
症例22
【症例】70歳代女性
膵がんを指摘され膵頭十二指腸切除術(PD:pancreatoduodenectomy)が施行されました。
画像はこちら
- 術前:CT(横断像)
- 術後8ヶ月:CT(横断像)術後8ヶ月
膵以外のある臓器に起こっている変化は?
術前には認めなかった著明な脂肪肝が出現していることがわかります。
術後に、この方の食生活が大きく変わったのでしょうか?
あるいは手術と脂肪肝に何か関係があるのでしょうか?
実は、膵頭十二指腸切除術(PD:pancreatoduodenectomy)後にこのようなびまん性脂肪肝が生じることがあることが知られています。
原因は未だ不明ですが、膵切除により、
①膵外分泌機能の低下→脂肪の吸収が障害される→脂肪酸欠乏状態となる→肝臓で糖質から脂肪への変換が亢進し、肝臓への脂肪沈着が生じる。
②低栄養により蛋白合成能が低下→肝臓におけるアポ蛋白の合成が低下し、脂肪の肝外への輸送の低下をきたし肝臓への脂肪沈着を促進する。
といった機序が考えられています1)。
また、膵頭十二指腸切除術(PD:pancreatoduodenectomy)後の脂肪肝発症の危険因子としては、
- 原疾患が膵がんである
- 膵の切除量が多い
- 術後の下痢がある
といったものが報告されています2)。
診断:PD術後に発症したびまん性脂肪肝
その他所見:
- 膵体尾部の主膵管の拡張および萎縮あり。腫瘍ははっきりしないが膵頭部にあると考えられる。手術の結果、膵頭部に腫瘍があり、invasive ductal carcinoma、tubular adenocarcinoma、well differentiated、of the pancreasと診断。膵外への浸潤所見は認めませんでした。
- 腎嚢胞あり。
- 冠動脈石灰化あり。
- 石灰化子宮筋腫の疑い。
- 動脈硬化あり。
- 左副腎腫大あり。
参考文献:
1)日消誌 2015;112:905―913 P93-101
2)J Hepatobiliary Pancreat Sci 17 ; 296―304 : 2010
お疲れ様でした。
今日は以上です。
今回の気づきや感想などを下のコメント欄にお願いします。
所見自体は簡単でしたが、機序は勉強になります。
脂肪肝というと、どうしてもイメージが「肥満」につながってしまいますが、
低栄養でも肝に脂肪沈着がつくということは逆説的ですが理論的で興味深いですね(^^♪
アウトプットありがとうございます。
そうですね。健常人の場合はそのイメージがありますね。NASHなどもありますが。
>低栄養でも肝に脂肪沈着がつくということは逆説的ですが理論的で興味深い
ですね。術後に急に脂肪肝が進んでいる場合はこの点を考慮ください。
お世話になっています。
8ヶ月後のCTを見て、初めに目がいったのは皮下脂肪や体内脂肪の著明な減少でした。かなりの低栄養状態が想像できます。
アウトプットありがとうございます。
>初めに目がいったのは皮下脂肪や体内脂肪の著明な減少
さすがですね。
皮下脂肪の減少には気付きませんでした。
ありがとうございます。
脂肪肝はすぐわかりました。
原因は膵臓関係の術後なので
リパーゼなどの脂質分解酵素の減少かなと思ったのですが、
膵臓外分泌機能の低下ということなのですね。
あと低栄養状態で脂肪肝になるとは
想像ができませんでした。
ありがとうございました。
ありがとうございます。
>膵臓外分泌機能の低下ということなのですね。
そうですね。
手術により原疾患はとりあえず解決してもその影響が
他部位に出てくるケースもあるということで勉強になりますね!
PD後にこんな脂肪肝を起こすことあるんですね.
勉強になりました.
割と見られる所見ですので、今度PD後で脂肪肝の方がおられたら、術前と比較してみてください。
術後の画像で肝動脈が狭小化しているのは何が原因なのでしょうか?
てっきり肝動脈が狭小化したことで門脈血流優位となり脂肪沈着が進んだんだと思ってしまいました。
とても勉強になりました。
ありがとうございました。
確かに総肝動脈が術前より細く見えますが、その原因はわかりません(^_^;
また分かれば記載させて頂きます。
平素貴重な症例をありがとうございます。
術前CTで膵頭部で拡張した主膵管と連続するような嚢胞が散見されますがIPMNなどでしょうか。
膵頭部には嚢胞ははっきりしないかと思います。
膵がんがありますので、体尾部では主膵管の拡張を認めています。
所見自体はわかりやすいですね。
膵臓の外分泌機能を実感するのにいい症例だと思います(^▽^)/
>膵臓の外分泌機能を実感
確かにこれほど画像が変われば実感できますね。
びまん性に低吸収の肝をみたときに、脂肪肝以外に鑑別があがらず困っています。
リンク先の脂肪肝のCT特異度は90%となっていますが、あとの10%はなんなのでしょうか。
アウトプットありがとうございます。
特異度が高いということは偽陽性が少ないと言うことを意味します。
CTでは90%
MRIでは100%
ということですので、MRIほどでなく、CTではたまに偽陽性がある、つまり本当は脂肪肝ではないのにCT値や脾臓との比較などで脂肪肝として認識してしまうことがあるという意味です。
■肝臓の吸収値低下の原因
・脂肪沈着
・びまん性の腫瘍浸潤
・その他のびまん性疾患(肝炎、Budd-Chiari症候群、アミロイドーシス)
に大きく3つに分けられます。
参考
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/14003
いつも勉強になります。ありがとうございます。
術前のCTで、胆嚢の壁肥厚と肝外胆管の拡張があるのかなあと思ったのですが、いかがでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
胆嚢は収縮していますので壁肥厚ありとは言えません。
肝外胆管はおっしゃるように少し拡張してそうですね。
ここまで濃度低下がすごいと、肝臓実物をみたときにも色とか違って見えそうですね。。。
左の副腎が、厚みを増して存在感があるように思えるのですが、これは異常所見にあたりますか?
アウトプットありがとうございます。
>左の副腎が、厚みを増して存在感があるように思えるのですが、これは異常所見にあたりますか?
ありがとうございます。
おっしゃるように術前から厚く、結節様にも見えますね。
指摘してよいレベルですね。追記しました。
肝臓内に見える門脈?が拡張しているように見えるのは気のせいですか?
見当違いの質問だったらすいません。
アウトプットありがとうございます。
手術前後で門脈はともに正常範囲と考えられます。
本日もありがとうございました。その他所見の冠動脈石灰化は術後の画像の181に写っているもので良いでしょうか?
アウトプットありがとうございます。
>その他所見の冠動脈石灰化は術後の画像の181に写っているもので良いでしょうか?
おっしゃるとおりです。
前の相では確認できないですね。ここだけ確認できます。
拾わなくても良いくらいの所見かもしれませんね(^_^;)
いつも貴重な症例ありがとうございます。
この患者の場合、術前から膵萎縮があったため、術後の残膵量がさらに少なかったのかも知れませんね。
ちなみに脂肪肝化の頻度はPD>DPのようです。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/jss2012/201204/524447.html
アウトプットありがとうございます。
>ちなみに脂肪肝化の頻度はPD>DPのようです。
調べていただきありがとうございます。
勉強になりました。
いつもありがとうございます。
胃壁が著明に肥厚しているように見えたのですが、特に優位ではないでしょうか
アウトプットありがとうございます。
著明には肥厚していません。正常範囲です。