卵巣成熟嚢胞性奇形腫(mature cystic teratoma/dermoid cyst)
- 類皮嚢胞腫(皮様嚢腫)(dermoid cyst)とも呼ばれる良性の卵巣腫瘍。
- 卵巣の胚細胞腫瘍の中の奇形腫に分類される。
- 生殖可能年齢の女性に好発する。
- 卵巣腫瘍の20-40%と最多。
- 組織学的には表皮や神経組織などの外胚葉成分、消化管粘膜上皮や甲状腺などの内胚葉成分、骨や平滑筋などの中胚葉成分が見られる。
- 画像による脂肪成分を同定することが診断に有用。
- 合併症としては、捻転、破裂、悪性転化がある。
- 破裂をすると、腹腔内に漏出した嚢胞内成分による腹膜刺激により、激烈な痛みを伴う化学性腹膜炎(chemical peritonitis)を引き起こす。
(内膜症性嚢胞の破裂でも化学性腹膜炎は起こる)
化学性腹膜炎の原因
- 卵巣皮様嚢胞破裂:脂肪、膵液、消化酵素など。
- 内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)破裂:古い血液。
- 胆汁漏、膵液漏。
- 腹膜透析、胎便、異物など。
(日独医報第51巻第1号2006年P97より引用。)
- 卵巣捻転のうち、成熟嚢胞性奇形腫が最多。特に妊婦に多い。
- 悪性転化は閉経後50-55歳に多い。扁平上皮癌が8割>腺癌1割。SCC上昇 2.5以上で感度80%。
- CA19-9が上昇することがある(50%以下)。サイズの大きな腫瘍で高い傾向にあるとされる。捻転や破裂により高値となることがあるとも報告されている。
卵巣成熟嚢胞性奇形腫のCT,MRI画像所見
- 嚢胞内に脂肪を含み、CTでは脂肪成分の含有が見られ、MRIではT1WIで高信号を示し、脂肪抑制T1WIで信号低下する。
- 時にCTで壁内に嚢胞内石灰化(歯牙)を認める。
- 脂肪と脂肪以外の液体成分との境はfat-fluid level(液面形成)を呈することが多い。
- 腫瘍内に充実性の壁在結節(増強効果あり)が存在することある。成熟嚢胞性奇形腫では悪性を意味しない。結節をdermoid nipple、Rokitansky protuberanceなどと呼ばれる。多くの場合、ここに三胚葉性の組織が含まれる。
- 若年者では、脂肪成分に乏しい嚢胞性腫瘤として認められることが多い。→若年者では、注意深く脂肪成分を探す。逆に、若年者の場合、脂肪がないからといって成熟嚢胞奇形腫を否定できない。
症例 30歳代 女性 スクリーニング
単純CTで膀胱左背側に内部に脂肪成分および石灰化を有する腫瘤を認めています。
成熟嚢胞性奇形腫を疑う所見です。
症例 20歳代女性 右卵巣腫瘍精査
骨盤内右側にT1WIで高信号の嚢胞性病変あり。
T1WIで高信号であった部位はT2WIでも高信号であり、その背部にも高信号の嚢胞を認めています。
脂肪抑制のT1WIで高信号が抑制されており、内部に脂肪であることがわかります。
成熟嚢胞性奇形腫を疑う所見です。
動画で学ぶ成熟嚢胞性奇形腫
参考:臨床画像 vol.34 No.4 2018 P404