先に結論:正中弓状靱帯圧迫症候群(MALS)とは
- 正中弓状靱帯は、横隔膜の脚が大動脈の前でつながる帯で、これが低い位置にあると腹腔動脈(胃・肝臓・脾臓へ行く動脈)の根元を上から押しつぶすことがあります。これを正中弓状靱帯圧迫症候群(MALS:median arcuate ligament syndrome)、腹腔動脈圧迫症候群と呼びます
- 圧迫があっても多くは無症状ですが、食後のみぞおちの痛み・体重減少・吐き気などを起こすことがあります。また上腸間膜動脈からの迂回路(膵頭部の膵十二指腸アーケード)が太くなり、そこに動脈瘤ができて破裂することがあるのが重要な点です
- CTでは、矢状断で腹腔動脈の起始部が上から押されて「フック状・釣り針状」に細くなり、その先が広がる所見が特徴です。息を吐いたときに圧迫が強くなるため、吸気での撮影も参考にします。治療は靱帯を切る手術などです
- 診断基準は世界共通のものがまだなく、症状・画像での圧迫・ほかの病気の除外を組み合わせて診断します。食後の腹痛や体重減少が続くときは医療機関に相談してください
正中弓状靭帯圧迫症候群(MALS : median arcuate ligament syndrome)
- 正中弓状靭帯は、大動脈裂孔の前方辺縁を構成する靭帯であり、この靭帯が腹腔動脈起始部を圧迫して狭窄を起こすことがある。
- 他に腹腔動脈の狭窄の原因としては、動脈硬化症、大動脈解離が挙げられる。
- 無症状者400例の血管造影では有意な腹腔動脈狭窄が7.3%にみられ、その55%が正中弓状靭帯による圧迫であったと報告されている。ただし、圧迫による狭窄が存在しても上腸間膜動脈からの血流により症状が生じないことが少なくない。
- 最大呼気時に靭帯による圧迫が強くなりやすい。
- 肝移植、膵頭十二指腸切除術前には本疾患を認識しておく必要がある。
- 腹腔動脈起始部狭窄
→肝臓や脾臓への血流が膵頭部のアーケードを介した上腸間膜動脈(SMA)から供給される
→膵頭部のアーケードの拡張および圧の上昇
→同部の動脈瘤の原因となる。
正中弓状靭帯圧迫症候群の画像所見
- 矢状断像にて腹腔動脈の起始部が頭側から圧迫されている(hooked appearance)ことを確認する。可能ならば吸気相で撮影する。この腹腔動脈近位部の限局性で鉤状の狭窄は、動脈硬化など他の原因による腹腔動脈狭窄との鑑別に役立つ。
- 造影により狭窄の先に拡張所見(post-stenotic dilatation)を認める。
- 側副路としての膵頭部アーケードに拡張所見を認める。MALSに伴う膵十二指腸動脈・胃十二指腸動脈の真性動脈瘤72例の系統的レビューでは、破裂例の瘤径は非破裂例より小さく(平均12.3mm対30.8mm)、小さな瘤でも破裂しうるため、大きさにかかわらず速やかな治療が支持されています。アーケードの拡張を見たら、小さな瘤の有無まで確認することが大切です。
正中弓状靱帯圧迫症候群の診断基準
- 統一された診断基準はなく、みぞおちの痛み・食後の腹痛・嘔吐・体重減少などの症状があり、ほかの病気を除外したうえで診断する「除外診断」とされています。圧迫はドプラ超音波・CTアンギオグラフィ・MRアンギオグラフィ・血管造影で確かめます(Kim EN, et al. 2016)。
- 研究では、血管造影で50%を超える狭窄と10mmHg以上の圧較差を有意な狭窄とした例があります(Park CM, et al. 2001)。
症例 60歳代男性

造影CT矢状断像において、腹腔動脈起始部が上から圧迫され狭窄され、その後に拡張を認めています。

血管造影にて上腸間膜動脈(SMA)造影で、膵頭部アーケードの拡張および肝動脈の描出を認めており、少なくとも肝動脈は上腸間膜動脈(SMA)からも血流が供給されていることがわかります。
正中弓状靭帯圧迫症候群を疑う所見です。
膵十二指腸動脈瘤が破裂したときのCT像
- 腹腔動脈が狭いと、胃・肝臓・脾臓への血流が上腸間膜動脈から膵頭部のアーケードを通って送られ、アーケードの血管に負担がかかります。膵十二指腸動脈瘤は内臓動脈瘤の約2%と少ないものの、破裂すると重い経過をたどりやすいとされます(Zhang 2019)。
- 腹腔動脈の狭窄を伴う膵十二指腸動脈瘤の破裂7例の検討では、全例が突然のみぞおちの痛みや腹部の不快感で受診し、造影CTで小さな動脈瘤と膵頭部周囲の後腹膜血腫が全例に見つかりました。動脈瘤の大きさは0.3〜0.9cmでした(Suzuki 2008)。
- MALSに伴う内臓動脈瘤72例のレビューでは、症状は腹痛が75.6%、低血圧が33.9%、ショックが20.0%でした。治療は血管内治療が56.9%、開腹手術が19.4%、その両方を組み合わせたものが23.6%でした(Karanasios 2024)。
| CTで見る順番 | 見る所見 | 意味 |
|---|---|---|
| 1. 腹腔動脈の起始部 | 矢状断で上から押されたフック状の狭窄と、その先の拡張 | MALSの圧迫 |
| 2. 膵頭部のアーケード | 膵十二指腸動脈の拡張・蛇行 | 上腸間膜動脈からの迂回路が発達している |
| 3. アーケードの動脈瘤 | 数mmの小さな瘤のこともある。造影の動脈相でよく見る | 破裂の原因となりうる |
| 4. 膵頭部周囲 | 後腹膜の高吸収の液体(血腫) | 瘤の破裂を疑う |
間違えやすいポイント:腹腔動脈の狭窄だけで終わらず、膵頭部のアーケードまで追いかけることが大切です。破裂した瘤は0.3〜0.9cmと小さいことがあり(Suzuki 2008)、破裂例の平均の瘤径は非破裂例より小さいと報告されています(Karanasios 2024)。「小さいから大丈夫」とは言えません。
