
先に結論:腹部CTの解剖は「高さ(レベル)」と「血管の目印」で覚える
| スライスの高さ | 見える主な構造 |
|---|---|
| ①横隔膜ドーム | 肝臓の上端(ドーム)・心臓の下端・肺の底・食道・脾臓の上端 |
| ②肝臓上部〜肝門部 | 肝静脈・下大静脈(IVC)・門脈の右枝/左枝・胆嚢・胃・脾臓・副腎 |
| ③膵体尾部 | 腹腔動脈・脾動静脈・膵体尾部・腎臓の上部 |
| ④腎門部/膵頭部 | SMA・SMV・左腎静脈・膵頭部と鉤部・腎門部(腎動静脈・腎盂) |
| ⑤十二指腸/腎下極 | 十二指腸水平部・腎臓の下極・上行/下行結腸・小腸と腸間膜 |
| ⑥大動脈分岐〜骨盤入口 | 総腸骨動静脈・腸腰筋・盲腸と虫垂・S状結腸・尿管 |
迷ったら大動脈を上から下へたどり、腹腔動脈→SMA→腎動脈(左腎静脈)→分岐の順に「今どの高さか」を決めるのがコツです。
実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの腹部CTの正常解剖ツールで、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。

画像診断cafe「腹部CTの正常解剖」の画面(腎門部より下の高さ)。一覧から上行結腸を選んだところ
腹部CTを見る前に:左右と「白さ(CT値)」の基本
- 左右:横断像(axial)は患者さんを足側から見上げた向きで表示します。画面の左が患者さんの右(肝臓側)、画面の右が患者さんの左(脾臓側)です。
- CT値(Hounsfield unit, HU):水を0、空気を-1000とした白さの目盛りです。空気(腸管ガス)は真っ黒、脂肪はマイナスで黒っぽい灰色、臓器は灰色、骨・石灰化は白く写ります。
- 造影CT:造影剤が入ると血管や臓器が白くなります。動脈相では大動脈が強く白く、門脈相では門脈・SMV・肝臓がよく染まります。
腹部の解剖は、脂肪(黒っぽい)に囲まれた臓器と血管を区別する作業です。内臓脂肪が少ない若い人ややせた人ほど境界が見えにくくなります。
スライスの高さごとに見える構造
① 横隔膜ドームの高さ
- 右側に肝臓の上端(肝ドーム)、その周りに肺の底(黒い)が少し残ります。
- 中央の前方に心臓の下端、後方に食道と大動脈。
- 左の後方に脾臓の上端、左前方に胃底部(ガスや液体を含む)。
見分けのコツ:横隔膜は薄い筋肉の膜で、肺(黒)と腹部臓器(灰色)の境にあります。胸水と腹水の区別は、横隔膜の外か内かで考えます。
② 肝臓上部〜肝門部の高さ
- 肝臓の上部では3本の肝静脈(右・中・左)が下大静脈(IVC)へ合流します。肝静脈は肝区域の境界線になります(肝区域(クイノー分類)の見分け方)。
- 少し下の肝門部では、門脈(portal vein)が右枝と左枝に分かれ、肝動脈・胆管と並んで肝臓に入ります。
- 胆嚢は肝臓の下面、右前方にある水に近い黒っぽい袋です。
- 左には胃と脾臓。IVCと大動脈の後ろ・横に副腎(細いY字・逆V字)が見えてきます(正常副腎の見つけ方)。
間違えやすい点:肝静脈と門脈はどちらも肝臓の中の「管」です。肝静脈はIVCへ向かって放射状、門脈は肝門から木の枝のように広がる、と区別します。
③ 膵体尾部の高さ(腹腔動脈)
- 大動脈の前から腹腔動脈(celiac trunk)が出て、総肝動脈・脾動脈・左胃動脈に分かれます。この3本が分かれる形は「カモメが翼を広げた形」にたとえられます。
- 脾動脈・脾静脈に沿って膵体部〜膵尾部が左へ伸び、膵尾は脾門に近づきます。脾静脈は膵臓の背側を走るので、膵臓を探す目印になります。
- 左右の腎臓の上部が背側に見え始めます。
腹腔動脈の分かれ方には個人差があり、肝動脈が上腸間膜動脈(SMA)から出るなどの変異が報告されています(Santos 2018)。膵臓まわりの動脈は膵臓の血管(動脈)の解剖にまとめています。
④ 腎門部・膵頭部の高さ(SMA・左腎静脈・SMV)
腹部CTで最も目印が多い高さです。
| 目印 | 見え方 |
|---|---|
| SMA(上腸間膜動脈) | 腹腔動脈の少し下で大動脈の前から出て、下へ向かう丸い動脈。周りを脂肪が囲む |
| SMV(上腸間膜静脈) | SMAの右側に並ぶ、やや太い静脈。膵頭部の左前を走る |
| 左腎静脈 | 左腎から出て、大動脈とSMAの間をくぐってIVCへ入る |
| 膵頭部・鉤部 | 十二指腸下行部に囲まれた部分。鉤部はSMVの後ろに回り込む |
| 腎門部 | 腎動静脈・腎盂が腎臓の内側のくぼみから出入りする |
見分けのコツ:
- 「SMAは左、SMVは右」。この並びが逆になっている場合は、腸回転異常を考えるきっかけになります。
- 左腎静脈は大動脈とSMAに挟まれるため、その手前でふくらんで見えることがあります。左腎静脈が大動脈の後ろを通る変異もあります(大動脈後性左腎静脈)。
