【胸部】症例13
【症例】40歳代女性
【主訴】ふらつき
【現病歴】髄質嚢胞腎による腎機能障害で他院でフォローされていたが、通院を自己中断。その後他院に通院していたが腎機能障害は進行傾向であり、浮腫、倦怠感の出現あり。透析導入のために当院受診されたが、Cr 16.58mg/dl、Hb 5.3g/dlと腎機能悪化と貧血を認めたため、治療目的で緊急入院となった。
【既往歴】アルコール性肝障害
【内服薬】ラシックス、ザイロリック、カルタン、アルダクトン、EPL、アーガメイト20%ゼリー、ポルトマック、クレメジン、アルファロール、強力ネオミノファーゲン/週1回、ラエンネック/週1回、ミルセラ
【生活歴】喫煙:10本/日(20歳より現在も)、飲酒:ビール500ml/日 毎日
【身体所見】意識清明、BT 36℃、HR 79bpm、BP 143/80mmHg、眼瞼結膜:貧血++、眼球結膜:黄疸なし、頸部:リンパ節腫脹なし、甲状腺腫大なし、呼吸音:清、雑おなし、心音:整、雑音なし、下肢浮腫+/+、足背動脈触知良好。
【データ】WBC 8100、Cr 16.58、BUN 124.1、Hb 5.3、CRP 3.77
画像はこちら
まずレントゲンで、両側中枢側に浸潤影を認めていることがわかります。
ちょっと右上はそれほど目立たないかもしれませんが、その目で見るといわゆるbutterfly shadow(蝶形陰影)を認めていることがわかります。
また軽度心拡大を認めています。
CTでは両側の中枢側の浸潤影〜すりガラス影を認めていることがわかります。
この中枢側優位に浸潤影を認めるのが肺胞性肺水腫の特徴です。
「浸潤影→(なんでもとりあえず)肺炎でしょう」
と考えるのではなく、分布と両側性に着目しましょう。
逆に、左右差が強いときは、肺炎を合併している可能性を考える必要があります。
また胸膜に連続する(しないものも)線状構造を認めており、小葉間隔壁の肥厚を認めていることがわかります。
気管支血管束肥厚も認めていますが、浸潤影に混ざってちょっとわかりにくいかもしれません。
両側胸水も認めており、これらの所見から、肺胞性肺水腫を示唆する所見です。
診断:(肺胞性)肺水腫
※慢性腎不全増悪、尿毒症による肺水腫と診断されました。
※腎機能については、脱水補正・薬物中止などで改善を認めず、不可逆であると判断。腹膜透析が導入されました。
その他所見:皮下や縦隔、腹部の脂肪織濃度上昇あり、全身浮腫の状態が疑われる。
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【胸部】症例13の動画解説
肺水腫の画像所見の解説動画
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
患者情報があったので肺水腫と思いましたが、画像のみだったらどうだったんだと思います。ただ、ご教示いただいたもので推測できそうだと思いました。今までカーリーBラインを無視していたので、一つ武器が増えるとすごく頼もしいです。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>患者情報があったので肺水腫と思いましたが、画像のみだったらどうだったんだと思います。
基本画像のみでは判断するものではないですね。
>今までカーリーBラインを無視していたので、一つ武器が増えるとすごく頼もしいです。
それはよかったです。あるかもしれないと言う眼で見ないと見えてこないですよね。
肺水腫関連で、くも膜下血腫などの頭部疾患でAiを撮影した際に、神経原性肺水腫と思われる所見をまれに見ます。肺水腫の3つの機序の内、血管透過性の亢進によるものと考えてよいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>くも膜下血腫などの頭部疾患でAiを撮影した際に、神経原性肺水腫
Aiを結構撮影される施設なのですね。神経原性も重要ですね。
>肺水腫の3つの機序の内、血管透過性の亢進によるものと考えてよいのでしょうか?
おそらくNa貯留による静水圧上昇によるものだと考えます。
参考
http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse1252.pdf
症例12で肺水腫について多く学べたため、焦ることなく読むことができました。
カーリーBラインは意識しても難しいですね(汗) CTで小葉感隔壁の肥厚を確認した後でも見えてこないです。。。
アウトプットありがとうございます。
>カーリーBラインは意識しても難しいですね(汗)
同じくそう思います。ただ意識して見ることが重要ですね(滝汗)
前回の肺水腫よりも所見が派手でした.
B3bは今回あまり目立ちませんでしたが,意識が足りていないなぁと感じました.
