症例15 解答編

症例15

【症例】90歳代男性
【主訴】活動性の低下
【身体所見】Vital含め特記すべき異常なし。
【データ】WBC 9600,CRP 3.35, Hb 6.9

画像はこちら

腹部単純CTです。まず目につくのが肝右葉に巨大な腫瘤を認めていると言う点です。

さらに、肝の辺縁や脾臓の辺縁などに腹水貯留を認めていることがわかります。

  • 肝腫瘤
  • 腹水貯留あり

以上!とりあえず入院でもしておこうか。

では、大変なことになります。

次に気付くべき点は、脾臓周囲の腹水と連続する腹水と左腎臓に認める腎嚢胞の濃度が結構違うと言う事実です。

腎嚢胞よりも腹水の方がかなり高吸収(白い)であることがわかります。

つまりこれは単なる腹水ではない!!

と言う点に気づけるかが重要です。

骨盤内の液貯留も先ほどの腎嚢胞と比べると高吸収であることがわかります。
液貯留と腸管の濃度がかなり近くて、一見どれが液貯留でどれが腸管かわかりにくいですよね。

腹部単純CTでは腸管と通常の腹水は明瞭にわかることができます。
わけることができないということは液貯留の濃度が高いということです。

つまり、ここからもこれは単なる腹水ではない!!ということがわかります。

では、単なる腹水ではないということはどういうことなのでしょうか?

そう、血性腹水(腹腔内出血)であるということです。

「何かこの腹水いつもの腹水ではないな。」と思えることが重要です。

そしていつもの腹水じゃないなと思ったら、CT値を測定することが重要です。(今回みなさんに見て頂いている画像はDICOMデータではありませんのでCT値は測ることはできませんが。)

実際にCT値を測定してみます。(動画ですが音声は出ません)

すると、CT値の平均値(mean)は、33HUで、CT値の高いところでは、48HUありました。

腹腔内液体貯留のCT値1)は、

  • 腹水 0-15HU
  • 血性腹水 20-40HU
  • 血腫・凝血塊 40-70HU
  • 活動性出血 85-350HU
  • 胆汁 0HU
  • 尿 0-15HU

となっています。

と言うことは今回は、血性腹水が基本で、CT値が高いところでは血腫・凝血塊ということができます。

ということは、どこから出血しているのでしょうか?

先ほどの動画でもありましたが、肝腫瘤の下縁・右縁のところをよく見ると、肝表の腹水の中に高吸収が目立つ部位があることがわかります。

つまり、肝細胞癌が破裂していると言うことが推測されます。

ちなみに、腹腔内出血の原因2)としては、

  • 肝細胞癌など腫瘍破裂
  • 子宮外妊娠破裂
  • 卵巣出血
  • 内膜症性嚢胞の破裂
  • SAM(segmental arterial mediolysis)
  • 動脈瘤・血管病変の破裂
  • 術後(膵癌術後の膵液漏による胃十二指腸動脈断端の破綻など)
  • 特発性(抗凝固薬の服用)
  • 外傷(肝、脾、小腸)

と言ったものが挙げられます。

肝細胞癌が破裂して、腹腔内出血を起こしている状態ですので、出血を止める必要があります。

通常は、TAE(Transcatheter Arterial Embolization)が行われます。

診断:肝細胞癌の破裂による腹腔内出血

※放射線科へのコンサルトが必要となります。放射線科医がいない病院では他院への搬送が必要となります。

一流バリスタDr.Tの淹れ方

HCC破裂が最も疑われますが。

肝臓の形態的に左葉の腫大がかなりあり、慢性肝障害像(表面もやや凹凸に見えるので肝硬変に近いかも)を考慮し HCCが発生してもよい肝臓なのかなとは思いました。 後区のHCCが話の中心ですが前区域にも腫瘤がありそうですね。

なるほどです。今回は単純CTのみですので、HCCと断定するような言い方は避けた方がいいかもしれませんね。

 

診断:肝腫瘍(肝細胞癌疑い)の破裂による腹腔内出血

とします。

関連:肝腫瘍(肝臓癌)破裂とは?CT画像診断のポイントは?

