
先に結論:軟部明細胞肉腫は、若い成人の四肢(とくに下肢の遠位)の腱・腱膜に接してできる肉腫。メラニン産生の性質があり、MRIではT1でやや高信号になることがある。良性に見えても転移しやすい
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| どこにできるか | 若い成人の下肢遠位に多く、腱や腱膜に付着することが多い(Dim 2007) |
| MRI | T1で筋肉よりやや高信号が21人中11人(52%)。境界明瞭・均一・強い造影で良性に見えやすい(De Beuckeleer 2000) |
| 悪性黒色腫との関係 | 形や免疫染色(S-100、HMB-45)は似るが、EWSR1–ATF1融合遺伝子があり悪性黒色腫にはない(Hisaoka 2008、Cazzato 2025) |
| 転移 | 所属リンパ節と肺が中心(Dim 2007)。日本の75人で52人に転移(Kawai 2007) |
| 予後 | 5年生存率47%。腫瘍の大きさが独立した予後因子(Kawai 2007) |
軟部明細胞肉腫とは
軟部明細胞肉腫(clear cell sarcoma of soft tissue)は、まれな悪性の軟部腫瘍です。以前は「腱・腱膜の明細胞肉腫(clear cell sarcoma of tendons and aponeuroses)」や「軟部悪性黒色腫(malignant melanoma of soft parts)」とも呼ばれました。神経堤由来と考えられ、若い成人の下肢の遠位に多く、腱や腱膜にくっつくようにできるのが特徴です(Dim 2007)。
日本の骨軟部腫瘍の研究グループ(JMOG)の多施設研究(75人、1980〜2004年)では、男性41人・女性34人、年齢の中央値は36歳で、65人が四肢、10人が体幹にあり、腫瘍の大きさの中央値は4cmでした(Kawai 2007)。病理の33人の研究では、年齢は13〜73歳(中央値30歳)で、25人が四肢の深部の軟部、8人が体幹や肢帯に、大きさの中央値は4cmでした(Hisaoka 2008)。「小さい」ことが油断につながりやすい腫瘍です。
悪性黒色腫との関係
明細胞肉腫は、細胞がメラニンをつくる性質(メラノサイト系の分化)をもち、顕微鏡の形や免疫染色が悪性黒色腫によく似ています。33人の研究では、S-100蛋白が33人全員で陽性、HMB-45が32人で陽性(多くは一部)、Melan Aが32人中23人で陽性でした(Hisaoka 2008)。
違いは遺伝子です。明細胞肉腫の多くは12番と22番染色体の転座 t(12;22)(q13;q12) をもち、EWSR1–ATF1融合遺伝子ができます(Dim 2007)。33人の研究では、31人がEWSR1–ATF1、2人がEWSR1–CREB1でした(Hisaoka 2008)。この融合遺伝子は悪性黒色腫にはないため、分子診断が区別の決め手になります。免疫染色のPRAMEも区別に役立つと報告されています(Cazzato 2025)。
| 比べる点 | 軟部明細胞肉腫 | 悪性黒色腫 |
|---|---|---|
| できる場所 | 腱・腱膜など深部の結合組織 | 皮膚・粘膜・眼など(転移で軟部にも) |
| 免疫染色 | S-100・HMB-45などメラノサイト系マーカーが陽性(Hisaoka 2008) | 同様に陽性になる |
| 遺伝子 | EWSR1–ATF1(まれにEWSR1–CREB1)(Hisaoka 2008) | この融合遺伝子はない(Cazzato 2025) |
| MRIのT1 | やや高信号のことがある(De Beuckeleer 2000) | メラニンの多い病変は高信号になりうる |
画像では両者を区別できないことが多く、軟部の腫瘤がメラノサイト系だとわかったときは、皮膚などの原発の悪性黒色腫からの転移ではないかも確かめます。リンパ節への転移の探し方は、悪性黒色腫でも使われるセンチネルリンパ節の記事で説明しています。眼の悪性黒色腫の画像はぶどう膜悪性黒色腫の記事にまとめています。
MRIの特徴
腱・腱膜に接する境界明瞭な腫瘤
MRIでは、腱や腱膜の近くにある分葉状の腫瘤として見えます。21人の多施設のMRI・病理の研究では、明細胞肉腫は良性に見えやすいことが強調されています。境界明瞭で均一、強く造影される腫瘤として現れることが多いためです(De Beuckeleer 2000)。
イタリアの単一施設の14人(平均39.4歳)の検討では、最大径の平均は50.5mmで、10人(71.4%)が深部にありました。MRIが撮られた全員で、T1強調像でやや高信号、T2強調像で高信号でした(Di Masi 2025)。
T1でやや高信号になる理由:メラニン
