先に結論:肺塞栓症(肺血栓塞栓症)とCT
- 足や骨盤の静脈にできた血栓(深部静脈血栓症)がはがれて肺の動脈に詰まる病気で、急な息苦しさ・胸の痛み・失神で発症し、大きな血栓では突然死もある緊急疾患です。長時間の同じ姿勢、手術後、がん、妊娠などが危険因子です
- 診断の中心は造影CT(肺動脈CTA)で、肺動脈の中に造影されない血栓(造影欠損)を探します。同時に右心室の拡大・心室中隔の平坦化(右心負荷=重症のサイン)と、足の静脈の血栓(CTV)も確認します
- 治療は抗凝固療法(ヘパリン→DOACまたはワルファリン)が基本で、ショックなど重症例では血栓溶解療法やカテーテル治療・手術を行います。慢性化すると慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)になることがあります
- 肺梗塞はCTで胸膜に接する末梢の浸潤影として見え、中心部の透亮像やreversed halo signが肺炎との区別の手がかりになります
※急な息苦しさ・胸の痛み、片足のむくみと痛みがあるときは、すぐに救急受診してください。
肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PE,PTE)
- 下肢や骨盤腔内の深部静脈に生じた血栓(深部静脈血栓症,deep vein thrombosis:DVT)が発生部位から剥離して、肺動脈に到達して閉塞することにより発症する疾患。
- 急性の肺血栓塞栓症は、急性心筋梗塞、大動脈解離および破裂とともに致死的な循環器領域の救急疾患である。
- 臨床症状は、呼吸困難や胸痛、全身倦怠感など。大量の血栓塞栓の場合は、ショックから突然死に至る場合もある。
- 肺梗塞を合併することがある。
- 発症後2週間以上経過しても血栓が残存している場合は、亜急性PTEと呼ばれることがある。6ヶ月以上経過し、肺血管の閉塞が持続固定した症例が慢性PTEと呼ばれる。
- 治療は、抗凝固療法(急性期にはヘパリン、急性期以降はワルファリンまたは直接経口抗凝固薬(DOAC))、血栓溶解療法(ウロキナーゼ、t-PA)、カテーテルインターベンション、肺動脈血栓摘除術、下大静脈フィルター。
- 慢性肺動脈血栓塞栓症は、肺高血圧症の一因であり、急性肺血栓塞栓症患者の約3.8%が2年以内に慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)へ進行したと報告されている(Pengo 2004)。内膜摘除術により治療可能な病態であり、他の肺高血圧症と鑑別することが重要。
肺血栓塞栓症の検査所見
動脈血ガス分析
- 低酸素血症とこれを是正するための過換気を原因とする低二酸化炭素血症が特徴。
関連記事)血ガスの読み方の簡単な要点!見るべき3つの項目と評価方法。
心電図
- 急性のPTEでは右脚ブロックやV1-3のST上昇、種々の不整脈が起こる。発症後一定期間が経過すると右軸偏位やSⅠQⅢTⅢ波、胸部誘導V1-3の陰性T波が見られるようになる。
胸部レントゲン
心胸比の拡大や
- 肺動脈の局所的な拡大(Knuckle sign)、
- 肺血管分布に一致する血管影減少(Westermark’s sign)
が見られる場合がある。肺梗塞例では、
- 胸水・胸膜面を底辺とする楔状の肺浸潤影(Hampton’s hump)
が存在する。
関連記事)knuckle sign、Westermark sign(肺塞栓症のX線所見)
心エコー・ドップラ検査
- 極めて有用。近位肺動脈の拡大、左室と同等かそれ以上の右室拡大と壁運動低下、心室中隔の奇異性壁運動、三尖弁閉鎖不全などと、下大静脈径の呼吸性変動の消失など。
血液生化学検査