参考文献:
1)西巻、腹部外傷、日独放;vol51.No1.51-71,2006
2)マルチスライスCTによる腹部救急疾患の画像診断P106

大事なのでツイートしました。

その他所見:

  • 右優位に少量胸水あり。
  • 腎嚢胞あり。両側腎はやや萎縮あり。
  • 冠動脈石灰化あり。
  • 脾動脈の石灰化が目立つ。全体的に動脈硬化が目立つ。
  • 胆石あり。胆嚢は収縮している。
  • 膵こう部に嚢胞性病変疑い。
  • 左副腎に小結節および石灰化あり。
  • 結腸憩室散見されます。
症例15の解説動画

腹腔内出血のCT画像所見

症例15のQ&A
これは国家試験とかではよく見ました。臨床ではドキッとするやつですね。
そうです。バイト先で1人で救急当直しててCT撮影してドキッとするやつです(経験あり(^_^;)。
腹水が血性だとはきづいてなかったので注意力をもっとつけたいとおもいます。
そうですね、慣れないとなかなか血性と気付かないですね。
次は気付いてください!
出血とは気づけませんでした。
次は気付いてください。また出るかも知れません。
ただ腹水が溜まっているなくらいしか気づきませんでした。他に見落としている所見はないか確認する大切さを学びました。ありがとうございます。
腹腔内出血は非常に重要な所見ですので、次に生かしてください。
腹水の濃度が違うのは気づいたのですが、その意味が分かりませんでした。他に色が変わってくる疾患・病態はありますか?肝臓脾臓周囲と下の方とで腹水の濃度分布が変わっていくのはなぜですか。
出血源に近いほど高吸収になります。
あとは、体位などで移動します。
腹水の濃度が左の方が高い気がするなぁ位にしか思えず、それに意味があるとは・・・
CTですものね。CT値の差が画像になっているのだからそういう所まで念頭において読影しなければなりませんね。
大変勉強になりました。
腹腔内出血は非常に重要な所見ですので、次に生かして頂ければ幸いです!
肝右葉の異常は緊急のものとは思いませんでした。腹水は心臓の壁内と同じ濃度の腹水であったため血管が破れているのかと思ってしまいました。普段見ている臓器の濃度差も気にしていきたいと思いました。
血管が破れているのは緊急ですので、とくに腹水では、濃度差、いつもと違う腹水を意識してみてください。
巨大肝腫瘤を見たら破裂を疑う。忘れていました。
腹腔内出血非常に重要ですので、覚えておいてください。
腎嚢胞が破裂したと考えてしまいました。
腎の場合は、腎血管筋脂肪腫が破裂することがあり、注意が必要です。
胆嚢がなく(胆摘後だったのでしょうか?)腎嚢胞を見つけるまで腹水の濃度が高いことに自信が持てませんでした。
胆嚢は胆石があり、小さいですが存在するようです。
肝細胞癌破裂とはわかったものの破裂部位の特定の仕方がわからなかったので勉強になりました
まずは破裂に気づければOKです。
腹水の濃度、HU, 膀胱内の尿との比較大事だと、教えてもらったことをおもいだしながら、解答しました。ありがとうございました。
膀胱内の尿や胆汁との比較して、ん?おかしいときづき、実際にCT値を測定することが重要です。
何も考えず腹水と診断してしまいました。反省です。今後はCT値を計測するよう気をつけます。
なんかいつもと違う腹水だなと気づけるかが重要です。
膀胱などの液貯留と比較するクセ、CT値そ計測するクセをつけましょう。
腹水の性状が異常で、血性を疑うべきということに気づきませんでした。病歴から「貧血と衰弱だし胃がんあたりかな?」と思って画像をみて「転移じゃなさそう。肝萎縮があるし、腹水著明の末期肝硬変を背景に肝癌ができたという感じで、貧血はビタミン欠乏性とか?」と勝手にストーリーを脳内補完し満足してしまいました・・・
>腹水の性状が異常で、血性を疑うべきということに気づきませんでした。

単純CTで腸管とあまり区別ができないような腹水
膀胱や胃液などと比較して高吸収な腹水

には要注意ですね。

破裂してこれだけ血性腹水が出ていてあまりバイタルに変化なかったのですね.臨床的にはすぐに造影CTでしょうか.
そうですね。この時点ではバイタルには異常はなかったようです。
臨床的には、肝細胞癌破裂による腹腔内出血をより診断する目的で、
肝ダイナミックCTが撮影されるべきですね。バイタルに注意しながらですが。
いままで腹水を比較する相手候補として「膀胱」しかもっていませんが、
たしかに、嚢胞も分かりやすいですね。
今回のようによくも(?)悪くもはっきりした嚢胞がある場合(かつ、膀胱内尿貯留は比較的少量)
の場合は、重宝しそうです。当然、直接吸収値をはかるのもとても分かりやすいとは思いますが。
>たしかに、嚢胞も分かりやすいですね。
今回のようによくも(?)悪くもはっきりした嚢胞がある場合(かつ、膀胱内尿貯留は比較的少量)
の場合は、重宝しそうです。当然、直接吸収値をはかるのもとても分かりやすいとは思いますが。そうですね。膀胱内の尿が少ない場合などは、嚢胞や胃液などとも比較しましょう。
ただの腹水にしては違和感は感じたのですが、ラプチャーによる出血にまでは思考がまったく至りませんでした;
若輩者ですが自分の ”違和感” を、もっと大切にしても良いかな?とも感じております。
「いつもと違う」
という違和感を大切にしましょう。違和感→装置の違い??→本当にそうなのか?→まさか・・・・の体験談はこちら(笑)
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/1784-2
いつも見慣れている腹水よりもCT値高そうだな、と違和感を感じたものの血性腹水が出てきませんでした。
違和感を感じたら疑わないといけませんね。
>違和感を感じたものの血性腹水が出てきませんでした。

