
【頭部】症例63
【症例】90歳代女性
【主訴】意識障害、右上下肢麻痺
【現病歴】他院入院中であった。昨晩より上記症状出現し、CTを施行。脳出血を認めた為、当院に転送となった。
【身体所見】JCS-100、BP 137/87mmHg、PR 76,整、pupil 左右同大3mm、対光反射左右とも迅速。
画像はこちら
翌日MRIが撮影されました。
左側頭葉皮質下を中心に血腫を認めています。
皮質下出血を疑う所見です。
左側脳室後角から脳室内に穿破していることがわかります。
またわずかですが左頭頂部に慢性硬膜下血腫を疑う所見を認めています。
次にMRIの画像を見てみましょう。
両側視床にDWI高信号、ADC信号低下、FLAIR淡い高信号という、急性期以降の新規脳梗塞を疑う所見を認めています。
脳梗塞を疑う所見は、両側視床だけではなく、両側大脳半球、脳梁膨大部、右小脳半球にも認めています。
これは、動脈の支配域では説明が付かないような分布で脳梗塞が起こっていることがわかります。
- 皮質下出血(+脳室穿破)
- 両側視床梗塞
- 動脈支配域に一致しない多発梗塞
- (硬膜下血腫)
これらの所見が同時に起こっており、このような場合に考えなければならないのが
静脈洞血栓症
です。
よく見るとDWIでの高信号は、脳実質だけではなく、左横静脈洞からS状静脈洞にかけても認めていることがわかります。
同部に粘稠な血栓が詰まっていることが推測されます。
診断:左横静脈洞〜S状静脈洞を中心とした静脈洞血栓症およびそれに伴う多発梗塞、左皮質下出血(+関係性ははっきりしない左慢性硬膜下血腫)
MRA MIP像では、両側中大脳動脈のM2に狭窄があるように一見見えますが、横方向のあわい線状構造を認めており、繋ぎ目のアーチファクトが疑われます。
元画像で見ると狭窄は明らかではありません。
ただし、左中大脳動脈のM1はやや細く見えます。
またMIP像には、今回の静脈洞血栓も見えますね。
また血腫は、MRA元画像で等信号、FLAIRでは著明な低信号を示しています。
これは、FLAIRでの著明な低信号が特徴で、デオキシヘモグロビンの時期つまり、急性期脳出血を示唆する所見であっったことも復習しておきましょう。
関連:
【頭部】症例63の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
今日もありがとうございます。
一つ一つの所見を挙げることが出来てもそれらが結び付きませんでした。動脈支配に一致しない+多発性の脳梗塞+出血からこの疾患を疑えるようにしなければ。早期発見のためにはSWIがやはり有用ですね。このESPRESSOでSWIの威力を思い知ったので今MRIのプロトコル変更を検討中です。
アウトプットありがとうございます。
>動脈支配に一致しない+多発性の脳梗塞+出血からこの疾患を疑える
そうですね。疑えることがこの疾患は重要ですね。
>ESPRESSOでSWIの威力を思い知ったので今MRIのプロトコル変更を検討中です。
T2*WIよりも見にくいと言う人もいますが私も改めてSWIの威力を感じています。
静脈血栓は浮かびましたが、静脈血栓=血管性浮腫でDWI高信号・ADC上昇のイメージがあり今回は違うと考えてしまい、心原性のパラパラ梗塞や分水嶺梗塞、出血性梗塞が重なったのかと思いました。
静脈血栓も進行すれば静脈性梗塞なのでADCは低下するのですね。納得です。
脳室内の拡張した血管もうっ滞した静脈だったのですね。
出血は静脈うっ血による破綻が原因でしょうか?
また、静脈血栓により多発する梗塞は、静脈うっ滞→圧上昇・還流低下→動脈の血行力学性梗塞ということでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>心原性のパラパラ梗塞や分水嶺梗塞、出血性梗塞が重なったのかと思いました。
おっしゃるように上の方は分水嶺梗塞の分布に見える部位もありますね。
>出血は静脈うっ血による破綻が原因でしょうか?
ですね。
>また、静脈血栓により多発する梗塞は、静脈うっ滞→圧上昇・還流低下→動脈の血行力学性梗塞ということでしょうか?
