
【頭部】症例68
【症例】60歳代男性
【主訴】食欲低下
【現病歴】3年前に左肺癌(腺癌)で上葉切除後。半年前、右上腕骨骨折あり、骨転移を認めた。骨シンチで多発骨転移を認め、胸椎の骨転移に対して放射線治療歴あり。衰弱のため自宅療養が困難となり、PS低下と食欲不振で外来受診し、入院となった。
【既往歴】左肺癌術後、多発骨転移
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MRI
左の前頭葉の皮質下に、DWI高信号、ADC信号低下、T1WI高信号、T2WI高信号、造影効果はあるかどうか微妙な結節を認めています。
出血(もしくは粘稠な蛋白濃度の高い液体貯留)を伴う転移が疑われます。
また、脳萎縮は認めていないにもかかわらず、側脳室の開大および脳室周囲の浮腫、両側側脳室下角の開大を認めており、水頭症が疑われます。
造影T1WIでは、左頭頂葉皮質部や脳幹周囲、側頭葉内側周囲、小脳の脳溝に沿った造影効果を認めています。
矢状断像でそれはより明瞭です。
小脳半球の脳溝や脳幹部の表面に沿った造影効果を認めていることがわかります。
(椎体のMRIは撮影されていませんでしたが、撮影していたら頸椎〜腰椎・仙椎レベルにまで造影効果を認めている可能性があります。)
小脳半球の脳溝沿いだけでなく、大脳半球脳溝に結節や脳溝に沿った造影効果を認めています。
さて、これは何が起こっているのでしょうか?
- 主に小脳半球や大脳半球の脳溝沿いの造影効果や小結節
- 脳幹周囲の造影効果
これらは軟髄膜が造影されている&軟髄膜の脳溝に結節があるということです。
髄膜の造影パターンの復習ですが、以下の2種類があるんでしたね。
今回は中でも後者のPS patternに分類されます。
PS patternを呈する疾患には以下のものがありました。
つまり、今この中で考えるべきは、癌性髄膜炎です。
癌性髄膜炎により、髄液の吸収不良が起こり、水頭症が起こっていると予測することができます。
転移と思われた最初に見た結節もよく見るとSylvius裂に存在していることが分かります。
こちらも転移ではなく、髄腔内播種(癌性髄膜炎)が疑われます。
診断:癌性髄膜炎
※脳腫瘍症例をここまで見てきましたがその特殊型ということで、最後は癌性髄膜炎でした。救急ではなかなか見る機会はないかもしれませんが、髄膜の造影パターンについて今一度復習をしておいてください。
関連:髄膜の異常増強効果とは?DA pattern/PS patternとは?
【頭部】症例68の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
水頭症の原因が分かりませんでしたが、機能的に考えれば説明がつくのですね。勉強になりました。
最後の症例をなんとか正解して終えることができました。完全に頭部ESPRESSOの賜物です。腹部に続いて本当に勉強になるシリーズでした。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>機能的に考えれば説明がつく
そうですね。癌性髄膜炎による吸収障害ですね。
>最後の症例をなんとか正解して終えることができました。完全に頭部ESPRESSOの賜物です。腹部に続いて本当に勉強になるシリーズでした。ありがとうございました。
それはよかったです。こちらこそありがとうございました!
左前頭葉の結節影は、はじめ海綿状血管腫からの出血を疑いました。周囲浮腫や肺癌の既往、癌性髄膜炎の所見より一元性に考えると出血性脳転移と考えました。
アウトプットありがとうございます。
>周囲浮腫や肺癌の既往、癌性髄膜炎の所見より一元性に考えると出血性脳転移と考えました。
そうですね。一つ性状が異なりますね。
もう1点質問ですが、両側シルビウス裂の拡大も見られますが、水頭症と同じように癌性髄膜炎の影響でしょうか?
>水頭症と同じように癌性髄膜炎の影響でしょうか?
そうだと思われます。吸収障害があり、脳溝の開きも変わってくるのだと考えます。
脳室拡大・脈絡叢の造影効果にも気がついてはいたものの,その理由と病的意義がわからずでした.
よくわかりました.ありがとうございました.
アウトプットありがとうございます。
PS patternを示すことが多い、癌性髄膜炎という病態を押さえておいてください。
もちろん硬膜転移という形もありますが。
病歴から肺癌の転移を疑うのですが、T1 高 T2 高 DWI 高 ADC 低で造影効果も乏しいため 転移性としては典型的ではなく、原発性脳腫瘍がたまたま合併したと考えてしまいました。(そんなものがあれば当初から判明していたはずですが・・)肺癌が肺小細胞癌のような DWI 高 ADC 低のパターンのものなのか、出血により修飾をうけて、よくある転移性脳腫瘍のパターンからはずれているのでしょうか?基本的なところで申し訳ありませんが御教示ください。
アウトプットありがとうございます。
>出血により修飾をうけて、よくある転移性脳腫瘍のパターンからはずれているのでしょうか?
おっしゃるように出血を伴っていると考えられ、よくある転移性脳腫瘍のパターンではありません。この点は典型例でなく申し訳ありません。
今回のテーマは癌性髄膜炎ということで(^_^;)
病歴から転移を疑ったのですが、日々精進さんと同じように典型的でなかったため、診断にいきつきませんでした。
水頭症にも気が付かず(-_-;)
髄膜炎だから、水頭症をきたすことがあるということなのですね。
長いようであっという間の68症例でした。
ごろー先生の優しい解説にコメント、そして、みなさんのコメントを見て勇気づけられたので楽しく頑張ることができました。
駆け足だったので、まだまだ、自分の中で定着していない部分もあるので、復習頑張ります。
大変勉強になりました。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>髄膜炎だから、水頭症をきたすことがあるということなのですね。
おっしゃるとおりです。吸収障害が生じていると推測されます。
>長いようであっという間の68症例でした。
ごろー先生の優しい解説にコメント、そして、みなさんのコメントを見て勇気づけられたので楽しく頑張ることができました。
駆け足だったので、まだまだ、自分の中で定着していない部分もあるので、復習頑張ります。
大変勉強になりました。ありがとうございました。
こちらこそありがとうございます(^^)
見たことがない疾患は基本的に診断できない(傾向にある)ので、ヴァーチャルとはいえ、一度体験したことがあるということは次に必ず繋がると思います。
一度体験することが大事だと私自身が体感した体験談がこちらです(^_^;)
腹部ですが。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/training/1784-2