
MRIが撮影されました。
腫瘤はDWIでやや高信号、ADCは信号低下を認めません。
また、T1WIでやや低信号、T2WIでは高信号でflow voidに富むことが分かり、周囲浮腫性変化を認めています。
今回脳実質外腫瘍のように見えますが、脳実質外腫瘍の画像所見としては、
- 腫瘍と脳実質の間にくも膜下腔(髄液)の入り込み:CSF cleft、CSF rim sign
- 腫瘍と脳実質の間に血管の入り込み:CSF cleft内のflow void(脳表に押しつけられた血管)
- 脳実質の偏位、圧排所見:white matter buckling
などを参考にします。
今回の症例も少し大げさに右側の様にシェーマ化してみますと、
- 腫瘤と脳実質との間には髄液の水信号の入り込みがある。
- 髄液の水信号の入り込みには血管構造を疑うflow voidがある。
- 脳実質の圧排所見がある。
ということがわかり、脳実質外腫瘍を示唆する所見です。
また腫瘍は均一に著明に造影されていることがわかります。周囲の硬膜にも造影効果を認めています。
また腫瘍辺縁を上下に見ていくと、dural tail signを疑う所見を認めています。
これらから疑われる腫瘍は・・・・
髄膜腫
ですね。
診断:髄膜腫疑い
脳血管造影が施行されました。
アンギオのレポートから抜粋します。
- 左ECA蛇行強い。
- 左MMA anterior br.およびposterior br.の多数のconvexity br.から腫瘍造影あり。腫瘍全体が強く染まる。
- 左MMA皮質枝からの腫瘍造影あり。腫瘍前縁と後縁が染まる。
- 左ACAからのfeederは明らかではない。
左外頸動脈から分岐する顎動脈からの中硬膜動脈(MMA:Middle meningeal artery)の前枝と後枝が中心となり、腫瘍濃染を認めていることがわかります。
これらの血管はMRAでも確認できます。
元画像の一番下のスライスでは、外頸動脈から中硬膜動脈、浅側頭動脈へと分岐しているところから始まります。
頭方へ進むにつれて、中硬膜動脈(MMA)は前枝と後枝へと別れ、とくに前枝がこの髄膜腫に入っていく様子がわかります。
MIP像でも範囲を広げると、内頸動脈の外側に、拡張した中硬膜動脈および前枝、後枝が描出されており、それらが髄膜腫(MIP像では髄膜腫そのものは見えませんが)に入っていく様子が分かりますね。
逆に、このようなMIP像を見たら中硬膜動脈が拡張しており異常であるということに気付かなければなりません。
※その後、腫瘍栄養血管塞栓術および開頭腫瘍摘出術が施行されました。
※病理結果は、Meningothelial meningioma,WHO gradeⅠであり、最も低悪性度のものでした。
術後のフォローのMRI(初回から2ヶ月半後)です。
- (DWI/ADC)2ヶ月半後
- (T1WI横断像)2ヶ月半後
- (T2WI横断像)2ヶ月半後
- (FLAIR横断像)2ヶ月半後
- (脂肪抑制造影T1WI横断像)2ヶ月半後
- (脂肪抑制造影T1WI冠状断像)2ヶ月半後
- (脂肪抑制造影T1WI矢状断像)2ヶ月半後
髄膜腫は摘出されており、浮腫性変化も消失しています。
左の硬膜の肥厚および造影効果を認めています。左右差を見れば明らかですね。
一番下のところの術後変化でこのように硬膜が肥厚し、DA patternの造影効果を占めることがあります。
術後のフォローMRIを提示したのはこれを見て欲しかったからです(^_^;
また今回のように脳腫瘍が救急外来で発見されることがあるという点も今一度覚えておきましょう。
関連:
【頭部】症例64-2の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
今回のMRIでの診断(髄膜腫)に、「疑い」をつけたのは、髄膜腫の悪性や硬膜転移などを考えたためでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
まあそれほど深い意味はないのですが、脳腫瘍を画像のみで言い切るのは典型的な転移くらいかなと思いまして。
今回の髄膜腫も典型的なので断定して良いレベルかもしれませんが(^_^;
あまり深い意味はないです。
今日もありがとうございます。
CTだけですと脳実質内なのか脳実質外なのか非常に悩ましかったです。
