症例26 解答編

症例26

【症例】80歳代女性
【主訴】腹痛、嘔吐
【身体所見】体温37.7度、血圧142/70、下腹部に圧痛あり。反跳痛なし。
【データ】WBC 15900、CRP 7.60

画像はこちら

腹部単純CTです。

小腸の拡張および液貯留、ニボー像を認めています。

閉塞機転はあるでしょうか?

すると・・・・

下腹部になにやら、やばそうな所見があります。「なんか、やばそう!」と気づけるかが大事です。

  • 単純CTなのに腸管壁が造影CTのように高吸収になっている。
  • 腸管壁の肥厚、腸間膜の著明な浮腫がある。
  • beak signを認めている。
  • (濃度の高い)腹水貯留を認めている。

これらは絞扼性イレウス腸閉塞を疑う所見で、closed loopを形成しています。

絞扼性イレウス腸閉塞を疑う所見には、

  • 腸管の離れた2点が1カ所で絞めつけられ一部の腸管が閉鎖腔になる(closed loopの形成)。★
  • 閉塞している部分の腸管が鳥のくちばし状に見える(beak sign)。★
  • 捻転により腸管や腸間膜の血管が渦巻状に見える(whirl sign)。
  • 腸管壁内ガス、門脈内ガス。
  • 腸管の造影効果の減弱・欠如、または造影効果の持続。
  • 大量腹水。★
  • 腸間膜血管の異常走行・びまん性拡張、腸間膜脂肪浸潤像。
  • 単純CTで腸管壁の高吸収。★

といったものがあります。(今回認めているものは★です)

closed loopを形成している部分に色をつけるとこうなります。

冠状断で見るとよりclosed loopがわかりやすいかもしれません。

右下腹部に腸管(および腸間膜)の塊が飛び出しているように見えます。

closed loopを形成している部分に色をつけるとこうなります。

絞扼性イレウスとなるclosed loopの原因にはさまざまなものがあります。

「これは、S状結腸間膜の腸間膜にできた裂孔に入り込んだS状結腸間膜ヘルニアで、内ヘルニアの1つです!!!」

などと診断できたらそれはそれで素晴らしいのでしょうけど、それがわかったところで治療方針は基本的に変わりません。

「絞扼性イレウス腸閉塞であり、外科にコンサルトしなくては!!!」

と絞扼性イレウス腸閉塞に気づけることが重要です。

今回の症例では、右卵巣と小腸間膜がヒモ状に癒着しており、そこに1.5mほどの小腸が嵌頓して絞扼されていたことが手術によりわかりました。

つまり、右卵巣と小腸間膜がヒモ状に癒着することにより異常な穴ができそこから小腸が出てしまったということですが、画像からそこまで予測するのは厳しい(というか無理)と思います。

診断:絞扼性イレウス腸閉塞

※外科にコンサルトして緊急手術となります。今回の症例では、1.5mほどの小腸が嵌頓して絞扼されており、腸管の虚血所見を認めたため腸切除が行われました。(※絞扼性イレウス腸閉塞であっても早期であれば、closed loopを解除するだけで、腸切除を行わないこともあります)

※2021年開催より、絞扼性イレウスという用語は用いず、絞扼性腸閉塞という正しい用語を用いましょうということで、絞扼性イレウス腸閉塞と記載しています。動画内ではイレウスという表現も残っていますが。

 

ところで、closed loopって何?

動画でまとめました。

関連:

その他所見:

  • マーゲンチューブ留置あり。
  • 肝嚢胞あり。
  • 胆摘後。
  • 右大腿骨頸部術後。
  • 膀胱バルーンあり。
症例26の動画解説

絞扼性腸閉塞について

症例26で消化管拡張の系統的読影法をしてみると

【復習】腹部CTにおける消化管拡張の系統的読影法

症例26のQ&A
イレウスの原因に辿り着けなかったのが残念です。
サインを見逃しているのでいくつかある中の一つでも発見できるようになりたいです。
絞扼性イレウス腸閉塞!やばい!ときづけることが重要です。
closed loopとてもわかり易かったです。L/Dや身体所見でもそこまで切迫感がないのが怖いと思いました。
>closed loopとてもわかり易かったです。

ありがとうございます!

>L/Dや身体所見でもそこまで切迫感がないのが怖いと思いました。

ですね。普通に歩いてくる人もいますし。

colsed loopの動画が分かりやすく、とても勉強になりました。ありがとうございます。
ありがとうございます!
closed loop signの動画、非常にわかりやすかったです。やはり動画解説は学習ツールとして、かなり有効だと感じています。
動画ですね。ご意見参考になります。
closed loopと確証を持てず、結局中途半端に機械的イレウスとしてしまいました。
腸間膜の浮腫や腸管壁の高吸収はやばい所見なので覚えておいてください。
腸間膜を含め扇型になってるなぁと思ったのですが、closed loop、絞扼性イレウス、とヤバさを感じられていませんでした。
腸間膜を含め扇型になってる→やばいかも!と覚えておいてください。
イレウス症例もいくつか見ましたが、閉塞起点を見つけるのがいまだに難しいです。ただ、動画付きでとても分かりやすかったです。今後活かします。
閉塞機転を見つけるのは我々も難しいです。
是非今後に活かしてください。
解説の「それがわかったところで治療方針は基本的に変わりません」の部分を読んで、限られた時間の中でどのレベルまで読影できれば良いかという目安がわかってよかったです
保存的なのか、緊急手術なのか、その差がわかればまずはよいですね。
絞扼性イレウスのサインに気づいてヤバイ!と思えるようにしていきたいです。動画分かりやすかったです
やばいイレウス腸閉塞とやばくない(保存的に加療される)イレウス腸閉塞の違いを意識して読影してください。
なんだか脾臓のサイズがとてもかわいい感じに思えますが、
高齢だったら個人差でこれくらいはありますか(・・;)?
そうですね。小さめの方ですね。
個人差の範囲内と思います。
絞扼性イレウスもbeak signも同定できました!閉塞点の解剖構造を明らかにしようと長時間格闘したのですが、実臨床ではこんなに悩んでいる暇はないのでした…。現場の感覚でどこまで同定できれば良いのか示してくださったのがありがたかったです。
そうですね。なかなか現場で時間を使って読影することは難しいこともありますよね。
しかし周りの空気を読みながらも(優先順位を考慮しながら)
治療法に関わるところでもありますので、腸管を追ったりすることも非常に重要です。
イレウスの画像はぼーっと見ていると,造影CTで撮像していたかのように思ってしまいますね.
撮影条件はいつも意識しておかなければならないなと思いました.
いつも少しずつ読影の能力が上がってきているなと自分でも実感できます
そうですね。

単純なのに造影のように壁が白い→おかしい
造影なのに単純のように壁が黒い→おかしい

と撮影条件は常に意識しないと見落としに繋がりますね。

単純CTでの腸管の虚血状態はわかるようになったので少し進歩できたかなと思います。
そうですね。単純なのに壁が高吸収なのは異常所見ですし、腸間膜の浮腫も非常に重要な所見です。
イレウスはわかったのですが、絞扼性がどうかまで見抜くことは出来ませんでした。
先生のサイトを見て、特徴など復習しておきます。
やばいイレウス腸閉塞(絞扼性)かどうかを判定できることは非常に重要です。
今回の所見ではやばい所見がたくさんありますので、是非復習しておいてください。

お疲れ様でした。

今日は以上です。

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