
【頭部】症例44
【症例】30歳代女性
【主訴】意識障害、痙攣
【現病歴】2-3日前から頭重感、めまいあったため、市販のロキソニンを内服していた。本日めまいひどくふらつくため立っていられなくなった。仕事中に倒れて痙攣(1−2分、両手を震わせる様子)があるのを同僚が発見し、救急要請。痙攣直後は不穏状態であったが、搬送中に意識レベルは改善傾向。
【既往歴】2年前に髄膜炎で他院にて加療。おそらくウイルス性で1週間程度で退院した。
【内服薬】なし
【生活歴】飲酒なし、喫煙なし、夫と2人暮らし
【身体所見】E3V4M6、JCS 10、BP 169/109mmHg、BT 36.4℃、HR 105bpm、SpO2 100%(RA)、脳神経所見:眼振なし、眼球運動異常なし、舌運動異常なし、構音障害なし、顔面知覚運動障害なし、聴力低下なし、四肢MMT full、上肢DTR:亢進減弱は認めていない、下肢DTR:両側膝蓋腱ともに亢進、Babinski陰性。
画像はこちら
同日MRI
CTでは特記すべき異常所見は認めません。
MRIでは、左頭頂葉、後頭葉および一部側頭葉の皮質〜皮質下にFLAIRおよびT2WIで高信号を認めています。
高信号部位は拡散強調像(DWI)、ADCではどうなっているでしょうか?
- DWIでは信号変化がない。
- ADCでは信号上昇を認めている。
という状態です。
これまで見てきた脳梗塞とは信号のパターンが違いますね。
これは血管性浮腫を疑う所見のパターンです。
そして、このように、片側もしくは両側の後頭葉を中心に血管性浮腫を見たら思い出さないといけないのが、
PRES(posterior reversible encephalopathy syndrome:可逆性後部白質脳症症候群)
です。
診断:PRES
PRESでは、急激な血圧上昇による血管透過性亢進や血管内皮細胞障害などによって、血管性浮腫→血管攣縮を生じるとされています。
今血圧は高いでしょうか?
高いですね!!!
つまり、次のようなストーリーが考えられます。
しかし、ここである疑問が生まれます。
30歳代の女性で、高血圧になるような生活歴ではないということです。
主治医は問診を続けました。
すると以下のことが判明しました。
- もともと血圧は低い方だった
- ここ2ヶ月で7kgの体重減少がある。
- ここ2週間頭痛がある。
こういったエピソードから思いつくべきは、褐色細胞腫(もしくは副腎外褐色細胞腫)です。
褐色細胞腫といえば、カテコールアミンの過剰分泌を起こし、5Hの症状を来すことで有名ですね。
- Hypertension(高血圧)
- Hypermetabolism(代謝亢進)
- Headache(頭痛)
- Hyperhydrosis(発汗過多)
- Hyperglycemia(高血糖)
の5Hでした。
全身検索が行われました。
副腎外褐色細胞腫(傍神経節腫ともいう)を疑う腫瘤が発見されました。
泌尿器科にて手術が施行され、摘出されました。
病理結果も副腎外褐色細胞腫で合致しました。
摘出後、血圧含め正常化しました。
ということで、高血圧を起こしたのは副腎外褐色細胞腫であり、以下のストーリーで痙攣が生じたと言うことが最終的にできます。
また、最初のMRIから7日後にフォローのMRIが撮影されています。
※手術が行われたのは7日後よりも後です。
7日後のMRIでは異常な高信号はいずれも消失しており、変化が一過性であったことがわかります。
診断:PRES(副腎外褐色細胞腫に伴う二次性高血圧による)
関連:
【頭部】症例44の動画解説
細胞性浮腫・血管性浮腫とは?
今回出てきた血管性浮腫とは?細胞性浮腫の違いは?が理解できます。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
後頭葉から頭頂葉にかけての変化、高血圧よりPRESを疑いました。
高血圧の原因となる褐色細胞腫の診断プロセスはとても勉強になりました。もし、造影CTをする場合、ヨード造影剤の原則禁忌に褐色細胞腫が記載されているため、気をつける点だと思います。
アウトプットありがとうございます。
>後頭葉から頭頂葉にかけての変化、高血圧よりPRESを疑いました。
素晴らしいですね!
>造影CTをする場合、ヨード造影剤の原則禁忌に褐色細胞腫が記載されているため、気をつける点だと思います。
確かにおっしゃるとおりです!
PRESは後頭葉に左右対称に出るイメージでした。高血圧についても何の疑問も抱いていませんでしたし、色々と読めていなかったのでよく復習しておきます。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように左右対称が多いですが、今回のようなケースもありますので、後ろに来た場合は鑑別に挙げましょう。
今日もありがとうございます。PRESは完全に頭から抜け落ちていました。高血圧もスルーしてしまいましたし…しっかりインプットしたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
頻度は多くはないですからね。見たことがあるという点で次の臨床現場に繋げましょう!
PRESに遭遇したことがないかもしれません。
梗塞以外でのDWIの評価もあまりしたことがありませんでしたが、血管性浮腫の鑑別に使えるんですね。画像もですが、ストーリーとしても難しめの症例だった気がします。
アウトプットありがとうございます。
>血管性浮腫の鑑別に使える
ですね。普段はほとんど梗塞ですが、ADCが高信号になっているのがポイントですね。
それほど遭遇する疾患でもないので、専門でなければそんなのもあるのか、程度で良いかと思います。
T2WIやFLAIRで
「あー高信号で、脳梗塞か」
→DWI
「ん?等信号なのか。」
→ADC
「ん?高信号なのか。」
脳梗塞じゃないのか? なんかそんなのあったな?
