膿胸(empyema)とは、胸膜腔内に膿が貯留する状態であり、肺炎などの感染症に続発することが多い重大な合併症です。
胸部CTを中心とした画像診断は、膿胸の診断・鑑別・治療方針決定において重要な役割を果たします。
本記事では、膿胸における典型的な画像所見を中心に、鑑別すべき疾患や注意点を解説します。
先に結論:膿胸のCT
- 膿胸は、肺炎などに続いて胸の中(胸膜腔)に膿がたまった状態で、発熱・胸痛・息苦しさが続きます。抗菌薬だけでは治りにくく、胸腔ドレナージ(管を入れて膿を出す)や手術が必要になることが多いです
- 造影CTでは、レンズ形の液体のたまりを、造影されて厚くなった壁側胸膜と臓側胸膜が両側からはさむ(split pleura sign)のが典型です。隔壁(被包化)があるとドレナージが効きにくくなります
- 肺膿瘍(肺の中の膿)との区別が大切で、膿胸は胸壁に沿ったレンズ形で肺を押しのけ、肺膿瘍は肺の中の丸い空洞です
- 膿胸かどうかは最終的に胸水の検査(膿の見た目・グラム染色/培養・pH)で決めます。CT値だけでは決められません
※肺炎のあとに熱や胸の痛みが続くときは、早めに受診してください。
膿胸の画像所見:CTで確認すべきポイント
- split pleura sign:
造影CTで内臓胸膜と壁側胸膜がそれぞれ造影され、膿性胸水によって分離される像。膿胸の診断において最も信頼性の高い所見のひとつ。 - 胸水のレンズ状(lenticular)形状:
胸膜腔内に沿って外側に広がる形状。肺実質内病変(肺膿瘍など)と区別する重要なヒント。 - 胸膜の肥厚・造影効果:
感染による炎症反応で胸膜が肥厚し、造影効果を伴う。肺炎随伴性胸水50例の検討では、CTで胸膜の造影効果は全例、胸膜肥厚は92%、胸膜外脂肪の肥厚は76%にみられた。ただし肥厚の程度は胸膜感染の病期や手術の要否と有意に関連せず、CT所見だけでドレナージ不成功例を予測することはできない。 - loculation(被包化):
内部に隔壁を伴い、単純な自由液体とは異なる構造をとる。 - air-fluid level(空気液面):
穿刺やドレナージをしていないのに空気と液体が共存する場合は、気管支胸膜瘻やガス産生菌による感染を疑う。
症例 70歳代 男性 発熱、呼吸困難、左側の胸痛、喀痰を伴う咳嗽。

引用:Radiopaedia
左側にレンズ状の胸水があり、それを挟むように肥厚し造影効果を示す胸膜が認められ、典型的なsplit pleura signを示しています。
膿胸(empyema)を疑う所見です。
鑑別診断:膿胸とよく似た疾患
| 疾患 | 膿胸との違い | 画像的な特徴 |
|---|---|---|
| 肺膿瘍 | 肺実質内病変 | 球状、壁の肥厚不整、中心に空気液面 |
| 胸膜中皮腫 | 腫瘍性胸膜肥厚 | 結節状・不整で厚い(1cm以上)胸膜肥厚、縦隔側の胸膜にも及ぶ、胸郭の縮小(石灰化した胸膜プラークを伴うことがある) |
| 術後・放射線性胸水 | 無菌性炎症性貯留 | 軽度の胸膜肥厚、被包化なし、造影効果弱い |
診断の流れと治療への影響
- 画像で胸水+胸膜肥厚+split pleura signを認めた場合、膿胸の可能性が高く、迅速な対応が必要。
- 胸水穿刺によるグラム染色・培養検査が診断の補完として重要。
- loculated empyemaでは抗菌薬単独では不十分であり、ドレナージが必要となる。英国胸部学会(BTS)2023年ガイドラインでは、肉眼的に膿性、グラム染色・培養陽性、胸水pHの低下のいずれかで胸腔ドレナージを推奨し、ドレナージが不十分な場合は胸腔内tPA/DNase療法や外科治療を検討するとしています。
膿胸の診断基準と胸水所見
- 胸水が肉眼的に膿であれば膿胸、グラム染色・培養が陽性であれば胸膜の感染があると判断し、ドレナージを考えます。
- 胸水のpHはドレナージが必要な肺炎随伴性胸水を見分ける力が最も高く(AUC 0.92、ブドウ糖0.84、LDH 0.82)、判断の境目はpH 7.21〜7.29の範囲で報告されています(Heffner 1995)。
- 穿刺前のCTでは、split pleura signと胸水の厚み30mm以上の両方があると、ドレナージが必要な胸水(複雑性肺炎随伴性胸水・膿胸)を感度79.4%・特異度80.9%で見分けられました(Tsujimoto 2015)。
膿胸と肺膿瘍の違い
| 膿胸 | 肺膿瘍 | |
|---|---|---|
| 場所 | 肺の外(胸膜腔) | 肺の中 |
| 形 | 胸壁に沿ったレンズ形、胸壁との角度はなだらか | 丸い、胸壁との角度は鋭いことが多い |
| 壁 | 薄く均一(split pleura sign) | 厚く不整 |
