
【頭部】症例47
【症例】70歳代男性
【主訴】認知機能障害
【現病歴】3ヶ月前までは軽度の物忘れの自覚あるが、ADL自立していた。3ヶ月前に他院にて直腸脱手術を行い、術当日帰室後より不穏を認めるようになった。それを契機に認知機能障害の進行あり。退院後、1ヶ月前から娘の顔も認識できなくなり、異常行動(トイレに2時間閉じこもって叫んでいる)も認めるようになった。
【既往歴】狭心症にてステント留置後、直腸脱にて手術、前立腺癌術後、虫垂炎術後。
【内服薬】プラビックス、バイアスピリン、リバロ、カルブロック、タケプロン、オルメテック、オパルモン、ロキソニン、マリキナ配合顆粒、メイアクトMS錠、八味地黄丸エキス、デパス、パロキセチン、ガスモチン、ムコソルバン、レンドルミン(頓服)
【生活歴】喫煙:30本/day×20年間、30年前に禁煙、飲酒なし。
【身体所見】BT 37.3℃、BP 103/60mmHg、HR 74bpm、SpO2 100%(RA)、神経学的所見は診察時集中力に欠け詳細な評価は困難。意識清明、見当識障害(場前○、年齢×、場所×、日付×、季節×、人物認識×)、診察には協力的だが、多弁で集中力に欠ける。幻覚妄想あり、物品呼称不良(時計のみ正解、時計とカメラは趣味だったとのこと)、復唱良好、口頭言語理解良好、模倣動作不可能、パントマイム動作不可能、左右理解良好、手指理解一部誤答あり。脳神経系に異常なし、MMT full、反射では足底反射(反応なし/底屈)以外は異常なし、不随意運動なし、協調運動に異常なし、自律神経系に異常なし、右足に痺れあり。
画像はこちら
MRI
左優位に両側の大脳皮質にDWI/ADC=高信号/信号低下の広がりを認めています。
FLAIRではDWIの高信号に一致して、淡い高信号を認めています。
左基底核にわずかにDWIでの高信号を認めています。
造影のMRIも撮影されていますが、特に異常所見は認めていません。
大脳皮質にDWIで異常高信号を認めた際に考えるべき疾患には以下のものがあります。
- 急性期脳梗塞
- ヘルペス脳炎などのウイルス性脳炎
- 高血圧性脳症、子癇、免疫抑制剤による脳症など(PRES含む)
- 低酸素症
- てんかん重積発作
- 多発性硬化症(稀)
- 悪性リンパ腫、胚芽腫など
- 静脈性梗塞
- アーチファクト
- CJD
などです。
今は、
- 皮質に沿っている。
- 広範である。
- 血管支配域に一致しない。
- 浮腫を伴っていない。
- 白質には高信号がない。
- アーチファクトではない。
- 高血圧や妊娠、免疫抑制剤などがない。
- てんかん重積などの痙攣状態ではない。
などから、まず考えるべきは、CJD(Creutzfeldt-Jacob病)です。
※3ヶ月の経過で急速に進行した認知機能障害として神経内科に入院となり、精査されました。
- 髄液検査:軽度蛋白増多認めるが、細胞増多は認めず。
- 家族歴、硬膜移植歴、食肉嗜好歴、欧米渡航歴は認めず。
といった点からも、CJDの中でも孤立性が考えられました。
長崎大学に髄液を送り、髄液14-3-3蛋白、髄液総タウ蛋白、髄液異常プリオン蛋白が調べられました。
その後返ってきた結果では、
と、14-3-3蛋白陽性、タウ蛋白陽性であり、これらからも、孤立性のCJDと診断されました。
診断:CJD(Creutzfeldt-Jacob病)
退院後10ヶ月後のフォローのMRIです。
大脳皮質の異常な高信号の広がりは右側にも広範に広がっている様子がわかります。
またやはり基底核は左優位に高信号を認めており、前回よりも明瞭化しています。
その後は他院へ転院となっており、画像を含め、詳細は不明です。
関連:
その他所見:左基底核に陳旧性ラクナ梗塞の疑い。
【頭部】症例47の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
今日もありがとうございます。
特徴的な所見と現病歴のエピソードからCJDにたどり着けましたが、大脳皮質のインパクトのある所見に気を取られ、基底核の高信号を見落としてしまいました。まだまだです。
アウトプットありがとうございます。
>大脳皮質のインパクトのある所見に気を取られ、基底核の高信号を見落としてしまいました。
そうですよね。大脳基底核にインパクトで基底核まで見られないかも知れませんね。
基底核も重要な所見ですので、覚えておいてください。
