腹部エコーの基本 走査の順番と見落としやすい所

研修医になって、初めて腹部エコーを当てることになりました。どこから、どんな順番で見ればいいですか? 見落としやすい所も知りたいです。
順番は施設ごとに決まっていますが、大切なのは「毎回同じ順で、全部の臓器を見る」ことです。そして、画像を整える(ゲイン・深さ・フォーカス)ことと、肝臓のドーム部や膵尾部のような「見えにくい所」を知っておくことが、見落としを減らす近道です。

先に結論:腹部エコーは「画像を整える→決めた順に全臓器→見えない所は工夫し、見えなかったと記録する」

項目 ポイント
最初にすること 深さ・ゲイン・フォーカスを整える。深部が暗すぎる・明るすぎる画像では判断できない
順番 肝・胆嚢・胆管 → 膵・大血管 → 脾 → 腎 → 膀胱・骨盤、のように毎回同じ順で全部
死角になりやすい所 肝のドーム(横隔膜の下)、肝の端(左外側区の先端・S6の先端)、膵尾部、脾門、消化管ガスの陰
見えないとき 深呼吸と息止め、体位変換、肋間からの走査、水を飲んでもらう。それでも見えなければ「見えなかった」と書く
上達の近道 角度(断面の取り方)が最も習得に時間がかかる。同じ臓器を2方向で見る練習を重ねる

腹部エコーは「見え方を整える」ところから始まる

エコー(超音波)検査は、プローブから出した超音波が体の中で反射して戻ってくる強さを画像にします。仕組みや用語の基本はエコー(超音波)検査の基礎にまとめています。この記事では、実際にプローブを持つ前提で「どう当てて、どこを見落としやすいか」を整理します。

腹部エコーで最初に身につけたいのは、診断よりも画像を整える習慣です。同じ肝臓でも、設定が違うだけで見え方が大きく変わります。

画像を整える4つの調整

調整 何を合わせるか 合っていないと
深さ 見たい臓器の奥の縁まで画面に入れる。余計に深くしすぎない 浅いと奥の病変が切れる。深すぎると見たい部分が小さくなる
ゲイン(全体の明るさ) 肝実質が脾臓や腎皮質と比べて自然な明るさに見える程度 高すぎると全体が白く、低すぎると小さな病変や壁が見えない
深部の補正(STC・TGCなど) 浅い所から深い所まで、明るさが同じになるように調整する 深部の補正が足りないと奥が暗くなり、脂肪肝の「奥が減衰する」見え方と紛らわしい。かけすぎると奥が白くなる
フォーカス 見たい深さに合わせる。画面横の目盛りで位置を確認する 合っていないと、見たい構造がぼやけて、小さな石や結節を見逃す

装置の名称や操作ボタンは機種によって違います。設定値は施設や機種で決まっているので、ここでは数字を挙げません。大事なのは、見たい臓器ごとに「深さ・ゲイン・フォーカス」を確認することです。

脂肪肝を例に挙げると、超音波による脂肪肝の検出は、組織検査を基準にして中等度以上の脂肪肝で感度84.8%、特異度93.6%と報告されています(Hernaez 2011)。ただし、これは適切に撮れた画像での話です。深部が暗いのが本当に脂肪肝による減衰なのか、補正不足なのかを見分けるには、画像を整えたうえで、脾臓や腎皮質と肝臓の明るさを比べる習慣が役立ちます。

画像の質は経験でも変わります。初学者を対象にした研究では、腹部・肺・腎臓の超音波は、練習がおよそ17回分に達したところで上達が頭打ちになりました。画質を構成する要素のうち、深さとゲインより、断面の角度(狙った構造に超音波をどう当てるか)のほうが習得に時間がかかっていました(Breunig 2023)。深さとゲインは早く慣れますが、角度は意識して練習を重ねる必要があります。

走査の順番:毎回同じ順で、全部の臓器を見る

見る順番に決まった正解があるわけではありません。研修先の施設や上級医・技師の順に合わせて構いません。ただし、毎回同じ順で見ることで、見落としを減らせます。一例として、次の順番を示します。

順 見る臓器 主な当て方 確認すること
1 肝臓・胆嚢・胆管 心窩部、右肋弓下、右肋間 肝の大きさ・輪郭・エコーレベル、局所病変、門脈・肝静脈、胆嚢の壁と内腔、胆管の太さ
2 膵臓・上腹部の大血管 心窩部(横断・縦断) 膵頭部・体部・尾部、主膵管、大動脈と下大静脈
3 脾臓 左側腹部の肋間 大きさ、内部、脾門部の血管、周囲の液体
4 腎臓 左右の側腹部・背側 大きさ、皮質の厚み、腎盂の拡張、結石、嚢胞や腫瘤
5 膀胱・骨盤 下腹部 壁、内腔、骨盤の液体、女性では子宮・卵巣、男性では前立腺の大まかな確認

1つの臓器は、少なくとも直交する2方向(縦と横)で端から端まで動かして見ます。1枚の静止画だけで判断せず、プローブを連続的に動かして(スイープ)、病変が断面の間に入っていないかを確かめます。目立つ病変(胆石など)を見つけても、そこで満足せずに残りの臓器も同じ丁寧さで見ましょう。

