
【頭部】症例42
【症例】20歳代男性
【主訴】逆向性健忘
【現病歴】400ccのバイクに2人乗りしていて転倒。相手がいたか、自己転倒かは不明。名前、生年月日は言える。住所や事故の状況は言えない逆行性健忘あり。
【身体所見】JCS Ⅰ-0、BP 139/60mmHg、HR 86、BT 36.2℃、SpO2 100%(RA)、左手首に疼痛あり(レントゲンにて橈骨遠位端骨折あり)。
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来院時から健忘症状が続いており、3日後にMRIが撮影されました。
※古いMRI装置でADCがありません。
まずは来院時の頭部CTから見てみましょう。
頭部CTでは右側の前頭葉の脳表沿いに異常な高吸収域を認めています。
外傷性くも膜下出血を疑う所見です。
通常はCTのみのフォローでよさそうですが、この方、来院時から健忘症状が続いており、3日後にMRIが撮影されました。
左の側脳室周囲白質にDWI、FLAIR、T2WIで円形の高信号域を認めています。
※古い症例でADCはありません。
外傷の病歴からも、脳梗塞とは考えられず、びまん性軸索損傷と考えられました。
※ただし、びまん性軸索損傷は、「受傷直後より昏睡に陥り意識障害が遷延する。意識清明期がある場合はこの疾患名をつけない。」とされていますので、びまん性軸索損傷(非典型)とします。
びまん性軸索損傷は出血を伴うことがありますが、今回はT2*WIでは信号低下を認めておらず出血は伴っていないことが推測されます。
診断:外傷性くも膜下出血+びまん性軸索損傷(非典型例)の疑い
なお、右脳表には外傷性SAHの残存を疑う所見を認めています。
さらに、左側脳室前角周囲にもDWI、FLAIR高信号があり、こちらもびまん性軸索損傷と考えられます。
※来院時からしばらく強い健忘症状がありましたが、日が経過するとともに徐々に改善された。STリハビリDrの高次機能評価では特に問題がなかった。とのことです。その後、左橈骨遠位端骨折手術目的で、整形外科転科となっています。
※残念ながらフォローのMRIやCTは撮影されておりません。
関連:
【頭部】症例42の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
右のTSAHをASDH+脳挫傷としてしまいました。前にもSAHだとよく似た症例があったのに・・・認識を改めないと。びまん性軸索損傷は回答時よくわからず(T2*変わらずで出血ではないならなに??)でしたが、勉強になりました。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
>右のTSAHをASDH+脳挫傷としてしまいました。前にもSAHだとよく似た症例があったのに・・・
このあたりの解釈は難しいこともあるので、厳密には区別できないこともあります。
出血に気付けばOKで、後はフォローすることが大事ですね。
>びまん性軸索損傷は回答時よくわからず(T2*変わらずで出血ではないならなに??)でしたが、勉強になりました。
びまん性軸索損傷でも出血を伴うことがあります。
典型例を提示できず申し訳ありませんが、それだけ稀ということですね(^_^;
微妙に脳溝も追えたので外傷性くも膜下出血を硬膜下血腫としてしまいました…
軸索損傷、しっかり復習します。
アウトプットありがとうございます。
>外傷性くも膜下出血を硬膜下血腫
まあこのあたりは混在しているかも知れませんし、厳密に区別は難しいですね。
恥ずかしながら病理学的にびまん性なのであり、画像上びまん性ではない、ということを初めて知りました^^;
MRIで異常が見られる部分は損傷の一部であることも同様ですね。だからこそ、意識障害が遷延してかつ、慎重に対応しなければならない訳ですね。納得です。
アウトプットありがとうございます。
>恥ずかしながら病理学的にびまん性なのであり、画像上びまん性ではない、ということを初めて知りました^^;
いや、これ実際知っている人は少ないのではないでしょうか。
さらにはこの病態自体がそれほど知られていないような気もします。
>MRIで異常が見られる部分は損傷の一部であることも同様ですね。
そうなんですよね。
画像で異常がない=絶対に異常がない とは言えないということですね。
脳振盪などもありますしね。
