
【頭部】症例40
【症例】70歳代 女性
【主訴】特になし。
【現病歴】肺癌stage4で化学療法中。2週間前にめまい症状があったが、以降は軽減し、現在は特に自覚症状なし。
【既往歴】右膝関節術後(当院)、肺癌(多発骨転移ありstageⅣ)、めまい症(約10年前より数回反復)
【常用薬】ジャヌビア、ミカルディス、タケプロン、ロキソニン、ムコスタ
【生活歴】喫煙飲酒なし、独居
【一般身体所見】BP 171/71mmHg、70bpm・整、呼吸音清、心雑音なし、頚部雑音なし
【神経学的所見】意識清明、見当識正常、両下肢DTR亢進、左足間代とBabinski徴候
【血液生化学】D-dimer 24.1
画像はこちら
MRI
頭部CTでは左前頭葉深部白質に陳旧性脳梗塞を疑う低吸収域を認めています。
頭蓋内出血や占拠性病変を疑う所見は認めません。
拡散強調像(DWI)では両側大脳半球の前大脳動脈(ACA)ー中大脳動脈(MCA)の皮質枝の境界領域などに多数の異常高信号を認めています。
前大脳動脈(ACA)ー中大脳動脈(MCA)皮質枝の境界領域のほか、中大脳動脈(MCA)ー後大脳動脈(PCA)皮質枝の境界領域もしくは後大脳動脈領域にも異常な高信号を認めています。
拡散強調像(DWI)で高信号に一致して、ADCの信号低下、T2WIの高信号を認めており、急性期〜亜急性期の脳梗塞であることがわかります。
肺癌の担癌患者ですので、転移性脳腫瘍の検索目的で造影MRIも撮影されています。
右前頭葉皮質下に造影される結節を認めており、転移性脳腫瘍を疑う所見です。
今回最も薄いスライスである矢状断像を見てみますと、転移性脳腫瘍を疑う造影される結節を複数認めており、複数の転移性脳腫瘍があることがわかります。
両側多数の脳梗塞を認めている状態ですが、MRAでは両側の後大脳動脈(PCA)が一部細く見える部位がある程度で、有意な狭窄や動脈瘤は認めていません。
- 両側多発脳梗塞
- 肺癌ステージⅣで多発脳転移あり
- D-dimer高値
- MRAで有意狭窄がない
これらの状況で考慮に入れるべきは、Trousseau症候群です。
※ちなみに心電図で心房細動(Af)は認めず、経胸壁心エコー(TTE)でも心内血栓は認めませんでした。
Trousseau症候群とは?
- 悪性腫瘍によって血液凝固能が亢進し、脳卒中が生じる病態。
- 静脈血栓症発症後1年以内には悪性腫瘍が発見されるリスクが高く、特に卵巣癌や真性多血症、悪性リンパ腫などのリスクが高い。
- 画像所見:皮質に多いといわれるが、白質にも多発梗塞を生じる。
ということで、心電図所見、経胸壁心エコー所見なども考慮され、総合的にTrousseau症候群と診断されました。
診断:Trousseau症候群+転移性多発脳腫瘍+陳旧性脳梗塞
関連:脳梗塞の原因検索でする検査は?Trousseau症候群とは?
その他所見:
- empty sellaあり。
- 副鼻腔炎あり。
【頭部】症例40の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
造影効果は転移疑いでよかったんですね…。右前頭頭頂部の結節ですが、円形でなく、淡く、弧状ではっきりしてなかったので「脳梗塞辺縁の造影効果」か「肺転移」かで迷いました。他の小さな造影効果は連続性があるので血管の造影効果と思いました。
多発脳梗塞は脳血管の不整が目立たず、ランダム分布だったので、まずはTrousseau症候群を疑いました。
アウトプットありがとうございます。
>造影効果は転移疑いでよかったんですね…。
そうですね。脳梗塞後にも造影効果を認めることがありますが、第一には脳転移を疑います。
>多発脳梗塞は脳血管の不整が目立たず、ランダム分布だったので、まずはTrousseau症候群を疑いました。
goodです!
今日もありがとうございます。Trousseau症候群の存在は知っていたものの実際に画像をしっかり見ることができたのは初めてでした。勉強になりました。ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
>Trousseau症候群の存在は知っていたものの実際に画像をしっかり見ることができたのは初めて
それは良い体験ができてよかったです!