胃や腸管は、ガスと内容物のためにエコーでは見えにくい臓器ですが、壁の構造や虫垂を狙って見る方法は消化管エコー(腸管エコー)の見方で解説しています。

見落としやすい所(死角):どこが見えにくいか

エコーは骨や空気を通りません。肋骨の陰、肺の空気、消化管のガスに隠れる場所が、そのまま死角になります。

死角になりやすい所 隠れる理由 見るための工夫
肝のドーム(横隔膜の直下) 肋骨と肺の空気 深吸気で息を止めてもらう、肋間から当てる、プローブを頭側へ傾ける
肝左葉外側区の端、右葉S6の下端 画面の視野から外れる、ガスや肋骨 プローブをずらして端まで追う、左葉は水を飲んでもらって胃を窓にする
膵尾部 胃や腸のガスが前にある 水を飲んでもらう、体位を変える、左肋間から脾臓を窓にする
脾門部 肋骨、胃や結腸のガス 右側臥位や呼吸の使い分け、肋間から
総胆管の下部 十二指腸のガス 体位変換、プローブでゆっくり圧迫してガスを逃がす
後腹膜の大血管・リンパ節 腸管ガス ゆっくり圧迫、側腹部からの冠状断

肝臓の端は「入っているつもり」になりやすい

肝臓は大きい臓器で、通常のプローブの画面に全部は入りません。肝細胞癌の経過観察用の超音波では、画像の見えやすさを視認スコア(US LI-RADS visualization score)で、A(制限なし、またはわずか)・B(中等度の制限)・C(高度の制限)の3段階に分けて報告する仕組みがあります。これは、見えにくい検査は「異常なし」と同じ意味ではないことを、報告書に残すためのものです(Morgan 2018)。

この視認スコアの頻度を1万件を超える検査で調べた研究では、スコアA・B・Cの割合は71.5%、24.2%、4.2%でした。救急外来の患者ではAが49.8%、外来患者では76.7%と、患者の状況で差があり、検査数が50件未満の担当者では、スコアCになるオッズ比が1.55でした(Fetzer 2022)。体の状態も経験も、見え方に関わることがわかります。

肝臓の端に限った研究もあります。通常の走査視野(論文では70度)の画像では、左外側区の先端が写っていた割合は67.8〜77.5%、S6の先端は75.6〜84.1%、右の横隔膜(ドーム部)がはっきり見えた割合は59.7〜69.8%でした。視野を140度に広げて撮ると、それぞれ96.9〜98.4%、89.5〜97.3%、89.1〜94.6%に上がっています(Kim 2026)。つまり通常の視野では、左外側区の先端が明瞭に写っていない症例が約2〜3割、右の横隔膜が明瞭に見えない症例が約3〜4割ありました。

症例 60歳代男性 肝臓のドーム部(横隔膜の直下)

肝右葉の右肋間走査 通常視野と広い視野の比較 横隔膜直下
引用:Kim SS, Jang JK, Lee DH. J Ultrasound 2026 (Figure 4) PMC、CC BY 4.0(加工なし)

慢性B型肝炎の患者さんです。左が通常の視野、右が広い視野で撮った右肋間からの肝右葉の画像です。左では横隔膜の縁が画面に入りきらず、横隔膜の下の部分が隠れています。右では横隔膜の縁まで写り、矢印の部位(横隔膜の下)まで確認できます。通常の画面で「肝臓全体を見た」と思っていても、ドーム部が写っていないことがある例です。

症例 60歳代男性 肝左葉外側区の先端

肝左葉の横断・矢状断走査 通常視野と広い視野の比較 左外側区の先端
引用:Kim SS, Jang JK, Lee DH. J Ultrasound 2026 (Figure 2) PMC、CC BY 4.0(加工なし)

胃癌の手術歴がある患者さんです。左側(a・c)は通常の視野で、肝左葉の左外側区の先端が写っていません。右側(b・d)は広い視野で、矢印の位置に左外側区の先端が写っています。肝臓の端は、プローブをずらして意識的に追わないと見落とす場所です。

左葉が長い肝臓は、水を飲んで確かめる

肝左葉が脾臓の前まで伸びている人では、通常の走査で左葉が見えないことがあります。CTで左葉が長いと確認された43人にエコーを行った研究では、水を飲む前の描出は左葉・脾臓ともに4.7%(2/43)でしたが、胃に十分な水を満たすと100%(43/43)になりました(Wu 2013)。胃がガスで見えないときは、水で満たすと「超音波が通る窓」になります。

膵尾部は消化管ガスがじゃまをする

膵臓は消化管のガスに隠れやすく、特に尾部は見えにくい部位です。膵尾部の描出が不良だった70人に、水と消泡剤(シメチコン)を飲んでもらい体位を回転させる方法を行ったところ、膵尾部が十分に見えた割合は79%で、水のみの対照群の7%より高くなりました(Abu-Yousef 2000)。薬剤の扱いは施設の方針や指示に従ってください。膵癌の早期発見のためにもエコーは重要ですが、診断能は術者の経験と患者の条件で大きく変わるとされています(Ashida 2018)。

