2年の研修が終わり、3年目の医師となった私は、勤務先で仲良くして頂いていた外科の先生の紹介で、

毎週金曜日の夜に救急当直のバイト

をしていました。

医師は1人で、救急車、walk inを全て自分で担当しなければならず、おまけに病棟からも呼ばれるというややしんどめの当直でしたが、外科の先生の紹介であるのと、1晩で65,000円貰えるという良い条件だったのもあり、続けていました。

そんな3年目の冬の夜に、60歳台の男性が奥さんに連れられてやってきました。

見た目から、かなりしんどそうで、お腹が痛いということでした。

かかっている病気などはなく、既往歴も特になにもないとのことでした。

血圧が上が90代と低い。
腹部を触診すると、筋性防御があり、反跳痛もありました。
痛くてなかなか仰向けにもなれないという状態でしたが、採血、点滴を開始して、下肢を挙上させました。

バイタルが安定したところで、腹部単純CTを撮影しました。

画像を見た私は・・・・・

私「何が起こっているんだ・・・・??

全然わからない・・・(滝汗)。

どうしよう・・・(泣)。」

私「なんでこんなに見えにくいんだ?

そうか、普段見ているCT装置や端末じゃないからか?

くそぉ、いつもの端末なら!!!

いつもの勤務先なら!!」

私「ホントに、なんでこんなに見えにくいんだ?

見えにくい人なのか?

そういう人なのか?」

私「本当にそうなのか?」

私「Douglas窩の液体貯留と腸管の境界がぜんぜんはっきりしないのはなぜだ?」

私「まさか・・・・。」

私「まさか・・・。

腹腔内出血を起こしているのでは・・・。

だとすれば、血圧が下がっているのも説明ができるし、見えにくいのは当然だ。

私「腹腔内出血が疑われます。造影CTを撮影しましょう。」

看護師「え?何言ってるんですか?夜間に造影CTなんて撮らないですよ。」

私「いや、撮影しましょう。ダイナミック撮影しましょう。」

放射線技師「まじですか・・・。」

 

 

 

 

(おいおい、この放射線科医大丈夫か?)

 

(単純でわからないから造影か?)

 

(放射線科医だから何でも画像撮影したいのか?)

 

(だとしたら、勘弁してくれよ。)

 

 

 

 

 

もしかしたらそんな風に思われたかも知れません。

しかし、そんなことは気にしていられないと、ダイナミックCTを撮影しました。

肝腫瘍があり、肝外に造影剤の血管外漏出像(extravasation)がありました。

 

単純CTでは肝腫瘍の指摘もやや困難でしたが、造影すると明瞭化しました。

 

普段、常勤の放射線科医もいないような病院ですので、当然、アンギオできるような設備もありませんし、3年目の私が1人でアンギオもできません。

 

転送先を探さないといけません。

 

まず、しばらく救急車の受け入れを止めて貰うように病院に伝えました。

 

そして、患者さんの状態を逐一確認しながら、ひたすら転送先を探すための電話を掛けます。

 

しかし、世間は金曜日の夜12時です。

 

そして、「肝腫瘍破裂の腹腔内出血」というアンギオが必要なややこしい症例はひたすら敬遠されました。

 

電話すること十数件、某大学病院が受け入れを許可してくれました。

 

通常、病院を空けることは許されませんが、状態が状態だけに事情を説明して、私も救急車に同乗しました。

 

某大学病院に着くなり、迎え入れてくださった救急医に紹介状を渡し、画像を提示し、ここから出血していると思うとextravasationの位置を示し、緊急でアンギオが必要であることを説明しました。

 

某大学病院の救急医の先生「ほんまやな。ほんまに出血してるわ(;゚ロ゚)。」

 

医療の現場では、蓋を開けてみると、紹介元の診断と全然違うことはよくあります。

 

どうやら私の言う「肝腫瘍破裂の腹腔内出血」もあまり信用されていなかったようです(^_^;

 

その後無事にアンギオが施行され止血されたと、後日紹介状の返信がありました。

 

私はすぐにタクシーに乗って当直先の病院に戻りました。

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放射線科医の私でさえ、3年目(放射線科は1年目)ということもあり、数例しかこれまで見たことがなかった肝腫瘍破裂の腹腔内出血が、小さな救急病院にwalk inで来たのでした。

 

今でも強烈な記憶として残っている症例です。

 

私が研修医1年目で、最初に勤務先の当直に入ったときに、指導医の先生にこのようなことを言われたことがあります。

 

 

「救急の現場は、ドラクエと違って、弱い(診断・対応しやすい)モンスター(患者さん)から順番に来るわけじゃないからね。

先生のレベルが上がっていなくても、いきなりボス級のモンスターが来るからね。」

 

 

そのときは、まあ確かにな。程度にしか思っていませんでしたが、このとき、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさにこのことだ(;゚ロ゚)」

 

 

 

 

 

 

 

と痛感したのでした。

 

指導医もおらず、誰にも相談できない状況で、1人でなんとかしないといけない3年目の医師に、walk inで既往歴もない肝腫瘍破裂の腹腔内出血は、まさにボス級でした。

 

ボス級でしたが、結果的になんとか診断して、自分なりに適切な対応ができたと思っています。

 

そう、結果的に・・・。

 

 

 

しかし、あとで振り返ったとき、1つの疑問が出てきます。

 

 

 

 

それは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしこのとき私が、腹腔内出血の症例を過去に1度でも見たことがなければ、診断できただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

という疑問です。

 

見えにくいのはCT装置の違い、モニターの違いなどで納得して、診断できなかったかもしれません。

 

放射線科医といってもまだ3年目だから(エヘッ!)という訳のわからない言い訳をしたかもしれません。

 

診断もつかないまま、なぜか血圧が下がるので、なんとか輸液や輸血で次の日の朝までしのごうとしたかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

そう、1度でも見たことがあるという経験こそ重要なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1度でも見たことがあるという経験が、このとき私を助けてくれたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ですので・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

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