多くの軟部肉腫はT1強調像で筋肉と同じくらいか低い信号です。明細胞肉腫では、21人中11人(52%)がT1強調像で筋肉よりやや高信号で、ほかは等信号3人、低信号7人でした。やや高信号の11人のうち病理と照らし合わせられた9人は、全員がHMB-45陽性でした(De Beuckeleer 2000)。メラニンにはT1を短くする性質があるため、T1でのやや高信号はメラノサイト系の腫瘍らしさを示す手がかりになります。著者らは、境界明瞭で均一、強く造影され、T1で筋肉よりやや高信号の腫瘤を見たら、明細胞肉腫を鑑別に入れるよう勧めています(De Beuckeleer 2000)。
ただし、全員がT1高信号になるわけではありません。総説ではT1低信号・T2高信号・造影増強と記載されており(Dim 2007)、T1が高くないことは明細胞肉腫を否定する根拠になりません。T1で高信号になる物質(脂肪・出血・高蛋白・メラニンなど)の整理は漿液・高蛋白・脂肪・出血などのCT・MRIの記事が参考になります。
症例 大腿の深部の小さな明細胞肉腫(引用元の図)

引用:Di Masi P, et al. Clear Cell Sarcoma of Soft Tissues: Radiological Analysis of 14 Patients—MRI Findings Related to Metastatic Disease. Diagnostics (Basel) 2025;15(8):1027 (Figure 2). CC BY 4.0。PMC12025808
脂肪抑制T2強調像の横断像(A)で、左大腿の深部、外側広筋の腱の近くに小さな腫瘤があります(矢印)。辺縁はなめらかで、周りの浮腫はわずかです。T1強調像の冠状断(B)では、正常な筋肉より少し高い信号を示しています。どちらの撮像でも低信号の偽被膜が見えます(Di Masi 2025)。
大きさと壊死は転移と関連
同じ14人では、診断時に5人(35.7%)に転移があり、5年以内にさらに3人、5年を過ぎてから2人に転移が出て、合計10人(71.4%)が転移しました。最大径4cmを超えることは5年以内とその後の遠隔転移と関連し、MRIで肉眼的な壊死が見えることも5年以内の転移と関連していました(Di Masi 2025)。総説でも、5cm以上の大きさ、転移、壊死が予後不良の指標とされています(Dim 2007)。
| MRIで見ること | 意味 |
|---|---|
| 腱・腱膜・筋膜との位置関係 | 腱・腱膜に接することが多い(Dim 2007) |
| T1で筋肉よりやや高信号 | メラノサイト系の分化を示唆(De Beuckeleer 2000) |
| 境界明瞭・均一・強い造影 | 良性に見えやすい落とし穴(De Beuckeleer 2000) |
| 最大径4cm超・肉眼的壊死 | 転移と関連(Di Masi 2025) |
| 近くの骨のびらん | 局所の浸潤を示すことがある(Di Masi 2025) |
症例 腓骨筋腱から発生した明細胞肉腫と距骨の骨転移(引用元の図)

引用:Di Masi P, et al. Clear Cell Sarcoma of Soft Tissues: Radiological Analysis of 14 Patients—MRI Findings Related to Metastatic Disease. Diagnostics (Basel) 2025;15(8):1027 (Figure 9). CC BY 4.0。PMC12025808
T1強調像(A)とSTIR(B)の冠状断で、腓骨筋腱から発生した明細胞肉腫(矢印)と、距骨の骨転移(*)が見えます。原発の腫瘍の周りには、低信号の偽被膜が部分的に見られます。神経障害性の糖尿病足を背景にした症例です(Di Masi 2025)。
鑑別:腱のそばの腫瘤
| 鑑別 | 手がかり |
|---|---|
| 腱鞘巨細胞腫 | 手に多く、ヘモジデリンでT1・T2が中間〜低信号になることがある。腱に接する点が明細胞肉腫と紛らわしい(Di Masi 2025) |
| 悪性黒色腫の軟部・リンパ節転移 | 皮膚などの原発巣の有無を確かめる。病理では融合遺伝子で区別する(Cazzato 2025) |
| 滑膜肉腫 | 若い人の関節・腱の近くの深部の肉腫。境界明瞭で良性に見えることがある点も共通(滑膜肉腫の記事) |
| 神経鞘腫などの良性腫瘍 | 境界明瞭・均一な腫瘤は良性と判断されやすい。T1でのやや高信号に気づくことが手がかり(De Beuckeleer 2000) |
転移と予後
