
先に結論:肝硬変+右胸水では、腹水の量が少なくても肝性胸水を考える
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 肝硬変・門脈圧亢進症があり、心臓や肺・胸膜の病気がないのにたまる胸水(漏出性) |
| なぜ起こるか | 腹水が横隔膜の小さな欠損から、陰圧の胸腔へ流れ込むと考えられている。右側に多い |
| 画像の注意点 | 胸水の量と腹水の量は比例しない。腹水が少なくても、肝硬変が落ち着いているとは言えない |
| 確かめ方 | 腹腔内に入れた核医学の薬剤や超音波造影剤が胸腔へ移るかを見る。陰性でも否定はできない |
| 注意 | 胸腔ドレーンは基本的に勧められない。治療は肝臓の専門医を中心に決める |
肝性胸水とは
肝性胸水(hepatic hydrothorax)は、肝硬変と門脈圧亢進症のある人に、心臓や肺の病気がないのに生じる胸水です(Lv 2018)。胸水の性状は漏出性(たんぱく質が少ない水)が基本で、量は500mLを超えることが多いと定義されています(Krok 2012)。胸腔は広さに限りがあるため、500mLほどでも息切れが出ることがあります(Krok 2012)。
肝硬変の人すべてに起こるわけではなく、末期の肝疾患の5〜10%に生じるとされるまれな合併症です(Norvell 2014)。ほかの原因の胸水についての基本は胸水とは?原因(心不全など)と漏出性・滲出性の違いにまとめています。
なぜ腹水が少ないのに胸水がたまるのか
肝性胸水の成り立ちとして最も受け入れられている説明は、腹圧の上昇と胸腔内の陰圧により、腹水が横隔膜の欠損を通って胸腔へ直接流れ込むというものです(Lv 2018)。横隔膜は胸とお腹を分ける薄い筋肉の膜で、そこに小さな穴が開くと、腹水は胸腔へ一方向に流れます。実際に、腹水と胸水のある肝硬変の例で腹腔内に入れた超音波造影剤が胸水へジェット状に流れ込み、胸腔鏡で右横隔膜の欠損を縫合して再発しなかった報告があります(Matono 2012)。難治性の12例では、気腹で横隔膜の欠損の位置を11例で特定でき、胸腔鏡下の修復と胸膜癒着術などが行われました(Jung 2020)。腹水のない2例では、開胸で横隔膜の欠損が確認されています(Rubinstein 1985)。
| 場面 | 起きていること |
|---|---|
| 腹水が多い時期 | 腹圧が高く、横隔膜に小さな欠損ができる |
| 利尿薬などで腹水が減ったあと | 腹水は減っても、欠損を通る流れが続けば胸水だけが残る・増えることがある |
| 胸水がたまり続ける | 胸腔の陰圧に引かれて一方向に移るため、胸水は腹水が減っても残りやすい |
上の表の2・3行目は、横隔膜の欠損と一方向の流れという機序からの整理です(Lv 2018)。左右でいえば、肝性胸水は右側に多く、腹水と胸水がある43例の検討では、右側が74%、左側が7%、両側が19%でした(Mücke 2022)。左側だけの胸水でも肝性胸水の可能性はゼロではありません。
また、胸水の量は腹水の量では予測できません。腹水がなくても肝性胸水が起こった症例が1980年代から報告されています(Rubinstein 1985)。
画像での見え方と、読影のチェックポイント
肝性胸水に特有の「この形」というものはなく、画像だけではふつうの胸水と同じに見えます。大切なのは、画像で胸水を見たときに、肝硬変の背景があるかを一緒に確認することです。
| 検査 | 見るところ |
|---|---|
| 胸部X線(立位) | 右の肋骨横隔膜角の鈍化から、片側の大量胸水まで。大量だと肺が圧排され、縦隔が反対側へ寄る(片側の肺が白いときの考え方) |
| CT(腹部まで含む) | 肝臓の辺縁の凹凸・萎縮、脾腫、腹水の有無、側副血行路など、肝硬変・門脈圧亢進症の所見 |
| CT・エコー | 胸水か腹水かの見分けはCTで胸水と腹水の見分け方(横隔膜サインなど) |
| エコー | 無エコーの胸水の確認と、穿刺する位置・量の評価 |
見落としやすいポイント
- 「腹水が少ない=肝臓は落ち着いている」と考えて、肺がんや結核など胸の病気ばかり調べてしまう。肝性胸水では、臨床的に腹水がはっきりしなくても胸水がたまることがあります(Rubinstein 1985)。
- 心不全・腎不全・低アルブミン血症、悪性腫瘍や感染による胸水など、肝硬変の人にもほかの原因の胸水が起こります。肝性胸水は心臓や肺・胸膜の病気を除外して診断するものです(Lv 2018)。
- 左側だけ・両側でも、肝性胸水の可能性が残ります(Mücke 2022)。
症例 肝硬変の70歳代男性 肝性胸水(感染を合併)

