先に結論:脳静脈と静脈洞の流れ(上矢状静脈洞など)
- 脳の静脈血は、硬膜の間にある太い通り道=静脈洞(硬膜静脈洞)に集まり、最終的に内頸静脈から心臓へ戻ります
- 主な流れ:上矢状静脈洞(頭のてっぺんの正中を前から後ろへ)と直静脈洞(脳の深い部分の血液=内大脳静脈・脳底静脈→ガレン大静脈→直静脈洞)が後頭部の静脈洞交会で合流し、左右の横静脈洞→S状静脈洞→内頸静脈へ流れます
- 脳の表面の静脈(皮質静脈)には、上矢状静脈洞へつながるトロラール静脈、横静脈洞へつながるラベー静脈、海綿静脈洞へ向かう浅中大脳静脈があります。これらの静脈が詰まる脳静脈洞血栓症の診断にはMRV(MR静脈撮影)や造影CTが使われます
- 横静脈洞は左右差が大きく、健康な人でも片側(多くは左)が細い・MRVで途切れて見えることがあります。血栓と間違えないことが大切です
脳の静脈の走行
脳の静脈血の大部分は、静脈洞を経由してS状静脈洞(sigmoid sinus)に向かい、内頸静脈(internal jugular vein)から心臓に還流する。
テント上の脳静脈は
- 表在静脈系
- 深部静脈系
に大きく分けられる。
主な硬膜静脈洞の一覧
静脈洞(硬膜静脈洞)は、脳を包む硬膜が2枚に分かれたすき間にできた、壁の硬い静脈の通り道です。
| 静脈洞 | 場所 | 流れ込むもの → 流れる先 |
|---|---|---|
| 上矢状静脈洞 | 大脳鎌の上の縁(頭頂の正中を前から後ろへ) | 上大脳静脈・トロラール静脈 → 静脈洞交会 |
| 下矢状静脈洞 | 大脳鎌の下の縁(脳梁の上) | 大脳鎌・内側面の静脈 → 直静脈洞 |
| 直静脈洞 | 大脳鎌と小脳テントの合わせ目 | ガレン大静脈・下矢状静脈洞 → 静脈洞交会 |
| 静脈洞交会 | 後頭部の内側(内後頭隆起) | 上矢状静脈洞・直静脈洞 → 左右の横静脈洞 |
| 横静脈洞 | 小脳テントの付け根(後頭骨の内側を横へ) | 静脈洞交会・ラベー静脈 → S状静脈洞 |
| S状静脈洞 | 側頭骨の乳突部の内側をS字に下る | 横静脈洞 → 頸静脈孔から内頸静脈 |
| 海綿静脈洞 | トルコ鞍の両わき | 眼静脈・浅中大脳静脈 → 錐体静脈洞など |
横静脈洞の左右差
横静脈洞は左右の太さが違うことが多く、正常のMRIの人105人を調べた研究では、左右対称は31%だけで、左の低形成が39%、左の無形成が20%でした(Alper 2004)。100人の正常MRVを見た別の研究では、31%で横静脈洞の一部が途切れて見え(flow gap)、その90%は細いほうの横静脈洞でした(Ayanzen 2000)。「横静脈洞が細い・写らない」だけで血栓と決めつけず、T1・T2強調像での血栓の信号や造影所見とあわせて判断します。
表在静脈系(浅大脳静脈)
- 表在静脈系は、大脳半球脳表を走行する皮質静脈で、脳表面上半部からの血流(上大脳静脈群)と、下半部からの血流(下大脳静脈群)に分けられる。
- 上大脳静脈群は、上吻合静脈(superior anastomotic vein(Trolard静脈(トロラール静脈)))や上大脳静脈(superior cerebral vein)から上矢状静脈洞(superior sagittal sinus)に還流する。
- 下大脳静脈群は、下吻合静脈(inferior anastomotic vein(Labbe veinラベー静脈))から横静脈洞に注ぐ経路と、浅中大脳静脈(superficial sylvian vein,浅シルビウス裂静脈)から海綿静脈洞、laterocavernous sinusまたはparacavernous sinusなどに還流する経路がある。
- 上吻合静脈(トロラール静脈)、浅中大脳静脈(浅シルビウス裂静脈)、下吻合静脈(ラベー静脈)は、相補的な関係にある。
症例 50歳代女性

- 上吻合静脈(トロラール静脈):浅中大脳静脈と上矢状静脈洞を結ぶ。
- 浅中大脳静脈(浅シルビウス裂静脈):海綿静脈洞や蝶形頭頂静脈洞に合流する。
- 下吻合静脈(ラベー静脈):浅中大脳静脈と横静脈洞を結ぶ。
表在静脈系(浅大脳静脈)の支配領域
表在静脈系(浅大脳静脈)は、上大脳静脈群、浅中大脳静脈、下大脳静脈群からなりその支配域は以下のようになる。

