先に結論:低血糖脳症とは
- 血糖が大きく下がった状態が長く続いたために、脳がエネルギー不足になって傷つく病気です。多くは糖尿病の治療薬(インスリン・飲み薬)が効きすぎたときに起こり、意識障害・けいれん・片まひなどを起こします
- MRIの拡散強調像(DWI)で高信号・ADC低下が見られ、大脳皮質・海馬・基底核(灰白質パターン)や、内包後脚・脳梁膨大部などの白質(白質パターン)が両側性に侵されます。脳梗塞と違い血管の支配域に一致せず、視床・脳幹・小脳は保たれやすいのが低酸素脳症との違いです
- 内包後脚・脳梁膨大部に限られた病変は回復することが多く、広い皮質や白質の病変は後遺症が残りやすいとされます。片まひがあっても脳梗塞と決めつけず、まず血糖を測ることが大切です
- 意識がおかしい・けいれん・急な手足のまひがあれば、低血糖を含めてすぐに救急受診が必要です
低血糖脳症(hypoglycemic encephalopathy)
- 高度の低血糖に伴う代謝性脳症で、重篤な低血糖が急激かつ遷延すると発症する。
- 成人では、糖尿病治療コントロール不良例に多い。
- 糖尿病の経口内服薬やインスリン注射、インスリノーマなどで生じるが、糖尿病患者におけるインスリン注射の相対的な過量投与により生じることが多い。
- グルコースは神経系の主なエネルギー源であり、急激な低血糖により、グルコース要求量の増大、相対的な低酸素状態となり、脳内のエネルギーが減少すると重大な脳機能障害を生じうる。
- 急性期には、エネルギー欠損によるポンプ機能低下、興奮性アミノ酸過剰(アスパラギン酸、グルタミン酸など)放出が、亜急性期では、グルタミン酸受容体を介した細胞死(アポトーシス)誘導が機序と考えられている。
- 低血糖脳症の主な病理学的な変化は、多くのグリア細胞の浸潤を伴う、エネルギー不足による神経細胞の広範な変性および壊死である。
低血糖脳症の症状
- 意識障害(昏睡)・けいれんが代表的です。研究では「血糖50mg/dL未満+意識障害」を低血糖脳症の定義に用いたものもあります(Koh 2012)。
- 片まひ(低血糖性片麻痺)で発症することがあり、脳梗塞とまちがえやすい病態です。170例の文献レビューでは、繰り返す例は夜間〜早朝に多いと報告されています(Toyama 2024)。
- 新生児の低血糖でも脳障害が起こり、66例の検討では両側の後頭葉皮質の障害が最も多く、MRI異常には最低血糖値よりも低血糖が続いた日数が関係していました(Gu 2019)。
低血糖脳症(hypoglycemic encephalopathy)のMRI画像所見
- 大脳白質or灰白質が主体として障害される2つのパターンに大別される。
- 大脳白質パターンでは、びまん性、内包後脚、脳梁病変が頻度が高く、びまん性では予後が悪い。
- 灰白質パターンでは通常、頭頂後頭葉主体の皮質・基底核・海馬が侵されやすい。視床、脳幹、小脳は保たれることが多く、低酸素脳症との鑑別に有用。(小脳、脳幹部は糖利用効率が良いことから比較的低血糖耐性があるとされている。)
- 他、脳梁膨大部。新生児では、頭頂後頭領域皮質に認められることもある。
- T2W、FLAIRおよびDWIで高信号となる。ADCにて信号低下を認め、細胞性浮腫(血糖低下により細胞膜イオンポンプが機能不全を来すため)に伴う変化と考えられる。脳梗塞と異なり、血管支配域に一致せず、両側性であることが多い。また、拡散制限は脳梗塞と異なり、経過観察のDWIで消失することがある(11例中6例: Kang 2010)。
- DWIは特に他のシークエンスと比較して早期の病変を描出する。ただし、低血糖脳症の全例でDWI異常が出るわけではなく、意識障害を伴う低血糖9例のうちDWIで異常信号を認めたのは3例(33%)のみだったという報告があります。DWIが正常でも低血糖脳症は否定できず、血糖値と臨床経過で判断することが大切です。
- 低酸素性虚血性脳症に類似するが、視床・小脳が保たれやすい点が異なる。
- 拡散強調像で両側にびまん性・広範な異常を認める例は予後不良で、脳梁膨大部や内包後脚などに限局した病変は後遺症なく回復することが多いと言われる。17例の検討では両側対称性の病変の14例が遷延性植物状態となり、片側の白質病変と脳梁膨大部に限局した2例は神経症状を残さず回復した(Ma 2009)。
- 入院を要する重い低血糖を繰り返すほど認知症のリスクが高くなるという報告がある(2型糖尿病の高齢者16,667例、3回以上でハザード比1.94: Whitmer 2009)。
- 画像が似ることがあるのは、低酸素脳症、急性期〜亜急性期の脳梗塞、CO中毒など。橋本脳症やPRESなどほかの代謝性・中毒性の脳症とも、血糖値と臨床経過で区別する。
低血糖脳症・低酸素脳症・脳梗塞のMRIの違い
| 低血糖脳症 | 低酸素脳症 | 脳梗塞 | |
|---|---|---|---|
| 分布 | 両側性。皮質・海馬・基底核や内包後脚・脳梁膨大部 | 両側性。皮質・基底核・視床・小脳 | 血管の支配域に一致 |
| 視床・脳幹・小脳 | 保たれやすい | 侵されやすい | 支配域なら侵される |
| 手がかり | 低血糖(血糖測定) | 心肺停止・窒息の経過 | 血管閉塞・危険因子 |
症例 40歳代男性 昏睡状態