ESPRESSOの後半に。程度で。
両側来ている場合は、脳梗塞以外から考えそうですが。
PRESを見つけて終わりではなく,その原因の精査も必要ですね.勉強になりました.
そうですね。原因たくさんありますが、まずは高血圧がないかですね。
本当に勉強になりました。
参加してよかったと思える症例でした。今後のために再度復習しておきたいと思います。
あっ、解答は例によって珍解答でした(-_-;)
アウトプットありがとうございます。
>参加してよかったと思える症例でした。
それはよかったです。なぜ?→なぜ?と面白い症例ですね。
高血圧の原因まで分かって勉強になりました!
アウトプットありがとうございます。
今回は何段階か少し深い症例でしたね。
こんにちは。本日もよろしくお願いいたします!
①ADCの信号上昇をとることができず、迷走してしまいました。「T2WI、FLAIRで高信号!てんかん後の変化?脳炎?でもDWIが…」と苦しまぎれの鑑別が頭によぎってそこで思考停止してしまったことと、高血圧の病歴を軽視してしまったのが今回の敗因です。脳幹部(橋)のPRESを経験したことがあるにも関わらず、残念です。
②教科書でPRES(関連して可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS))についてもう一度確認しました。可逆性とはいえど。「PRESでも死亡例、重篤な後遺症を残すことも報告されている」という記載があり、本日も身が引き締まる思いです。
アウトプットありがとうございます。
>①ADCの信号上昇をとることができず
ついDWIのみに目がいきがちですが、ADCがある場合は必ずチェックする癖をつけましょう。
>脳幹部(橋)のPRESを経験したことがあるにも関わらず、残念です。
貴重な経験をしておられますね(^^)
>「PRESでも死亡例、重篤な後遺症を残すことも報告されている」という記載があり、本日も身が引き締まる思いです。
まあ何でもインフルエンザでも重篤になると大変ですね。
楽勝だと思ってたら足下をすくわれたということはたまに起こるので注意ですね。(自分に言い聞かせています(^_^;))
PRESといえば妊娠の時しか思いつきませんでした。
アウトプットありがとうございます。
教科書を見ると原因だけでものすごく記載があるのが、PRESですね。
本日もありがとうございました。
高血圧を本態性高血圧とせずに、二次性高血圧の可能性がないか確認した主治医を尊敬します。
お尋ねしたいのですが、先生は、DWIを見て特に高信号が無い場合でもADCを確認されますか?
(恥ずかしながら、私は今回DWIで特に高信号が無いからと最初ADCをスルーしました。。FLAIRで病変に気付いたので後からADCを確認しに戻れましたが、それで良かったのだろうか?と疑問に思いました)
アウトプットありがとうございます。
>二次性高血圧の可能性がないか確認した主治医を尊敬します。
同じくです。
>先生は、DWIを見て特に高信号が無い場合でもADCを確認されますか?
模範的にはDWIもADCもすべて観察するべきなのでしょうけど、私もDWIを見て高信号がなければADCは基本見ていません。
>FLAIRで病変に気付いたので後からADCを確認しに戻れましたが、それで良かったのだろうか?と疑問に思いました)
それでOKです。ADCのみ異常な信号を示す病態というのは思いつかないので。
非常に勉強になりましたありがとうございます。
拡散強調像で高信号になる事を確認した後にADCmapで低信号になっている事を確認するのは細胞性浮腫である事を確認し、T2shine-throughではない事を確認するためだったんですね。納得いきました。
アウトプットありがとうございます。
>拡散強調像で高信号になる事を確認した後にADCmapで低信号になっている事を確認するのは細胞性浮腫である事を確認し、T2shine-throughではない事を確認するためだったんですね。
おっしゃるとおりです。
脳梗塞の場合は細胞性浮腫ですね。
何でも細胞性浮腫というわけではありませんが。
ADCで信号低下がない場合は、ニセモノ(T2shine-through)を拾っている可能性がありますので、注意が必要だということです。
今年はESPRESSOに大変お世話になりました。ありがとうございました。
今回は推理をしているようで興味深い症例でした。
当たり前と言えば当たり前ですが、単純にMRIやCTで対象部位を検査すれば良いのではなく、人体はつながっているということを改めて感じました。あまり核医学の画像に触れることもないのでそういう意味でも勉強になりました(できれば画像を見てみたいですがそれは欲張りすぎですね。。)。
あと、これはあまり関係ないと思われますが、7日後フォローのMRIでMRA元画像が途中で終わっていました。こちらについては可能であればご対応いただけますと幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>今回は推理をしているようで興味深い症例でした。
そうですね。まさか褐色細胞腫が隠れているとは最初は想像もできませんでした。(デキる先生はできるのでしょうけど)
>できれば画像を見てみたいですがそれは欲張りすぎですね。
核医学(MIBG)についてはこの2枚の画像くらいしかありません。
>7日後フォローのMRIでMRA元画像が途中で終わっていました。こちらについては可能であればご対応いただけますと幸いです。
修正しました。誤植ご指摘いただきありがとうございます。
ご対応いただきありがとうございます。
やはり、一つ一つの症例疎かにできませんね。
いつもお世話になっております。
副所見として左早期二分中大脳動脈があると存じますが、正しいでしょうか?
また、MRA元画像(7日後)が尾側画像のみで切れてしまっていますが、これで全画像なのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>副所見として左早期二分中大脳動脈があると存じますが、正しいでしょうか?
正しいです。