- 臨床的確率が高くない患者でD-dimer値が500μg/L未満であれば除外できる。50歳以上では「年齢×10μg/L」を基準とする年齢調整カットオフも用いられ、ADJUST-PE研究で安全性が示されている(臨床的確率が高い場合はD-dimerによらず画像検査を行う、Righini 2014)。しかし担癌状態や感染、炎症など多くの病態でフィブリンは産生されるため、500以上でも診断はできない。
肺血流シンチ
- 肺門部方向を頂点とする楔型の陰影欠損があれば診断できる。
肺動脈血栓塞栓症のCT所見
- 第一選択。
- MDCTの発達により肺動脈主幹部や主肺動脈、区域枝肺動脈内までの血栓の描出ができるようになった。
- 造影CTでは血栓塞栓子を肺動脈内の造影欠損として確認できる。急性の場合は血栓は肺動脈内で浮遊しているように見える。急性の部分的な欠損は血管の中心に見えることが多く、偏在する場合は血管壁と鋭角をなします(慢性では鈍角)。急性塞栓で完全閉塞した動脈は拡張することがあります。
- 慢性肺血栓塞栓症では、肺動脈から鈍角に立ち上がり、壁に接する血栓を認める。
- 急性および慢性共に、右心系の拡大を認めることが多い。
- CTでは、右心系の拡大から右心不全の評価が可能。49研究・13,162例のメタ解析では、横断像で測った右室/左室径比の増大は全死亡リスク約2.5倍(オッズ比2.5)、肺塞栓関連死亡約5倍(オッズ比5.0)と関連し、CTの重症度指標のなかで最も予測能が高かった。一方、血栓量や中枢側の血栓位置は全死亡の予測因子とならなかった(Meinel 2015)。
- 多施設前向き研究(PIOPED II)では、造影CT(CTA)の感度は83%・特異度は96%で、下肢静脈の撮影(CTV)を加えると感度90%・特異度95%に上がりました(Stein 2006)。臨床的な可能性とCT結果が食い違う場合は、追加の検査を考えます。
肺梗塞のCT所見
肺塞栓に伴って肺の末梢が壊死すると肺梗塞になります。胸膜に接する末梢の浸潤影として見え、肺炎などとの区別が問題になります。
| 所見 | 見え方 | 肺梗塞での頻度・意味 |
|---|---|---|
| 中心部の透亮像(central lucency) | 浸潤影の中に小さな低吸収域が混じる | 肺梗塞の46%にみられ、他の末梢浸潤影では2%。特異度98%(Revel 2007) |
| vessel sign | 浸潤影の頂点に太い血管が向かう | 肺梗塞32% vs その他11%(Revel 2007) |
| 三角形(楔状)の形 | 胸膜側を底辺とする三角形 | 肺梗塞52% vs その他40%で、差は小さい(Revel 2007) |
| エアブロンコグラム | 浸潤影の中を気管支の空気が走る | 肺梗塞では8%と少なく、多ければ肺炎寄り(Revel 2007) |
| reversed halo sign | 中心がすりガラス〜低吸収で、周りがリング状の濃い影 | 急性肺塞栓に伴う肺梗塞86病変のうち38.4%にみられ、すべて胸膜下だった(Mançano 2019) |
肺梗塞は下葉に多く、胸水を伴うこともあります。末梢の浸潤影を見たときは、肺炎だけでなく肺梗塞も考え、造影CTで肺動脈の血栓を探します。
単純CTでわかる肺塞栓の手がかり
- 造影しないCTでも、太い肺動脈の中の血栓が周りの血液よりやや高い吸収値として見えることがあります。
- 肺動脈本幹の拡張(肺動脈/大動脈の径比の増大)、右心系の拡大、肺梗塞を示す末梢の浸潤影、胸水も手がかりになります。
- 中枢側の急性肺塞栓では、単純CTでの肺動脈内の異常な濃度・肺動脈/大動脈径比・奇静脈の所見を組み合わせたモデルが予測に役立ったという報告があります(AUC 0.877、Deng 2025)。
ただし、単純CTで肺塞栓を否定することはできません。疑ったら造影CTを行います。
CTで右心不全を示唆する所見
- 右室拡大
- 左房縮小
- 肺動脈拡張
- 下大静脈拡張
- 心室中隔の平坦化、左室方向への偏位
CTVによるDVTの評価
- DVTの有無
- 部位、範囲
- 静脈径の拡張や狭小化
