
【頭部】症例9
【症例】70歳代男性
【主訴】左眼のものが2重に見える
【現病歴】2日前に複視出現。翌日眼科受診するも異常所見を認めず。症状軽快しないため、来院。
【既往歴】慢性腎不全、2型糖尿病、高血圧、ASO、冠動脈ステント植込み術
【内服薬】バイアスピリン100mg、プラビックス75mg、ラシックス40mg、カルタンOD500mg、ミカルディス40mg、アテレック10mg、ジルテック10mg、ガスターD 20mg、フォスブロック250mg
【身体所見】意識清明、会話良好であり、意識レベルはGCS E4V5M6、瞳孔 3mm/3mmで左右差なし、対光反射+/+、左外方視で複視の出現あり、顔面感覚左右差なし、眼瞼下垂や口角下垂なし、上方視で前額部の皺襞に左右差なし、聴覚に左右差なし、挺舌異常なし、カーテン徴候陰性、呂律困難なし、右Barre徴候陽性、指鼻試験は複視の影響か稚拙。四肢の筋力低下なし。
画像はこちら
脳幹である橋の正中部〜やや左側に8mm大の高吸収域を認めています。
橋出血を疑う所見です。
脳出血を見た際に、チェックすべき随伴所見は以下の通りでした。
今回ですと橋の背側には第4脳室があります。
- 第4脳室を圧排して閉塞性の水頭症を来す可能性
- 第4脳室へ出血が穿破してしまう可能性
がありますが、今回はその所見は認めません。
橋出血は基本的に手術の適応になりません。
保存的に加療され、血腫は消失しました。
その他所見:
- 左後頭部の帽状腱膜下に脂肪腫あり。
脳幹出血(橋出血)
- 主な責任血管は脳底動脈から分岐する橋への回旋枝(橋枝)から脳幹実質へ穿通する穿通動脈。ここは、出血だけではなく、ラクナ梗塞や、分枝粥腫型梗塞の好発部位でもある。
- 意識障害、眼球の正中固定、高度縮瞳(pinpoint pupils)、両眼の下方沈下など。
- 呼吸中枢部のある脳幹を直接損傷し、生命予後が不良な事がある。
- クモ膜下腔穿破や、第4脳室穿破をきたすことがある。
- 出血は橋の中心部〜傍正中部に好発。
【頭部】症例9の動画解説
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
出血部位の同定から随伴所見まで書くことができたと思います。
疾患を見つけた後に確認することの解説があるので大変勉強になります。慣れるまでは自分の中でしっかりと手順を決めて、見逃さないようにしたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
>疾患を見つけた後に確認することの解説があるので大変勉強になります。
それは良かったです。だんだんしつこくなってくるかもしれませんがご容赦ください(^_^;
コメント難しいですが、経験したことがないと診断に関して不安な症例だと思います。穿破しているときはsahととってしまう可能性もありますし・・・症例提示ありがとうございました。
今回もかなりシンプルな症例でしたね!
脳幹は、眼球の動きを行う神経核や内側縦束などが位置する部分ですので、脳幹梗塞を疑いましたが…橋出血でしたね。
次回も症状から病変部位を予測できるように復習して起きたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
脳幹梗塞と言えば通常橋出血のことなのでどちらでも良いかと思いますよ。
今日もありがとうございます。
随伴所見まで記載することが出来なかったので次回こそはしっかり読みたいと思いました。
今回もかなりシンプルな症例でしたね!
橋を含めた脳幹部の疾患では狭い領域に多くの神経繊維や神経核があるため,多彩な症状を示しやすいのですね.
勉強になりました.
