
【頭部】症例21
【症例】70歳代女性
【主訴】突然の意識障害と片麻痺
【現病歴】夫と外食をしに行き、ビールを飲みながら食事が来るのを待っていたところ突然意識を失った。夫が椅子にそのまま寝かせるようにして救急要請。
【既往歴】HT含めなし
【身体所見】GCS E1V1M4、JCS3桁、BP 268/160mmHg、P80-90程度・整、SpO2 97%(RA)、RR 20程度、開眼はしていたが周囲への反応全くなし。右上肢は屈曲、手は拳にして握りしめている。左上下肢は弛緩。瞳孔径左右とも3mm、対光反射なし。
画像はこちら
脳底部にいわゆるペンタゴン形とかヒトデ形と言われる五角形の高吸収域を認めています。
これぞ
The くも膜下出血
と言ってもいいような分布ですね。
診断:くも膜下出血
血腫の分布は左右対称です。
両側のSylvius裂や前大脳縦裂、脳幹周囲にほぼ左右対称に血腫が分布しています。
よく見るとA-comに相当する部位に高吸収の中に低吸収、いわゆるfilling defect signを認めています。
しかし、よく見てみると、左の中大脳動脈(MCA)分岐部(M2分岐部)にも高吸収の中に低吸収を示しているように見えます。
より明瞭なのはA-com部のようですが、左MCA分岐部もfilling defect signとして所見を取ってもよさそうです。
脳血管カテーテル検査が施行されました。
A-comに嚢状動脈瘤を認めていましたが、左のMCA部には認めていませんでした。
最終診断:くも膜下出血(A-com動脈瘤破裂による)
原因動脈瘤を推定する方法
復習ですが、原因動脈瘤を推定する方法としては、
- クモ膜下出血の部位(血腫の分布)
- 脳実質内血腫の部位
- filling defect sign
が知られており、中でも、2が最も正診率が高いとされます。
今回は2の脳実質内血腫は認めていません。
1の血腫の分布としてはほぼ左右対称ですので、正中部により近い動脈瘤の破裂が疑われます。
そして今回の症例では、3のfilling defect signを認めていました。
filling defect signとは?
- 破裂動脈瘤自体が周囲に存在する高吸収を呈するくも膜下出血中に相対的な低吸収として描出されることがあり、filling defect signと呼ばれる。
- 直径10mm以上の大きな動脈瘤に高率に描出される。
- 未破裂動脈瘤がfilling defect signとして描出されることがあるため注意。
といった特徴があります。
今回、左のMCA部にあるようにも見えましたが、実際は動脈瘤は存在しませんでしたので、正診率という意味ではやや落ちるところはありますが、A-com部には動脈瘤が存在していました。
原因動脈瘤を探す一つの目安にはなるということがわかりますね。
関連:クモ膜下出血(SAH)の原因動脈瘤を探す3つのポイント!
その他所見:
- 副鼻腔炎(両側上顎洞・篩骨洞)あり。
【頭部】症例21の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
くも膜下出血そのものは明らかでしたが、filling defect signというものが具体的にイメージできていませんでした。
それほど頻度は多くないのかもしれませんが、大きな動脈瘤だと認めることがありますので覚えておいてください。
filling defect signは気づがなかったです。
後で言われて気付く感じの所見でした。
左のMCA部は未破裂動脈瘤
では、なかったのですね。
動脈瘤あるように見えます。
CTのみでは間違えそうです。
>動脈瘤あるように見えます。
CTのみでは間違えそうです。
まああくまで動脈瘤のヒントとなる所見と言うことで頭の片隅に入れておいてください。
filling defect signを意識した状態でしっかり見るのは初めてです。
改めてそういう目で見るとあれもこれもsignに見えてきました。他の所見と統合的に考えながら、filling defect signも見逃さないようにします。
アウトプットありがとうございます。
>改めてそういう目で見るとあれもこれもsignに見えてきました。他の所見と統合的に考えながら、filling defect signも見逃さないようにします。
そうですね。サインばかり探していると足元をすくわれかねないので、あくまで補助所見として覚えておいてください。
私も左MCAの動脈瘤の有無で悩みましたが、冠状断で確認すると対側も同様に低吸収域が見られましたので所見としませんでした。
意外と「filling defect sign」の判断は難しいと感じました。
アウトプットありがとうございます。
>意外と「filling defect sign」の判断は難しいと感じました。
そうですね。同じくそう思います。
超典型的なくも膜下出血の所見で「?。今日は何が新しいんだろう…」と思っていました。
確かに、A-comの低吸収も目には入っていましたが「まさかこんなに大きいわけないだろう…」と思ってスルーしてしまいました…
実際かなり大きいですし、大きな動脈瘤に高率に描出されるのですね。これだけ激しく出血するのも納得です(;’∀’)
アウトプットありがとうございます。
サイズが大きいものですとたまに見られますが、偽陽性のこともありますので注意が必要ですね。
filling defect signを意識して読影できたもののA-comなのかMCAなのかすごく悩みました。
実際にfilling defect signを見たのは初めてだったので勉強になりました。
>A-comなのかMCAなのかすごく悩みました。
ここは今回難しいところでしたね。
>実際にfilling defect signを見たのは初めてだったので勉強になりました。
それはよかったです。このようにdefectすることもある(が、偽陽性もある)ということを覚えておいてください。
回答としてはよかったですが、pseudo sahを見たばかりで、脳実質が黒く見えたので『まさか続けてか?』と悩みましたがsahだと判断しました。CT値を計りたかったですが、仮に実質が20HU程度ならどうとらえるべきか?低酸素脳症を思う身体所見や記載はないと考えましたが少しもやっとしてます。
csfスペースに血腫が行き届いており、かつ、脳実質のCT値が正常より低く、csfスペースが元々広いだろう年齢の患者の場合と、pseudo sahはどう見分けたらよいでしょうか?
