
先に結論:下垂体の小さな嚢胞の多くは良性で、症状がなければ経過観察が中心
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 何か | 下垂体の中の液体の袋。代表はラトケ嚢胞(Rathke cleft cyst)。子どもでは数mmの嚢胞が半数以上で見える |
| 心配か | 多くは無症状で、経過観察中に大きくなるのは1割前後。小さくなることも多い |
| 確認すること | ホルモン(出すぎ・足りない)の血液検査、視神経に近ければ視野検査 |
| 注意する症状 | 頭痛、見えにくさ(視野が欠ける)、尿が極端に多い、ホルモン異常の症状 |
| 次にすること | MRIで経過観察(間隔は大きさで決める)。相談先は内分泌内科・脳神経外科 |
実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの頭部MRIの正常解剖ツールで、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。全体の見方は頭部MRIの解剖にまとめています。
下垂体と「下垂体の嚢胞」とは
下垂体は脳の下、鼻の奥の骨のくぼみ(トルコ鞍)にある小指の先ほどの臓器で、成長ホルモンや甲状腺・副腎・性腺を調節するホルモンを出しています。前の部分(前葉)と後ろの部分(後葉)に分かれます。正常の形や大きさは下垂体MRIの正常画像と場所・大きさで解説しています。
下垂体の嚢胞は、この中にできた液体の袋のことです。代表的なものがラトケ嚢胞で、下垂体ができるときの名残(ラトケ嚢)から生じます。前葉と後葉の間あたり(中間部)にできる小さな嚢胞は、中間部嚢胞(pars intermedia cyst)と呼ばれることもあります。
どのくらいよくある?
| 報告 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| Teramoto 1994 | 選別していない剖検(解剖)1000例の下垂体 | 2mmを超える偶発病変61個のうち、ラトケ嚢胞37個、腺腫・過形成20個。正中にある病変の87%がラトケ嚢胞、横にずれた病変の74%が腺腫 |
| Mahdi 2019 | 頭部MRIを受けた子ども232人(0〜18歳) | 薄いスライスのMRIで57.7%に下垂体の嚢胞。平均3.6mm。嚢胞のある子とない子でホルモン異常の頻度に差なし |
Mahdi 2019は、症状や過度な大きさがなければ通常は経過観察の画像も不要としています。MRIの性能が上がり薄く撮れるようになったことで、こうした小さな嚢胞が見えやすくなっています(Mahdi 2019)。
MRIでの見え方と、腫瘍(下垂体腺腫)との見分け方
ラトケ嚢胞は、内容物(水っぽい・タンパク質が多いなど)によってT1強調像・T2強調像での明るさが変わります。詳しい画像はラトケ嚢胞のMRI画像診断をご覧ください。
悩ましいのは、中が嚢胞状になった下垂体腺腫(嚢胞性下垂体腺腫)との区別です。手術を受けた嚢胞性腺腫54人とラトケ嚢胞28人のMRIを比べた研究では、次の所見が手がかりになりました(Park 2015)。
| ラトケ嚢胞を考える所見 | 嚢胞性下垂体腺腫を考える所見 |
|---|---|
| 嚢胞の中の小さな結節(intracystic nodule) | 液面形成(fluid-fluid level) |
| 正中にある | 正中から外れた位置(off-midline) |
| 隔壁(septation) | |
| T2強調像で低信号の縁(rim) |
このうち液面形成・隔壁・正中から外れた位置・嚢胞内結節の4つを組み合わせた診断の流れで、外部の24人中22人を正しく分類できました(Park 2015)。剖検でも「正中ならラトケ嚢胞、横なら腺腫」が多いという傾向があり(Teramoto 1994)、位置は大切な手がかりです。腺腫そのものは下垂体腺腫(PitNET)とMRI画像所見で解説しています。
症例 50歳代男性 ラトケ嚢胞

引用:Radiopaedia(Rathke cleft cyst)
トルコ鞍(下垂体のある骨のくぼみ)の上のほうに、T1強調像で白く光る丸い病変があります。症例ページでは、造影される下垂体の上にある造影されない病変で、症状はなく、MRIの所見からラトケ嚢胞が強く疑われると記載されています。
後葉の「白い点」が見えないと言われたら
T1強調像では、正常な下垂体の後葉が白く明るい点(後葉の高信号、posterior pituitary bright spot)として見えます。脳MRIを受けた1017人の検討では、この白い点は95.9%で見えましたが、4.1%では見えず、年齢が高いほど、また男性で見えないことが多い傾向がありました(Klyn 2018)。ホルモンの病気以外の理由でMRIを撮った人でも見えないことがあるため、白い点が見えないことだけで異常とは決められません。後葉の見え方は正常下垂体のMRIでも解説しています。
放っておくとどうなる?(自然経過)
| 報告 | 手術せずに経過を見た人 | 結果 |
|---|---|---|
| Sala 2018 | ラトケ嚢胞62人(平均41か月) | 大きくなったのは6.4%。手術になった人、ホルモン不足が新たに出た人はいなかった |
| Kinoshita 2023 | ラトケ嚢胞229人(中央値36.6か月) | 大きくなった10.0%、自然に小さくなった31.9%、残りは変化なし。5年での増大12.0%、新しい症状4.1% |