見えなかったときの対応

見えないときは、次のように工夫します。それでも見えない場合は、無理に結論を出さず、「見えなかった」ことを報告書に残します。

状況 工夫
肋骨・肺の陰で見えない 息を深く吸って止めてもらう(肝は下に降りる)、肋間から当てる、プローブの角度を変える
ガスで見えない プローブで圧迫して徐々にガスを押し出す、体位を変える(左側臥位・右側臥位・座位)、水を飲んでもらう
皮下脂肪が厚く奥が見えない 周波数の低いプローブへ変える、深さとゲイン・補正を見直す、肋間や別の窓を探す
動きで見えない(痛み・呼吸が速い) 無理をせず時間をおく、別の日に検査をやり直す、CTなど別の検査を考える

報告書には「膵尾部は消化管ガスのため観察できず」のように、見えた範囲と見えなかった範囲を分けて書きます。見えなかった部位に「異常なし」と書くのは避けましょう。

見落としを減らすためのチェックリスト

  • 最初に深さ・ゲイン・深部の補正・フォーカスを整えたか
  • 決めた順に、全部の臓器を見たか
  • 各臓器を2方向で、端から端までスイープしたか
  • 肝のドーム部、左外側区の先端、S6の下端、膵尾部、脾門部、総胆管下部を意識して見たか
  • 見えなかった部位を、見えなかったと記録したか
  • 画像の異常がアーチファクトでないか確かめたか(超音波のアーチファクト)
  • 救急で腹腔内の液体を見る目的なら、見る場所を決めて素早く観察したか(FAST)

音響陰影や後方エコー増強などは、病変の性質を考えるヒントにも、見落としの原因にもなります。画像を整えた上で、気になる所見は別の角度から当て直して確かめましょう。

よくある疑問(Q&A)

Q. ゲインはどれくらいにすればいいですか?
A. 数値で決めるのではなく、肝臓や脾臓、腎臓の明るさが自然に見えるところに合わせます。深部の補正は、浅い所から深い所まで同じ明るさに見えるように調整します。装置や患者さんで最適値は変わるので、毎回確認します。

Q. 順番を間違えたら見落としますか?
A. 順番そのものより、全部の臓器を同じ順で見る習慣が大切です。施設で決まった順があれば、それに合わせるとよいでしょう。

Q. 膵臓がよく見えません。どうすればいいですか?
A. 膵臓は消化管ガスに隠れやすい臓器です。水を飲んでもらう、体位を変える、プローブで圧迫してガスを逃がす、といった工夫をします(Abu-Yousef 2000)。それでも見えない部分は「見えなかった」と記録します。

Q. 初心者はどのくらい練習すれば上達しますか?
A. 腹部の超音波は、練習がおよそ17回分に達したところで上達が頭打ちになったとの報告があります。ただし、断面の角度の習得にはさらに時間がかかります(Breunig 2023)。一人で悩まず、上級医や技師に画像を見てもらいましょう。

この記事は一般的な基礎知識を整理したものです。気になる症状がある場合は、医療機関を受診してください。

あわせて読みたい:肝性胸水とは

参考文献

  1. Morgan TA, Maturen KE, Dahiya N, et al. US LI-RADS: ultrasound liver imaging reporting and data system for screening and surveillance of hepatocellular carcinoma. Abdom Radiol (NY). 2018;43(1):41-55. PubMed
  2. Fetzer DT, Browning T, Xi Y, et al. Associations of Ultrasound LI-RADS Visualization Score With Examination, Sonographer, and Radiologist Factors: Retrospective Assessment in Over 10,000 Examinations. AJR Am J Roentgenol. 2022;218(6):1010-1020. PubMed
  3. Kim SS, Jang JK, Lee DH. Clinical utility of 140-degree scan angle wide-view ultrasound for comprehensive liver and spleen imaging. J Ultrasound. 2026;29(1):181-187. PubMed
  4. Abu-Yousef MM, El-Zein Y. Improved US visualization of the pancreatic tail with simethicone, water, and patient rotation. Radiology. 2000;217(3):780-5. PubMed
  5. Ashida R, Tanaka S, Yamanaka H, et al. The Role of Transabdominal Ultrasound in the Diagnosis of Early Stage Pancreatic Cancer: Review and Single-Center Experience. Diagnostics (Basel). 2018;9(1). PubMed
  6. Wu S, Tu R, Zheng E, et al. Approach to improving sonographic visualization of elongated left lobe of the liver and its implications. J Med Ultrason (2001). 2013;40(4):425-8. PubMed
  7. Hernaez R, Lazo M, Bonekamp S, et al. Diagnostic accuracy and reliability of ultrasonography for the detection of fatty liver: a meta-analysis. Hepatology. 2011;54(3):1082-1090. PubMed
  8. Breunig M, Hanson A, Huckabee M. Learning curves for point-of-care ultrasound image acquisition for novice learners in a longitudinal curriculum. Ultrasound J. 2023;15(1):31. PubMed

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