
症例2
【症例】40歳代女性
【主訴】右下腹部痛
【身体所見】右下腹部に圧痛あり。筋性防御なし。反跳痛なし。
【データ】WBC 12700、CRP 4.32
画像はこちら
上行結腸周囲に脂肪織濃度上昇、周囲の筋膜の肥厚を認めています。
また憩室が散見されており、憩室炎を起こしていると推測される憩室(炎症所見が最も強い部位)がわかります。
上行結腸憩室炎と診断することができます。
冠状断像では上行結腸の壁肥厚の様子がよくわかります。
壁肥厚は腸炎などと比べると局所的です。憩室炎の炎症波及による反応性の肥厚が疑われます。
憩室炎ではこのように、
- 憩室の外(漿膜側)への炎症の波及→画像上、周囲脂肪織濃度上昇
- 憩室が存在する結腸への炎症波及→画像上、結腸の3層構造を保った肥厚
という2つの方向に炎症が波及することを覚えておきましょう。
また、憩室炎をみたら、虫垂炎のときと同様に、穿孔(もしくは穿通)や膿瘍形成の有無をチェックする必要がありますが、今回は認めていません。
診断:上行結腸憩室炎
※保存的に加療されます。
関連:
その他所見:
- 回結腸動静脈沿いに小リンパ節散見されます。
- Douglas窩に少量腹水あり。(生理的範囲内)
- 異所性右鎖骨下動脈あり。
症例2の解説動画
憩室炎の画像診断のポイント
※動画内の縦方向、横方向という表現は厳密にはそれぞれ、管腔の口側・肛門側方向、粘膜から漿膜方向となります。
回盲部のリンパ節について補足動画
症例2のQ&A
- 上行結腸憩室炎の所見では炎症の中にある憩室を見落としてしまい、腸管壁の肥厚と脂肪濃度の上昇にばかり目がいって、その中の憩室に気づくことが出来ませんでした。
炎症以外の部分の憩室は気づいたのですが、肝心の炎症部分の原因として見つけることができませんでした。
しっかり炎症の中にあるものも観察したいと思いました。 - 今回は炎症を起こしているであろう憩室を同定することができますが、憩室炎を起こしている憩室そのものはわからないこともしばしばあります。
腸炎にしては範囲が狭いのおそらく憩室炎なのだろうと診断することもしばしばあります。
- 憩室+炎症⇒憩室炎 という短絡的な考えでした。虫垂炎も、腫大した虫垂があるから虫垂炎といった感じで、正常虫垂はなかなか同定できません。
- 憩室+炎症⇒憩室炎 という短絡的な考え→基本的にこれで大丈夫です。
- リンパ節も腫大してるようにみえたのですが実際はいかがなのでしょうか?リンパ節の大きさもどこまでが正常でどこからが異常としてとらえたらいいですか?
- 回盲部のところですね。小さなリンパ節がいくつかあります。
同部位はこれくらいの小さなリンパ節、もう少し大きなリンパ節も認めることがしばしばあります。
基本的に短径が1cm以上を有意として判断しますが、今回は憩室炎もありますので、憩室炎に伴う反応性のものと判断できます。
- 筋膜の肥厚とありますが、筋膜が肥厚するのですか。筋膜が肥厚する場合は臓器周囲に沿うような場合が多いのでしょうか。
- 言葉が非常に難しいところですが、(癒合)筋膜が肥厚しています。
憩室炎の炎症が筋膜にも到達しているということです。この場合、筋膜に沿って炎症が広がることはあります。
- 上行結腸の浮腫状変化・周囲脂肪織上昇・憩室の存在にはすぐに気づきましたが、憩室を炎症の原因と言い切る根拠が自分の中では乏しかったです。確かにあとから見直せば、憩室が炎症の主座と取れそうですね。
- 主座の憩室は今回の症例では同定できましたが、できないこともしばしばありますので、まずは憩室炎だろうと診断できることが重要です。
- 子宮の後弯がありますが、何か癒着などの原因があるのでしょうか? それとも、先天的に後弯している方もおられるのでしょうか?
- 子宮の前屈や後屈は生理周期の中でも変化します。
- 両方の卵巣に嚢胞のようなものが見えるのですが、卵巣嚢腫でしょうか?