引用:Radiopaedia(Hepatic hydrothorax – infected)
立位の胸部X線写真で、右の胸に大きな胸水があり、右肺は上方へ圧排されて肺尖部だけが含気を残しています。左の肺と胸膜腔は清明です。症例ページでは、末期の肝疾患と難治性の腹水があり、腹水の量が安定していても胸水が繰り返しがたまるようになった例として紹介されています。腹腔穿刺と胸水穿刺で同じ細菌が確認された感染合併例で、腹腔にドレーンを入れて、肝性胸水がゆっくり改善したと記載されています。
核医学・エコーで「腹水が胸へ移る」ことを確かめる
胸水の成分分析だけでは、胸水の由来について間接的な情報しか得られません(Bhattacharya 2001)。そこで、腹腔内に入れた薬剤が胸腔へ移るかを直接見る方法があります。
| 方法 | やり方と報告された結果 |
|---|---|
| 腹腔内RI投与のシンチグラフィ(99mTc-硫黄コロイドなど) | 腹腔にRIを入れ、胸腔への移行を撮像する。腹水と胸水のある肝硬変10例で、8例に横隔膜を越える移動が見え、多くは2時間以内だった。2例では交通が見えなかった(Bhattacharya 2001) |
| 腹水がない例での確認 | 腹水のない右肝性胸水の2例で、RIが腹腔から胸腔へ一方向に移ることを示した。肺や心臓が原因の胸水5例では、腹腔のRIは胸腔へ移らなかった(Rubinstein 1985) |
| 腹腔内の超音波造影剤 | 腹腔内に造影剤を入れ、胸腔側を超音波で見る。放射線を使わず、リアルタイムに見られる。43例のうち実施できたのは31例で、16例(52%)で気泡の移動が見え、中央値は120秒だった(Mücke 2022) |
この検査の読み方と限界
- 陽性なら、胸水の由来は腹水であり、腹水が目立たない場合でも原因検索の方向を決める助けになります(Bhattacharya 2001)。
- 陰性でも、肝性胸水を否定しきれません。実際に、造影超音波では実施した半数ほどで移動が見えませんでした(Mücke 2022)。孔が小さい、胸水が少ない、流れが少ないなど、見えない理由がいくつか考えられます。
- 腹水が少ないと、安全に腹腔を穿刺できないことがあります。造影超音波の検討では、少量腹水のため28%で穿刺が安全でないと判断されました(Mücke 2022)。
- 薬剤の種類・量・投与方法は、施設の手順と主治医の指示に従います。
この交通の確認が早い段階で役に立つのは、経過が典型的(肝硬変・腹水の既往があり、腹水が減ってから右胸水が増えた)で、ほかの原因を示す所見が乏しいときです。胸の検査を重ねる前に、まず腹水と胸水がつながっているかを調べる、という順番は覚えておくと役に立ちます。
診断の流れ
- 胸部X線・CT・エコーで、胸水の量と左右、肝硬変・腹水の所見を確認する。
- 心不全・肺炎・悪性腫瘍・結核など、ほかの原因を調べる。
- 胸水を穿刺し、漏出性か、感染(好中球の増加や培養陽性)がないかを調べる(Lv 2018)。
- 必要なら、腹腔内RI・造影超音波で交通を確認する(Lv 2018)。
診断は、肝硬変の人で漏出性の胸水を見つけ、心肺疾患を除外して臨床的に行い、必要な場合に核医学で交通を確かめる、と整理されています(Lv 2018)。
治療と注意点(概要)
治療の中心は塩分制限と利尿薬で、効かないときは胸水穿刺、経頸静脈肝内門脈大循環シャント(TIPS)、胸腔鏡下の横隔膜欠損の修復や胸膜癒着術などが検討されます(Krok 2012、Lv 2018)。根本的な治療は肝移植で、肝性胸水が難治なら移植施設への相談が勧められています(Krok 2012、Lv 2018)。肝性胸水が出た肝硬変の生存期間の中央値は8〜12か月と報告されており、重い合併症です(Pippard 2022)。
画像を読む側として押さえたいのは、胸腔ドレーン(チェストチューブ)は基本的に治療の選択肢ではないという点です。膿が見える場合や気胸がある場合を除き、使うべきでないとされています(Krok 2012)。米国の入院データ(肝硬変の入院127,627件中、肝性胸水は6.2%)では、胸腔ドレーンは肝性胸水の16.7%で使われ、使った群で院内死亡(11.6%対8.5%)と自然発症の膿胸(12.5%対2%)が多い結果でした(Thakurdesai 2025)。
| よくある誤解 | 実際 |
|---|---|
| 胸水がある=まず胸腔ドレーン | 肝性胸水では勧められない。主治医・肝臓内科と相談する |
| 腹水が少ない=肝性胸水ではない | 腹水が少なくても起こりうる(Rubinstein 1985) |
| RIが胸に移らなかった=否定できる | 陰性でも否定はできない(Mücke 2022) |
よくある疑問(Q&A)