こんなに梗塞は起こらないだろうと思って(?)、高信号をいずれも脳転移として、激しく間違えてしまいました。
脳転移の画像診断まとめを参照しましたが、脳転移だと(造影だと分かりやすいですが)DWIで中心部が低信号になるんですね… 覚えておきます。
アウトプットありがとうございます。
そうなんです。転移=腫瘍=DWIで高信号?と思ってしまいがちですが、そうではないんです。
私も最初そう思っていました(^_^;
そう思っている人多いのではないでしょうか。そういう意味でナイスコメントですね。
ただし、小細胞癌などDWIで高信号となる脳転移もあります。
覚えておきましょう。
よくわからない脳梗塞の多発と思いましたが,このような時にはトルソーを疑わなければならないのですね.
勉強になりました.
アウトプットありがとうございます。
>よくわからない脳梗塞の多発と思いましたが,このような時にはトルソーを疑わなければならないのですね.
おっしゃるとおりです。
「よく分からない脳梗塞の多発」がまさに疑うキーワードですね。
Trousseau症候群という言葉は知りませんでしたが、小さな血栓が飛んでパラパラと塞栓性梗塞が起きているんだろうと思いました。
陳旧性のものや転移性腫瘍を指摘するときに、キー画像が使えないので「場所を言葉でどう伝えればいいか」ということにやはり難しさを感じます。
アウトプットありがとうございます。
>「場所を言葉でどう伝えればいいか」ということにやはり難しさを感じます。
画像診断のレポートを書く際の難しいところの一つですね。
「この辺」って言いたいけど書けないですからね。
特に頭部では難しいかもしれませんね。
脳転移なしにしてしまいました。自施設は薄切りがルーチンになっており、アーチファクトかの判断で2断面は見るのですが、最後のsagittalでくりっとしていますね。解答を見てから、ダンベル型になることもあるし全部見なけれはいけないと反省しました。他施設の画像を見るときは位相エンコード方向がどっちかもわからないので(とはいえ普通に考えてAxial,sagittalの組み合わせは必須ですね)反省だらけです。脳転移症例と思ってみていて、さらにmassは確認していたのに自分に残念です。ありがとうございました。
アウトプットありがとうございます。
>脳転移なしにしてしまいました。自施設は薄切りがルーチンになっており、アーチファクトかの判断で2断面は見るのですが、最後のsagittalでくりっとしていますね。
この画像では、sagittalが薄切りになっているので、これで細かい転移や播種などは確認したいところですね。
小さな脳転移や播種、髄膜転移はしばしば見落としがちなので注意が必要です。(と、自分にも言い聞かせています(^_^;))
こんにちは。いつもお世話になっています。
今日の症例は難しく感じました…いくつか質問があります。
①インスタント先生のコメントにもあるように、DWIで転移性腫瘍は内部が壊死を反映して黒くなるということでしたが、今回の症例の転移巣ではそのような所見は認められないということでよろしいですか?
②左半卵円中心に認められるDWIで中心が低信号、周辺が高信号、ADCで高信号の円形の領域は、CTで陳旧性脳梗塞とされたものに対応していますか?陳旧性脳梗塞がDWIやADCでどのように見えるのかはあまり意識したことがなかったように思います (ただしT2で明瞭な高信号、T1ではっきりと低信号という、いつもの表の原則を踏まえれば陳旧性の脳梗塞としてよいということですよね…)。
③造影効果のある病変のすべてが脳腫瘍ではない(亜急性期の脳梗塞や脱髄、放射線壊死、脳炎でも造影効果が認められることもある)ということも勉強しました。今回造影効果がある部位が脳梗塞ではなく転移巣が疑わしいとされたのはなぜですか?
「転移性脳腫瘍」という新たな学びで少し混乱していますが、少しずつ整理していきたいです!
アウトプットありがとうございます。
>①
転移性脳腫瘍ではDWIで高信号になるものも小細胞癌などありますが、基本的に稀です。
「DWIで転移性腫瘍は内部が壊死を反映して黒くなる」というのはそうなることもあるというだけです。
>②左半卵円中心に認められるDWIで中心が低信号、周辺が高信号、ADCで高信号の円形の領域は、CTで陳旧性脳梗塞とされたものに対応していますか?