一度「体験」したら、次は拾える確率が上がります。
また50症例の中で出てくるかもしれませんし、
今日そんな症例に出会うかも知れません。

見落とせない疾患ですので、覚えておいてください。

肝細胞癌(と書いてしまいました。造影の有無を考えて、今後は肝腫瘍と書きます!)と腹水あり、破裂かな?とは思いつつも丁寧なに読影する時間がなく破裂までは指摘できませんでした(言いわけです・・・)。実際はどんなに時間がなくてもそこを指摘しなくてはならないため、しっかり見るべき所見を覚えたいと思います。
今日もやりごたえのある症例と解説をありがとうございました!!
肝細胞癌でいいと思います。
言い切るよりも疑いと書く方がbetterという意味です。
肝細胞癌と血性のものに気がつきながら出血源を血管からと間違えてしまいました。
ほぼ正解ですね。HCCを栄養する血管を詰める必要があります。
心臓でハレーションを起こしているのはステントですか?
よろしくお願いします。
僧帽弁、大動脈弁の石灰化です。
ただし冠動脈3枝とも石灰化を認めていますね。
ちょっと見にくいですが、冠動脈の解剖はこちらでチェックしてください。
http://medicalimagecafe.com/tool/chest/01.html
肝細胞がんの破裂なんですが、
大動脈弓付近の下行大動脈に1センチ大の動脈瘤を疑う所見ともうひとつ左室壁の肥厚とCT値上昇が在るように見えるのですが心疾患を示唆する所見ととらえるのは、読みすぎでしょうか?
>大動脈弓付近の下行大動脈に1センチ大の動脈瘤を疑う所見

おっしゃるように動脈瘤ありますね。

>左室壁の肥厚とCT値上昇が在るように見えるのですが心疾患を示唆する所見ととらえるのは、読みすぎでしょうか?

おっしゃるように左室壁は厚いですね。
そしておっしゃるようにややCT値が高く(高吸収に)見えますが、心腔内の血液と比べて相対的に高吸収に見えます。
こういった場合は、心疾患よりは、「貧血」を示唆する所見となります。

違和感→装置の違い??→本当にそうなのか?→まさか・・・・
の体験談、よくわかります!!CTを撮影していて胎児(や胎嚢)が見えた時、最初頭の中は???でした。
初めての当直でボスがきた経験もあります!!
これからも勉強していきたいと思います。
>違和感→装置の違い??→本当にそうなのか?→まさか・・・・の体験談、よくわかります!!

共感いただきありがとうございます。
とくに相談できる上司などがいないとパニックになりますね。

>CTを撮影していて胎児(や胎嚢)が見えた時、最初頭の中は???でした。

それは焦りますね(^_^;)

>初めての当直でボスがきた経験もあります!!

結構引くタイプなんですかね(^_^;)

これからもよろしくお願いします。

肝腫瘤、腹水を指摘出来て満足してしまいました。その先の血性腹水や、出血点まで読み込み適切な治療へ結びつけるのが読影なのだと思い知らされました。腸管も腹水があって区別しずらいのを単に読みずらいなぁと思うのではなく、CT値が近くコントラストがつかない、といった思考も勉強になりました。
そうですね。読みづらいということは、普段は認めないものがあると考えてください。
CT値を測定するのが確実ですが、膀胱の尿や胆汁、胃液などと比較してみるのが手っ取り早いかもしれませんね。
血性腹水は指摘できませんでした。腹水みたときはCT値を確認しようと思います。通常の腹水と比較して分布に異常(左右非対称で、粘っこい感じ)が見られるような気がしたのですが、いかがでしょうか?
>通常の腹水と比較して分布に異常(左右非対称で、粘っこい感じ)が見られるような気がしたのですが、いかがでしょうか?

おっしゃるとおりですね。
通常の腹水は、癒着などがなければ、重力の法則に従って分布しますが、

血性腹水
膿瘍
粘液

などの場合は重力の法則を無視して存在したりします。

なかでも最も印象的なのは、腹腔内にゼリー状の粘液が存在する、腹膜偽粘液腫ですね。

血性腹水や、膿瘍も粘稠度が高い場合はこれに近い状態になります。

参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/5084

出血を疑いましたが肝細胞癌がわからず。
腹腔内出血を見つけたら、どこから出血しているのか原因を考えるようにしましょう。

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。