腸管・腸間膜損傷 遊離ガスがなくても疑う所見

交通事故でシートベルトの痕があり、CTを撮りました。遊離ガス(腹腔内の空気)がないと言われましたが、腸の損傷は否定できるのでしょうか?
遊離ガスがなくても、腸や腸間膜の損傷は否定できません。遊離ガスは手術が必要だった損傷でも3割ほどにしか見られません。腸管そのものの所見、腸間膜の変化、腹腔内の液体、腹壁の打撲痕を組み合わせて疑うのが基本です。順番に整理します。

先に結論:腸管・腸間膜損傷は「遊離ガス」より「腸間膜の変化・説明のつかない液体・腸管壁の異常」を拾う

項目 ポイント
見逃されやすい理由 他の損傷に注意が向き、腹部症状の出方も遅れるため。臨床所見だけでは頼りにならない(Kazi 2026)
遊離ガス 手術を要した損傷での感度は32.0%(Abdel-Aziz 2019)。なくても否定できない
手がかり 腸間膜の血腫・脂肪織の濃度上昇、腸管壁の肥厚や造影不良、説明のつかない腹水
シートベルト痕 腹壁のシートベルト痕と腸管壁肥厚の組み合わせは、手術を要した損傷に特徴的だった(Molinelli 2018)
CTが陰性のとき シートベルト痕のある754人で、CT陰性なのに腸などの損傷があったのは1人(0.1%)(Delaplain 2022)

腸管・腸間膜損傷とは

鈍的外傷(交通事故、転落、腹部の打撲など)では、腹部の臓器が脊椎に押しつぶされる力、急な減速で固定部との間に生じるずれの力、腸管内の圧の急上昇などが加わり、腸管や腸間膜(腸を支える膜と血管)が損傷することがあります。英語でblunt bowel and mesenteric injury(BBMI)と呼ばれます。

この損傷は「見逃されやすい」ことが特徴です。他の外傷が目立つ患者さんでは、お腹の症状が目立たず、腹膜炎の症状も遅れて出てくるためです。診断の遅れは患者さんの経過に影響するため、CTは第一の画像検査として使われ、所見は「腸管の所見」「腸間膜の所見」「疑いを強める補助所見」に分けて整理されます(Kazi 2026)。

Chance骨折(腰椎の屈曲・牽引型の骨折)のように、シートベルトによる骨折と腸管損傷が合併する組み合わせもあります。詳しくはChance骨折(チャンス骨折)とは?シートベルト損傷のCT画像所見と腸管損傷の合併をご覧ください。

CTで拾う所見:腸管・腸間膜・腹水

腸管の所見は、手術がすぐ必要なことを示唆する「ハードサイン」と、臨床や検査と合わせて判断する「ソフトサイン」に分けて考えます(Kazi 2026)。

分類 所見
腸管の所見 腸管壁の連続性の途絶、壁の肥厚、壁の造影不良、腸管壁内の血腫、腸管外ガス、経口造影剤の漏れ
腸間膜の所見 腸間膜の血腫・脂肪織の濃度上昇(索状影)、腸間膜の血管の途絶や数珠状の変化、造影剤の血管外漏出、腸間膜内のガス
補助所見 説明のつかない腹腔内液体、腹壁の打撲痕(シートベルト痕)、他の臓器損傷、骨折など

手術を要した損傷に対する各所見の感度・特異度を集めた系統的レビューでは、次のような値が報告されています。

CT所見 感度 特異度
腸管壁の連続性の途絶 22.3% 99.0%
腸管壁の肥厚 35.2% 96.5%
遊離ガス(腹腔内の空気) 32.0% 98.7%
腸間膜の血腫・液体 33.9% 98.7%
腸間膜の索状影 34.3% 91.8%
腹腔内の液体 65.6% 85.0%
CT全体の判定 85.3% 96.1%

(Abdel-Aziz 2019)

この表から分かることは2つです。1つの所見だけでは感度が低い(20〜35%台)ため、所見を組み合わせて読む必要があること、そして腹腔内の液体は感度が最も高いが特異度が低いので、「液体がある=損傷」と決めつけず、原因を探すことです(Abdel-Aziz 2019)。1989年の報告でも、手術を要した28人のうち、腹腔内の液体は27人(96%)、腸間膜の濃度上昇は24人(86%)、腸管壁の肥厚は17人(61%)、遊離ガスは9人(32%)に見られました(Rizzo 1989)。