動画の、ここまでわかる頭部救急のCT・MRIを引用して解説した機序ですね。
動脈ではなく静脈性梗塞ですね。
所見が多くて記載するのが大変でした(^^;)
両側視床が浮腫状に高信号を呈していたので、通常の動脈性脳梗塞ではなく、静脈性梗塞を疑いました。
静脈洞血栓症といっても、これだけ所見が盛りだくさんの症例は出会ったことがありません。貴重な症例ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>両側視床が浮腫状に高信号を呈していたので、通常の動脈性脳梗塞ではなく、静脈性梗塞を疑いました。
この所見は静脈性梗塞を疑うヒントになりますね。
>静脈洞血栓症といっても、これだけ所見が盛りだくさんの症例は出会ったことがありません。貴重な症例ありがとうございました。
この後の画像がないのが残念ですが、得られるものが多い症例ですね。
こちらこそありがとうございます。
静脈性梗塞なんてあるんですね。(お恥ずかしい・・)
大変勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。とくに動脈支配域に一致しない脳梗塞を見たときは何かおかしいぞ?と思い出してください。
静脈性梗塞を知らなかったです。DWの静脈洞の高信号もここは関係ないと思ってしまいました。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>DWの静脈洞の高信号もここは関係ない
超関係がありましたね。
この疾患は教科書にはのってはいますが、経験がしたことがないと想像できない傾向にありますね。
ぜひ次回現場で見たときは、違和感に気付いてください。
左の静脈洞血栓症でも左右差のない梗塞像は出現することがあるのだと勉強になりました.
アウトプットありがとうございます。
そうですね。梗塞に関しては今回それほど左右差はないですね。
今回は所見が盛りだくさんで自分の頭の中が混乱してしまいました(;^_^A
脳出血があるのに、硬膜下血腫があり、動脈支配域に一致しない脳梗塞がある、なんじゃこりゃ!ってなりました。
視床についてもきれいに両側だったので、前にあったT1WIで淡蒼球が高信号になる肝性脳症のような何か疾患が隠れているのか?考えました。
DWIでの静脈洞の高信号にも違和感を持ったのですが、静脈血栓症につながりませんでした。
静脈の高信号、動脈支配域に一致しない脳梗塞、そして脳出血を見たときに静脈血栓症疑えるようにしておきたいですね。
ところで、kenkenさんのコメントにある「両側視床が浮腫状に高信号を呈していたので、通常の動脈性脳梗塞ではなく、静脈性梗塞を疑いました。」に対して、ごろー先生が「この所見は静脈性梗塞を疑うヒントになりますね。」と答えられていますが、どうしてヒントになるのか教えていただいてもよろしいでしょうか?基本的なことなのかもしれませんが、わからなかったもので(-_-;)
アウトプットありがとうございます。
>今回は所見が盛りだくさんで自分の頭の中が混乱してしまいました(;^_^A
そうですね。かなり所見があるので難しい症例です。
>動脈支配域に一致しない脳梗塞がある、なんじゃこりゃ!ってなりました。
そうですね。動脈支配域に一致しない脳梗塞というのが、この疾患で非常に重要な所見です。
>kenkenさんのコメントにある「両側視床が浮腫状に高信号を呈していたので、通常の動脈性脳梗塞ではなく、静脈性梗塞を疑いました。」に対して、ごろー先生が「この所見は静脈性梗塞を疑うヒントになりますね。」と答えられていますが、どうしてヒントになるのか教えていただいてもよろしいでしょうか?
両側視床であるためです。
動脈性ならば通常は片側の視床ですが、両側視床に広範な梗塞を認めている場合は、静脈性の可能性を考えます。
ただし、動脈性でも両側視床に梗塞を来すことがあるので注意が必要です。
今回は両側視床全体に梗塞がある点や、それ以外の部位にも梗塞がある点から、静脈性ではないかと考えることができます。
※視床を栄養する血管の一つである傍正中視床動脈は約50%の症例で一側の脳底交通動脈から出て左右に分かれて両側の視床、視床下域を灌流するため、しばしば一側の閉塞で両側性の視床梗塞を起こす。
参考:
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/1168
静脈洞血栓症でみる出血は出血性梗塞ということでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
出血性梗塞というのは、脳梗塞が起こった部位に出血が起こってしまう病態ですね。
静脈洞血栓症で起こる出血は、静脈に血栓が形成され、静脈うっ滞が起こり、静脈圧が上昇した結果、破綻したものですので、出血性梗塞とは異なります。
ただし、静脈洞血栓症により起こった静脈性の梗塞部位に出血性梗塞を起こすことはあるかと考えます。
左の静脈血栓症で右にも梗塞が起きるのはどうしでしょうか? 左右の交通により反対側の血管圧も上昇するのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるとおりだと考えます。
片側のS状静脈洞に血栓があれば、左右共通の正中の上矢状静脈洞の圧が上昇するため左右両方上がることになります。