- 静脈壁や周囲軟部組織の状態
- 患肢の腫脹の有無
PIOPED IIでは、肺動脈CTAに続けて撮るCTVと下肢の圧迫超音波のDVT診断は95.5%で一致し、どちらを使っても診断結果は同等でした(Goodman 2007)。
DVTの形態
- 完全造影欠損(complete defect)
- 中心性造影欠損(concentric defect)
- 偏心性造影欠損(eccentric defect):層流などと鑑別を要する。
慢性肺動脈血栓塞栓症の診断基準
- 動脈の完全閉塞
- 動脈壁と鈍角を成す三日月状の造影欠損
- 血栓内の再開通
- 造影剤で増強される動脈内のflapあるいはweb
- 二次所見としては、気管支動脈系あるいは全身の動脈系の側副血行路の発達や随伴するモザイク灌流(肺動脈の慢性的な閉塞による血流低下域が肺野のX線透過性の上昇した領域として認められる)、偏心性に肥厚した肺動脈壁の石灰化など。
- 副所見として肺高血圧による肺動脈本幹の拡張や心周囲の液貯留など。
lung PBV (perfused blood volume)による評価
- Dual-energy CTを用いると肺野の造影剤分布をヨードマップとして可視化できる。これを肺灌流血液量として画像的に評価する方法がlung PBV (perfused blood volume)。
- 肺塞栓部位で灌流量が減っている様子がわかる。
症例 70歳代女性 肺動脈血栓塞栓症と著明な右心系の拡大から右心不全

右肺動脈主幹に欠損あり。肺動脈血栓塞栓の所見。右房〜下大静脈の著明な拡張を認めており、胆嚢の漿膜下浮腫性変化、腹水あり。右心不全の所見。
動画で学ぶ肺動脈血栓塞栓症と深部静脈血栓症(60歳代女性)
▶キー画像
肺塞栓のCTでは卵円孔開存と右心系の血栓も見る
- 肺塞栓で右心系の圧が上がると、卵円孔開存(PFO)を通って静脈の血栓が左心系へ流れ、脳梗塞などを起こすことがあります(奇異性塞栓)。8研究・1197例のメタ解析では、PFOのある肺塞栓患者の19.5%、PFOのない患者の4.5%に虚血性脳卒中がみられ(オッズ比5.36)、PFOのある群では死亡も多い傾向でした(Lucas 2025)。
- 心エコーを行った肺塞栓12,441例の登録研究では、2.6%に右心系の血栓(右房・右室の中の血栓)があり、これがあると30日以内の全死亡(調整オッズ比2.50)と肺塞栓による死亡(調整オッズ比4.29)が多くなっていました(Barrios 2016)。
- 読影のコツ:肺動脈と下肢の静脈だけでなく、下大静脈・右房・右室の中の造影欠損や、心房中隔をまたぐ血栓がないかも見ます。肺塞栓の患者に脳・腎臓・脾臓・四肢の梗塞が同時にあれば奇異性塞栓を考え、心エコーでの確認を勧めます。
肺塞栓を疑ったときの画像診断の流れ(検査前確率とD-dimer)
肺塞栓は、症状や病歴だけでは正確に診断できません(ACR 2022)。そのため、先に「どのくらい疑わしいか(検査前確率)」を見積もり、そのうえで検査を選ぶのが基本です。
| 場面 | 考え方 |
|---|---|
| 検査前確率の見積もり | Wellsスコアや改訂Geneva(ジュネーブ)スコアなどで、低・中・高に分ける。ある研究では、肺塞栓の頻度はWellsスコアの低確率群で2%、中確率群で28%、高確率群で93%だった(Penaloza 2011) |
| 確率が低い・中等度でD-dimerが基準未満 | 肺塞栓は除外でき、CTは不要。D-dimerが陰性なら、画像検査を省ける |
| D-dimerが基準以上 | 「肺塞栓がある」とは言えない。がん・感染・炎症・妊娠などでも上がるため、陽性は画像検査へ進む合図にすぎない |
| 確率が高い | D-dimerを待たずに画像検査(造影CT)へ進む |
