【頭部】症例62 解答編

【頭部】症例62

【症例】20歳代男性
【主訴】意識障害
【現病歴】3日前より前頭部痛があった。症状は持続し、本日出社後に頭痛が増強。嘔吐を伴ったため救急搬送となった。
【既往歴】なし。
【内服薬】なし。
【身体所見】JCS-20~30、GCS E2~3V4M5~6、オーダーは入りにくく詳細な神経学的所見の診察は困難であるが、四肢の自発運動に明らかな左右差は梨。瞳孔:左右同大3mm、対光反射:左右ともに迅速

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右優位に側脳室内に血腫を疑う高吸収域を認めています。

脳室内出血の所見です。

また、両側側脳室下角の開大あり、急性水頭症を示唆する所見もあります。

このような脳室内出血を見た場合は、原発性脳室内出血ということもありますが、どこか脳実質内血腫が穿破して脳室内血腫となっていることが多いんでしたね。

今回はどうでしょうか?

よく見ると右側頭葉内側に実質内血腫があり、そこから脳室内に穿破したと考えられます。

横断像だけではわかりにくいので、冠状断像や矢状断像もしっかり見ましょう。

さて、

  • 20歳代と言う若年者
  • 側頭葉内側は高血圧性脳出血の好発部位ではない

という点を考慮すると、非高血圧性の脳出血を考えなければなりません。

非高血圧性の脳出血の原因には以下のようなものがありました。

  • 脳血管奇形(動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、海綿状血管腫)
  • 脳動脈瘤
  • アミロイドアンギオパチー
  • 脳腫瘍
  • 出血性梗塞
  • もやもや病
  • 静脈洞血栓症
  • 血管炎
  • 血液疾患(白血病など)
  • 薬物(抗凝固薬など)
  • 凝固異常
  • 外傷性

中でも若年者の場合は、脳動静脈奇形を始めとした血管奇形の頻度が高かったですね。

その確認のためには、MRIや脳血管造影が必要です。

今回は、MRIは撮影されず、同日に脳血管造影検査が施行されました。

 

左右対称のように見え、一見正常のように見えた人もいるかも知れません。

両側内頸動脈から、前大脳動脈(ACA)、中大脳動脈(MCA)の分岐を認めていないということに気付くことがまず重要です。

そして、さらにその代わり細かなもやもや血管を多数認めています。

そう、もやもや病です。

左椎骨動脈造影では、後大脳動脈は残存していることがわかりますが、後大脳動脈(の枝である外側後脈絡叢動脈(Lateral posterior choroidal artery))から前方循環系への側副血行路の発達を認めている様子が正常例と見比べれば一目瞭然ですね。

 

 

診断:もやもや病による脳出血および脳室内穿破、急性水頭症

 

同日にドレナージチューブが両側側脳室に留置されました。

急性水頭症を生じており、両側の側脳室に減圧目的でドレナージチューブが留置されました。

その6日後のフォローのCTです。

6日後のCTでは水頭症は軽減しており、ドレナージは良好であることがわかります。

また右側頭葉内側に脳実質内血腫の残存を認めており、原発はやはりここのようです。

ここまでは経過良好であったのですが、12日後に再び意識障害を認め、CTが撮影されました。

 

左優位に両側頭頂葉、左は一部後頭葉に脳梗塞を疑う低吸収域の出現があります。

また左優位に前頭葉にくも膜下出血を疑う脳溝の高吸収の出現を認めています。

同日にMRIが撮影されました。

 

両側頭頂葉に急性期以降の脳梗塞を疑う、DWI高信号、ADC信号低下、FLAIR高信号を認めています。

FLAIRでは浮腫性変化も認めています。皮質も含んでおり、急激な脳梗塞が疑われます。

また、左前頭葉中心にくも膜下出血(FLAIRで高信号、SWIで同部に無信号あり)を疑う所見を認めています。

この原因として、皮質を含んでいますが塞栓性ではなく、今はもやもや病ですので、もやもや血管閉塞による脳梗塞(hemodynamic stroke)が疑われます。

ただし、主たる原因としては、脱水・低血圧・低酸素・貧血・てんかんなどが考えられるが、過去データを参照してもそれらの原因は認められない。とカルテには記載がありました。

右側頭葉内側の実質内血腫は、MRA元画像(T1WIの代用)で辺縁中心に高信号、FLAIRで全体的に高信号で、亜急性期相当でしたね。

今回は発症から12日後ですので、亜急性期早期と後期の間くらいで、信号パターンも合致しますね。

また、MRAでは両側の前大脳動脈・中大脳動脈を認めず、その代わりに微細なもやもや血管を多数認めていることがわかります。

この後、保存的に加療されました。

入院約20日後に脳室ドレナージを抜去しましたが、その後経時的に脳室の拡大を認めた為、入院50日後にV-Pシャント術が施行されました。

 

さて、前置きが長くなりましたが(いろいろ復習の要素がありましたが)、ここからが症例62の本題です。

発症から3ヶ月後に再びフォローのMRIが撮影されました。

どのような所見があるでしょうか?今回も急性期病変ではありません。

注意:3ヶ月後のリンクから回答提出していただくと、その後の解説が見られるようになっています。

関連

【頭部】症例62の動画解説

お疲れ様でした。

今日は以上です。

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