
【頭部】症例39
【症例】60歳代女性
【主訴】起床時から立てなくなった
【現病歴】脳梗塞で当院に入院歴あり。本日、上記主訴にて救急搬送。以前から長時間経つことはできず、歩行時には杖を使用していたが、今日はいつもより力が入らないとのこと。
【既往歴】10カ月前に脳梗塞で入院(左放線冠)→プレタール内服、5ヶ月前に脳梗塞で入院(右中脳、右動眼神経麻痺)→プラビックスに変更。右変形性膝関節症(近日中に手術を予定されている)、高血圧、糖尿病、腎盂腎炎
【生活歴】飲酒なし、喫煙 10本/day(25年ほど)
【身体所見】上肢筋力:右側で軽度Barre徴候陽性、自覚的には左右とも上肢の脱力感はなし。下肢筋力:明らかな筋力の左右差なし。ただし、左も右も若干筋力低下している印象。つかまり立ちした姿勢での片脚立位は、右片脚立位よりも左片脚立位での方が不安定。
画像はこちら
MRI
右の中心前回に拡散強調像(DWI)で高信号、ADCの信号低下を認めるspotあり。
拡散強調像(DWI)での高信号部位は、FLAIRおよびT2WIで淡い高信号を示しています。
急性期(〜亜急性期)の脳梗塞を疑う所見です。
FLAIRで、放線冠、半卵円中心レベルの白質に多数の陳旧性ラクナ梗塞を疑う低信号+周囲高信号域を認めています。
一方で、T2*強調像では、橋、左視床、両側基底核、前頭葉・頭頂葉・側頭葉の皮質下に多数の無信号spotを認めています。
陳旧性多発微小出血を疑う所見です。
高血圧性の脳出血の好発部位にも多数認めている点から高血圧性の微小出血が疑われます。
(※高血圧性脳出血の好発部位でない場合は、アミロイドアンギオパチーによる出血の可能性があります。)
このように
- 陳旧性梗塞
- 陳旧性出血
は混在することがあります。
脳出血と脳梗塞は表裏一体であることがよくわかりますね。
という点を確認していただきたくてこの症例を提示しました。
MRAでは右後大脳動脈(PCA)に広狭不整を認めていますが、明らかな有意狭窄や動脈瘤は認めていません。
診断:右中心前回急性期ラクナ梗塞疑い+陳旧性多発ラクナ梗塞+陳旧性多発微小出血
※入院後の問診で、整形外科の手術を控えており、1ヶ月前からプラビックスを内服していないことが判明しました。
※中心前回の同定に必要な中心溝の解剖については、また後日詳しくやります。
関連:
【頭部】症例39の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
陳旧性脳梗塞や血管周囲腔に加え、陳旧性微小出血が散在すると、1つ1つ鑑別するのは困難でした。(実際は、その必要はないのかと思いますが。)ただし、放線冠近傍に陳旧性脳梗塞が散在することや、高血圧特有の部位を含めてた陳旧性微小出血が散在する所見は重要だと思い記載しました。
アウトプットありがとうございます。
>放線冠近傍に陳旧性脳梗塞が散在することや、高血圧特有の部位を含めてた陳旧性微小出血が散在する所見は重要
おっしゃるように大事です。
梗塞と出血、血管周囲腔が多数混在してややこしかったですが、習ったことの総復習になりました。
アウトプットありがとうございます。
>梗塞と出血、血管周囲腔が多数混在してややこしかった
ですね。厳密な鑑別は困難な場合もありますが、出血についてはT2*WIやSWIが有用ですので、
撮影されていれば必ず確認しましょう。
今日もありがとうございます。各シーケンスを何度も見比べ陳旧性の脳梗塞や微小出血や脳梗塞を診断するのがとても楽しくなってきました。昨日の血管周囲腔の復習もできて良かったです。
アウトプットありがとうございます。
>陳旧性の脳梗塞や微小出血や脳梗塞を診断するのがとても楽しくなってきました
それはよかったです!(^o^)
取り過ぎはダメですが、T2*WIやSWIで抜けていれば基本出血と診断できますね。
多発する微小出血を見るとどうしてもアミロイドアンギオパチーが挙がりますが,その部位やラクナ梗塞の混在などのその他の所見も加味して考える必要があることなど勉強になりました.
