
先に結論:ラスムッセン脳炎は「片側だけ・進行する・薬が効きにくい」の3点がそろったときに疑う
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| どんな病気か | 片側の大脳に慢性の炎症が起こり、薬剤抵抗性のてんかん・片麻痺・認知機能低下が進む(Varadkar 2014) |
| 誰に多いか | 多くは小児。約10%は青年・成人で発症する(Fornari Caprara 2024) |
| MRIの典型像 | 片側の大脳皮質の萎縮が時間とともに進行。白質・皮質のT2/FLAIR高信号、同側の尾状核頭部の萎縮を伴う |
| 間違えやすい点 | 初期はMRIが正常に近いことがあり、ADEMなどの炎症性疾患に見えることもある。経過を追った比較が大切 |
| 診断 | 臨床・脳波・MRI・(必要なら)病理を組み合わせた2005年の欧州コンセンサス基準を使う(Olson 2013) |
ラスムッセン脳炎とは
ラスムッセン脳炎(Rasmussen encephalitis、RE)は、片側の大脳皮質に起こる慢性の炎症です。薬剤抵抗性の部分てんかん、進行する神経脱落症状(片麻痺・言語障害など)、認知機能の低下が特徴で、病理ではT細胞が中心の炎症、活性化したミクログリア、反応性のアストロサイト増生がみられます(Varadkar 2014、Fornari Caprara 2024)。もともと発達に問題のない子どもに起こることが多く、てんかんセンターでも年間の新規診断数はわずかとされるまれな疾患です(Fornari Caprara 2024)。
発症の中心は小児ですが、約10%は青年期・成人期の発症です(Fornari Caprara 2024)。成人発症(late-onset RE)では、小児より神経機能の悪化がゆるやかで、免疫療法への反応が比較的よいと報告されています(Marín-Gracia 2025)。
特徴的な症状
代表的なのは持続性部分てんかん(epilepsia partialis continua、EPC)です。顔や手など体の一部が、意識がはっきりしたまま何時間も何日も律動的にぴくつき続ける発作で、抗てんかん薬が効きにくいのが特徴です(Fornari Caprara 2024)。経過とともに片麻痺や手指の巧緻運動の障害、言語や認知の問題が加わります。
病期は一般に、前駆期(まれな発作や軽い片麻痺)、急性期(頻回の発作と進行する神経症状)、後遺症期(固定した麻痺と発作の減少)と進みます。画像診断では「いまどの時期の画像か」を意識すると、萎縮の程度の見え方を解釈しやすくなります。
MRIの読み方:4つの見どころ
MRIはラスムッセン脳炎の画像診断の中心で、核医学検査は補助的な位置づけです(Vivek 2022)。典型像は片側の大脳半球の萎縮、尾状核の萎縮、脳室と脳溝の拡大です(Vivek 2022)。
| 見どころ | 内容 | 文献の数字 |
|---|---|---|
| (1) 片側の皮質萎縮 | 島周囲(perisylvian)や前頭島部から始まりやすい。時間とともに進む | 16例すべてで片側の局所皮質萎縮、13例は島周囲優位(Pradeep 2014) |
| (2) 皮質・白質の信号異常 | T2強調像・FLAIRで高信号。経過で広がる、または消える | 白質の信号変化14例(Pradeep 2014) |
| (3) 尾状核頭部の萎縮 | 同側の尾状核頭部が痩せる。被殻にも及ぶことがある | 尾状核萎縮6例・被殻萎縮4例(Pradeep 2014)。13例中9例で進行(Chiapparini 2003) |
| (4) 時間経過での進行 | 連続したMRIで萎縮が進む | 連続撮像した11例全例で萎縮が進行(Pradeep 2014) |
(1)の片側萎縮は、まず冠状断で左右の側脳室と脳溝の幅を比べると気づきやすくなります。尾状核頭部は側脳室前角の外側壁をつくる構造なので、前角の外側のふくらみが片側だけ平らになっていないかを見ます。
発症早期の画像:何が先に出るか
13人の小児を調べた報告では、初回発作から1日〜4か月の最も早い時期のMRIやCTで、片側の皮質のT2高信号(7例)、白質のT2高信号(9例)、前頭島部を中心とする皮質萎縮と同側側脳室の拡大(8例)、尾状核頭部の軽度の萎縮(7例)がみられました(Chiapparini 2003)。皮質の腫れ(浮腫)が見えたのは2例だけで、早期でも「腫れ」より「萎縮」が先に目立つことが多いという点は、脳炎のイメージと少し違うところです。
一方で、小児の症例報告では、初回MRIの萎縮はごくわずかで、2か月後の再検で新しい高信号と軽い体積減少がはっきりした例もあります(Peeke 2024)。1回の正常に近いMRIでREを否定しないことが重要です。