そうなると、画像より前に臨床情報ではないでしょうか。
>csfスペースに血腫が行き届いており、
というのもあまり見ないですね。
filling defect signは理屈としては理解してましたが、本症例を読影するときには、ただの血腫として明確に指摘できませんでした。
大変勉強になりましたありがとうございました
アウトプットありがとうございます。
>本症例を読影するときには、ただの血腫として明確に指摘できませんでした。
今回のMCAのように偽陽性もあるので、
あまりアテにならないsignかもしれませんが、
その目で見ないと気付かない所見なので、
この機会に動脈瘤そのものが見えることがあるということで覚えておきましょう。
こんにちは。お世話になっております。
①filling defect signは指摘できませんでした。解説をみて、「あぁこれのことかぁ!」と納得しました。
②画像上左右対称性のくも膜下出血で、痙性片麻痺(下肢の情報がないので単麻痺の可能性もあるかもしれません)が生じるのは不思議なことだなぁと感じました。
※単麻痺の場合も、大脳皮質運動野から末梢神経に到るまでのどこかに病変があれば生じ得ると思います。しかし、放線冠や内包病変は体性機能局在が蜜に接しているので単麻痺のような局在化はなかなかしないらしく、くも膜下出血でここに障害が及んでいたとしても、それは一過性の片麻痺の前駆症状として発現していると考えたほうが自然かもしれません。
アウトプットありがとうございます。
>①
そうですね。
これこそ一度体験したことがあることが、
次にSAHを見たときにチェックするポイントが変わってくると思います。
>②
たしかに不思議ですね。
初めまして。医学生のものです。
横断像、冠状断像において両側側脳室内に血腫のような構造物を認めますが、血腫で正しいのでしょうか。
ご回答のほどよろしくお願いします。
アウトプットありがとうございます。
>両側側脳室内に血腫のような構造物を認めますが、血腫で正しいのでしょうか。
おっしゃるとおり血腫です。
両側側脳室のみでなく、第3脳室や第4脳室にも血腫を認めていますね。
ご回答ありがとうございます。
血腫であってたんですね。大変勉強になりました。
filling defect signを意識して探したつもりでしたが指摘することはできませんでした。
ニコニコサインにかんじたのですが、側脳室下角の拡大は水頭症ではなく加齢によふものでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>側脳室下角の拡大は水頭症ではなく加齢によふものでしょうか?
ここは70歳代ですので非常に難しいところですね。
急性水頭症の可能性あり、とまでしか言えないと考えます。
若年者ならば明らかに有意な所見です。
今回のように微妙なケースも多いですが、
常にここをチェックすることは重要です。
いつもありがとうございました.filling defect signがSAHの原因を調べる上で有用だと実感しました.
filling defect signが動脈瘤が周囲の高吸収領域と比べ低吸収になるというのはどういう機序なのでしょうか.
アウトプットありがとうございます。
>filling defect signが動脈瘤が周囲の高吸収領域と比べ低吸収になるというのはどういう機序
血管が破綻
→くも膜下腔に出血
→血液の凝縮によって血腫のCT値が(血管よりも)上昇(最大94HU)
となるのが、SAHに限らず血腫が高吸収となる機序です。
(ですので、見たことはありませんが、出血直後にCTを撮影すると血腫は
血管内と同程度なので脳実質と等吸収くらいになるようです。理論上は。)
一方で動脈瘤は破裂後、破裂はしているけど、
脳圧の亢進によってそこから出血し続けているわけではありませんので、
通常の血管の濃度となります。
(この点は腹部の腹腔内出血や消化管出血とは異なるところですね。)
①CT値が上昇する血腫
②血管と等吸収となる動脈瘤
その間にこのようなコントラストが生じる、
のだと思います。
報告されている論文はこちらです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9258923
ちなみに血液が凝縮によりCT値が上がるのは血管外だけでなく、
血管内に血栓塞栓子を形成することでも上昇します。
その一つが、今後脳梗塞で出てくるhyperdense MCA signです。
「クモ膜下出血(SAH)の原因動脈瘤を探す3つのポイント!」のページを見つつ、SAHの分布からも脳実質内血腫の位置からも動脈瘤の位置を推定できないならfilling defect signがあるかも…という目で見たらA-comの方だけですが見えてきたのが嬉しかったです。
アウトプットありがとうございます。
>A-comの方だけですが見えてきたのが嬉しかったです。
それはよかったです!!!一度見えたら次からその目で探しますね!
