髄膜の腫瘍、異常造強効果
髄膜の異常を認識する前提として脳実質外腔の解剖の理解が必要です。
頭蓋骨と脳実質の間には、脳実質外腔つまり、硬膜外腔(頭蓋内板と硬膜の骨内膜層の間)、硬膜下腔(硬膜とクモ膜の間)、クモ膜下腔(クモ膜と軟膜の間)があります。
ただし、前者2つは正常状態では認めない潜在的腔です。
通常、これら構造はしばしば意識されていない場合があり、病変が存在しても見落としうるので注意しましょう。
参考)臨床画像2011年10月P1192-1202 髄膜の炎症疾患 自衛隊中央病院 藤川章先生の図を参照に作図
脳実質外腔に存在する病変は、大別すると、
髄膜の異常造影効果および腫瘤性の病変として認めます。
そして、髄膜の異常造影効果のパターンとして、
- 硬膜優位dura-arachnoid pattern(DA pattern) および
- 軟髄膜優位pia-subarachnoid pattern(PS(PA) pattern)
の2つがあります。
髄膜のどこに炎症の主座があるかにより分けられます。
※髄膜 meninges = 硬膜(dura mater) + くも膜(arachnoid mater) + 軟膜(pia mater)
DA pattern/PS patternのシェーマ
DA pattern (硬膜優位)を呈する疾患
- 低髄圧症候群(脳脊髄液減少症)
腫瘍性
- 悪性腫瘍の硬膜への転移
- 悪性リンパ腫の硬膜浸潤
自己免疫性
- サルコイドーシス(PS>DA)
- IgG関連髄膜炎
- ANCA関連肉芽腫性血管炎(かつてのWegener肉芽腫症)
- 関節リウマチ
その他
- 特発性肥厚性硬膜炎
- 術後変化等
※硬膜の造影増強を判断する際は撮像条件を理解する必要がある。例えば、TEが短い gladient echo法のT1強調像では、硬膜や静脈の造影効果が強調され、解釈が困難なことがある。
・TEが相対的に長いspin echo法のT1強調像を用いるか、普段のルーチンで撮影されている正常像と注意深く比較する必要がある。
症例 30歳代女性 低髄圧症候群
両側硬膜が肥厚し、造影効果を認めています。
症例 30歳代男性 術後(造影T1WI)
右術後で右のみ硬膜の肥厚を認めています。術後の影響が疑われます。
症例 70歳代女性 ANCA関連肉芽腫性血管炎(造影T1WI)
右側のみ硬膜の肥厚及び造影効果を認めています。
肥厚性硬膜炎を疑う所見です。
症例 70歳代女性 乳癌、硬膜転移・骨転移
右硬膜の肥厚を認めています。また頭蓋骨に造影効果を有する腫瘤があり、頭蓋内に突出しています。
→頭蓋骨転移からの浸潤が疑われます。
▶動画でチェック
PS pattern(軟髄膜優位)を呈する疾患
- 髄膜炎(感染性、結核性、ウイルス性、真菌、癌性)
- 肉芽腫性髄膜炎(結核、真菌症、サルコイドーシス)
- Sturge-Weber症候群
- もやもや病
このようにPS pattern(軟髄膜優位型)では脳溝や脳底部の脳槽を縁取るような造影効果を示します。
また、脳神経もくも膜下腔に存在していますので、脳神経に沿った異常な造影効果を認めた場合も、このタイプに分類されます。
症例 30歳代男性 頭痛、しゃべりづらさ
FLAIRで左前頭葉ー頭頂葉の脳溝沿いに異常な高信号を認めています。
SAHや髄膜炎などを疑う所見です。
造影前のT1WIでは造影効果を認めませんが、造影MRIで脳溝に造影効果を認めています。
また、髄液所見などから、ウイルス性髄膜炎と診断・加療されました。
症例 60歳代男性 肺癌癌性髄膜炎
脳表の軟膜に沿った異常造影効果を認めています。
脳幹周囲や両側側脳室の表面に造影効果を認めています。
これらはいずれもPS patternの分布であり、癌性髄膜炎を疑う所見です。
まとめ
髄液の異常増強効果には、
- PS pattern
- DA pattern
の2パターンがあり、それぞれに鑑別疾患が挙げられます。
またこの理解には髄膜の解剖の復習が欠かせません。
参考)臨床画像2011年10月P1192-1202 髄膜の炎症疾患 自衛隊中央病院 藤川章先生