症例 11歳男児 ラスムッセン脳炎(MRIの経過)

引用:Klaa H, Ben Younes T, Benrhouma H, et al. Case Rep Neurol Med. 2020;2020:6810237 (Figure 2). PubMed(CC BY 4.0、加工なし)
論文の図です。a は初診時のT2強調像・FLAIRで、左の前頭島部の皮質・皮質下、同側のレンズ核と尾状核に高信号があります。b は7か月後で、高信号が残る一方、左の前頭島部皮質と同側線条体が萎縮し、同側の脳室系が拡大しています。c は初診から3年9か月後で、左大脳半球の萎縮がさらに進んでいます。この患者は、初診時には急性散在性脳脊髄炎(ADEM)が疑われていました。
病変と反対側にも目を向ける
画像では「反対側は正常のはず」と決めつけないことも大切です。13例の検討では、反対側の小脳半球の萎縮が4例、同側の海馬と脳幹の萎縮が各5例にみられました(Chiapparini 2003)。病変と反対側の小脳萎縮は、大脳の障害に伴う交叉性小脳萎縮として理解されます。萎縮の評価は、側脳室や脳溝の左右差、尾状核の左右差に加え、小脳・脳幹・海馬も含めて見ると見落としが減ります。
FDG-PETやSPECTの位置づけ
FDG-PETでは病変側の糖代謝低下、SPECTでは血流低下がみられますが、13例の検討ではこれらは主に病期が進んでから撮られ、特異的な所見は得られませんでした(Chiapparini 2003)。PET-MRIで評価した5例の報告では、典型的な画像パターンを示したのは1例のみで、残る4例は非典型でした(Vivek 2022)。PETは補助情報として使い、診断の主役はMRIの経時変化と考えるのが実際的です。PETの基本は脳のFDG-PET画像診断にまとめています。
診断基準:2005年の欧州コンセンサス
診断は、2005年の欧州コンセンサスで示された基準を使うのが標準で、臨床(発作や神経脱落症状)、脳波、MRI、必要に応じて脳生検の所見を組み合わせます。基準は、すべて満たす場合と、一部の組み合わせを満たす場合の2通りの道筋で構成されています(Olson 2013)。
この基準を82人の疑い例に当てはめた研究では、病理を基準にした感度は81%でした。基準を満たさないのに生検で陽性だった偽陰性が4例、基準を満たしても別の診断がついた偽陽性が5例あり、非典型例に注意が必要です(Olson 2013)。その研究では、EPCや画像の進行がなくても、生検が陽性で一部の項目を満たせば診断する修正案も提案されています(Olson 2013)。
見間違えやすい病気
片側の皮質の信号異常と萎縮を見たときは、次のような病気を思い浮かべます。
| 鑑別疾患 | REとの違い・見分けのヒント |
|---|---|
| ADEMなどの脱髄性疾患 | 多巣性・両側性になりやすく、単相性が多い。REは一側に限局し、萎縮が進む。ADEMの解説も参照 |
| 自己免疫性脳炎(抗NMDA受容体脳炎、辺縁系脳炎など) | 多くは両側性・辺縁系中心で、抗体検査が手がかりになる。抗NMDA受容体脳炎、辺縁系脳炎を参照 |
| 焦点性皮質形成異常などの先天性病変 | 萎縮が進行せず、画像が固定していることが多い。皮質の厚さや灰白質白質境界の不明瞭化を確認する |
| 痙攣重積後の変化 | 発作に伴う一過性の信号上昇・腫れ。経過で消える。痙攣後脳症の解説も参照 |
| 梗塞・外傷・感染後の萎縮 | 血管支配領域や外傷歴・感染歴と一致する。REは血管領域に一致しない |
いずれの場合も、「経過とともに萎縮が進むか」を連続したMRIで確認することが、鑑別の大きな手がかりになります。
治療の考え方(概略)
レビューでは、発作に対する根治的な治療は大脳半球切除術(hemispherotomy)のみとされ、免疫調整療法は進行を遅らせるものの、最終的な経過は変えないと整理されています(Varadkar 2014、Fornari Caprara 2024)。手術の時期は、機能障害と言語・認知の予後を天秤にかけて決める難しい判断で、画像は進行の評価に使われます。具体的な治療は専門施設で決められます。
画像を見るときのチェックリスト
- 冠状断で左右の側脳室・脳溝の幅を比べたか
- 尾状核頭部(側脳室前角の外側)に左右差はないか
- FLAIRで皮質・皮質下白質に片側の高信号はないか
- 前回のMRIと並べて、萎縮が進んでいないか
- 病変側の小脳・中脳・海馬にも萎縮はないか
- 血管領域に一致するか、両側性か(一致・両側ならREらしくない)
