腹部CT検査において副腎を正確に描出・評価することは、腫瘍性病変や内分泌異常の早期発見において非常に重要です。

しかし、副腎は個人差もあり、小さく形状が複雑であるため、見落としやすい構造でもあります。

本記事では、正常な副腎のCT上での見つけ方と、その位置・形状・目印となる周囲構造について詳しく解説します。

副腎の正常サイズと左右差

通常、副腎の長径は約4〜6 cm、厚さは3〜6 mmです。

左右の副腎を比較すると、左副腎の方が右副腎よりもやや大きいことが多いとされています。ただし、個人差があるため、多少の大きさの違いがあっても正常範囲内であることが多いです。

正常副腎の典型的な形態とCT画像における周囲構造の目印

副腎は左右の腎臓の上極内側に位置し、CT横断像(水平断像)では、その特徴的な形態から逆Y字型やV字型、矢頭型として描出されることが多く、断面によっては帯状に見えることもあります。冠状断像では、より三角形に近い形に見られます。これらの形態は、副腎の構造を理解する上で重要な目印となります。

見つける際は以下のような解剖構造を順に確認することが有用です:

  • 右副腎:肝臓の下縁、下大静脈の外側、腎上極の内側。
  • 左副腎:脾臓の内側、胃体部の後面、大動脈の外側、腎上極の内側。

CT上では、横断像に加えて冠状断(coronal reformation)も併用することで、副腎の全体像を把握しやすくなります。

症例 20歳代男性 スクリーニング

逆Y字型やV字型の形態をした左右の副腎を同定できます。

副腎にオレンジ色をつけてみました。形状がわかりやすくなります。

実際の腹部CT画像の副腎にオレンジ色を付けたものがこちら。連続画像で副腎の解剖を確認できます。→腹部CTにおける副腎の正常解剖

副腎の解剖とCT値

副腎は大きく分けて皮質と髄質から構成されています。皮質はさらに球状帯、束状帯、網状帯の3層に分かれます。ただし、通常のCT画像では、皮質と髄質を区別して描出することは困難な場合が多いです。

単純CT(造影剤を使わないCT)における正常な副腎実質のCT値は、概ね10HUを超えるとされています。これは、脂肪成分を多く含む副腎腺腫などが単純CTで低吸収(10HU以下)を示すことが多いのと対照的です。

副腎は血行が非常に豊富な臓器であるため、造影CTを行うと、動脈相で強く造影効果を受けて増強されます。この強い増強効果は、正常な副腎を同定する上での重要な特徴の一つです。

正常な副腎と鑑別が必要な主な疾患

腹部CTで遭遇しうる副腎の病変には、以下のようなものがあります。これらの病変は、正常な副腎とは異なる画像所見を示すことが多いです。

  • 副腎過形成: 両側副腎が全体的に腫大しますが、正常な形態が比較的保たれていることが多いです。ホルモン異常(Cushing病、原発性アルドステロン症など)に伴うものや、非機能性の両側性大結節性副腎過形成(AIMAH/PMAH)などがあります。
  • 副腎腺腫: 副腎にできる良性腫瘍で、多くの場合は単純CTで脂肪成分を反映した低吸収域(10HU以下)として描出されます。ただし、脂肪成分の少ない腺腫や、サイズが大きい場合(特に4cmを超える場合)は悪性腫瘍との鑑別が重要になります。
  • 悪性腫瘍(副腎癌、転移、悪性リンパ腫など): 形態が不整であったり、増大傾向を示したり、周囲組織への浸潤を伴ったりすることが多いです。単純CTで10HUを超えることが多い傾向にあります。造影後のwashoutパターンなども鑑別に用いられます。

CT画像で副腎に異常が疑われる場合は、さらに詳しい評価(MRI、ホルモン検査、シンチグラフィなど)や鑑別診断が必要となります。

まとめ

正常副腎の描出には、周囲の解剖構造を的確に把握すること、連続スライスで構造を確認すること、再構成像を積極的に利用することが重要です。副腎を確実に確認できるようになることで、異常の早期発見や病変の鑑別がより的確に行えるようになります。

参考文献・出典

  • 画像診断 Vol.37 No.12, 副腎の解剖 p.494-496
  • 画像診断 Vol.66 No.13, 特集:腎泌尿器 p.1551-1552
  • Feinstein KA, Fembach SK. Septated urinomas in the neonate. AJR. 1987;149:997–1000.

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