対応しています。このように明瞭に抜けると、どのシークエンスでも脳脊髄液と同じ信号になります。
>③
これは今回の患者背景から、確率的にと言う話になりますね。
担癌患者
多発した微小造影効果
があるので、多発脳転移をまず第1に考えます。
脳梗塞に造影効果というのは、「認めることもある」程度で覚えておいて頂いて良いと思います。
いつも勉強になります。教えていただきたいのですが、CEMRI(スライス9)が左横静脈洞血栓かと思ったのですが、いかがですか?
CTでlowなのが、非典型的かもしれませんが。T1WI / T2*WIもそういう目で見ると高信号でT2WIでも高信号です。DWIで目立ってきませんが。。。
アウトプットありがとうございます。
確認しましたが、くも膜顆粒ですね。
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/8133
今回のように静脈洞内や頭蓋骨に突出することがありますので注意が必要ですね。
くも膜下粒の存在忘れてました。勉強になりました。ありがとうございました。
くも膜顆粒はときとして今回のように偽病変となることがありますので注意が必要ですね。
むしろ偽病変としてこの症例は良いですね!
回答のDWIと、問題リンク先のDWIは別物のように感じます。
問題のDWIは全体的に白く光り(高信号)過ぎて、脳の内部構造が分からないくらいなのですが、iPhoneでは見えにくいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
申し訳ありません。おっしゃるとおりで濃度調整ができていませんでした。正しいものに修正しました。
DWIが真っ白でそこに意味があるかと思いました
アウトプットありがとうございます。
このように真っ白なので濃度調整が必要です。その濃度調整前の画像を提示していましたので修正しました。申し訳ありません。
血行支配領域の境界部に多発する脳梗塞なので、血行力学性脳梗塞やartery to arteryを疑いましたが、こんなに広範囲に多発したり、MRAで狭窄がないのは変ですね。考えが甘かったです。。
Trousseu症候群について調べてみましたが、Trousseu医師が最初に報告した疾患で自らもこの病態でお亡くなりになったそうです。びっくりしました。
アウトプットありがとうございます。
>こんなに広範囲に多発したり、MRAで狭窄がないのは変ですね。考えが甘かったです。。
片側ならば、頚動脈にプラークがあってと考えることもできますが、今回は両側でしたね。
>Trousseu医師が最初に報告した疾患で自らもこの病態でお亡くなりになったそうです。びっくりしました。
そうなんですね(^_^;)
全然話は変わりますが、進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy:PML)という病態があり、多くの人に潜伏感染しているJCウイルスが、免疫力が低下した状況で再活性化して脳内に多発性の脱髄病巣を来す疾患なのですが、このJCウイルスの、JCは患者さんの名前から取っていると聞いたことを思い出しました。
今では考えられないことですね(^_^;)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/278
本日もありがとうございました!
質問なのですが、左半卵円中心に認められるDWIで中心が低信号かつ周辺が高信号、ADCで高信号の領域についてです。
DWIで中心が低信号になっているのは、陳旧性のため、浮腫性変化を起こして、水の動きが活発になっているからと考えて相違ないでしょうか?普通の陳旧性の脳梗塞ではDWIで高信号、ADCで低信号のイメージでしたので、少し混乱してしまいました。
アウトプットありがとうございます。
>DWIで中心が低信号になっているのは、陳旧性のため、浮腫性変化を起こして、水の動きが活発になっているからと考えて相違ないでしょうか?