ヤコブ病は日本で年間100人程度発生と聞きましたが発症過程では「何が起こってる?」となると思います。長崎に検体を送ったということは日本でも調べられる施設は限られるということでしょうね。早く診断できた方がいろいろ良さそうですね(終活)。怖い病気のようですが勉強になります。
アウトプットありがとうございます。
>長崎に検体を送ったということは日本でも調べられる施設は限られるということでしょうね。
そうですね。多分ここだけではないでしょうか。
MRIの特徴的な画像所見に加えて髄液14-3-3蛋白、髄液総タウ蛋白は診断に非常に有用みたいですね。
>早く診断できた方がいろいろ良さそうですね
確かにそうですね(^_^;
過去に1人、CJDの患者を見たことがあります。大脳皮質にDWIで異常高信号を認める疾患はたくさんありますが、進行性の認知力低下がある場合はCJDを疑いたいです。
10カ月後のMRIを見ると、短期間に脳萎縮が進行しています。CJDはかなりの進行性の疾患ということが実感できました。
>10カ月後のMRIを見ると、短期間に脳萎縮が進行しています。
確かに脳溝が明瞭になり、萎縮が進行していることがわかりますね。
アウトプットありがとうございます。
>過去に1人、CJDの患者を見たことがあります。
私は最近全然見ないですが数年前に「またCJDか」というほど続いたことがあります。
続くときは続くものなんですね。そういえばカリニ肺炎も一時期続いていましたが,最近全く見ないです。
そういうものなのかもしれません(^_^;
>進行性の認知力低下がある場合はCJDを疑いたい
ですね。
恥ずかしながらCJDが普通に発症することを知りませんでした。今まで出会ったこともなく、てっきり狂牛病のイメージで日本では起きないものだと思っていました。。。
アウトプットありがとうございます。
>狂牛病のイメージ
このイメージの方も多いと思います。
皮質などにDWI高信号を呈する疾患はありますが、特徴的な画像所見ですので、鑑別の一つに覚えておいてください。
パッと見たときに,教科書で見たことあるやつ!となりました.
ですが,やはりDWIで高信号を見たときは,急性期脳梗塞などの鑑別を念頭に,血管支配域などを意識して読影しないとダメですね.
アウトプットありがとうございます。
>DWIで高信号を見たときは,急性期脳梗塞などの鑑別を念頭に,血管支配域などを意識して読影しないとダメ
そうですね。
ただし、皮質のみ高信号となるとやはりおかしいなと気付けますね。
こんにちは。本日もよろしくお願いいたします。
孤発性CJDだったのですね!単純ヘルペス脳炎疑いとしてしまいました…
ヘルペス脳炎とCJDの病変の好発部位について復習する必要があると感じました。
・ヘルペス脳炎→島回、眼窩回、角回、帯状回などの前頭葉〜側頭葉(さらには頭頂葉や後頭葉)
・CJD→尾状核、大脳皮質(EuroCJDの診断基準に含まれる)
ということを教科書で学びました!
とくに、ヘルペス脳炎では「基底核は侵されにくい!」とごろ〜先生の「単純ヘルペス脳炎とは?MRI画像診断のポイントは?」のところで強調されておりました。
症候からも発熱などの前駆症状がなかったのでよりCJDが疑わしいということですね。
*「模倣動作不可能、パントマイム動作不可能」ということから、「観念運動失行」があることがわかりました。観念運動失行をきたす病変として
①左側の縁上回と上頭頂小葉の皮質・皮質下白質
②左大脳半球内の深部病変(この場合、左上肢に失行があり、右上肢には麻痺も失行もない)
③脳梁幹(交連線維を損傷することにより脳梁性失行)
の3種類があるそうです。今回は①に該当すると思いました。
*「手指理解一部誤答あり」→ということから、「手指失認」があることがわかりました。手指失認といえばGerstmann症候群を想起しますが、Gerstmann先生も手指失認は「左半球の頭頂葉の後部病変を推定せしめるものである」と述べていたそうです。Gerstmann症候群は左半球優位ですが、最近では手指失認に限っていえば、左右いずれの半球病変でも生じ得る(Gianotti)と言われているそうです。よって今回の症例患者さんの画像所見と身体所見は矛盾しないと思いました。
頭部画像は教科書で調べてみると意外と身体所見と画像がリンクしているようで、おもしろいなぁと感じています!
アウトプットありがとうございます。
>ヘルペス脳炎では「基底核は侵されにくい!」とごろ〜先生の「単純ヘルペス脳炎とは?MRI画像診断のポイントは?」のところで強調されておりました。
そうですね。鑑別点の一つになりますね。
>観念運動失行、手指失認
調べていただきありがとうございます。参考になります!
