症例27 解答編

症例27

【症例】70歳代男性
【主訴】(肺炎にて入院中に)下腹部に強い痛み
【身体所見】下腹部に圧痛あり、反跳痛なし、筋性防御なし。
【データ】WBC 20300、CRP 36.71

画像はこちら

この症例でまず気付いて欲しいことは、

「なにか見にくい腸管だなあ」
「ペラペラな腸管だなあ」
「元気がなさそうな腸管だなあ」

と違和感を感じられることです。

そして、ちょっと難しい所見ですが、

下行結腸やS状結腸の造影効果と比較して、元気のないペラペラな腸管の造影効果が悪いです。

つまり、広範な腸管虚血が起こっている状態であることが推測されます。

腸管虚血の原因には以下のものがあります。

症例26とは異なり、絞扼性イレウス腸閉塞を疑う所見などは認めていません。

また虚血性腸炎とは臨床像も場所も異なります(症例4にあったように虚血性腸炎は左半結腸に起こるのが典型でした。)

となると、

  • 血管が詰まる・細くなる
  • 血管が攣縮する

といった病態が残ります。

その目で、小腸を栄養する上腸間膜動脈(SMA)に目を向けると・・・

SMAの途中に造影欠損があることがわかります。

この様子は冠状断像でよりわかりやすいかもしれません。

つまり、SMAが途中で詰まって、それが原因でその血管支配領域の腸管に虚血を生じているという状態です。

これを、上腸間膜動脈閉塞症といいます。

上腸間膜動脈閉塞症には、血栓性と塞栓性があります。

今回はSMAの途中から造影不領域を認めており、Afがあることからも範囲は広範ですが、塞栓性であることが予測されます。
(かつ左腎臓にも陳旧性の梗塞を疑うくびれを認めています。比較的新しい梗塞かもしれません。)

 

診断:上腸間膜動脈閉塞症(塞栓性)

 

※すでに腸管虚血を認めており、外科コンサルトが必要となります。手術にて、広範な腸管壊死を認めており、トライツ靭帯から30cm〜横行結腸の右1/3まで切除されました。
※今回造影CTで診断されましたが、単純CTしか撮影されていない場合は、この疾患とNOMIとの鑑別は画像では困難です。

また、塞栓部のやや中枢側(上側)のSMAとSMVを観察してみると、同じような径であることがわかります。

通常のSMVとSMAの関係はこのような感じです。

つまり、SMV>SMA径となるのが普通なのです。

なぜ今回SMVとSMAが同じような径になっているのでしょうか?

上腸間膜動脈(SMA)が詰まる・攣縮する。
→腸管に行く血流が途絶える。
→すると、腸管から帰ってくる血流も減る。
→すると、静脈(上腸間膜静脈(SMV))が本来よりも細くなる。
一方で動脈は硬い壁で構成されているので、血管の太さは変わらない。

結果、本来SMV径とSMA径の関係が逆転もしくは同じくらいの径になってしまうということです。

smaller SMV signという名前がついています。

ただし、この所見は上腸間膜動脈閉塞症やNOMIに特異的ではなく、SMA領域の血流障害が起これば生じる可能性があるため、絞扼性イレウスや高齢者の場合、脱水でも見られることがあります。

一流バリスタDr.Tの淹れ方
ちなみにですが

症例26でもSMVの径がSMAより細いですが、これも腸管静脈血流の鬱帯を示唆しています。

あ、ほんとですね。むしろこっちの方がsmaller ですね・・・。

ということで、症例26も27もSMA領域の血流障害によるsmaller SMV signありということができます。

 

関連:上腸間膜動脈閉塞症とは?血栓症・塞栓症、CT画像、治療まとめ!

その他所見:

  • 両側女性化乳房あり。
  • 両側胸水あり。両下葉背側に受動性無気肺あり。
  • 胆石あり。
  • 腹水貯あり。
  • 左腎萎縮・造影不良(→古い梗塞、比較的新しい梗塞の混在か)
  • 両側輸精管の石灰化あり。
  • 冠動脈石灰化あり。動脈硬化あり。
  • 膀胱バルーンあり。
症例27の動画解説

上腸間膜動脈閉塞について

症例27で消化管拡張の系統的読影をしてみると

症例25−27の過去の解答ページはこちら(passは、jE8Pis7V)