深部静脈系(脳深部静脈)
- 深部静脈系は、主に基底核、間脳、中脳、大脳深部白質の髄質静脈からの還流を受ける静脈に相当する。
- 脳底静脈(basal vein of Rosenthal(ローゼンタール静脈))や内大脳静脈(internal cerebral vein)を経てGalen大静脈(ガレン大静脈)(Galen vein(大大脳静脈great cerebral vein))に還流し、直静脈洞(straight sinus)に注ぐ。なお、直静脈洞には下矢状静脈洞(inferior sagittal sinus)からの血液も注ぎ、静脈洞交会(読み方はジョウミャクドウコウカイ)(confluence of sinuses)からの内頚静脈に向かう。
- なお、Galen静脈には前中心小脳静脈(Precentral cerebellar vein)なども還流する。

これらの解剖を実際の画像を見ながら動画解説しました。
症例 20歳代女性

引用:Radiopaedia
脳の静脈がよく見えるMRVの画像でチェックします。
正中部の矢状断像で、内大脳静脈(internal cerebral vein)および前中心小脳静脈(Precentral cerebellar vein)がガレン大静脈(Galen vein)に還流している様子がわかります。

そのガレン大静脈は下矢状静脈洞と合流して直静脈洞となっています。

正中部からやや左右にずらすと、脳底静脈(ローゼンタール静脈)もガレン大静脈(Galen vein)に合流していることがわかります。

次に横断像で見てみましょう。左から右に頭側から尾側へスライスした連続画像です。

これらの静脈がガレン大静脈に還流する部位なのですが、合流する部位のみ拡大すると次のようになります。

まず左右の内大脳静脈がガレン大静脈に還流します。
3枚目のスライスで内大脳静脈よりも大きい角度で合流する脳底静脈を同定できます。正中部には真下方向に還流する前中心小脳静脈を同定できます。
その後脳底静脈は中脳を縁取るように走行していることがわかります。
深部静脈系(脳深部静脈)の支配領域
深部静脈系(脳深部静脈)は、深部白質の髄質静脈、内大脳静脈、脳底静脈〜Galen静脈からなりその支配域は以下のようになる。

MRV(MR静脈撮影)とは?
MRV(MR venography)は、MRIで脳の静脈と静脈洞を写す撮り方です。造影剤を使わない方法(TOF法・PC法)と、造影剤を使う方法があります。脳静脈洞血栓症を疑うときや、静脈洞の形を確かめたいときに撮影されます。動脈を写すMRAに対して、静脈を写すのがMRVです。上の研究では、上矢状静脈洞・直静脈洞・ガレン大静脈・内大脳静脈は100人全員で写り、ローゼンタール静脈(脳底静脈)は91%で写っていました(Ayanzen 2000)。
脳静脈でよくある疑問(Q&A)
Q. ガレン静脈とガレン大静脈は同じですか?
同じものです。英語ではvein of Galen、great cerebral vein(大大脳静脈)と呼ばれます。左右の内大脳静脈と脳底静脈(ローゼンタール静脈)が合流してできる短く太い静脈で、下矢状静脈洞と合わさって直静脈洞になります。
Q. MRVで横静脈洞が写っていないと言われました。血栓ですか?
健康な人でも、細いほうの横静脈洞(多くは左)が細かったり途切れて見えたりすることがよくあります(Alper 2004)。頭痛などの症状がある場合は、ほかの撮り方や造影検査とあわせて血栓かどうかを判断します。気になる症状があれば医療機関で相談してください。
関連記事:脳静脈洞血栓症のCT、MRI画像診断のポイントは?
実際の画像で確かめるには、画像診断cafeの頭部MRIの正常解剖ツールで、スライスを動かしながら構造をタップすると名前が表示されます(無料・登録不要)。全体の見方は頭部MRIの解剖にまとめています。
あわせて読みたい:海綿静脈洞内の脂肪沈着とは?
参考文献:
- 頭部画像診断徹頭徹尾 P221-227
- 勝部敬, 河原愛子. 読影レポート Lesson 脳静脈・静脈洞血栓症. 画像診断 43(1):122-125, 2023(本記事の参照: P122-125)
- 松木充. 頭部単純CTの系統的読影法−読影は頭部単純CTに始まり,頭部単純CTで終わる!? 画像診断 37(13):1287-1302, 2017(本記事の参照: P1297)
- イラスト解剖学 第10版 P596
- Kiliç T, Akakin A. Anatomy of cerebral veins and sinuses. Front Neurol Neurosci. 2008;23:4-15. PubMed
- Saposnik G, Bushnell C, Coutinho JM, et al. Diagnosis and Management of Cerebral Venous Thrombosis: A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke. 2024;55(3):e77-e90. PubMed
- Ayanzen RH, Bird CR, Keller PJ, et al. Cerebral MR venography: normal anatomy and potential diagnostic pitfalls. AJNR Am J Neuroradiol. 2000;21(1):74-8. PubMed
- Alper F, Kantarci M, Dane S, et al. Importance of anatomical asymmetries of transverse sinuses: an MR venographic study. Cerebrovasc Dis. 2004;18(3):236-9. PubMed
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脳静脈系について、とても親切にご解説くださりありがとうございます。
前中心小脳静脈・ローゼンタール・内大脳が合流し(inferior sagittalも合わさり)ガレンになる様子がとってもよくわかりました。
今まで、この解剖についてこんなにスッキリわかったことがありませんでした。
ありがとうございました!
コメントありがとうございます。
まとめた本人が一番スッキリしているという説もあります。