特発性頭蓋内圧亢進症のMRI 症状と画像所見・キアリ奇形との区別

頭痛で撮ったMRIで「特発性頭蓋内圧亢進症の疑い」と書かれていました。脳に腫瘍があるんですか?
腫瘍がないのに頭の中の圧が上がる病気です。いちばん大事なのは目(視神経)を守ること。眼科で眼底を診てもらいましょう。

先に結論:特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)は「腫瘍や水頭症がないのに頭蓋内圧が高い」病気。MRIは手がかりで、診断は眼底と髄液圧を合わせて決まる

項目 ポイント
どんな病気か 頭蓋内圧が高いのに、腫瘍・水頭症などの原因が見つからず、髄液の成分は正常(除外診断)
多い人 妊娠可能年齢の肥満女性
主な症状 頭痛、見え方の低下、拍動性耳鳴(脈に合わせて聞こえる耳鳴り)、複視
MRIの手がかり empty sella(トルコ鞍が空っぽに見える)、眼球後部の平坦化、視神経鞘の拡大・蛇行、横静脈洞狭窄など
心配な点 うっ血乳頭(視神経乳頭のむくみ)が続くと視力・視野が戻らなくなることがある
次にすること 眼科(眼底・視野)と脳神経内科へ。治療方針は主治医と相談

特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)とは

特発性頭蓋内圧亢進症(idiopathic intracranial hypertension:IIH)は、頭蓋内圧が上がっているのに、水頭症や腫瘤性病変がなく、髄液の成分も正常な状態です。以前は「偽脳腫瘍(pseudotumor cerebri)」と呼ばれていました。画像で原因になる病変がないことが診断基準の一部になっており、ほかの原因を除いて初めて言える除外診断です(Barkatullah 2021)。

2013年に改訂された診断基準では、原因のない一次性(=IIH)と、原因のある二次性をまとめて「偽脳腫瘍症候群(pseudotumor cerebri syndrome:PTCS)」とし、典型的な画像所見も整理されました(Friedman 2013)。

頭蓋内圧そのものについては頭蓋内圧亢進(脳圧亢進)とは?症状・原因とCT・MRI画像所見で解説しています。

どんな人に多い?頻度は?

IIHは妊娠可能年齢の肥満女性に多い病気です(Boyter 2019)。年間の発症率は人口10万人あたり1〜2人ですが、妊娠可能年齢の肥満女性に限ると10万人あたり19〜21人と報告されています(Radhakrishnan 1994)。肥満の増加とともに発症率も上がっています(Boyter 2019)。

症状

  • 頭痛
  • 見え方の低下(視野が狭くなる・一瞬暗くなる)
  • 拍動性耳鳴
  • 複視(ものが二重に見える)、吐き気

これらが代表的な症状です(Boyter 2019)。治療の大きな目標は、症状を和らげることと、戻らない視力低下を防ぐことです(Wang 2022)。

気になる症状があれば医療機関を受診してください。

MRIでどう見える?

IIHの診断は「画像で原因になる病変がない」ことが前提です。そのうえで、頭蓋内圧が高いことを示唆する所見が知られています(Barkatullah 2021)。

所見 見え方
empty sella(空虚トルコ鞍) 下垂体が押しつぶされ、トルコ鞍の中が髄液で満たされて見える
眼球後部の平坦化 T2強調像の横断像で、眼球の後ろ側(視神経が付く所)が平らになる
視神経鞘の拡大 視神経のまわりのくも膜下腔(髄液)が広がる
視神経の蛇行 視神経が曲がりくねって見える
視神経乳頭の突出 視神経乳頭が眼球の中へ盛り上がる
横静脈洞狭窄 MR静脈撮影(MRV)で横静脈洞が細くなる
スリット状の脳室 脳室が細く見える

これらの所見は治療で頭蓋内圧が下がると戻ることがあり、頭蓋内圧上昇の目印になりうるとされます(Barkatullah 2021)。

一方で、MRIが正常でもIIHは否定できません。うっ血乳頭、髄液初圧25 cmH2O以上、画像所見4つのうち3つ以上、の3項目のうち2つでIIHとする提案基準を検証した研究では、画像所見(4つ中3つ以上)の感度は39.2%、特異度は91.3%でした(Macher 2024)。「所見がそろえばIIHらしいが、そろわなくても除外はできない」という使い方になります。

静脈洞の解剖は脳静脈・静脈洞の解剖をMRI・MRVで解説も参考にしてください。

症例 30歳代女性 特発性頭蓋内圧亢進症

特発性頭蓋内圧亢進症 MRI T2強調像 矢状断像 empty sella
引用:Radiopaedia(Idiopathic intracranial hypertension)