明細胞肉腫の転移は、所属リンパ節と肺が中心です。リンパ節転移が多いのは軟部肉腫としては特徴的で、センチネルリンパ節生検が潜在的な所属リンパ節転移を見つけるのに役立つ可能性があるとされています(Dim 2007)。日本の75人では、16人に局所再発、52人に転移があり、全生存率は5年で47%、10年で36%でした。多変量解析では腫瘍の大きさが独立した予後因子で、著者らは早く診断して最初に広く切除することが大切だとしています(Kawai 2007)。病理の33人の研究でも、臨床情報のある26人のうち15人に転移があり、5年生存率は63%でした(Hisaoka 2008)。
画像の役割は、腫瘍の範囲と腱・神経血管との関係を示すこと、所属リンパ節と肺の転移を確認すること、そして「良性に見えても生検は肉腫を扱える施設で」と伝えることです。治療の方針は肉腫を専門とするチームが決めます。手足の腱のそばにしこりがあり大きくなってくる、痛みを伴う、足の付け根やひざの裏のリンパ節が腫れてきたといったときは、整形外科などの医療機関を受診してください。
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よくある疑問(Q&A)
Q. T1で高信号でなければ明細胞肉腫ではないのですか?
A. そうとは言えません。T1でやや高信号だったのは21人中11人(52%)で、低信号の人も7人いました(De Beuckeleer 2000)。
Q. 境界がはっきりしていて小さければ良性と考えてよいですか?
A. 明細胞肉腫は境界明瞭・均一で良性に見えやすい腫瘍です(De Beuckeleer 2000)。大きさの中央値は4cmと小さめでも、日本の75人の5年生存率は47%でした(Kawai 2007)。
Q. 悪性黒色腫と同じ病気ですか?
A. 別の病気です。メラニンをつくる性質や免疫染色は似ますが、明細胞肉腫にはEWSR1–ATF1などの融合遺伝子があり、悪性黒色腫にはありません(Hisaoka 2008、Cazzato 2025)。
Q. 転移はどこを調べますか?
A. 所属リンパ節と肺が中心です(Dim 2007)。どの検査で調べるかは主治医の方針に従います。
参考文献
- De Beuckeleer LH, De Schepper AM, Vandevenne JE, et al. MR imaging of clear cell sarcoma (malignant melanoma of the soft parts): a multicenter correlative MRI-pathology study of 21 cases and literature review. Skeletal Radiol. 2000;29(4):187-95. PubMed
- Di Masi P, Colangeli M, Simonetti M, et al. Clear Cell Sarcoma of Soft Tissues: Radiological Analysis of 14 Patients-MRI Findings Related to Metastatic Disease. Diagnostics (Basel). 2025;15(8):1027. PubMed
- Dim DC, Cooley LD, Miranda RN. Clear cell sarcoma of tendons and aponeuroses: a review. Arch Pathol Lab Med. 2007;131(1):152-6. PubMed
- Hisaoka M, Ishida T, Kuo TT, et al. Clear cell sarcoma of soft tissue: a clinicopathologic, immunohistochemical, and molecular analysis of 33 cases. Am J Surg Pathol. 2008;32(3):452-60. PubMed
- Kawai A, Hosono A, Nakayama R, et al. Clear cell sarcoma of tendons and aponeuroses: a study of 75 patients. Cancer. 2007;109(1):109-16. PubMed
- Cazzato G, Piscazzi F, Filosa A, et al. Clear Cell Sarcoma (CCS) of the Soft Tissue: An Update Narrative Review with Emphasis on the Utility of PRAME in Differential Diagnosis. J Clin Med. 2025;14(4):1233. PubMed
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