アウトプットありがとうございます。
実際の現場ではレントゲンを読む前にCTが撮影されたりしますね。。。
まずはCTの広義リンパ路病変を意識して、この機会に肺水腫のレントゲン所見を復習しておきましょう。
今日もありがとうございます。
症例12のおかげで自信を持って回答する事が出来ました。
アウトプットありがとうございます。
今回は、症例12よりは、より肺胞性肺水腫であり、心原性以外のパターンでした。
「尿毒症による肺水腫」という言い方をされていますが、これは腎不全→乏尿→溢水による肺水腫と区別できるものですか?教科書的には尿毒症が血管透過性亢進に寄与するような書き方がされているものもあります。とすると心拡大に比して肺水腫がシビアに見えたりするのかなと思ってるのですが、そういう理解でよいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>「尿毒症による肺水腫」という言い方をされていますが、これは腎不全→乏尿→溢水による肺水腫と区別できるものですか?
これは区別できないので両方関与しているのだろうなというのが主治医の見解のようです。
>心拡大に比して肺水腫がシビアに見えたりするのかなと思ってるのですが、そういう理解でよいのでしょうか?
おっしゃるとおりです。心原性肺水腫を疑うような心拡大がないのに、肺水腫を認めている場合は、腎性などを考えます。
ありがとうございました。
小葉間隔壁と血管はどのようにして見分けたらいいですか?
私は、”小葉間隔壁は胸膜と連続するが、血管は連続していない”ということで見分けていました。
アウトプットありがとうございます。
>小葉間隔壁と血管はどのようにして見分けたらいいですか?私は、”小葉間隔壁は胸膜と連続するが、血管は連続していない”ということで見分けていました。
それでよいと思います。
胸膜に達する線状影から、小葉間隔壁の肥厚を類推するという流れでよいです。
今回や前回の症例は非常に小葉間隔壁の肥厚が見やすいので、これらの症例で、小葉間隔壁の肥厚とはどんな風に見えるのかというのを体感してください。
いつもありがとうございます。肺水腫の解説もわかりやすかったです!
その他の所見ですが、「心腔内や血管内の濃度が低下しており、貧血として矛盾しない」と指摘しましたが、いかがでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>「心腔内や血管内の濃度が低下しており、貧血として矛盾しない」と指摘しましたが、いかがでしょうか?
素晴らしいですね!その通りです。
いつもわかりやすい解説ありがとうございます。
今回の症例で認められた貧血は、心不全により体液量が増加し血液が希釈されることにより起こっているという解釈でよろしいのでしょうか?
勉強不足なため、基礎的な質問ですが、回答していただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>今回の症例で認められた貧血は、心不全により体液量が増加し血液が希釈されることにより起こっているという解釈でよろしいのでしょうか?
貧血の原因の解釈は、消化管出血など出血源があればわかりやすいですが、そうでない場合は容易でないことがあります。
貧血が疑われる場合、
・赤血球数
・Hb濃度
・ヘマトクリット(Ht)
から平均赤血球容積(MCV:mean corpuscular volume)を計算して、このMCVの値により
・小球性貧血(MCV<80)
・正球性貧血(80≦MCV≦100)
・大球性貧血(MCV>100)
の3つに分類して鑑別診断を勧めます。
今回はHbのみしか測定されていないので、さらなる精査が必要となりますが、高度な腎機能低下があるので、腎機能低下による貧血もありそうですね。
浸潤影=肺炎と短絡しないように、肺水腫を支持する所見はないかチェックしていきます。
肺水腫では中枢側優位の浸潤影で末梢が保たれていることがヒントにもなることは
大きな収穫でした。
ところで今回はカーリーBラインかしら、と思える線状陰影がありました。深追いは禁物ですね。
アウトプットありがとうございます。
>浸潤影=肺炎と短絡しないように、肺水腫を支持する所見はないかチェックしていきます。
肺水腫では中枢側優位の浸潤影で末梢が保たれていることがヒントにもなることは
大きな収穫でした。
そうですね。分布や広義リンパ路病変を示唆する所見がないかをチェックするようにしてください。
>ところで今回はカーリーBラインかしら、と思える線状陰影がありました。
言われてみるとそのように見える部位もありますが、CT(今回は横断像しかありませんが)と照らし合わせてみると本当にそうなのかなあ・・・(^_^;)と怪しくなってしまいます。
ただしCTは臥位、今回のレントゲンは坐位で撮影されておりますので、レントゲンでBラインが見えて、CTで相当するところが見えないと言うことは考えられますね。
腎臓のサイズについてはどのような評価になりますでしょうか。萎縮と捉えても良いものでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。萎縮傾向にありますね。