D-dimerは「陰性のときに除外に使う検査」であり、「陽性だから血栓がある」という検査ではありません。陽性の結果だけで診断したり、検査前確率の高い人でD-dimerが陰性だからと画像検査を省いたりしないように注意します。画像検査は、造影CT(肺動脈CTA)が主に使われる検査です。換気血流(V/Q)シンチは、一部の状況で正確で役立ちます。下肢静脈エコーは、深部静脈血栓があれば肺塞栓の代わりの根拠になりますが、陰性のときは肺塞栓を除外するために追加の検査が必要です(ACR 2022)。V/Qシンチは肺血流シンチ・換気血流シンチ(V/Qスキャン)とはで解説しています。
造影CTで「判定不能」と言われたとき
造影CTは、肺動脈の中が十分に造影され、息止めのブレが少ないときに最もよく見えます。3,612件のCT肺動脈造影の報告を調べた研究では、「判定不能・不十分」とされた237人で、その理由は体動などによるブレが74%、造影不足が40%でした。主肺動脈のCT値は判定不能例で平均245 HU、通常の例で339 HUでした(Jones 2005)。判定不能だった検査を見直すと、見逃されていた肺塞栓が5例あり、再読影や追加検査で血栓が確認されたのは4.2%でした(Jones 2005)。
- 判定不能の主な原因は、動き(息止めのブレ)と造影不足
- 臨床的な可能性が高いのに判定不能なら、「陰性」と受け取らず、再検査、V/Qシンチ、下肢静脈エコーなどを検討する
妊娠中に肺塞栓を疑うとき
妊娠中でも、肺塞栓を見逃すと危険なため診断が必要です。妊婦395人の前向き研究では、検査前確率の評価、高感度D-dimer、下肢の圧迫エコー、CT肺動脈造影という流れで進めました。低〜中等度の確率でD-dimerが陰性の場合は肺塞栓を除外し、それ以外は下肢エコーを行い、陰性ならCTを行い、CTが判定できなければV/Qシンチを行いました。診断は28人(7.1%)で、除外後に追跡した人で3か月間の症状のある静脈血栓塞栓症は0.0%(95%信頼区間0.0〜1.0%)でした(Righini 2018)。検査の選び方は、主治医・産科・放射線科で相談して決めます。
肺塞栓症の画像でよくある疑問(Q&A)
Q. 胸部レントゲンで肺塞栓はわかりますか?
A. レントゲンは正常に見えることも多く、Westermark sign・knuckle sign・Hampton’s humpなどがみられることがある程度です。息苦しさの原因として気胸や肺炎など他の病気を調べる役割が中心で、肺塞栓が疑われればCTを行います。
Q. 肺塞栓と肺梗塞は違いますか?
A. 肺塞栓は肺動脈に血栓が詰まった状態、肺梗塞はその結果として肺の組織が壊死した状態です。肺は気管支動脈からも血液を受けるため、肺塞栓があっても肺梗塞にならないことがあります。急な息苦しさ・胸の痛み・血痰があるときは、すぐに受診してください。
Q. D-dimerが高いと言われました。肺塞栓ですか?
A. D-dimerが高いだけでは肺塞栓とは言えません。がん・感染・炎症・手術後・妊娠などでも上がります。D-dimerは「低かったら除外に使う検査」で、高い場合は症状や危険因子と合わせて、造影CTなどが必要か判断します。
Q. 造影CTを受けられないときは、ほかの検査でわかりますか?
A. 換気血流シンチ(V/Qスキャン)が代わりになる場面があります(ACR 2022)。腎機能やアレルギーで造影剤を使いにくい場合も、主治医と放射線科で検査を選びます。
Q. 妊娠中でも肺塞栓の検査は受けられますか?
A. 受けられます。D-dimer、下肢のエコー、CTを組み合わせた診断の流れが研究で検討されています(Righini 2018)。息苦しさや胸の痛みがあるときは、早めに医療機関に相談してください。
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参考文献
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