それとも正常でしょうか? - 年齢を考慮すると、正常の卵巣でよいと考えます。
- 腸管の限局性の炎症はわかったのですが、1症例目からそもそも虫垂の同定を行うことができていなかったので、今回も虫垂炎をしっかり除外することができず、受講前の知識では可能性を排除できないということで急性虫垂炎と暫定的な診断をしてしまいました。憩室のCT所見も生まれて初めて見ました(糞便にガスが混ざって黒く抜けているのかな〜くらいにしか考えられませんでした)。
- 結腸憩室がある方は非常に多いのでこれからの症例でも嫌と言うほど見ると思います(^▽^)
- 私はリンパ節を追うのがとても苦手です。何か良い読影方法はございませんか。
- 上に動画を追加しました。
- 憩室と便塊内airの見分けについてお聞きしたいです。明らかな壁付近で突出していれば憩室とわかるし、あるいは明らかに腸管内で便塊内であることがわかればairであることもわかるのですが、はっきりせず迷ってしまう症例があります。何か鑑別に有用な見方があれば教えてください。
- これは迷うことはあると思います。
おっしゃるようにはっきりと憩室と分かるものでないと憩室なのかどうかはわからないこともあります。ただ、壁肥厚や周囲の脂肪織濃度上昇など炎症所見がない限り、憩室と便塊内airを鑑別する必要は特にないかなと思います。
仮に炎症所見があったとして、憩室炎が疑わしい場合でも、炎症を起こしている憩室そのものがわからないこともしばしばあります。
- 当方もリンパ節の追い方がいまいちわかりません。連続性がないとのことですが、正常異常の判断など、解説ページないし動画などありましたらご教授賜ることができましたら幸いです。
- 上に動画を追加しました。
- 症例2のような憩室炎とウイルス性腸炎の画像所見上の鑑別はどうすればいいでしょうか。
・憩室炎による壁肥厚だが、炎症の局在となっている憩室が分かりにくいだけ
・ウイルス性腸炎による壁肥厚実際の救急の現場では、腹痛に対してCTを撮影して、これが単なるウイルス性腸炎の炎症としていいか、憩室炎などの治療が必要な疾患か、を鑑別したい状況があると思います。
ウイルス性腸炎の画像所見って、疾患が致命的でないからか、意外とどの本にも載っていなくて、危ない疾患との鑑別方法が実はよく分かっていないかもしれないです。画像診断まとめにも(探しましたが)なかったように思います。 - 腸炎の場合は、壁肥厚が局所的ではなく通常15cm以上と長いのが特徴です。
一方で憩室炎の場合は、炎症所見が通常局所的で、炎症が目立つ部位を認めるのが特徴となります。ですので、基本的に両者の鑑別では画像上で悩む事は少ないです。>ウイルス性腸炎の画像所見って、疾患が致命的でないからか、意外とどの本にも載っていなくて
おっしゃるとおりです。
頻度が多いのに掲載されていないですね。
そして、その画像での診断はなかなか難しいものです。また、そのうち出てきますのでそのときの楽しみにしておいてください(^^)
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
憩室があり、周囲の脂肪織の濃度上昇、リンパ節腫大で憩室炎なのかなという予想でした。上行結腸癌のような悪性腫瘍の場合でも脂肪織の上昇やリンパ節の腫大という画像所見を認めるのではないのかと思ったのですが、どう判断したら良いのかご教示のほどよろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
腫瘍の場合は、サイズや進展度などにもよりますが、周囲の脂肪織濃度上昇は炎症に比べると軽微なのが通常です。
また腫瘍の場合は、3層構造を保った壁肥厚ではなく、層構造が失われ全体的に造影効果を認めることなどで鑑別します。
おっしゃるようにリンパ節は腫瘍でも炎症でも認めます。
上行結腸に炎症がありそうだな?憩室炎かな?と思ったらその通りでした
解説を聞いてより理解を深めていきたいと思います
今回の症例とはあまり関係ありませんが、
異所性右鎖骨下動脈のように思えますがいかがでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>異所性右鎖骨下動脈のように思えますがいかがでしょうか?
確かに・・・!ありがとうございます。
追記します。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/19968
腸管壁肥厚・造影効果の低下・浮腫性変化があることから、右側結腸には珍しいとは思っていたものの虚血性腸炎の合併もあるのかと考えてしまいました。
虚血と憩室炎に伴う変化の違いは結構違うものでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>右側結腸には珍しいとは思っていたものの虚血性腸炎の合併もあるのかと考えてしまいました。
おっしゃるように虚血性腸炎の場合は、通常は左半結腸に起こります。
また粘膜下層の肥厚を認める範囲が下行結腸〜S状結腸と長いのが特徴です。
>虚血と憩室炎に伴う変化の違いは結構違うものでしょうか。
ともに結腸において、3層構造を保った壁肥厚を来す(憩室炎の場合は厳密には来すことがある)と言う点は類似しています。
ただし、部位や局所的か否か、また憩室を伴っているか、などで鑑別可能です。
分かりやすい解説ありがとうございます。
今回のように腸管に炎症を認めるような症例では、レポートに「腸管壁の肥厚」と記載される場合や「腸管浮腫」と記載される場合があるのですが、明確な使い分けがあるのでしょうか?基本的なことで申し訳ないのですが、ご教授頂けましたら幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>今回のように腸管に炎症を認めるような症例では、レポートに「腸管壁の肥厚」と記載される場合や「腸管浮腫」と記載される場合があるのですが、明確な使い分けがあるのでしょうか?
壁肥厚に腸管浮腫が含まれる感じですが、腸管浮腫のことを腸管壁肥厚と言うこともあります。
ただし、腸管壁肥厚には腫瘍による層構造を認めない肥厚も含まれるため、同義ではありません。
浮腫というのは基本的に3層構造の中間層の肥厚が目立つ場合に用いられることが多いです。
左心室内に低吸収域があるように見える(横断像44~47)のですが、これは何でしょうか?
アウトプットありがとうございます。
乳頭筋だと思われます。
細かい質問で申し訳ないのですが、”腸管壁の肥厚”の腸管壁とは具体的には粘膜下層と筋層のことをさすのでしょうか?粘膜層も含めて腸管壁なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
粘膜層も含めて腸管壁です、炎症や虚血などにより浮腫が起こると、粘膜、粘膜下層、漿膜下層に肥厚が起こりますが、中でも中間層である粘膜下層の肥厚が目立つということです。
参考:ここまでわかる急性腹症のCT 第3版 P113
97枚目のスライドで回盲部あたりに見える高吸収の石のようなものはなんでしょうか?99枚目のスライドでも、同じような物が見えますが、これはなんでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
結腸憩室内の糞石ですね。このように高吸収にみえることがあります。
憩室がいっぱい見られても、周囲の脂肪織濃度の上昇、筋膜肥厚の強いところ、粘膜下層の肥厚の強いところを見ていくことで、
炎症を起こしている憩室がどれかが推測されるということがよくわかりました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。最も炎症所見が目立つ部位に着目するのがポイントです。