体験したこと(成功であっても失敗であっても)が重要です。
いつもお世話になっております。
片麻痺が出現した理由はなぜなのでしょうか?
脳幹部の腹側の圧排により運動線維が圧迫されたためかなとも思いましたが…
アウトプットありがとうございます。
>脳幹部の腹側の圧排により運動線維が圧迫されたためかなとも思いましたが…
かもしれないですね。その後の片麻痺についての記載がカルテにはなく詳細は不明でした。
その後、高次機能障害は残存も、独歩で退院されていますので、一時的なものだったのでしょう。
いつもありがとうございます。毎日楽しみにしています。
今回は派手な所見で、そちらに目を奪われてしまいますが、脳室内への波及は如何でしょうか。
第四脳室や左側脳室下角には血腫が及んでいるように見えてしまいました。
もし良ければ御教授頂ければ幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>脳室内への波及は如何でしょうか。
両側側脳室、第3・4脳室にも認めていますね。
とても勉強になり毎日楽しみにしております。
質問なのですが、
未破裂動脈瘤の手術適応はどのようなものがあるでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
①大きさ5~7mm以上の未破裂脳動脈瘤
②5mm未満であっても、
A)症候性の脳動脈瘤
B)後方循環、前交通動脈、および内頸動脈─後交通動脈部などの部位に存在する脳動脈瘤
C) Dome neck aspect比が大きい・不整形・ブレブを有するなどの形態的特徴をもつ脳動脈瘤
原則として患者の余命が10~15年以上ある場合に、上記の病変について治療を検討することが推奨される(グレードC1)。
と、日本脳卒中学会から記載があります。
https://www.jsts.gr.jp/guideline/235_240.pdf
ありがとうございます!!
❶すみません本題とはあまり関係がないかもしれませんが、両側側脳室前角内の血腫が桿状に見えるのはなぜでしょうか?(脳室内の重力側にただ溜まるのではなく)
❷くも膜下出血が脳室と合流するルシュカ孔とマジャンディ孔から逆流したため脳室内に穿破したと考えるのが妥当でしょうか。それともAcom動脈瘤破裂が側脳室前角内に穿破したと考えるのが妥当でししょうか?
アウトプットありがとうございます。
>両側側脳室前角内の血腫が桿状に見えるのはなぜでしょうか?(脳室内の重力側にただ溜まるのではなく)
髄液の流れが関与していると考えられます。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/8983
>くも膜下出血が脳室と合流するルシュカ孔とマジャンディ孔から逆流したため脳室内に穿破したと考えるのが妥当でしょうか。
逆流したと考えるのが妥当ですね。
本症例ではなぜ対光反射消失していたのですか、、
中脳橋領域の動眼神経核が血腫により圧迫されていたのかと解釈しているのですが、、、
拙い質問で申し訳ございません
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるようにくも膜下出血により動眼神経麻痺を起こしているためと考えられます。
少し「病気がみえる」で調べてみました。
動眼神経の
外側部には瞳孔の調節などを行う副交感神経部分、
内側部には眼球運動などを行う運動神経部分
があります。
従って今回の血腫のように外からの圧迫の場合は、散瞳、瞳孔不同が外眼筋麻痺よりも顕著に表れる。
ということです。
国家試験のときに覚えたよな〜、と思い出しました。
お疲れ様です。毎回楽しみにしております。
質問ですが、未破裂動脈瘤がfilling defect signとして描出されることがあるとのことですが、瘤の周囲を血腫が覆っていなくても描出されるものでしょうか?
それとも動脈瘤が複数個存在した上で、一つが破裂、一つが未破裂のような状況じゃないと確認出来ないということでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>瘤の周囲を血腫が覆っていなくても描出されるものでしょうか?
ではないです。
>それとも動脈瘤が複数個存在した上で、一つが破裂、一つが未破裂のような状況じゃないと確認出来ないということでしょうか?
複数存在した場合、破裂してない動脈瘤でもサイズが大きいものはfilling defect signとして描出されることがあるということです。
クモ膜下出血というと、脳梗塞や脳実質内出血と比べ、片麻痺などの巣症状は起こしいにくいというイメージを持っていたので、クモ膜下出血以外にも何かあるかと悩んでしまいました。
アウトプットありがとうございます。
>クモ膜下出血以外にも何かあるかと悩んでしまいました。
確かに症状は一部典型的ではないですね。