ですね。
今回のようにサイズが小さい場合は見落としに注意ですね。
脳出血の見方は身についてきていたような気がしていましたが、
個人的に第4脳室の存在感が薄いからか(^^;、脳室穿破・脳室拡大の有無の評価が抜けていました。
しかし、積極的に加療できないというのは中々苦しいですね(;’∀’)
アウトプットありがとうございます。
>個人的に第4脳室の存在感が薄いからか(^^;、脳室穿破・脳室拡大の有無の評価が抜けていました。
所見が少ない症例の場合、あまり気にしなくてよいのかもしれませんね。
ただし所見がある場合に気づけるようにチェックすべき項目を今一度確認は大事ですね。
はっきりとした臨床所見あるので必ず病変があるはずだという目で見ていました。出血が小さく、じっくり見ないと見逃していたところでした。第4脳室に穿破する可能性もあるのですね!勉強になりました。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように、小さな脳幹出血は見落としそうになりますので注意が必要ですね。
習ってすぐなのに、もう随伴症状のチェックを忘れていました。
脳出血を見た際は、上記チェックリストの画像を見てすべてチェックする習慣をつけたいと思います。
出血が30mlなさそうだから手術適応なしとしてしまいました。
30mlうんぬんは被殻出血で、橋出血はそもそも手術適応がないのですね。
あいまいにではなくきっちり覚えたいと思います。
アウトプットありがとうございます。
手術適応については脳表からの深さをイメージできれば部位からも想定できますね!
出血を見つけたら、続いて随伴所見をしっかり判断するという姿勢を学びました。身に着けます。
アウトプットありがとうございます。
そうですね。随伴所見による緊急度を意識してみてください。
こんばんは!毎日お世話になっております!
出血部位の同定はできました。今回は、
①右バレー徴候陽性(皮質脊髄路の障害疑い)、左外方視の複視(左外底神経核の障害疑い)が認められることから、Foville症候群の所見を拾っている可能性を考えてみました(Foville症候群の定義は書籍によって違うみたいですが、私は『神経内科ハンドブック第5版』のp119を参考にしています)。
②指鼻指試験については、たしかに複視の影響もあるかもしれませんが、もし病変が上小脳脚にかかっているのであれば、ひょっとしたら上小脳脚障害に伴う企図振戦(intention termor)などを拾っている可能性もあるのかな、と考えてみました。
アウトプットありがとうございます。
>①、②
すいません。知らない単語がいくつか出てきています(^_^;
脳の機能解剖と画像診断の書籍を購入して見てみますね(^_^;
申し訳ありません。
タイプミスで、外底神経核→外転神経核でした。
にわか勉強なのでへんてこりんなことを言ってましたらごめんなさい…
>にわか勉強なのでへんてこりんなことを言ってましたらごめんなさい…
いえいえ、返答に困ることはありますが、記載ください。
神経内科の先生もそこまで考えているのだろうか!?というレベルまで考えておられると思います。
症状との関係は私も苦手なところですので、
ちょっといくつか機能解剖についての書籍を購入してみました。
日々勉強ですね(^o^)
いつもお世話になっております。
今回の症例の左注視時の複視を見た時に
左外転が障害されている場合と右内転が障害されている場合(もしくはその両方)があると思いますが、眼球運動に関する情報はありますでしょうか?
今回の橋出血で具体的にどの部分がやられて複視が出ているかが混乱してしまっており、その部分に関してももしお分かりになりましたらご教示いただければ幸いです。
アウトプットありがとうございます。
>眼球運動に関する情報はありますでしょうか?
確認しましたが申し訳ありませんが、記載はありませんでした。
CT上第四脳室と四丘体槽はどのように(何を境に)区別すればよいのでしょうか?