| 周りの肺 | 押しのけられ、血管・気管支が曲がる | 病変の中で途切れる |
70病変の検討では、CTだけで肺膿瘍と膿胸を全例(70/70)正しく区別でき、最も頼りになったのは壁の性状・胸膜の分離(split pleura)・肺の圧排でした(Stark 1983)。
膿胸を疑ったときのCTチェックリスト
- 胸水の分布:自由 or 被包化?
- 胸膜の状態:肥厚・造影あり?
- Split Pleura Signの有無
- air-fluid levelの有無
- 肺実質内病変との連続性の有無(肺膿瘍との鑑別)
まとめ:膿胸のCT診断の要点
- Split Pleura Signは膿胸の診断において非常に有用
- 画像的には胸膜肥厚・造影、被包化、空気液面などを総合的に判断
- 鑑別には肺膿瘍・中皮腫・術後変化を想定して読影
- 画像診断の精度が、ドレナージの適応判断に直結する
膿胸のCTでよくある疑問(Q&A)
Q. CT値(HU)で膿胸かどうかわかりますか?
A. 目安にはなりますが決め手にはなりません。CT値10HU以上は膿胸などで多い所見でしたが、多変量解析で独立した因子として残ったのはsplit pleura signと胸水の量でした(Tsujimoto 2015)。100例の検討では滲出性と漏出性の胸水でCT値に有意差はありませんでした(Abramowitz 2009)。
Q. レントゲンでもわかりますか?
A. 胸水の影は見えますが、肺膿瘍との区別は難しいことがあります。上の検討では、CTで胸部X線写真にない情報が得られたのは47%でした(Stark 1983)。
参考文献:
- Stark DD, Federle MP, et al. Differentiating lung abscess and empyema: radiography and CT findings. AJR. 1983;141(1):163–167. PubMed
- Tsujimoto N, Saraya T, Light RW, et al. A simple method for differentiating complicated parapneumonic effusion/empyema from parapneumonic effusion using the split pleura sign and the amount of pleural effusion on thoracic CT. PLoS One. 2015;10(6):e0130141. PubMed
- Feller-Kopman D, Light R. Pleural disease. N Engl J Med. 2018;378(8):740-751. PubMed
- Roberts ME, Rahman NM, Maskell NA, et al. British Thoracic Society Guideline for pleural disease. Thorax. 2023;78(Suppl 3):s1-s42. PubMed
- Kearney SE, Davies CW, Davies RJ, et al. Computed tomography and ultrasound in parapneumonic effusions and empyema. Clin Radiol. 2000;55(7):542-7. PubMed
- Leung AN, Müller NL, Miller RR. CT in differential diagnosis of diffuse pleural disease. AJR Am J Roentgenol. 1990;154(3):487-92. PubMed
- Heffner JE, Brown LK, Barbieri C, et al. Pleural fluid chemical analysis in parapneumonic effusions. A meta-analysis. Am J Respir Crit Care Med. 1995;151(6):1700-8. PubMed
- Abramowitz Y, Simanovsky N, Goldstein MS, et al. Pleural effusion: characterization with CT attenuation values and CT appearance. AJR Am J Roentgenol. 2009;192(3):618-23. PubMed
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