
【頭部】症例65
【症例】50歳代 男性
【主訴】意識障害、痙攣
【現病歴】本日仕事中に意識障害を伴う全身痙攣あり。
【既往歴】1年前に肺癌術後(Papillary adenocarcinoma)、アルコール性肝障害
【身体所見】JCS1 名前・生年月日は言えるが、やや応答は緩慢さあり。上肢Barre陰性、呼称問題なし。
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同日にMRIが撮影されました。
まずCTから見てみましょう。
左前頭葉に高吸収腫瘤(内部はやや低吸収)を認めており、その周囲には著明な浮腫性変化があります。
右側への正中構造の偏位を認めています。
症例64とは異なり、脳実質内腫瘍が疑われます。
また右側頭葉内側には低吸収域を認めています。
冠状断像においても同様に、高吸収腫瘤+周囲著明な浮腫性変化を認めています。
また、大脳鎌下ヘルニアを左側から右側にかけて認めています。
また軽度ではありますが、鉤ヘルニアも認めていることが分かります。
ただし、脳幹の圧排所見は軽度であることがわかります。
MRIでは、腫瘍はDWI、ADC、T1WI、FLAIRでほぼ等信号(中心部以外)で、ADC、FLAIRでは周囲の浮腫性変化が高信号として明瞭であることがわかります。
造影MRIでは、左前頭葉の腫瘤は中心部を除いたほぼ均一な造影効果(リング状造影効果)を認めています
また、左半卵円中心や、右側頭葉内側にも造影効果を有した腫瘤があり、CTで低吸収域を認めた右側頭葉内側にはリング状に造影される腫瘤が存在することがわかります。
症例41の脳膿瘍のところでも出てきましたが、リング状に造影されることがある疾患には以下のものが知られています。
- 膠芽腫
- 脳膿瘍(症例41)
- 転移性脳腫瘍
- 脳内血腫(亜急性期-吸収期)
- 脳梗塞(亜急性期)
- その他(脳壊死、悪性リンパ腫、毛様細胞性星細胞腫、血管芽腫、神経節膠腫、多形黄色星細胞腫など)
今回は、
- 1年前に肺癌術後
- リング状・点状に造影される腫瘤
- 多発している
ということから、肺癌の脳転移が第一に疑われます。
脳膿瘍の場合は、粘稠な液体を反映して、拡散強調像(DWI)で内部が著明な高信号を示すのが特徴でしたね。
脳転移の場合も、悪性腫瘍なので、拡散強調像(DWI)で高信号を示すと思っている方がおられるかもしれませんが(私も研修医の頃はそう思っていました)、原発巣によることが多く、むしろ今回のように高信号とならないのが一般的です。
高信号を示すのは、肺小細胞癌などが知られています。
診断:多発転移性脳腫瘍
※その後は、現在独り身であり、種々のサポートをして貰える親族がいる他県に転院となりました。
【頭部】症例65の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
DWIについてはトルソー症候群のときに教わっていたので落ち着いて観察できました。
脳ヘルニアについては復習でしたが明確に指摘できませんでした。大脳鎌下ヘルニアや鉤ヘルニアをしっかりと指摘する意識が足りず、「正中偏位があり実質が圧迫されている。水頭症はなし」程度でいつも終わってしまうので、各部位のヘルニアをもう少し意識するよう心がけます。
アウトプットありがとうございます。
>DWIについてはトルソー症候群のときに教わっていたので落ち着いて観察できました。
転移はDWIで高信号にならないことが多いという点ですかね。
>「正中偏位があり実質が圧迫されている。水頭症はなし」程度でいつも終わってしまうので、各部位のヘルニアをもう少し意識するよう心がけます。
今回はよく見ると、、、と言うレベルで、脳幹の圧排所見などはないのですが、
重篤なshiftがある場合は注意深く観察したいですね。
身体所見では「JCS1 、上肢Barre陰性、呼称問題なし」とありますが、画像所見ではもっと重症な感じがします。人間の体は不思議です。
アウトプットありがとうございます。
ですね。急性期病変ではないからなのかもしれませんね。
今日もありがとうございます。
鉤ヘルニアを完全に見落としました…脳ヘルニアを今一度復習します。
アウトプットありがとうございます。
>脳ヘルニアを今一度復習します。
まずは鉤ヘルニアや脳幹周囲のくも膜下腔の狭さに着目してみましょう。
確かにbrain shiftがそれなりなので,ヘルニアの有無はチェックすべきでした.
反省です.
アウトプットありがとうございます。
ヘルニアがあれば全て緊急性が高いというわけではなく同じ鉤ヘルニアでも軽度なものから重度なものまであります。
重度なものを見落とさないようにする必要がありますが、重要なヘルニアですので、基本チェックするようにしたいですね。
髄膜腫の時にも思ったことですが、周囲に浮腫性変化が生じるのはどういった過程からでしょうか?
良性と悪性では浮腫の状態は変わってきますか?
アウトプットありがとうございます。
脳出血や脳梗塞でもそうですが、本来あるべきでない構造物が存在するとその周りには浮腫性変化が生じます。
圧迫されて水っぽくなるイメージですね。
>良性と悪性では浮腫の状態は変わってきますか?
浮腫を見て良性悪性は鑑別できないですが、一部T2WI高信号が単なる浮腫を反映しているわけではないことがあります。
そのあたりの話は明日の症例で出てきます。
お世話になっております。
本題とは関係なさそうですが、FLAIR像の20~22枚目で橋に見られる高信号は何でしょうか?
造影効果がないので転移性腫瘍では無さそうです。T1WIで低信号に見えなくもないので、ラクナ梗塞?と思ったのですが、いかがですか?
アウトプットありがとうございます。
>本題とは関係なさそうですが、FLAIR像の20~22枚目で橋に見られる高信号は何でしょうか?
他のものと比べると分かりにくいですが、橋にもうっすらリング状の造影効果を認めていそうですね(^_^;)
こちらも転移が疑われますね。