腸間膜の出血は、腸間膜内に三角形の液体の貯留として見えることが多く、腸管・腸間膜損傷でよく見られます(Lubner 2007)。出血源の近くに血の塊(sentinel clot)が見られる場合も、手がかりになります。1989年の報告では、腸管・腸間膜損傷の32%で、このサインが唯一の陽性所見でした(Orwig 1989)。

症例 35歳男性 交通事故による腸間膜損傷

腸間膜損傷 sentinel clot sign 造影CT 横断像
引用:Radiopaedia(Mesenteric injury with sentinel clot sign)

高速の交通事故で受傷した男性のCTです。症例ページでは、腸間膜損傷に伴う腹腔内血腫と、高吸収のsentinel clotがあり、腸管のまわりから腸間膜の脂肪の間に高吸収の液体が広がっていると記載されています。中等量の均一な腹腔内液体と脾臓の裂傷も合併しています。

遊離ガスがなくても疑うのはなぜか

腸管が破れると、腸管内の空気が腹腔内に漏れ、遊離ガス(フリーエア)として見えることがあります。しかし、破れた穴が小さい、腸管が虚脱している、腸内容が漏れにくいなどの場合は、空気はほとんど出ません。実際、手術を要した損傷でも、遊離ガスが見られたのは32%(Abdel-Aziz 2019)、28人中9人(Rizzo 1989)にすぎません。

遊離ガスの見え方や、消化管穿孔以外の原因はフリーエアー(腹腔内遊離ガス)のCT・レントゲン所見と消化管穿孔以外の原因で解説しています。外傷では、腹部レントゲンでは見えない少量のガスもCTなら拾えますが、「ガスがない=安全」とは読まないことが大切です。

腸管壁の肥厚や腸間膜の変化など、ガス以外の所見の組み合わせで疑います。たとえばMolinelliらの54人の検討では、単独で診断できる特異的な所見だけでは感度が75%でしたが、「局所的な腸管壁肥厚+腸管外ガス」「腸管壁肥厚+シートベルト痕」という2つの組み合わせを加えると、特異度を下げずに感度が95%まで上がりました(Molinelli 2018)。

シートベルト痕があるとき

腹壁に帯状の打撲痕(seat belt sign)があるときは、腸管損傷を考えます。しかし、痕があれば損傷があるとは限りません。9つの外傷センターで754人のシートベルト痕のある成人を調べた前向き研究では、腸などの管腔臓器の損傷は9.2%(69人)でした。そのうちCTで8項目(腹壁の挫傷、腹腔内の液体、腸管壁肥厚、腸間膜の索状影、腸間膜血腫、腸管の拡張、気腫、遊離ガス)がすべて陰性だったのに損傷があったのは1人(0.1%)のみでした(Delaplain 2022)。

各項目の中で、損傷との関連が最も強かったのは腹腔内の液体(オッズ比42.68)でした(Delaplain 2022)。つまり、シートベルト痕のある患者さんのCTでは、「腹腔内に説明のつかない液体がないか」を最初に確認します。ただし、この研究のCTは質の高い撮影であることが前提で、撮影が不十分なときや症状が強いときは別の判断になります。

腸間膜血腫は「あとから腸損傷が見つかる」サイン

CTで腸管の穿孔がはっきりしなくても、腸間膜の血腫がある場合は、あとから腸管損傷が分かることがあります。鈍的外傷で腸間膜血腫があり、腸管穿孔の明確なCT所見がなかった56人を調べた研究では、24時間以内に7人(12.5%)で腸管損傷が遅れて診断されました。入院時の乳酸値が高いことも、見逃しと関連していました(1mmol/Lあたりのオッズ比1.10)(Almahmoud 2026)。この研究は、腸間膜血腫があるときは、診察を繰り返し、必要なら画像を撮り直しながら慎重に経過を見る必要があると結論しています(Almahmoud 2026)。