解答にもあるように、びまん性軸索損傷は、「受傷直後より昏睡に陥り意識障害が遷延する。意識清明期がある場合はこの疾患名をつけない。」と記憶していましたので、単に脳出血と解答しました。定義の話であって、私も「意識障害を生じない軽度な軸索の損傷」と言うのがあっても良いと考えます。
アウトプットありがとうございます。
>定義の話であって、私も「意識障害を生じない軽度な軸索の損傷」と言うのがあっても良いと考えます。
そうなんですよね。
脳外科のカルテおよび診断にも「びまん性軸索損傷」と記載がされているのですが、
実際の定義からは違っていて、広義のという感じですね。
軸索損傷について勘違いをしていました。T2などでこのように高信号になる損傷はあまり出会ったことがなく、むしろSWIなどで微小出血を見つけて「出血が起きるくらいの衝撃がここに加わった」という間接的な見方と症状から軸索損傷と診断するのかと思っていました。今回のように出血がなくても損傷を示唆する変化が見られる場合もあるのですね。
アウトプットありがとうございます。
>今回のように出血がなくても損傷を示唆する変化が見られる場合もある
ですね。なかなか見ない症例かもしれませんが、覚えておきましょう。
CTで異常がなければ、MRIにまで精査にならないケースが多いのかも知れませんね。
脳外科の先生にも聞いてみたのですが、典型的なものは見たことがないとおっしゃっていました(^_^;
これが,びまん性軸索損傷というような画像には逆に今後出会う機会は少ないのかもしれないですね.
外傷性SAHはやはり見落としがちです.気をつけます.
アウトプットありがとうございます。
>びまん性軸索損傷というような画像には逆に今後出会う機会は少ないのかもしれないですね.
いやまあ、それはわからないです。今晩出会うかも知れません(^_^;
頭部外傷で、MRIを撮影すればたまに広義のびまん性軸索損傷はあるのだと思います。
こんにちは。本日もよろしくお願いいたします。
①外傷性SAHは見逃しました。出血といえばCT!というイメージだったのですが、FLAIRが有用なのは初めて知りました!DWIで血腫が高信号なのは、血腫は粘度が高くて拡散が制限されているからなのでしょうか…?
②DAIは、「茹でてないスパゲッティの束を雑巾絞りしてブチブチッと折る」イメージが自分の中にはあります。「びまん性」は病理学的なものだということも初めて知りました。今後は、好発部位(脳梁、 大脳皮質下白質、基底核、中脳、橋上部)を意識して読影するように気をつけます。 また、「受傷直後」というDAIの定義についても覚えておきます。
アウトプットありがとうございます。
>①出血といえばCT!というイメージだったのですが、FLAIRが有用なのは初めて知りました!
そうですね。特にある程度時間が経過するとCTではわかりにくく、FLAIR,SWI,T2*WIなどが有用です。
>DWIで血腫が高信号なのは、血腫は粘度が高くて拡散が制限されているからなのでしょうか…?
おっしゃるとおりです。ただし、粘稠じゃない血腫もあるので、血腫→DWI高信号とは覚えない方がいいです。
「血腫のうち一部は粘稠度が高くDWIで高信号になることがある。」
と覚えておきましょう。
>②
DAIは厳密な定義に当てはまるものはかなり頻度が少ないと思われますが、遷延する意識障害があれば、好発部位を中心に、DWIやSWI,T2*WIなどで見るようにしましょう。
質問なのですが、
白質が前だん損傷をして、
損傷後、組織がなんらかの変性を起こして
T2WI,FLAIRにて長円形ないし円形の
高信号になる。
という感じでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
おっしゃる理解でよいと思います。
それに加えて今回は出血を伴っていませんが、出血を伴うこともあります。
いつもありがとうございます。2点教えていただきたいです。①CT矢状断21-24で脳表や上矢状静脈洞(?)に沿って淡い高吸収域に見えるのですが、これは外傷による出血でしょうか? ②CTでは頭蓋骨骨折は認めませんが、MRIT1の11-18で両側前頭~頭頂骨(冠状縫合のあたり?)が欠けてみえるのですが、特に異常所見ではないのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>①CT矢状断21-24で脳表や上矢状静脈洞(?)に沿って淡い高吸収域に見えるのですが、これは外傷による出血でしょうか?