引用:Radiopaedia
DWIで両側大脳皮質および皮質下に高信号あり。海馬にも高信号あり。視床、脳幹、小脳は保たれている。ADCではDWI高信号部位に一致して低値あり。(この症例では、基底核も保たれています。)

FLAIRではDWI高信号部位にわずかに信号上昇のみ。
精神疾患を患っており、糖尿病であることが不明な患者のインスリンの過剰摂取による自殺未遂と判明し、低血糖脳症と診断されました。
症例 50歳代男性 昏睡

引用:Radiopaedia
両側の島皮質、前側頭葉、帯状回、および両側の大脳基底核にDWI高信号、ADC低値あり。FLAIRでは同部に高信号あり。
視床には異常信号は認めていません。

両側の海馬にDWI高信号、ADC低値あり。FLAIRでは同部に高信号あり。
血糖測定にてBS=30mg/dlであり、低血糖脳症と診断されました。
(低酸素脳症でも同じような画像を呈することがあるが、特に視床と小脳でも異常を認めることが多い。)
低血糖脳症でよくある疑問(Q&A)
Q. 低血糖で脳梗塞のような片まひが出ることはありますか?
A. あります(低血糖性片麻痺)。DWIで内包後脚に高信号が出ることもあるため、片まひではまず血糖を確認します。
Q. DWIが正常なら低血糖脳症は否定できますか?
A. できません。意識障害を伴う低血糖9例のうちDWI異常は3例だけでした(Koh 2012)。
参考文献:臨床放射線 Vol.63 No.6 2018 P666-7
- Ma JH, Kim YJ, Yoo WJ, et al. MR imaging of hypoglycemic encephalopathy: lesion distribution and prognosis prediction by diffusion-weighted imaging. Neuroradiology. 2009;51(10):641-9. PubMed
- Kang EG, Jeon SJ, Choi SS, et al. Diffusion MR imaging of hypoglycemic encephalopathy. AJNR Am J Neuroradiol. 2010;31(3):559-64. PubMed
- Koh E, Tsai LK, Hong CT. Serum calcium concentration affects signal changes on diffusion-weighted imaging in hypoglycemic encephalopathy. AJNR Am J Neuroradiol. 2012;33(2):297-300. PubMed
- Whitmer RA, Karter AJ, Yaffe K, et al. Hypoglycemic episodes and risk of dementia in older patients with type 2 diabetes mellitus. JAMA. 2009;301(15):1565-72. PubMed
- Gu MH, Amanda F, Yuan TM. Brain Injury in Neonatal Hypoglycemia: A Hospital-Based Cohort Study. Clin Med Insights Pediatr. 2019;13:1179556519867953. PubMed
- Toyama H, Takahashi K, Shimizu T, et al. Recurrent nocturnal hypoglycemic hemiplegia: a case report and review of the literature. Endocr J. 2024;71(4):409-416. PubMed
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