破裂したときの治療の流れ:破裂例では、まず血管造影で動脈瘤を塞栓して出血を止め、のちに正中弓状靱帯を切離して腹腔動脈の圧迫を解除する、という二段階の治療が報告されています(Ducasse 2004)。塞栓後に腹腔動脈にステントを入れた報告もありますが、腹腔動脈の再建が必要かどうかは議論が続いています(Zhang 2019)。
正中弓状靱帯圧迫症候群でよくある疑問(Q&A)
Q. 放置するとどうなりますか?
A. 症状のない圧迫は珍しくなく、症状がなければ多くは経過をみます。ただし膵十二指腸動脈などに動脈瘤がある場合は、72例のレビューで発症時にショックを伴った例が20.0%あり、小さな瘤でも破裂するため、大きさにかかわらず速やかな治療が支持されています(Karanasios E, et al. 2024)。
Q. 手術で症状はよくなりますか?
A. 成人880例を含む38研究の系統的レビューでは、多くの研究で治療後に70%を超える症状改善が報告されましたが、研究の質のばらつきが大きいとされています(Metz FM, et al. 2022)。
Q. 突然のみぞおちの痛みが出たら、どうすればよいですか?
A. MALSに伴う動脈瘤が破裂した例では、全例が突然のみぞおちの痛みなどで受診していました(Suzuki 2008)。腹腔動脈の圧迫を指摘されている方で、突然の強い腹痛や冷や汗、ふらつきがあるときは、すぐに救急外来を受診してください。
Q. 検診のCTで「腹腔動脈が狭い」と言われました。動脈瘤は調べたほうがよいですか?
A. 圧迫があっても症状がない人は珍しくありません。ただし、膵頭部のアーケードが太くなっているときは、小さな動脈瘤がないかを確認することが大切だとされています。気になる場合は、主治医にCTの見直しを相談してください。
あわせて読みたい:膵臓の血管解剖
参考文献
- Horton KM, Talamini MA, Fishman EK. Median arcuate ligament syndrome: evaluation with CT angiography. Radiographics. 2005;25(5):1177-82. PubMed
- Park CM, Chung JW, Kim HB, et al. Celiac axis stenosis: incidence and etiologies in asymptomatic individuals. Korean J Radiol. 2001;2(1):8-13. PubMed
- Kim EN, Lamb K, Relles D, et al. Median arcuate ligament syndrome-review of this rare disease. JAMA Surg. 2016;151(5):471-477. PubMed
- Karanasios E, Ragab Z, Cavenagh H, et al. Characteristics and trends in median arcuate ligament syndrome (MALS) associated visceral artery aneurysms: a systematic descriptive review of the literature. Vasc Endovascular Surg. 2024;58(5):512-522. PubMed
- Metz FM, Blauw JTM, Brusse-Keizer M, et al. Systematic review of the efficacy of treatment for median arcuate ligament syndrome. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2022;64(6):720-732. PubMed
- Suzuki K, Tachi Y, Ito S, et al. Endovascular management of ruptured pancreaticoduodenal artery aneurysms associated with celiac axis stenosis. Cardiovasc Intervent Radiol. 2008;31(6):1082-7. PubMed
- Ducasse E, Roy F, Chevalier J, et al. Aneurysm of the pancreaticoduodenal arteries with a celiac trunk lesion: current management. J Vasc Surg. 2004;39(4):906-11. PubMed
- Zhang X, Zhang W, Zhou W, et al. Endovascular Treatment of Ruptured Pancreaticoduodenal Artery Aneurysm with Celiac Axis Stenosis. Ann Vasc Surg. 2019;57:273.e1-273.e5. PubMed
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