出血ではなく血管の高吸収ですね。
>②CTでは頭蓋骨骨折は認めませんが、MRIT1の11-18で両側前頭~頭頂骨(冠状縫合のあたり?)が欠けてみえるのですが、特に異常所見ではないのでしょうか?
縫合線部位は骨髄がなく骨硬化が強いためT1WI、T2WIで低信号に見えています。
CTの骨条件を作成しました。
https://imaging-diagnosis.com/view/x6EfBM9z
縫合線に沿って骨硬化が強い点が確認できます。
骨折の有無はMRIではなくCTで判断するようにしてください。(今回骨条件の提示がなく申し訳ありません。)
久しぶりに外傷の症例が出てきて焦りましたが、復習になりました。ありがとうございます!
2点質問があるのですが、
CT横断像の8/28で、年齢的からみて左側脳室下角が拡大しているのかなと思いました。CTで写っていないくも膜下出血があると考えても良いでしょうか?
また、同じくCT横断像の8/28で右中大脳動脈が高吸収になっていることと、冠状断の30/58で左側脳室の下部が高吸収になっていると感じました。これらはどういった所見と捉えればよいでしょうか?
ご教授頂けますと幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>CT横断像の8/28で、年齢的からみて左側脳室下角が拡大しているのかなと思いました。CTで写っていないくも膜下出血があると考えても良いでしょうか?
確かに年齢からすると目立ちますね。
外傷性くも膜下出血が起こっているのでその影響も少しあるのかもしれませんが、何となくで申し訳ありませんが、開き具合が圧によって広がっているというよりはもともとこの形なのかもしれないなとも考えます。側脳室体部レベルにおいても左の方が若干脳室が大きいですね。脳室の左右差を正常変異で認めることがあり、左>右となることが多いと言われてます。その影響かもしれません。
>同じくCT横断像の8/28で右中大脳動脈が高吸収になっていることと、冠状断の30/58で左側脳室の下部が高吸収になっていると感じました
これらは血管の高吸収を見ており、正常範囲ですね。
脳底動脈も同じような高吸収となっています。
hyperdense MCA signのような病的な高吸収ではないです。
頭部CTでは両側側頭葉脳底部脳実質内に小さな高吸収があるように見え(冠状断右17/58、左20/58)脳挫傷かと思ってしまいました。見直すと血管かもしれません。
アウトプットありがとうございます。
>((冠状断右17/58、左20/58)脳挫傷かと思ってしまいました。見直すと血管かもしれません。
おっしゃるように血管でしょうね。
今回の外傷性SAH程度高吸収でないとなかなか有意とは取れないですね。
いつもありがとうございます。
脳梗塞症例のときから気になっていたのですが、
DWIの高信号にはピカッて光っているものから、今回のように淡い光り方のものがあると思います。この高信号の度合いは拡散の制限の度合いを示しているかと思いますが、何か画像診断的意義はあるのでしょうか?
もちろんウィンドウの調整による影響もあるか思いますが、、
それもありますね。
アウトプットありがとうございます。
>DWIの高信号にはピカッて光っているものから、今回のように淡い光り方のものがあると思います。この高信号の度合いは拡散の制限の度合いを示しているかと思いますが、何か画像診断的意義はあるのでしょうか?
おっしゃるように高信号の度合いは拡散の制限の度合いを示していると考えていただいて結構です。
脳梗塞で最初淡い高信号であっても数日後の再検で脳梗塞が完成しているものはDWIの高信号が増強します。
また、塞栓性梗塞のように強い梗塞の場合は初回から高信号が目立つことがあります。
脳梗塞の場合は最初の淡い高信号をいかに拾えるか、同時に必ずADCの信号低下をチェックして有意かをチェックすることが重要となります。