造影されれば一目瞭然ですが、単純でもCSF cleftやflow voidから脳実質外病変を積極的に疑えるようになりたいです。それにしてもここまで大きい髄膜腫は初めて見ました。。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。
ちょっとCTだけでは難しいかもしれません。
MRIの造影では明瞭になりますが。
それが、2段階にした意図でもあります。
>それにしてもここまで大きい髄膜腫は初めて見ました。。
そうですね。大きな髄膜腫はたまにありますね。
小さなものは非常に頻度が多いですが、有症状の髄膜腫はやはり大きい傾向にありますね。
画像を横に二つ並べたくなる症例でした(DWIとADCは常に並べたいですが)。CTだと転移性脳腫瘍かな?と思ったのですが、髄膜腫の可能性もあるかと思い占拠性病変とぼやかしてしまいましたが、私にしてはこれまでのご指導の賜物で解答と比べなんとなく筋は間違えてなかったかと思います。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>DWIとADCは常に並べたいですが
そうですね。すいません。
>私にしてはこれまでのご指導の賜物で解答と比べなんとなく筋は間違えてなかったかと思います。ありがとうございました。
ありがとうございます。よかったです。
個人的には、ここまでの流れから腫瘍ではなく硬膜下血腫ではないかと考えていただき、
「あー腫瘍か。確かに腫瘍だ。そうか腫瘍も考えないといけないな」
という流れを狙っているのですが、血腫にしては形に無理がありますね。
腫瘍内出血や水頭症もないのに症状が急性で実質の浮腫も強かったため、染まり方が均一であることに引っかかりながらも悪性の髄膜腫なのかと思っていました。最も良性の髄膜腫だったのですね。
アウトプットありがとうございます。
サイズが大きな良性の髄膜腫でしたね。
たしかに救急で多くはないですが、脳腫瘍の存在も常に念頭に置かなければダメですね。CSF cleftなどは知らなかったので覚えておきたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。頻度は多くないかも知れませんが、準備はしておく必要はありますね。
>CSF cleftなどは知らなかったので覚えておきたいと思います。
脳実質外腫瘍なのか、実質内なのかしばしば悩ましいことがありますので、
その際の鑑別点の一つとしてぜひ覚えておいてください。
こんにちは!いつもお世話になってります。
CT所見が占拠性病変であることに気づかなかったです。白質の低吸収に着目してひたすら悩んでしまいました…
MRIも造影所見はよく見ていましたが、他の撮像条件はあまり目にしたことがなかったのでとても勉強になりました。
腫瘍周囲の浮腫性変化はADCで高信号なので、T2shinethrough(→血管性浮腫)と考えてよいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>腫瘍周囲の浮腫性変化はADCで高信号なので、T2shinethrough(→血管性浮腫)と考えてよいのでしょうか?
浮腫ではありますが、T2shinethroughというのはDWIで高信号で拡散制限がなくT2WI高信号の信号を拾っているところに使う用語ですので、T2shinethroughではないですね。
平素よりお世話になっております。本日も勉強になる症例をありがとうございます。
正答はできたのですが解説の動画がパスワードを要求されてみることができません。
メールにも添付されていないようですが差し支えなければパスワードを教えていただけると幸いです。
よろしくお願いします。
申し訳ありません。この動画だけパスワードが残っていました。先ほどパスワードを解除しました。
お手数おかけしますがよろしくお願いします。
いつもお世話になっております。
外頸動脈造影で腫瘍内に分散する細血管像があり、これぞsunburst appearanceですね。
次はCTだけを見た段階で、脳実質外の病変だと見極められるようになりたいです。(能動的にCSF Cleft等の所見を取りに行けるようになりたいです)
アウトプットありがとうございます。
>これぞsunburst appearanceですね。
補足ありがとうございます。そうですね。まさにという所見が見られますね。
>次はCTだけを見た段階で、脳実質外の病変だと見極められるようになりたいです。
CTだけでは難しいこともありますし、MRIでも外か内かどっちやねん?とややこしい症例もありますが、
今回くらいの症例ならばCTでも外と判断したいところです。