鎖骨下動脈盗血症候群(Subclavian Steal Syndrome, SSS)
- 鎖骨下動脈の狭窄または閉塞により、椎骨動脈を通じて血液が逆流し、脳や上肢への血流が不足する病態で1961年にFisherが最初に報告した 。
- 鎖骨下動脈が椎骨動脈分枝部よりも近位で狭窄もしくは閉塞→健側の椎骨動脈経由で逆流し、患側の鎖骨下動脈を栄養するようになる。逆流により脳虚血症状が出現する。
- 通常、左側の鎖骨下動脈で発生しやすいとされている。
- 原因は、動脈硬化が最多。他、大動脈炎(Takayasu’s arteritis)、血栓症、外傷など。
- 症状は、上肢の疲労感や虚弱感、上肢の運動時に悪化する疼痛、頭痛、めまい、失神、視覚異常やバランスの喪失など多岐にわたる。上肢を使用した際に特に顕著になることが多い。
盗血とは?
盗血とは、血管の狭窄や閉塞により、ある部位への血流が不足するため、他の血管から血液が逆流して補おうとする現象。
鎖骨下動脈盗血症候群(Subclavian Steal Syndrome, SSS)の画像所見
診断は臨床症状の確認とともに、以下の検査によって行われる。
- ドップラー超音波検査:血流の方向や速度を測定
- 血管造影:血管の形態を詳細に評価
- 磁気共鳴血管造影(MRA):非侵襲的に血管の状態を確認
- CTA:造影剤を用いて血管の状態を確認
特に、血流の逆流が確認されることが診断の決め手となる。
症例 60歳代 めまい
引用:radiopedia
ドップラー超音波検査において、左椎骨動脈に順行性および逆行性の血流が確認されている。
MRAでは左椎骨動脈起始部狭窄を認め、右椎骨動脈→(脳底動脈)→左椎骨動脈経由で逆流して、左鎖骨下動脈領域を栄養していることがわかる。鎖骨下動脈盗血症候群(Subclavian Steal Syndrome, SSS)を疑う所見です。
(MRAは上方向の血流を画像化しているため、逆流を認める左椎骨動脈の描出が右と比べて不良となっている。)
関連:MRIで血管内(動脈内,静脈内)の高信号や低信号を決定する因子とは?
参考文献:
- “Subclavian Steal Syndrome is most commonly caused by atherosclerosis, which leads to the narrowing or occlusion of the subclavian artery.” (Caplan, L.R., & Thomas, C., 2004)
- Fisher, C.M. (1961). “Occlusion of the Subclavian Artery and its Clinical Significance”. New England Journal of Medicine, 265, 904-910.
- Caplan, L.R., & Thomas, C. (2004). “Subclavian Steal Syndrome”. In: Neurology in Clinical Practice. Butterworth-Heinemann.
- Macchi, C., Prati, P., Gianfagna, F., et al. (2013). “Epidemiology of the Subclavian Steal Syndrome: A Population-Based Study”. Stroke, 44(2), 300-305.
- Setacci, C., de Donato, G., Setacci, F., et al. (2011). “Surgical vs. Endovascular Treatment of Subclavian Steal Syndrome: A Prospective Randomized Study”. European Journal of Vascular and Endovascular Surgery, 41(2), 219-225.