トルコ鞍が広がって髄液で満たされ、下垂体が底に押しつけられて薄く見えます(partial empty sella)。頭痛・嘔吐・乳頭浮腫があり、腰椎穿刺で髄液圧の上昇が確かめられた症例です。

特発性頭蓋内圧亢進症 MRI T2強調像 横断像 視神経鞘拡大
引用:Radiopaedia(Idiopathic intracranial hypertension)

両側の視神経のまわりの髄液のすき間(視神経鞘)が広がり、眼球の後ろが平らに見えます。症例ページではMR静脈造影で両側横静脈洞の狭窄も指摘されています。

キアリ奇形との区別

小脳扁桃が大後頭孔より5mm以上下がっていると、キアリ奇形Ⅰ型の基準を満たします(キアリ奇形(Ⅰ型)とは?)。ところが、IIHでも小脳扁桃が下がることがあります。

  • IIHの患者43人中9人で5mm以上の小脳扁桃下垂がみられ、対照では44人中1人でした(Aiken 2012)。
  • IIHの13.2%に5mm以上の小脳扁桃下垂がありました。こうした患者はキアリ奇形Ⅰ型の患者より若くBMIが高く、下垂の程度は小さめでした(平均6.5mm 対 10.9mm)(Ebrahimzadeh 2022)。
  • 両側横静脈洞狭窄はキアリ奇形Ⅰ型との区別に感度69.2%・特異度96.1%、下垂体の高さとトルコ鞍の比が0.5未満は感度69.2%・特異度75.3%でした(Ebrahimzadeh 2022)。
読影のポイント
若い肥満女性の小脳扁桃下垂を見たら、横静脈洞狭窄・扁平な下垂体・視神経鞘の拡大を探してIIHの可能性をレポートに書く。

 

心配な場合と次にすること

IIHでいちばん避けたいのは視力・視野の低下です。見え方が悪くなってきている、急に視力が落ちた、という場合は早めに受診してください。

診断には、眼科での眼底検査(うっ血乳頭の有無)と視野検査、腰椎穿刺での髄液初圧と髄液成分の確認、MRI・MRVでの二次性の原因の除外を組み合わせます。治療では減量とアセタゾラミドの有効性がランダム化比較試験で示されており、薬で抑えられない場合や急速に進む場合には、視神経鞘開窓術などの手術が検討されます(Wang 2022)。どの治療を選ぶかは主治医と相談してください。

よくある疑問(Q&A)

Q. MRIで所見が1つだけ指摘されました。IIHですか?

A. 所見1つだけではIIHとは言えません。診断は症状、眼底(うっ血乳頭)、髄液圧を合わせて判断します(Macher 2024)。

Q. MRIで何もなければIIHではない?

A. 画像所見(4つ中3つ以上)の感度は39.2%と低く、MRIが正常でもIIHは否定できません(Macher 2024)。見え方の症状があれば眼科で眼底を診てもらいましょう。

Q. キアリ奇形と言われたけど手術は必要?

A. IIHによる小脳扁桃下垂では治療方針が異なるため、IIHの所見がないか確認したうえで、脳神経外科・脳神経内科の主治医と相談してください。

あわせて読みたい:拍動性耳鳴の原因と画像検査

参考文献

  1. Friedman DI, Liu GT, Digre KB. Revised diagnostic criteria for the pseudotumor cerebri syndrome in adults and children. Neurology. 2013;81(13):1159-65. PubMed
  2. Boyter E. Idiopathic intracranial hypertension. JAAPA. 2019;32(5):30-35. PubMed
  3. Radhakrishnan K, Ahlskog JE, Garrity JA, et al. Idiopathic intracranial hypertension. Mayo Clin Proc. 1994;69(2):169-80. PubMed
  4. Barkatullah AF, Leishangthem L, Moss HE. MRI findings as markers of idiopathic intracranial hypertension. Curr Opin Neurol. 2021;34(1):75-83. PubMed
  5. Macher S, Marik W, Krajnc N, et al. The additive value of complementing diagnostic idiopathic intracranial hypertension criteria by MRI – an external validation study. J Headache Pain. 2024;25(1):70. PubMed
  6. Aiken AH, Hoots JA, Saindane AM, et al. Incidence of cerebellar tonsillar ectopia in idiopathic intracranial hypertension: a mimic of the Chiari I malformation. AJNR Am J Neuroradiol. 2012;33(10):1901-6. PubMed
  7. Ebrahimzadeh SA, Du E, Chang YM, et al. MRI findings differentiating tonsillar herniation caused by idiopathic intracranial hypertension from Chiari I malformation. Neuroradiology. 2022;64(12):2307-2314. PubMed
  8. Wang MTM, Bhatti MT, Danesh-Meyer HV. Idiopathic intracranial hypertension: Pathophysiology, diagnosis and management. J Clin Neurosci. 2022;95:172-179. PubMed

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