昨日習った随伴所見を検索しに行きましたが、脳ヘルニア兆候の1つである「くも膜下腔の狭小化」をチェックしようと思い四丘体槽を探しに行きました、また脳室内穿破をチェックしようと思い、第四脳室を探しに行きました。今回の場合はどちらも狭小化や出血などが及んでいなかったため”なし”と解答ができましたがその2つをCT上明確に区別することができませんでした。どのように(何を境に)区別すればよいのでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
四丘体槽のすぐ腹側に中脳水道が存在しており、正常の脳脊髄液が存在する場合、それらをCTで明確に分けることはできません。
腹側に突出しているのが中脳水道、左右の迂回槽と連続しているのが四丘体槽となります。
>脳ヘルニア兆候の1つである「くも膜下腔の狭小化」をチェックしようと思い四丘体槽を探しに行きました
脳ヘルニア兆候がある場合、四丘体槽だけでなく左右の迂回槽も狭小化することが多いので、脳幹の周りの本来見えるべきくも膜下腔が見えているか、狭くなっていないかという点で観察してみてください。
比較的小さな脳出血に関連しての質問です。
頭痛患者で片側のレンズ核に淡い1cm程度の高吸収域があるとき、微小出血と石灰化の区別がつきづらいことがあるのですが、鑑別点があれば教えてください。MRIでのT2*WIやSWIでは石灰化と出血の区別は難しいと思うのですがいかがでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
石灰化は両側に認めることが多いのですが、おっしゃるように片側に強いことがあり、判断に迷うことがあるのはおっしゃるとおりです。
確実な鑑別点というのはないのでしょうけど、出血の場合はCT値が95を超えないというものがあります。
・CT値>95HU →出血ではない。石灰化など。
・CT値<95HU →出血の可能性を否定できない。
というものです。
これで95HU以上の場合は石灰化と判断することができますが、95HU以下の場合は、否定できないということになるので、疑わしい場合はフォローとすることがありますね。
関連
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/13444
とても基本的な質問になってしまいますが、いつも脳幹のどのレベルなのかを見分けるのに迷ってしまいますが、注目すべき点などございますでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
言葉で説明するより動画の方がわかりやすいので動画にしました。
基本的なことですいません。
脳幹は手術適応がないとのことですが、保存では手に負えないほどの大きさや随伴所見があった場合は、治療する手立てはないということでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
脳幹出血は教科書的にも手術適応なしなのですが、念のため、脳外科の先生に聞いてみました。
「高血圧性脳幹出血は手術適応はありません。
一方で、脳幹部海綿状血管腫は、高血圧性の様な大出血にはなりませんが、再出血率が高く、その都度機能が悪化します。2回以上出血した人はアプローチが許せば手術する事はありますが、難易度の高い手術です。
脳幹出血時に閉塞性水頭症になる時がありますが、脳幹出血が致死的ならドレナージも無しです。脳幹出血では死なないけど水頭症が閉塞性の場合はドレナージする場合もあります。」
とのことです。
私も勉強になりました。
基礎的な質問で申し訳ございません。
眼球運動障害はMLF症候群という認識でよろしいのでしょうか、、?
アウトプットありがとうございます。
全然基本的じゃないです(^_^;)
仮に左のMLF(内側縦束)に障害が起こっているとすると、
左眼球の内転障害
右眼球の外転時水平性眼振
となるのですが、今回の記載とは合わない(もしくは情報が足りない)ですね。
橋出血ありますが、第4脳室にも穿破していないので、今回の症例では側脳室下角の開大や脳室の拡大は水頭症ではなく、ただの萎縮でしょうか?高位円蓋部の脳溝の狭小化なども見当たらないので正常圧水頭症でもないかと思いました。
アウトプットありがとうございます。
おっしゃるように萎縮による変化ですね。
高齢者の場合は萎縮による変化を水頭症と取らないように注意が必要ですね。
大変勉強になりました。
ひなたさんの質問と被りますが、
SAH後のフォローで、特に以前の画像がない場合など、もともとの萎縮によるものか、続発性の水頭症か迷うことがありますが、鑑別のポイントなどありますか??
アウトプットありがとうございます。
>もともとの萎縮によるものか、続発性の水頭症か迷うことがありますが、鑑別のポイントなどありますか??
元々も萎縮の場合は、ここだけでなく加齢性の萎縮である前頭葉や側頭葉を中心とした萎縮も認めています。
一方、続発性の水頭症の場合はこれらの萎縮を認めない状態で脳室が開いています。
とはいえ、判断に困ることもありますが。
側脳室下角については高齢者では安易に有意所見として取らないように注意が必要です。
頭部CTで共同偏視に気づいた時に、画像診断で指摘できる神経学的所見なので軽く興奮して(←やや誇張w)所見に書いているのですが、意識レベルclearでも勝手に偏視しちゃうものなんだなぁとか思ったりもしました。
アウトプットありがとうございます。
意識レベルクリアでも偏視していることはよくありますね。