アウトプットありがとうございます。
ですね。高血圧性の好発部位にも出血を多数認めている場合は、基本は高血圧性脳出血(微小出血)を考えましょう。
毎度全然読めないなとは思っている中でも、陳旧性梗塞の所見とか、血管周囲腔の可能性とかを考えることが身についているので、少しは成長しているのかな、と思います……
アウトプットありがとうございます。
>陳旧性梗塞の所見とか、血管周囲腔の可能性とかを考えることが身についているので、少しは成長しているのかな、と思います
日常臨床で非常によく見る所見で、まずこれらは習得したいですね。
その上で今回はDWIの異常高信号には気づきたいところです。
しっかりT2*も見るようにしないと・・・反省です。MRIはシーケンスが多いのですが見るときのルーチンワークを作れるように意識したいです。
アウトプットありがとうございます。
>しっかりT2*も見るようにしないと
ですね。出血や血管奇形などが見つかることがあります。
こんにちは。本日もお世話になります。
①DWI・ADCで梗塞巣を指摘することはできたのですが、T2で淡い高信号であることを指摘することができませんでした。また、梗塞部位も、中心前回とはっきり同定できず、「中心溝の頂点」、とちょっとあやふやなまま所見を書いてしまいました。
②MRAで右中大脳動脈M2領域に狭窄があるように感じて所見として指摘してしまいました。
③脳室も開大しているのかな?と感じました。
毎日アハ体験Aha-erlebinsできるのが、ごろ〜先生のESPRESSO救急画像診断の醍醐味だと実感する日々です!
アウトプットありがとうございます。
>②MRAで右中大脳動脈M2領域に狭窄があるように感じて所見として指摘してしまいました。
良いと思います。
>③脳室も開大しているのかな?と感じました。
こちらもそうですね。下角などをみると年齢を考慮すると開いていますね。
>アハ体験
初めて聞いた言葉で調べてみました。
一般的に「今まで分からなかったことがわかるようになったときの体験」のことをいう。
ということのようで、ありがたいお言葉ありがとうございます(^o^)
いつも大変勉強になっています。
右中心前回はラクナ梗塞の好発部位でないので、A to A かな?と思いました。
この方は、陳旧性ラクナ梗塞が多発していることから、やはりまずはラクナ梗塞を疑うという考えでよいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
いわゆる深部穿通枝領域のラクナ梗塞という意味ではなくサイズが小さい梗塞という意味でのラクナ梗塞と考えてください。
おっしゃるように末梢であり、A to Aの可能性もあります。
>この方は、陳旧性ラクナ梗塞が多発していることから、やはりまずはラクナ梗塞を疑うという考えでよいのでしょうか?
今回の症例で、両側基底核や放線冠に新しい小さなものがあればいわゆる深部穿通枝領域のラクナ梗塞と考えるのが妥当ですね。
本日もありがとうございました。
橋の病変を陳旧性脳出血と言って良いのか躊躇してしまいました。
T2WIで低信号なのでラクナ梗塞や血管周囲腔ではなさそうかつ、T2*WIで低信号なので出血かなと思ったのですが、典型的な陳旧性脳出血はT2WIで周囲がヘモジデリンによる低信号、中心部が脳脊髄液と同じ高信号と書いてあったので、迷いました。
教科書にあるような脳出血のMRI信号パターン変化はあくまで目安に過ぎないのだなと勉強になりました。今回の場合、素直にT2*WIで低信号かつ場所が出血の後発部位であることから、陳旧性微小出血とすればよかったのかなと思いました^^;
アウトプットありがとうございます。
>典型的な陳旧性脳出血はT2WIで周囲がヘモジデリンによる低信号、中心部が脳脊髄液と同じ高信号と書いてあったので、迷いました。
このようになるのはCTでも高吸収として描出される被殻出血などサイズが大きな出血の陳旧化したものですね。
微小出血はT2*WIやSWI、時に今回のT2WIで認めるように点状の低信号となると覚えておいてください。
出血の場所だけでなく、サイズによっても変わるんですね^^; 勉強になりますm(_ _)m
梗塞部位が中心前回なのか、半卵円中心なのかわかりませんでした。どのように判別(境界はどこでしょうか)したらよいでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
脳回が入り乱れているこのレベルでは、通常は半卵円中心レベルとは言わないですね。
半卵円中心レベルは通常深部白質が見えるレベルですね。
厳密な境界はないのが難しいところで、今回のを見直してみると確かに微妙ですね。
T2*がルーチンにはないのですが、今回の症例のような多数の陳旧性ラクナ梗塞を認めた場合は積極的に追加撮像すべきなのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>多数の陳旧性ラクナ梗塞を認めた場合は積極的に追加撮像すべきなのでしょうか?
安易に追加すべきとは言えないですが、可能ならば追加した方がいいですね。
この症例ではT2*WIですが、SWIを追加すればもっとたくさんの微小出血が見られるかと思います。