
症例46
【症例】50歳代男性
他院CTで右副腎腫瘍が指摘され、当院にてMRI撮影となった。
他院CT画像はこちら
当院MRI画像はこちら
副腎腫瘍の正体はなに(診断)?
右副腎に腫瘤を認めており、内部に一部低吸収域が目立つ部位があります。
他院CTで偶然発見されました。
このように偶然発見される腫瘤を「偶発腫」といい、incidentaloma(インシデンタローマ)と英語では記載します。
「右副腎にincidentalomaあり。」などとレポートに記載されることがあります。
さて、このような副腎偶発腫を認めた際に、頻度の多い副腎腺腫なのかどうかの鑑別には以下のフローチャートが用いられることがあります。
すなわち単純CTで副腎腫瘤のCT値を測定してそれが10HU以上か未満かで脂肪の含有を判断すると言うものです。
今回みなさんの環境ではCT値を測定できないので恐縮ですが、こちらで測定するとこのような感じになりました。
すなわち、右副腎腫瘤の中でもやや低吸収部分を含んでCT値を測定したところ
- 平均のCT値=22(HU)>10(HU)
- 最小のCT値=-28(HU)
となりました。
最小のCT値が脂肪を含有するものなので、これで副腎腺腫でも良さそうですが、上のフローチャートに従うと全体で10HU以上の場合はMRIのchemical shift imagingで脂肪の含有を確認しよう!ということになっています。
chemical shift imagingでは、in-phaseからopposed-phaseにかけて信号が低下する部位があるかをチェックします。
今回はCTでやや低吸収が目立つ部位に一致して、in-phaseからopposed-phaseにかけて信号が低下しています。
つまりこの部分に脂肪が含有していると言うことを示唆し、副腎腺腫であると診断することができます。
※ちなみに、脂肪そのものの塊の場合は、in-phaseからopposed-phaseにかけて信号低下はしません。上の皮下脂肪や内臓脂肪を見ていただければ信号低下をしていないことが分かります。あくまで脂肪とそうでない組織が混在している(霜降り状の脂肪が含まれる)場合に信号が低下するのでその点は注意しましょう。
診断:右副腎腺腫
一つ参考症例を見てみましょう。
症例46参考症例 60歳代女性
左副腎に全体的にやや低吸収な腫瘤を認めています。
in-phaseからopposed-phaseにかけて腫瘤全体の信号が低下しています。
副腎腺腫を疑う所見です。
関連:
その他所見:
- 脂肪肝あり。
- 虫垂にバリウム結石の疑い。
- 右大胸筋に脂肪腫あり。
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
(DWI+ADC)>ケミカルシフトと思っていました。 臨床放射線 Vol.57 No 11 2012 で転移性副腎腫瘍と腺腫の鑑別にはDWIでは疑問点があると記載されており、今後注意します。in outの低下率でも(in – out)/inで16.5%と数値が設定されており、覚えるのは難しいですね。CTも早期(60s)と後記(15m)と設定されており、これまた厳しい印象です。MRIが一番現実的と感じましたが、知っておかないといけないことが山ほどありますね。
アウトプットありがとうございます。
>臨床放射線 Vol.57 No 11 2012 で転移性副腎腫瘍と腺腫の鑑別にはDWIでは疑問点があると記載されており
調べて頂き、ありがとうございます。
>in outの低下率でも(in – out)/inで16.5%と数値が設定されており、覚えるのは難しいですね。CTも早期(60s)と後記(15m)と設定されており、これまた厳しい印象
ですね。MRIが一番現実的だと思います。
骨髄脂肪腫や腎細胞癌の副腎転移など、「脂肪を含有する腫瘍=副腎腺腫」ではないので、その当たりの画像所見の違いを確認して起きます。
そうですね。基本的に副腎腺腫でいいのですが、そうでないケースがあるので注意も必要です。
CT・MRIの信号と、形や頻度も含め副腎腺腫の可能性が高いと感じましたが、似たような見え方をする別の腫瘍もたまに見る気がして可能性として候補を挙げてしまいました。
先生が今回の症例の読影を書く場合、副腎腺腫ときっぱりと書くのか、または鑑別診断として一応他の腫瘍も挙げるのか教えていただきたいです。
転移などの可能性もありますが、既往もなく偶発的に見つかり、かつ脂肪の含有が確認されれば、副腎腺腫疑いでフォローでよいです。
↑ かなりレベルの高い議論が展開されている気がしますが、
僕としては腺腫疑いとするのでいっぱいいっぱいでした(;’∀’)
in phase・opposed phaseの勉強になりました。脂肪「含有」を見るものなんですね。
>in phase・opposed phaseの勉強になりました。脂肪「含有」を見るものなんですね。
そうですね。
in→opposed で低信号化→脂肪含有
opposed→in で低信号化→ヘモジデリン沈着
です。
こんにちは。いつもありがとうございます。
chemical shift imagingは知っていたのですが、腫大している副腎全体というよりは限局してin phase→opposed phaseで信号低下をきたしていて、副腎腺腫と言ってよいのか自信がありませんでした。こういうアルゴリズムがあるのですね!