- 腎臓のまわりの脂肪の部屋が腎周囲腔です(腎周囲腔の解剖)。腎周囲腔は筋膜で区切られた空間で、炎症や液体の広がり方を考えるときの土台になります(Lim 1998)。
⑤ 十二指腸水平部・腎下極の高さ
- 十二指腸水平部(第3部)が、大動脈とSMAの間を右から左へ横切ります。
- 大動脈とSMAの間の角度や距離は体格(BMI)と関係し、やせた人では狭くなる傾向があります(Ozkurt 2007)。
- 左右の腎臓は下極になり、外側に上行結腸(右)・下行結腸(左)、中央には小腸と腸間膜の脂肪と血管が広がります。
⑥ 大動脈分岐〜骨盤入口の高さ
- 大動脈は腰椎の下部で左右の総腸骨動脈に分かれます。IVCもほぼ同じ高さで総腸骨静脈に分かれます。
- 椎体の両脇の太い筋肉が腸腰筋(大腰筋)。その前を尿管が下ります(造影の排泄相では白く見えます)。
- 右下腹部に盲腸と虫垂、左下腹部にS状結腸。
間違えやすい構造
| 間違えやすい組み合わせ | 見分け方 |
|---|---|
| 膵臓 と 十二指腸・空腸 | 腸管は中にガス・液体があり壁が層状。膵臓は脾静脈・SMVに沿う |
| 副腎 と 血管 | 副腎は細いY字・逆V字。上下のスライスで形が続くかを見る |
| リンパ節 と 腸管・血管 | 上下のスライスでつながる管なら腸管か血管 |
| 胆嚢 と 十二指腸 | 胆嚢は肝臓の下面にくっつく袋。十二指腸は膵頭部を囲んで続く |
1枚の画像だけで決めず、上下のスライスへ動かしながら「どこへつながるか」を追うのが、腹部CTの解剖を見分ける基本です。
よくある疑問(Q&A)
Q1. 単純CTでも血管は分かりますか?
大動脈やIVCのような太い血管は、位置と形で分かります。細い動脈や門脈の枝、臓器との境界は造影CTのほうがはっきりします。
Q2. 腹部CTでいちばん大事な目印はどれですか?
大動脈から出る腹腔動脈とSMAです。この2本が見えれば膵臓の高さ、SMAの右にSMV、SMAの後ろに左腎静脈、と周りの構造を順に決められます。
Q3. 検査の結果に「副腎」「腎周囲」などと書かれていました。どこですか?
副腎は腎臓の上にある小さな臓器で、②〜③の高さに見えます。腎周囲は腎臓を包む脂肪の部屋のことです。気になる所見の意味は、検査を受けた医療機関で確認してください。
まとめ
- 腹部CTは横隔膜ドーム→肝門部→膵体尾部→腎門部/膵頭部→腎下極→大動脈分岐の高さで整理する。
- 目印は腹腔動脈・SMA・左腎静脈・SMV。「SMAは左、SMVは右、左腎静脈はその間をくぐる」。
- 迷ったら上下のスライスでつながりを追う。
画像診断cafeの腹部CTの正常解剖ツールでは、実際の腹部CTをスライスごとに動かし、構造をタップして名前を確かめられます(無料・登録不要)。スマートフォンでは無料のiPhoneアプリ「画像診断cafe」の腹部CTの解剖でも同じように確認できます。ツールの使い方は腹部CTの正常解剖ツールの記事でも紹介しています。
参考文献
- Santos PVD, Barbosa ABM, Targino VA, et al. Anatomical variations of the celiac trunk: a systematic review. Arq Bras Cir Dig. 2018;31(4):e1403. PubMed
- Ozkurt H, Cenker MM, Bas N, et al. Measurement of the distance and angle between the aorta and superior mesenteric artery: normal values in different BMI categories. Surg Radiol Anat. 2007;29(7):595-9. PubMed
- Lim JH, Kim B, Auh YH. Anatomical communications of the perirenal space. Br J Radiol. 1998;71(844):450-6. PubMed
- Mathew RP, Venkatesh SK. Liver vascular anatomy: a refresher. Abdom Radiol (NY). 2018;43(8):1886-1895. PubMed
- Lockhart ME, Smith JK, Kenney PJ. Imaging of adrenal masses. Eur J Radiol. 2002;41(2):95-112. PubMed
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