal Hematoma: Rupture of Aneurysm in the Arc of Bühler Caused by Median Arcuate Ligament Syndrome. Clin Med Insights Case Rep. 2019;12:1179547619828716. PubMed
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