リンク先も含めて復習しておきます!!
アウトプットありがとうございます。
副腎腺腫の診断の流れをチェックしてみてください。
今までin-phaseとopposed-phaseを撮影する理由や画像が良く解っていませんでした。opposed-phaseで信号低下→「霜降り状の脂肪が含まれる」=塊状の脂肪ではない≒ほぼ皮質腺腫≒ほぼ良性。診断に大きく寄与することが分かりました。腫瘍ではDWI高信号ADC低信号になると思いますが、今回はDWI高信号ADC高信号でした。これも脂肪成分を見ていたと理解すればよろしいでしょうか。よろしくお願いいたします。
アウトプットありがとうございます。
>opposed-phaseで信号低下→「霜降り状の脂肪が含まれる」=塊状の脂肪ではない≒ほぼ皮質腺腫≒ほぼ良性。診断に大きく寄与することが分かりました。
おっしゃるとおりです。その理解で大丈夫です。良性といっても機能性の腺腫の可能性はありますね。
>今回はDWI高信号ADC高信号でした。これも脂肪成分を見ていたと理解すればよろしい
DWI高信号ADC高信号→脂肪成分 というわけではありません。
T2WIでやや高信号ですので、その影響を受けてDWIでも高信号になっているということですね。
これをT2 shine throughと言います。
T2 shine throughについてまとめた記事はこちら
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/1918
ESPRESSO頭部救急画像診断で作ったものですが、こちらを見ていただければより理解が深まるかと思います。
T2 shine throughについて理解が深まりました。今までDWIとADC-mapしか関連付けていませんでした。これからはT2WIとセットで考えるようにくせをつけようと思います。追伸、動画のpwを宜しくお願い致します。
理解が深まったとのことでよかったです。
>これからはT2WIとセットで考えるようにくせをつけようと思います。
そうですね。T2WIの高信号を拾っているだけではないかとチェックするようにしてください。
あ、すいません。passは、T2 shine throughです。
in-phase、opposed-phaseというのは知りませんでした。副腎腫瘍の鑑別に使うとのことですが、他の疾患でも利用するのですか。
アウトプットありがとうございます。
脂肪塊ではなく、霜降り状の脂肪に有用です。
副腎腺腫の診断で最も使われますが、日常臨床ではあとは、脂肪肝などにも用いられます。
いつも貴重な症例をありがとうございます。
最近では「非対称的three point Dixon法」が有名です。inとout以外にwaterとfat imageが取得できますし、ベースシーケンスをT1WIやT2WIにも設定できます。肝脾腫瘤や骨髄疾患などの診断に活用しています。
CT横断像1-6/64に右大胸筋内に入り込むような脂肪腫は認めますでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>最近では「非対称的three point Dixon法」が有名です。inとout以外にwaterとfat imageが取得できますし、ベースシーケンスをT1WIやT2WIにも設定できます。肝脾腫瘤や骨髄疾患などの診断に活用しています。
おっしゃるとおりですね。補足ありがとうございます。
>CT横断像1-6/64に右大胸筋内に入り込むような脂肪腫は認めますでしょうか?
ありますね。ご指摘ありがとうございます。追記します。