症例27のQ&A
造影CTの動脈をおって塞栓を発見するという一スライスずつもっと注意深く観察することができていなkったのが悔しいです。
なかなか難しい症例でしたね。
smaller SMV signは所見は一応知っていましたが、何故そうなるのかまで教えていただき有難うございます。
よかったです!
SMA塞栓のときにいつも思うのですが、塞栓部より抹消の血管は造影されるのに、腸管は虚血になるのはなぜでしょうか?血栓等による塞栓は100%狭窄ではなく隙間があるのでしょうか?または側副路があるから?いづれにしても血液供給があるならば腸管虚血は起こらない気がします。Coronaryの安静時・労作時のように、腸管に血液が必要になる状況(食後など)において血液供給が追い付かなくなるようなものでしょうか?
>SMA塞栓のときにいつも思うのですが、塞栓部より抹消の血管は造影されるのに、腸管は虚血になるのはなぜでしょうか?血栓等による塞栓は100%狭窄ではなく隙間があるのでしょうか?または側副路があるから?いづれにしても血液供給があるならば腸管虚血は起こらない気がします。Coronaryの安静時・労作時のように、腸管に血液が必要になる状況(食後など)において血液供給が追い付かなくなるようなものでしょうか?

血液供給があってもそれが少なくなると腸管に限らず虚血は起こります。
足りないと言う状態です。

>血栓等による塞栓は100%狭窄ではなく隙間があるのでしょうか?または側副路があるから?

両方ですね。

何回見てもどこがおかしいのかわかりませんでした。今までと毛色が変わっており勉強になりました。
“元気がなさそうだなぁ”というようなイメージ・雰囲気を表した言葉はすごく参考になります。こういう風に考えながら見ているんだとわかりますし、対面で教えていただいているような臨場感があります。
“元気がなさそうだなぁ” 見えにくいなあ、いつもと違うなあという印象を持つことは大事です。
造影CTなのに腹腔内が暗い+CRP異常高値から相当な緊急事態が起こっているのだろうと予想してSMAを見に行きました
SMA閉塞症のような滅多にお目にかからないけど見落とすわけにはいかない症例を扱って頂けるのはありがたいです、本よりも記憶に定着しやすいので。
左腎被膜の部分的な造影不良域から陳旧性の梗塞を思い浮かべられたのは以前の症例解説のおかげです
そう言っていただけるとこちらもやりがいがあります(^o^)
ちなみに、これは、「混成石」ですよね?(`・ω・´) w
あっていればせめてもの救いです…
混成石ですね!いい症例がここにありました。
右冠動脈のPDあたりから胃の大彎にかけ金属クリップのようなハレーションがあると思ったので、胃大網動脈を用いた右冠動脈(PD)へのCABG後と考えました。このハレーションは石灰化でしょうか?
カルテを調べたのですが、古い症例で記録が残っていませんでした。
ですが、開胸術後の跡がありますので、おそらくバイパス手術をしているのだと思います。
膀胱よりも腹側に二ボー像が形成されている気がしたのですが、これはなんでしょうか?腹水とガスにより形成された二ボーと仮定して、腹腔内に遊離ガスの存在→腸管の穿孔と、予測しながら穿孔部位がないのか探そうと試みるあまり、そもそも小腸壁がぺなぺなになっているということすら気付くことができませんでした。緊急性のある疾患を除外したいので上腸間膜動脈に目を移したものの、起始部をさらっと確認するだけにとどまってしまい、思いっきり見逃しました。丹念に追う癖をつけたいです。思い込みって怖いな…と思った症例でした。
>膀胱よりも腹側に二ボー像が形成されている気がしたのですが、これはなんでしょうか?

これはバルーンを入れた際に入った膀胱内の空気です。

>緊急性のある疾患を除外したいので上腸間膜動脈に目を移したものの、起始部をさらっと確認するだけにとどまってしまい、思いっきり見逃しました。

惜しいところまでは行きましたね!
確かに最初から方向を間違うとどんどん泥沼にはまることがありますね。
また1つ所見を見つけて安心してしまうことも注意ですね(私もよくありますが・・・)

難しかったです。まずは腸管虚血から、SMA閉塞まで普段から思考が至っていないとダメですね。
腸管が見えにくい→ぺらぺら→血流が行き届いていない→動脈が詰まっている

と思考するようにしてください。

総胆管、肝内胆管の拡張はないようですが、混合石の影響もあるため??
胆嚢壁がやや肥厚し、炎症、漿膜下浮腫も多少ありそう??なのですがいかがでしょうか?
おっしゃるとおりですね。
壁肥厚は慢性胆のう炎がベースにあるのだと思います。
ただ漿膜下浮腫は通常慢性胆のう炎では通常起こらないので別の理由だと思われます。
全く見当違いでした。緊急性・重篤性もある重要な疾患だと思うので、今回勉強したことを臨床でも活かせるようにしたいと思います。
腸管がペラペラでなんて見えにくい!と感じたら、この疾患とNOMIを思い出してください。

お疲れ様でした。

今日は以上です。

今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。