よくある疑問(Q&A)
Q1. 最初のMRIが正常だったら、ラスムッセン脳炎ではありませんか?
そうとは限りません。早期には変化がごくわずかで、再検で初めて信号異常や萎縮がはっきりする例が報告されています。薬が効かない発作が続くときは、一定の間隔でMRIを繰り返して比較します。
Q2. 大人でも起こりますか?
起こります。約10%は青年・成人の発症で、成人例は小児よりゆるやかに進み、免疫療法に反応しやすいと報告されています(Fornari Caprara 2024、Marín-Gracia 2025)。
Q3. 反対側の脳はまったく変化しないのですか?
小脳などでは病変と反対側にも萎縮がみられることがあります(Chiapparini 2003)。ただし、中心になるのは病変側の大脳半球で、基本は片側性の病気です。
Q4. PETやSPECTだけで診断できますか?
できません。代謝や血流の低下は特異的ではないため、臨床経過・脳波・MRIの経時変化と合わせて判断します(Chiapparini 2003、Vivek 2022)。お子さんの発作が続く、片側の力が弱くなるなどの症状があれば、早めに小児神経科やてんかんの専門施設を受診してください。
参考文献
- Varadkar S, Bien CG, Kruse CA, et al. Rasmussen’s encephalitis: clinical features, pathobiology, and treatment advances. Lancet Neurol. 2014;13(2):195-205. PubMed
- Fornari Caprara AL, Rissardo JP, Nagele EP. Rasmussen Encephalitis: Clinical Features, Pathophysiology, and Management Strategies-A Comprehensive Literature Review. Medicina (Kaunas). 2024;60(11). PubMed
- Chiapparini L, Granata T, Farina L, et al. Diagnostic imaging in 13 cases of Rasmussen’s encephalitis: can early MRI suggest the diagnosis? Neuroradiology. 2003;45(3):171-83. PubMed
- Pradeep K, Sinha S, Saini J, et al. Evolution of MRI changes in Rasmussen’s encephalitis. Acta Neurol Scand. 2014;130(4):253-9. PubMed
- Peeke J, Tang-Wai R, Robison A, et al. Rasmussen’s encephalitis in a pediatric patient with subtle early MRI changes: A case report. Radiol Case Rep. 2024;19(11):5496-5500. PubMed
- Vivek S M, Kulanthaivelu K, Nagaraj C, et al. Rasmussen’s encephalitis: Imaging spectrum on simultaneous FDG-PET and MRI imaging correlation. Clin Imaging. 2022;85:48-54. PubMed
- Olson HE, Lechpammer M, Prabhu SP, et al. Clinical application and evaluation of the Bien diagnostic criteria for Rasmussen encephalitis. Epilepsia. 2013;54(10):1753-60. PubMed
- Marín-Gracia M, Ciano-Petersen NL, Cabezudo-García P, et al. Late-onset Rasmussen encephalitis: 3 illustrative cases and a review of the literature. Neurologia (Engl Ed). 2025;40(7):686-699. PubMed
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