数年前に診断できなかった疾患です。
私が経験した症例は、初回は拡散強調像のみで異常所見がなんとかわかる程度でしたが、皮質のみの異常所見にきづけませんでした。2ヶ月後に認知症が進行したためMRIを再検したときには、こちらが画像みる前に主治医から症状の進行が早く、、CJDではないか、と連絡があり、画像でもT2WI、FLAIRでも皮質の異常信号がでており、基底核にも病変があり、CJDと診断をつけることができました。
進行度合いの違いもありましたが、疾患を頭において読影しているかどうかで、きづけるものもきづけない、と再認識させられた症例です。
今回は、皮質の異常信号と経過から診断できましたが、基底核の所見には気付けませんでした。もっと注意深く読影しないとだめですね。
今後とも、よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>初回は拡散強調像のみで異常所見がなんとかわかる程度でしたが、皮質のみの異常所見にきづけませんでした。
皮質のみであまり目立たない場合は、よくある磁化率アーチファクトかなと思ってスルーすることありますね。
逆に、これ本当に磁化率アーチファクトでよいのか?と悩ましいこともあります。
>画像でもT2WI、FLAIRでも皮質の異常信号がでており、基底核にも病変があり、CJDと診断をつけることができました。
CJDあるあるですね。最近CJD見てないですが(^_^;)
>今回は、皮質の異常信号と経過から診断できましたが、基底核の所見には気付けませんでした。
基底核はちょっとわかりにくいですね。進行した画像ならばわかりますね。
よろしくお願いします。
貴重な症例提示ありがとうございます。
実臨床ではCJDに遭遇したことがないので、皮質領域・基底核領域のDWI高信号を見たときは必ず鑑別に入れたいです。
CJDとは関係ない所見ですが、MRAで両側fetal typeでbasilar topに突出像を認めました。
小さいですがこちらは動脈瘤ととってよさそうでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
>MRAで両側fetal typeでbasilar topに突出像を認めました。
小さいですがこちらは動脈瘤ととってよさそうでしょうか。
おっしゃるように両側fetal typeで両側のPCAは完全にPcomから認めていますね。
ですので、今回後方循環系の最後で両側に分岐しているのはSCAですね。
basilar topというよりは右SCA起始部が確かに瘤状に見えます。
同部は漏斗状拡張を来すことがありますが、確かに少し上側に突出しているようにも見え、初回のMRAでは動脈瘤と取っても良さそうですね。
ただ、10カ月後のMRAを見てみると屈曲しているようにも見えますね。
10カ月後のMRAでは動脈瘤と取るには少し微妙かもしれません。
いずれにせよフォローして良い形だと考えます。
(このようにこれ本当に動脈瘤?というものがフォローされていることはよくあります。経過を追うことは重要ですね。)
以前、まったく同じように、DWIで皮質に高信号を示す患者さんがこられたことがあります。
認知症の疑いで来られ、認知症状の進みも早く、総合病院に紹介され、Creutzfeldt-Jacob病の診断がつきました。
進行が本当に早く半年後くらいには亡くなられました。
印象深い症例でしたので、今回の症例ではぱっとこの病気が浮かびました。
貴重な体験談ありがとうございます。
>まったく同じように、DWIで皮質に高信号を示す患者さんがこられたことがあります。
印象深い症例でしたので、今回の症例ではぱっとこの病気が浮かびました。
印象的な症例はいつまでも覚えていますよね。
私も腹部ですが、腹痛の方に単純レントゲンと診察して帰して、その後もう一度来られてCT撮影したら絞扼性腸閉塞だった症例は忘れられません(^_^;)
DWIは脳梗塞診断で非常に重要ですが、今回のような分布を示した際には、いつもと違うと気づきたいですね。
一生懸命画像を読んだ割に最後病歴・症状との照らし合わせを怠り、盛大に間違えてしまいました…
脳静脈血栓症としては、若年者に多く、進行性に増悪、症候の動揺、頭蓋内圧亢進やけいれんを伴うことが多く、また両側性に伴う症候が多いみたいで、今回の病歴とは少し異なります。
ここで、完全にルールアウトするために質問させていただきたいのですが、造影T1の矢状断で上矢状静脈と直静脈洞が拡張しているように見えたのと、静脈洞交会(94/185あたり)に造影が抜けている血栓のようなものが見えるのですが、これは血栓ではないのでしょうか。
よろしくお願い致します。
アウトプットありがとうございます。
>造影T1の矢状断で上矢状静脈と直静脈洞が拡張しているように見えたのと、静脈洞交会(94/185あたり)に造影が抜けている血栓のようなものが見えるのですが、これは血栓ではないのでしょうか。
矢状断像では抜けているようにも見えますが、横断像で見ると静脈が蛇行しているようですね。
また拡張も横断像では認めていないので有意ではないと考えます。