腸管・腸間膜損傷を拾う読影チェックリスト

順番 確認すること
1 腹腔内の液体があるか。肝臓・脾臓などの実質臓器の損傷で説明できるか。説明できない液体は腸・腸間膜を疑う
2 腸間膜の血腫・索状影・三角形の液体がないか(Lubner 2007)
3 腸管壁の肥厚・造影不良・連続性の途絶を、隣の腸と比べて確認する
4 遊離ガス・腸間膜内のガス・後腹膜のガスを探す。ただしなくても否定しない
5 血だまりの中で最も白い塊(sentinel clot)の位置を確認する
6 腹壁のシートベルト痕、腰椎の骨折(Chance骨折)がないか確認する
7 造影剤の血管外漏出や、腸間膜血管の途絶・数珠状変化がないか確認する
8 迷う所見は、冠状断・矢状断も見る(腹部CTの読み方も参照)

外傷では、超音波(FAST(外傷の迅速超音波検査))で腹腔内の液体を見つけることが入り口になりますが、液体が少ないときや腸管損傷だけのときは、超音波では分かりにくいことがあります。お腹の外傷のあとに強い腹痛や吐き気、発熱が出てきたときは、画像の結果にかかわらず、すぐ医療機関を受診してください。

よくある疑問(Q&A)

Q. CTで異常がなければ、腸の損傷はないと言えますか?
A. CTの感度は高いものの、損傷を除外しきることはできません。系統的レビューでは、手術を要した損傷に対するCT全体の感度は85.3%、特異度は96.1%でした(Abdel-Aziz 2019)。そのため、症状が続くときは診察を繰り返し、必要なら再検査を行います。

Q. 遊離ガスがないのに腸の損傷が分かるのはなぜですか?
A. 遊離ガスは、手術を要した損傷でも32%でしか見られません(Abdel-Aziz 2019)。腸間膜の変化、腸管壁の肥厚、説明のつかない腹水などを組み合わせて診断します(Molinelli 2018)。

Q. シートベルト痕があると、手術になりますか?
A. いいえ。シートベルト痕のある754人のうち、腸などの管腔臓器の損傷があったのは9.2%でした(Delaplain 2022)。CTで異常がなければ、損傷の可能性はとても低くなります。ただし、腹痛などの症状や他の損傷を含めて総合的に判断されます。

Q. 腸間膜の血腫だけがあるときは、様子を見てよいのですか?
A. 腸管穿孔のはっきりした所見がなくても、24時間以内に腸管損傷が遅れて見つかった例が12.5%ありました(Almahmoud 2026)。診察や検査を繰り返しながら、慎重に経過を見ることが勧められています。

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参考文献

  1. Rizzo MJ, Federle MP, Griffiths BG. Bowel and mesenteric injury following blunt abdominal trauma: evaluation with CT. Radiology. 1989;173(1):143-8 PubMed
  2. Orwig D, Federle MP. Localized clotted blood as evidence of visceral trauma on CT: the sentinel clot sign. AJR Am J Roentgenol. 1989;153(4):747-9 PubMed
  3. Lubner M, Menias C, Rucker C, et al. Blood in the belly: CT findings of hemoperitoneum. Radiographics. 2007;27(1):109-25 PubMed
  4. Molinelli V, Iosca S, Duka E, et al. Ability of specific and nonspecific signs of multidetector computed tomography (MDCT) in the diagnosis of blunt surgically important bowel and mesenteric injuries. Radiol Med. 2018;123(12):891-903 PubMed
  5. Abdel-Aziz H, Dunham CM. Effectiveness of computed tomography scanning to detect blunt bowel and mesenteric injuries requiring surgical intervention: A systematic literature review. Am J Surg. 2019;218(1):201-210 PubMed
  6. Delaplain PT, Tay-Lasso E, Biffl WL, et al. Excluding Hollow Viscus Injury for Abdominal Seat Belt Sign Using Computed Tomography. JAMA Surg. 2022;157(9):771-778 PubMed
  7. Almahmoud K, Bresler R, Risi J, et al. Mesenteric Hematoma as a Warning Sign for Missed Bowel Injury. Am Surg. 2026 PubMed
  8. Kazi IA, Elbanan M, Gaballah A, et al. Pearls and pitfalls in the imaging of blunt bowel and mesenteric injury. Abdom Radiol (NY). 2026 PubMed

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