この部位ですが、おっしゃるように陳旧性の脳梗塞であることは他のシークエンスから判断できます。
>普通の陳旧性の脳梗塞ではDWIで高信号、ADCで低信号のイメージでしたので、少し混乱してしまいました。
普通の陳旧性の脳梗塞の場合は、DWIで高信号(or今回のように低信号になることもあります)、ADCでは拡散制限がないため低信号ではなく高信号になります。
ではなぜ同じ陳旧性梗塞でもDWIでは高信号になったり低信号になったりすることがあるのかということですが、
DWI=T2WIの要素+拡散制限を画像化した要素
の2つの要素があるためです。T2WIの影響が強い場合は、T2 shine throughと言いまして、拡散制限がないのに高信号になってしまいます。(これを個人的にはニセモノの高信号と読んでいます。)
一方で、拡散制限の影響が強い場合は、陳旧性脳梗塞には拡散制限がありませんので、DWIでは低信号となります。
この辺をまとめた動画がありますので、youtubeにアップしてここに貼りますね。
アップしました。
今後講座の中で出てくる(or既に出てきた)モノもあると思いますが、
こちらの動画を上から順番に見てください。
細胞性浮腫・血管性浮腫の解説動画
https://www.youtube.com/watch?v=s1fc8yNL5E0
頭部領域でのDWI高信号の鑑別解説動画
https://www.youtube.com/watch?v=pZloRfIaHRo
DWI高信号のニセモノとは?
https://www.youtube.com/watch?v=sO7AYDUDYWs
MRIの基礎のキソ b値とは?
DWIやADCについてわかりやすく説明してくださりありがとうございました!しっかり復習して、今後の画像診断に役立てていきたいです。
Trousseau症候群、はじめて聞きました。
既往歴が肺がんと多発性骨転移だったので、脳転移は疑いながら探したので、Axで造影された結節は見つけることができました。
Sgの他の結節には気付けませんでした(^_^;)
DWIでの多発した高信号は境界領域だったので、アテローム血栓の脳梗塞なのかな?と思ったのですが、でも、D-dimer高いし?と混乱しつつ、脳転移と脳梗塞と結論付けちゃいました。
左の陳旧性脳梗塞は、海綿状血管腫と診断してしまいました(汗)
T2*で高信号に見えるはずないですね。
今日も大変勉強になりました、興味深い症例ありがとうございます。
アウトプットありがとうございます。
>脳転移は疑いながら探したので、Axで造影された結節は見つけることができました。Sgの他の結節には気付けませんでした(^_^;)
矢状断像は隈無く見ないと難しいですね(^_^;)
>脳転移と脳梗塞と結論付けちゃいました。
画像からは結果オーライですね。あとは、Trousseau症候群という病態を理解すれば完璧ですね。
>左の陳旧性脳梗塞は、海綿状血管腫と診断してしまいました(汗)T2*で高信号に見えるはずないですね。
そうですね。海綿状血管腫ならば、T2*WIでは低(無)信号になるはずですね。
>今日も大変勉強になりました、興味深い症例ありがとうございます。
こちらこそありがとうございます!
大変勉強になりました。
トルソー症候群では、本症例のように分水嶺領域の分布となることが多いのでしょうか?
それと関連して、分水嶺領域の梗塞=還流圧低下が原因と思っていたのですが、画像診断まとめを参照すると、表在性分水嶺では、塞栓性(特にA-to-A)が多い、とのことでした。これはなぜでしょうか?
https://遠隔画像診断.jp/archives/16101
アウトプットありがとうございます。
今回は分水嶺領域の分布でしたが、トルソー症候群は、「複数の動脈支配域に同時期もしくは段階的に多発する小梗塞を特徴する」ものです。
今回も分水嶺領域の分布よりも、MRAで狭窄もないのに、両側に同時期に梗塞を認めているというのがポイントとなります。
>表在性分水嶺では、塞栓性(特にA-to-A)が多い、とのことでした。これはなぜでしょうか?
「灌流圧が低いこの境界部位(表在性分水嶺)には、動脈原性塞栓が生じやすい」と記載があります。
なぜと言われると困るのですが、答えになっているか微妙ですが上記理由になります。
急に飛んでくるA to Aの場合は境界領域に十分な側副路ができていないためとも考えられます。
参考:画像所見から絞り込む!頭部画像診断 P126
他の方も書かれておりますが、
左半卵円中心にある、DWI 低信号、周囲高信号病変は、陳旧性梗塞なのですね。
このようにリング形成をする病変での梗塞ははじめてみました。勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
FLAIRがあればより明瞭な高信号の縁取り+抜けが確認できましたね。
CTで10/32で「右小脳橋角部に腫瘤を疑う」と書いてしまいそうですね。その後のMRIの各種シーケンスを見て否定されるでしょうけど。。。
アウトプットありがとうございます。
左右差がありますが左にも確認できます。
後四角小脳と呼ばれる正常構造です。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/38104