Kinoshita 2023は、症状のないラトケ嚢胞は少なくとも5年は経過を見て落ち着いていることを確かめること、年齢が高い人ではより注意深く見ることを勧めています。一方、手術になったラトケ嚢胞は、経過観察の人より大きく(10mmを超えるものが79%対22%)、ホルモン不足や尿崩症(尿が極端に多くなる)を伴うことが多いという違いがありました(Sala 2018)。
次にすること
米国内分泌学会の下垂体偶発腫ガイドライン(Endocrine Society、2011年)は、偶然見つかった下垂体の病変について次のように勧めています(Freda 2011)。
- 診察と、ホルモンの出すぎ・不足を調べる血液検査
- 病変が視神経・視交叉に接していれば視野検査
- 手術の基準に当てはまらなければMRIで経過観察:大きいもの(マクロ)は6か月後、小さいもの(ミクロ)は1年後、変化がなければその後は間隔をあけていく
- 視野の異常、視神経への接触や圧迫、出血(下垂体卒中)による視力障害、プロラクチン以外のホルモンを出しすぎる病変は手術を検討
急な強い頭痛と見えにくさは、下垂体の出血(下垂体卒中)のこともあります。頭痛、見えにくさ、のどが異常に渇く・尿が多い、疲れやすさなど気になる症状があれば医療機関を受診してください。経過観察の間隔や追加の検査は、主治医に相談しましょう。
よくある疑問(Q&A)
Q. 下垂体の嚢胞は脳腫瘍ですか?
A. ラトケ嚢胞は腫瘍ではなく、下垂体ができるときの名残の袋です。剖検1000例でも偶然見つかる下垂体の病変として多いものでした(Teramoto 1994)。ただし嚢胞のように見える腺腫もあるため、MRIの所見で見分けます(Park 2015)。
Q. 子どものMRIで見つかりました。成長に影響しますか?
A. 子どもでは半数以上に小さな嚢胞が見え、嚢胞のある子とない子でホルモン異常の頻度に差はありませんでした(Mahdi 2019)。成長の心配があるときは主治医(小児科)に相談してください。
Q. 大きくなったら手術ですか?
A. 大きくなるだけで手術になるとは限りません。視野の異常や圧迫の症状、ホルモンの異常があるかで判断されます(Freda 2011)。経過観察中に自然に小さくなるものも約3割ありました(Kinoshita 2023)。
あわせて読みたい:脳の嚢胞の種類と鑑別・画像診断まとめ
参考文献
- Teramoto A, Hirakawa K, Sanno N, et al. Incidental pituitary lesions in 1,000 unselected autopsy specimens. Radiology. 1994;193(1):161-4. PubMed
- Mahdi ES, Webb RL, Whitehead MT. Prevalence of pituitary cysts in children using modern magnetic resonance imaging techniques. Pediatr Radiol. 2019;49(13):1781-1787. PubMed
- Park M, Lee SK, Choi J, et al. Differentiation between Cystic Pituitary Adenomas and Rathke Cleft Cysts: A Diagnostic Model Using MRI. AJNR Am J Neuroradiol. 2015;36(10):1866-73. PubMed
- Klyn V, Dekeyzer S, Van Eetvelde R, et al. Presence of the posterior pituitary bright spot sign on MRI in the general population: a comparison between 1.5 and 3T MRI and between 2D-T1 spin-echo- and 3D-T1 gradient-echo sequences. Pituitary. 2018;21(4):379-383. PubMed
- Sala E, Moore JM, Amorin A, et al. Natural history of Rathke’s cleft cysts: A retrospective analysis of a two centres experience. Clin Endocrinol (Oxf). 2018;89(2):178-186. PubMed
- Kinoshita Y, Taguchi A, Yamasaki F, et al. Natural course of Rathke’s cleft cysts and risk factors for progression. J Neurosurg. 2023;138(5):1426-1432. PubMed
- Freda PU, Beckers AM, Katznelson L, et al. Pituitary incidentaloma: an endocrine society clinical practice guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2011;96(4):894-904. PubMed
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