Q. 肝性胸水は右側にしか起こりませんか?
A. 右側に多いですが、左側や両側のこともあります。腹水と胸水のある43例では、右74%、左7%、両側19%でした(Mücke 2022)。
Q. 腹水がないのに肝性胸水と言えるのですか?
A. 腹水が目立たなくても、腹腔から胸腔へ一方向に移る流れが核医学で示された報告があります(Rubinstein 1985)。ほかの原因の除外と交通の確認を組み合わせて診断します。
Q. 核医学の検査はどのように行いますか?
A. 腹腔に針を刺して薬剤を入れ、胸腔へ移るかを撮像します。手順や注意点は施設と主治医の説明に従ってください。造影超音波の43例では、有害事象はありませんでした(Mücke 2022)。放射線量や薬剤の量は検査施設で決められます。
Q. 肝硬変と言われて、息切れや胸水が気になります。
A. 気になる症状があれば、医療機関で相談してください。胸水の原因は肝臓以外にもあり、判断には診察と検査が必要です。
あわせて読みたい:腹部エコーのやり方と見落としやすい所
参考文献
- Lv Y, Han G, Fan D. Hepatic Hydrothorax. Ann Hepatol. 2018;17(1):33-46. PubMed
- Krok KL, Cárdenas A. Hepatic hydrothorax. Semin Respir Crit Care Med. 2012;33(1):3-10. PubMed
- Norvell JP, Spivey JR. Hepatic hydrothorax. Clin Liver Dis. 2014;18(2):439-49. PubMed
- Bhattacharya A, Mittal BR, Biswas T, et al. Radioisotope scintigraphy in the diagnosis of hepatic hydrothorax. J Gastroenterol Hepatol. 2001;16(3):317-21. PubMed
- Rubinstein D, McInnes IE, Dudley FJ. Hepatic hydrothorax in the absence of clinical ascites: diagnosis and management. Gastroenterology. 1985;88(1 Pt 1):188-91. PubMed
- Mücke VT, Fitting D, Dultz G, et al. Application of Contrast-Enhanced Ultrasound to Detect Hepatic Hydrothorax in Patients with Liver Cirrhosis. Ultraschall Med. 2022;43(5):473-478. PubMed
- Thakurdesai A, Patel S, Dunn W, et al. Increasing Trends on Intercostal Chest Tube Placement for Hepatic Hydrothorax Despite Negative Impact on Patient Outcomes: A National Inpatient Sample Database Analysis. Clin Transl Gastroenterol. 2025;16(9):e00889. PubMed
- Matono T, Koda M, Murawaki Y. Right diaphragmatic defect in hepatic hydrothorax exposed by contrast-enhanced ultrasonography after radiofrequency ablation. Hepatology. 2012;56(2):784-5. PubMed
- Jung Y, Song SY, Na KJ, et al. Minimally invasive surgical strategy for refractory hepatic hydrothorax. Eur J Cardiothorac Surg. 2020;57(5):881-887. PubMed
- Pippard B, Bhatnagar M, McNeill L, et al. Hepatic Hydrothorax: A Narrative Review. Pulm Ther. 2022;8(3):241-254. PubMed
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